85話 怯え
「く、あぁぁああぁああ!! はぁはぁはぁ、も、もう1回っ!!」
「ききっ!?」
俺は驚きの声を上げるシルバージャックパラサイトスライムを余所目に再び足にジャマダハルを突き刺す。
「くっあぁぁああ!! げ、っほ!!」
痛みと同時に降りかかる体のだるくさ。
しかも喉に何かが詰まる感覚がこれ以上ない程気持ち悪い。
俺は喉に詰まったそれを咳をするように吐き出す。
べちょ。
小さい血飛沫。
口からは出たのは、痰でも吐しゃ物でもなく色の悪い血だった。
「げほ……。毒ってこんなにきついんだな」
俺は地面に両ひざをつけながら、ステータス画面を開いた。
『状態異常:毒』の文字と減っていくHP。
ここまでは狙い通り。後はこの体に寄生しようとするやつが、出てってくれることを祈るばかりだ。
じゅる……。じゅるじゅるじゅる、びゅっ!!
「きゅっ!!」
俺が毒ダメージと右足の痛みに耐えていると、傷口からシルバースライムが勢いよく飛び出した。
そしてシルバースライムのHPゲージが紫から緑に戻り、再びシルバージャックパラサイトスライムの鎧の一部へと戻っていく。
「ふっ。お前らは通常状態異常にかからない身体。だから毒とか状態異常に敏感なんだろうな。慌てて寄生した対象から逃げ出してしまう程に……」
しかも、寄生する事のリスクなのだろう。
対象が状態異常にかかると、寄生している間はスライム自身も状態異常にかかるようだ。
その証拠に寄生対象から出たシルバースライムの状態異常はあっという間に治ってしまった。
「ぎ、ぎきき……」
「どうした? こんなにボロボロな俺が怖いのか? そんな感情がお前らにもあるとは思わなかったな」
シルバースライムが体から出ていったとはいえ、ダメージは残っている。
それに毒もまだ残っている。
だが、そんな俺の姿を見てシルバージャックパラサイトスライムは怯えるようにゆっくりと後退を始めた。
「『瞬脚』!!」
「きっ!!」
怯えている敵なんか最早敵じゃない。
俺は精一杯の力で『瞬脚』を発動させると、そのまま鎧の点を突いた。
鎧は簡単に消えてなくなり、俺はそのままシルバージャックパラサイトスライムの急所を狙う。
「きっ……」
か弱い声を上げ、目を瞑るシルバージャックパラサイトスライム。
「戦闘中に目を瞑るっていうのは死を覚悟したということなんだよな。悪いけど、お前はもう俺に勝てない」
俺は無防備なシルバージャックパラサイトスライムの急所を思い切り、ジャマダハルで突いた。
その瞬間『即死の影』が発動した時の黒いエフェクトが俺の目に映る。
自分でいうのはなんだが、かなりカッコよく決まったんじゃないか。
「勝った……」
シルバージャックパラサイトスライムの体が消えていくのを確認しながら俺は尻から地面に倒れ込んだ。
『+700000、レベルが80に上がりました』
レベルアップのアナウンスが流れると俺はそのままぐっと右手を突き上げた。
「ぐぼっ!!!」
唐突に口に何かを突っ込まれた。
勢いよく流れ込む液体。
俺はそれを慌てて飲み込むが、逆流して少しだけ鼻から液体が零れる。
「まさか本当にあのモンスターを倒しきるとは思いませんでしたよ。はっきり言ってしまうとどうせ私に頼ってくると思ってました。ですが……メタル系スライム、いや経験値モンスターに特化した最強の探索者。っと言ってしまってもいいかもしれませんね」
「ぷはっ!! それじゃあ……」
「はい。では向かいましょうか、この先の階層に」
俺は差し伸べられた猩々緋さんの手を掴み、立ち上がるのだった。
「ああ、それと……」
「それと?」
「今あなたが飲んだMP・HPを全快、一部状態異常を回復出来る超高級ポーションの代金ははダンジョンを出た後に請求します」
「は、はは。それってちょっとまけてもらう事って出来ますか?」




