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88話 橙谷サイド:前進

「くっ!! 『ティアドロップ』!! 『ティアドロップ』!!」

「桃、この壁はお前でも勿論俺でも壊せない。MPもばかにならんだろ? いい加減諦めろ」

「……。わかった」


 俺は狂ったようにスキルを連発する桃の肩を掴んで語りかけた。

 桃は分かったと返事をしてくれたが、奥歯をギュッと噛みしめる。

 

「おーいっ!! そっちは無事か?」


 場が落ち着いたのを確認すると俺は壁の向こう側にいる探索者達を呼んだ。


「大丈夫です!! ただこちらから攻撃しても壁は破れませんでした!! 我々はこのまま先に進みます!! そちらも無事に進みこの先で合流しましょう!!」

「いや、俺達は戻――」

「橙谷! 後ろも壁に阻まれてもう戻れそうにない! しかも何故か帰還の魔法紙が使えないみたいだ」

「なに!?」


 壁の向こうから聞こえてきた栗宮の声に応えようとすると柿崎が声を荒げてこちらにやってきた。

 

 そして柿崎の言葉を聞き後方へと目を向けた。

 すると栗宮達との間に聳えるこの壁と似た壁が目に映る。

 

 これでは引き返すことは不可能だ。


「柿崎、帰還の魔法紙が使えないっていうのは……」

「ああ、さっきA級4位の沼川さんが、この事態を知らせると言って魔法紙を使おうとしたんだが……」

「魔法紙はこの通りよ。はぁこれじゃあ只の紙切れね。これが自分のお金で買った魔法じゃなくて良かったわ」


 沼川さんは破った魔法紙を両手でひらひらとさせながら、ため息を吐く。


 それにしても通常帰還の魔法紙は緑色をしているはず。それなのに色が抜け真っ白になっているのは一体……。


「とにかく戻れないなら進むしかないだろ。私が先頭を行くから柿崎はしんがりを務めてくれ」


 自分の顎に手を当てていると、この場で1番序列が上の京紺さなえが指揮をとり始めた。

 ここに来るまであった事も話したこともなかった人だったが、見た目的にも口調的にもリーダーにふさわ――


「いえ、俺が先頭でさなえさんがしんがりでお願いします。さなえさんは人見知りだしビビり症でもあるんですから、無理しないでください。ほら、脚が笑ってますよ」

「うう。だ、だって、私が1番順位が上だから、しっかりしなきゃって思って……」

「そうやって気負って実力が出せないままの方がみんな困ります。さなえさんはいつもみたいにマイペースにのほほんと戦ってください」

「柿崎君! 私がそんなお気楽に戦っているように見えてたの!?」


 前言撤回。

 この人は強気なリーダーお姉さんじゃなく、世話が焼けるおっとりお姉さんタイプ。

 間違いなく守ってあげたい系だ。


 それとリーダーは無理だけど……。



 くすくす。



「えっ!? なんでみんなも笑ってるの!?」


 周りを明るくする役割もになってくれるみたいだ。


「ははは、それじゃあ頼んだぞ2人共。俺達もしっかり周りを確認してついていくか――」

「いーや、タンク役が出来るやつは最低2人欲しい。だからお前は俺の横。この中じゃ俺の次に防御力あるだろ」

「えっ!? でも俺、元々魔法使いで……」

「じゃあ女性にタンク役やらせるつもりか? 返ったら茶ノ木ちゃんに言っちゃおうかな、橙谷は怖がってタンク役を女性に押しつけたって」

「ぐっ! それだけは勘弁してくれ……」

「はははっ! じゃあ俺と橙谷の2人が先頭、しんがりをさなえさん。他の探索者さん達はその間に入ってくれ。行くぞ、55階層」


 こうして俺は泣く泣く先頭でタンク役を任されたのだが……。

 この時これが悪手になってしまう事を、誰も想像していなかったのだった。

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