51話 意外
「すまんがポーションって持ってるか?」
「はい。持ってますけど……それ、もしかして」
「ああ、下でやられた。ポーション代は……これでいいか?」
橙谷さんの右腕は火傷で爛れていた。
見ているこっちまで痛くなってきそうだが、当人はそこまで痛そうな顔をしていない。
「一応、状態異常回復のポーションもありますので使ってください」
「お、サンキュー」
橙谷さんが茶ノ木さんにお金とポーションを交換していると、シルバースライムの周りに薄いベールが現れた。
出来ればこれが現れる前にたたみ掛けたかったが、橙谷さんに気をとられ過ぎた。
「『透視』『即死の影』」
俺はいつの間にか効果が切れていた『透視』を発動後『即死の影』を発動させた。
「頼むから今度はすんなり入ってくれよ」
俺は即死が発動するのを願いつつ、シルバースライムに攻撃を仕掛ける。
シルバースライムはやはり、それを避けず体当たりを仕掛けてきた。
自分がダメージを負うという可能性は完全に絶っていそうだ。
「きゅっ!!」
俺の会心の攻撃が炸裂すると慌てた様子のシルバースライム。
こうなると、逃げられる可能性が高まるので、俺は手を止めず、何度も攻撃を繰り返す。
「はっ!!」
「やっ!!」
俺が攻撃を続けているとそれに割り込むようにして、橙谷さんと茶ノ木さんがシルバースライムに殴り掛かった。
会心のエフェクトは出ない。それにHPゲージも減っていない。
改めてこのメタル系スライムが硬いのかが分かる。
「ダメージが通らない!?」
「こいつが硬すぎてな。多分白石君みたく会心攻撃をばんばん出せないとこいつは倒せないってことだろう。ただ、その会心攻撃もあんまりHPを削れないみたいだがな。くそ、こんなスライム程度にダメージを与えられないんじゃ、あの化け物なんて到底――」
橙谷さんが悔しそうな表情を受かべると、シルバースライムはその場から逃げ出そうと勢いよく振り返った。
「逃がすかっ! 『瞬脚』」
俺は逃げようとするシルバースライムの進路に移動し、再び攻撃を仕掛ける。
ジャマハダルを2回、まずは右。即死が発動せず、慌てて左。
「きゅっ!」
左手のジャマハダルがシルバースライムの眉間を捉えると、ようやく即死が決まった。
経験値は『+350000』。
ドロップ品はシルバースライムの心臓。
「さっきも見たがそれは『即死』効果か?」
「はい。なかなか決まってくれませんが……」
「……白石君が居ればワンチャンスあるか? だが、そもそものレベルがそこまで高くないと……」
橙谷さんはぶつぶつと呟きながら何か考えるように俯いた。
火傷の方はポーションを使ったおかげで、しっかり回復している。
ただ、火を使うA級探索者も引き返さないといけないような相手。
間違いなく橙谷さんは椿紅姉さんに遭遇している。
「橙谷さ――」
「ねえ! レベルは? ランクはB? 私より上のランクだったってことですか? さっきのスキルは一体?」
茶ノ木さんはぐっと俺に顔を近づけて、俺に質問攻めをしてきた。
「その、えっと……」
「す、すみません。私、他の人のスキルとかそういうのを聞くのが好きで、元々ゲームが好きっていう事もあってなのかもしれないですけど」
「そうなんですね。質問に答えるとまずランクはC級、順位は83位、レベルは……今ので57ですね」
俺は自分のステータス画面を見てそこまで答えた。
俺の回答に驚いたのか、茶ノ木さんは鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔をしている。
「57……。83位? でもさっき……」
「ああ。白石君はA級の俺でもダメージを与えられなかったモンスターを簡単に倒して見せた。会心即死は強力なコンボだ。間違いなく。ただ、それが上手く決まるのはさっきみたいなモンスター限定。白石君、君はメタル系に特化してる探索者ってことでいいか?」
「メタル系というか経験値の豊富なモンスターに特化してると思います。ホーンラビットの角も折る事が出来ますし」
「なるほどな。であれば、短期間で一気にレベルを上げる事も可能ということだな。それなら後は順位だけか……」
「えっと話が見えないんですけど……」
俺は話に割って入ってきた橙谷さんの言葉に首を傾げる。
因みに茶ノ木さんは自分のステータスを見ながらぶつぶつと呟いている。なんだか、その顔が悔しそうというか怒っているようにも見える。
「探索者協会に40階層以降の侵入規制についてより厳しい条件を付けるように提案。それと、特殊条件の提案をする」
「特殊条件?」
「ああ。こっから先は白石君の力が必要だと俺は判断した。だから特殊条件を提案しに行く。悪いが白石君も付いて来てくれ」
「それは構いませんが、ここはどうするんですか? まだ侵入の規制の条件変更は済んでいないですし、ここを離れている間に規制対象の人が入っていったら……」
「もとより40階層以降の調査とその結果報告次第では、しばらく私がこの階段で見張りをするように、という依頼を受けています。気にせずお二人は戻ってください」
「茶ノ木ちゃんが言ってくれてるんだから早く本部にいくぞ」
「は。ん? 茶ノ木ちゃん……お二人はお知合いですか?」
今思えば2人のやり取りはかなり自然だった。
もしかしてパーティーを組んでいたとかか?
「茶ノ木ちゃんは俺の彼女だ」
「えっ?」
「その事は秘密だって言ってるじゃないですか! 本当に口が軽い人なんですから! 絶対この事は漏らさないでくださいよ!」
「……はい」
俺は意外な事実と必死な茶ノ木さんに、ただただ頷くのだった。
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