99話 橙谷サイド:増殖
キィン、キィン。
「くっそっ……」
耳を劈く金属音。
振り返れば錦が柿崎の体に何度も刀を弾かれていた。
しかし一向にダメージが入らないことに苛立ちを感じているのか、表情がいつになく険しい。
そんななか俺の体は桃が動かなくなったのを確認すると柿崎の加勢に向かう。
「なっ!?」
そろりそろり気付かれないように背後に回ると、俺の体は錦を突き飛ばし、馬乗りになって抑え込む。
錦はばたばたと藻掻くが、その力は弱々しい。
よく見れば火傷後や裂傷が数か所、この動きの鈍さを見るに麻痺なんかも貰っているかもしれない。
「は、離せ! 誰かっ! 誰か助けてくれっ!!」
叫び声を上げる錦。
しかし、助けに入る人間は誰もいない。
唯一無事かと思われたS級のさなえさんも最初の一撃で気絶してしまったようで、一向に動く気配がない。
「う、が」
錦の助けを求める叫びとは裏腹に柿崎がこちらに近づいてきた。
「複製」
俺達の正面に立った柿崎は、複製のスキルを発動させると、その腹は少しだけ膨んだ。
体の一部を複製出来るスキルは内臓までも増やすことが出来るのか?
だとしても何の為――
「う、おぇぇええぇええ」
その行動に疑問を抱いていると、柿崎は唐突に嗚咽を漏らした。
そして苦しそうな表情を浮かべ、汗を地面に滴らせながら口から何かがゆっくりと吐き出される。
べちょ。
地面に吐き出されたそれは生肉特有のグロテスクな色味を若干帯びた銀色のスライム。
おそらく、これが体内に巣食う正体。
もはや体の一部という判定になったそれを柿崎は複製して吐き出したのだ。
「なんだよそれ……。もしかし、うがっ!!」
柿崎はそれを拾い上げると同時に俺の体は両手で錦の口を無理やりこじ開け、固定する。
錦は俺達の行動に危険を察知したのか、首に血管を浮かべ力一杯頭を動かそうとするがそれももう無駄。
「うぐっ! あががが、が――」
柿崎は拾い上げたスライムを錦の口に無理やり押し込んだ。
ごくん。
錦は苦しそうな声を上げながらも必死に抵抗したが、遂にそれを飲み込んでしまった。
「……うが」
錦の表情から人間らしさが消え、俺達と同じ呻き声を上げた。
俺の体はそんな錦から体をどかすと、今度は倒れている桃の元に足を運び、同じようにして桃の口を開かせた。
「複製」
複製したスライムが柿崎の口から零れると、桃の口に運ばれる。
そうしてさなえさん以外の探索隊全ての体内にスライムが巣食うと、全員でさなえさんの元へ。
「んっ。えっ?」
しばらく時間が経ったからか目を覚ましたさなえさん。
しかし、その身体は既に柿崎以外の探索隊、俺、桃、柳、錦によって拘束されている。
「う、が」
「え? なんで? どうしたのみんな? ねえ?」
動揺を隠しきれないさなえさんに迫る柿崎。
そしてその手にはあのスライム。
それを見たさなえさんは何かを察し、必死に藻掻きだすが流石に4対1で押さえられてはS級と言えどどうする事も出来ない。
「いや、やめて……。きゃっ。はな、して、きゃぁあああああああぁあぁああああ!!!」
俺達がさなえさんの口に手を伸ばすと、さなえさんの叫び声がここ100階層に響き渡るのだった。




