315話 エクスの想い
「くっ、あああああああああ!!」
「大丈夫、か。茶ノ木……」
「あれと比べたらゆるゆるでだるんだるんなうどんくらい柔らかくて助かったよ」
「お前、は……」
「処刑剣エクス。一色虹一の愛剣だね。っと、とりあえずあんたたちはこれをぶっかけて、と。一気に凍らせてもらってもいいかい?」
「言われ、なくても。飛べ、アイスファルコン」
どこからともなく現れた女性、前に会った時よりも傷が増えているように見えたエクスさんは柿崎さんと茶ノ木さんに液体をかけた。
そしてその液体は桃ちゃんのスキルによって凍らせられ、ようやく停止。
「白石輝明、あんたもこれ飲んで。この人達に使っちゃったからこれが最後の一本。超高級なポーションよ。あ、もちろん代金は後でもらうから」
「は、はは。ありがとうございます」
「お礼はいいから回復したらさっさとエキドナのところに向かって。まだ『親』はことの重大さに気づいてない。ダンジョン深くから移動してる気配もない。エキドナを殺すなら今が好機、それで……親も弱体化させることができる」
「親? エキドナってこの間まで宙に浮かんでたあれだけじゃないのか?」
「幼体だったってことはあれはあの時まだ生まれたてだったってこと。本当は私も戦闘に参加したいところなんだけど……残念ながらそれは無理でさ。リザードマンが討伐しに向かった時も、私は何もできなかった。それどころか……」
「エクス、さん?」
「一色虹一はダンジョン内で拘束されて動けない。だからダンジョンを封鎖することに私は反対。とにかくあれは倒さないといけない。倒して、あんたたちにはまたあのダンジョンに向かってもらいたい。ずっと機会を窺ってただけの武器が何をっていうかもしんないけど、一色虹一を助けて欲しい」
エクスさんは俯き、震える声で懇願した。
なんでエクスさんがエキドナとの戦闘に参加できないのか、気にはなるけど……どうもそれを問い詰める余裕はなさそうだ。
「……。俺もメアたち、エキドナの元に向かいたいとは思ってます。ただ椿紅姉さん、それに灰人や桜井さんも桃ちゃんも……まさか茶ノ木さんがあんなことになるなんて思わなくて、ダメージを……」
俺はエクスさんのお願いに対して快く首を縦に振る前に辺りを見回す。
竜の手を携えた茶ノ木さんによる不意打ちを食らったからなのか、全員の脚や腕に深い傷が見える。
こんな状態でここを離れるなんて当然できない。
だってまだ敵は……。
「――白石輝明! 絶対に拘束する!」
「病院の中に沢山。しかもA級の柳さんたちまでいる、のか」
俺たちが弱ったことを知ったかのようにぞろぞろと病院から探索者がでてきた。
これじゃメアたちの元に向かう、それ以前にこの窮地を抜け出すことも難し――
「病院内の探索者たち全員の調べは終わってる。脅威だったのはそこにいる探索者だけであとは私だけで、十分すぎる」
柳さんを先頭に向かってくる探索者集団にエクスさんは突っ込んでいく。
そしてその腕を剣に変え、武器を、魔法を切断。
それだけでなく致命傷にならない程度に切り傷をつけたり、急所を殴ることで意識をもぎ取っていく。
派手さはない。でも、戦闘のレベルが桁違い。
「アイスファルコン」
「鎌、鼬」
「ヒールっ!」
そんな圧倒的強さを見せつけるエクスさんを桃ちゃん、灰人、桜井さんが遠くから援護。
それはお前なんかいなくても大丈夫と言いたげで、俺は自然とその場から離れようと脚を動かしていた。
「――桜井さん、椿紅姉さんを頼みます。」
「……。まったく本当に世話の焼けるライバルよね、椿紅って女の子は。でも、任せなさい。恩を着せるのも戦略の一つなんだから」
道中、すれ違いざまに桜井さんの頼もしい言葉を聞いて、俺はさっきまで動けなかったのが嘘のように速度を上げたのだった。




