53話 一週間
「……。そこのC級探索者が? あっはっはっ!」
一人の男が笑い出すとそれに釣られるように他の人達も笑い出した。
俺のランクが低い所為なのは分かるが、いくらなんでもこいつら態度悪すぎないか?
「流石A級探索者。口を開く度に我々を楽しませてくれるとは」
「……彼を特例として規制対象から外した魔法紙の作成をお願いします」
へらへらと笑い、偉そうに見下すこの男に苛立ったのか橙谷さんは無理やり話を進める。
「……たかだかC級探索者にそれは出来んな。それに魔法紙の作成をせんでも今すぐA級探索者やS級探索者が小紫の捕獲とその椿紅に寄生したというモンスターを討伐すればいいことじゃないか」
「ダンジョン内は小紫が仕掛けたであろうモンスターで溢れています。更に小紫は以前S級探索者と共に最高到達である120階層に侵入してモンスターの研究をしたとか……。最悪の状況で120階層までの探索が予想されます。もしすべてがうまくいったとして、1日でどうにか出来るものではありません。場合によっては1週間以上かかる探索になるでしょうね」
「それでも魔法紙はB級までの引き上げでいいでしょう。それならば持ち合わせがありますし――」
「B級探索者ほど、順位に飢えています。A級とB級では給与が桁違いですから。もし今回の件を自分も関わる事が出来たなら……そう考える輩多くはいるはずです」
「ならば、侵入することを口頭で禁止と――」
「それは探索者の自由な探索を阻害しないという規約に反するのでは? 規制の魔法紙ですら初めて施行されたとき探索者による大規模なデモが行われましたよね。噂では今でもその事に対して批判的な探索者が多いと聞きます。また同じような事をしたとなれば探索者協会の信頼度は著しく下がるでしょう。命の為と謳っても結局そこに挑み、死ぬのも探索者の自由のはず。探索者の全員が探索者協会が作成した誓約書の一文、『我々は探索者の援助はするが、死亡した際や重傷を負った際の責任を一切負わない』を了解しているのだから当然ですよね」
「それは……」
「わかった。魔法紙の作成とその費用、素材の確保はこちらで請け負おう」
橙谷さんと偉そうな態度の男の会話に1人の男が割って入った。
男は他の人達と違い。笑う様子は一切ない。
「ありがとうございます、桜井社長」
橙谷さんは男に頭を深々下げる。
そのやり取りが気に食わなかったのか、さっきまで笑っていた何人かが舌打ちをした。
「早速作成に取り掛かりたいと思います。大体完成に丸1日位はかかるでしょう。それまではB級未満を規制する魔法紙を行使、念の為A級探索者に40階層で以降に進もうとするB級探索者が現れないか警備。もし現れた際は君らの方から注意してください。あくまで我々が口出しをしていないという体で。それでいいですね会長」
「はい。いつも探索者協会へのご協力誠にありがとうございます」
桜井社長が話をまとめると会長も周りの人達も何もごねてこなかった。
桜井コンツェルンの社長がどれだけ、幅を利かせているのかが今のやり取りで大分見えてしまった。
これが桜井さんのお父さん。雰囲気も他とはまるで違う。
「しかし、君については未だ疑問です。本当にシルバースライムを倒せたのか、実際にここで証明できたりしませんか?」
桜井社長は少し笑いながら、俺を見た。
俺がどうやってメタル系のモンスターを倒しているかなんて、桜井さんからの報告情報で分かっているだろうに。
差し詰め、娘とつるんでいる男の見定めでもしているのだろう。
「では、≪透視≫」
俺は≪透視≫を発動させ、アイテム欄からいつぞや20階層以降のコボルトルートで手に入れたドロップ品、『獣人兵の剣』とジャマハダルを取り出した。
「……はぁっ!」
俺は『獣人兵の剣』に映る青い点をジャマハダルで突き、会心の一撃エフェクトを発生させた上でそれを砕いた。
「装備品まで……」
「はい。こういう事も出来ます」
驚く橙谷さんに返事をして、桜井社長に目を移した。
桜井社長は嬉しそうにニヤニヤと口元を緩ませる。
「これはこれは……。くっくっくっ。そっちのA級探索者の言葉は嘘ではなさそうだ。君が40階層以降に入れるよう、魔法紙は作成させよう」
「桜井社長。お言葉ですが、この者も我ら探索者協会の1人。このまま潜らせてはこの力も活かせないまま無駄死にするかと。ですので――」
「小紫捕獲と問題のモンスター討伐はどの位から実行に移せそうですか? 会長」
「1週間位でしょうね」
「1週間で君はどの位強くなれる?」
桜井社長は俺をじっと見つめる。
「彼は経験値豊富なモンスターにめっぽう強いです。B級にはすぐに昇格出来るでしょう」
「ちょっ……」
橙谷さんはニコッと笑いながら俺の代わりに桜井社長に返答した。
「では、魔法紙には『B級の白石輝明』の侵入を可能にする旨を追加させてもらう。B級の実力があれば無駄死にはしませんよね会長」
「……そうですね。それぐらいであれば1週間後のその日であれば他の冒険者と一緒ですし、ここ一番という時まで何とか持ちこたえてくれるでしょう。皆さんもそれでよろしいでしょうか?」
他の人達はこくりと首を縦に振った。
こうして俺は40階層以降の侵入を特別に許された。
ただ、1週間かぁ……。本当に間に合うか?
お読みいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけましたらブックマーク・評価を何卒宜しくお願い致します。




