312話 A級程度
頭上から微かな光を感じ上を見上げた。
そして光の正体は小さな水滴が放つものであると気づいた時、それは細かく泡立った。
「このスキルは範囲が広い。撃ち合うにしても……もう間に合わないか」
「急いでこっちに! ……クレイシールド!」
強力な攻撃、しかもそれが既に無効化出きるものではないと察して柿崎さんは慌てて後退。
さなえさんを連れて沼川さんと合流すると土で出来た防御壁の後ろに隠れていく。
「そんなんじゃ、桃のスキルは防げないから」
背後で感情がみえにくい棒読みに近い女の子の声が聞こえたと同時に水滴が地面に落ち、耳をつんざく破裂音が広がった。
そんな破裂音が鳴り止む頃には、目の前にまるで隕石でも落ちたかのような跡が残る。
また、それはその場所を吹っ飛ばすだけでなく、爆発による衝撃波と弾丸のように飛ぶ水の礫によってここら一体を強襲。
病院の窓のいくつかが割れ、壁には穴ができ……俺たちを拘束していた蔦も気づけばボロボロ。
そこら中から白い煙が立ち上ぼっているが、これはそれらが水蒸気となったから。
不思議なのは俺たちに触れた水の礫だけは途端に穏やかになり、そのまま流れ落ちたということ。
威力だけでなくダメージの対象を特定できるようになったことからして……。
「相当レベルアップしてるな」
「びちょびちょ! すごい! カッコいい!」
「……。ありがと。でも、遊ぶより早く仕事――」
「うん!」
魔法スキルの使用者はいつの間にかアルジャンの元に現れ、誉められたのが照れくさかったのか頬を赤らめながらお礼を告げた。
一先ず椿紅姉さんを灰人から手渡されているアルジャンを見つめるその様子はあどけない見た目に反して、どこかお姉さんらしさを感じる。
この前ダンジョンであったときは気付かなかったけど、当然桃ちゃんだって成長してるんだよな。
「ありがとう。助かったよ、桃ちゃ――」
「白石情けない。手、抜きすぎ」
「は、はは……。すみません」
「桜井、早く回復」
「わ、私に命令するって言うの、あなた――」
「桃の方が強い、から。そんなの当たり前」
「なっ!?」
「桜井さん、落ち着いて落ち着いて」
手厳しい指摘に桜井さんへの態度、性格的な成長は見られないけどそれはそれで桃ちゃんらしくて安心する。
まぁ、苛々する桜井さんもそれを宥める灰人も大変そうだけど。
「橙谷から連絡があった。正式な依頼だから桃たちは白石たちの味方をする」
「そっか、橙谷さんが。ん?『たち』って……」
「病院の中、柳たちが敵になりそうな探索者を拘束し始めてるだから、ほら」
「はぁはぁはぁ……。や、やっと外に出れた」
椿紅姉さんを狙って動いていた茶ノ木さんと他数人が病院から転がるように外へ出たのが見えた。
中は中で相当ハードなことになっているらしい。
「でもまさか柳さんたちまでこっちについてくれるなんて……」
「橙谷とリザードマンたちの世話をしてたらしい、から。それがあって、亜人は殺せない、らしい。それに、桃とS級2位が白石は強いって言ったら信じるって、エキドナ討伐を……。ううん。今そんなこと、話してる場合じゃなかった。『アイスファルコン』」
白い煙を掻き分けて現れたのは土の蔦スキルを放棄したであろう沼川さん。
蔦がボロボロになっていたのはなにも桃ちゃんのスキルのおかげだけではなく、俺たちを油断させ、こうして襲おうと思っていたから、なのかもしれない。
「くっ! こんなの痛くも痒くもないんだから!お前程度の攻撃で止められると思うな!」
桃ちゃんの生み出した氷の鳥、それはそんな沼川さんの肩を掠めてダメージを与えた。
だけど沼川さんだって高ランクの探索者。
それで止まるほどの人じゃな――
「アイスファルコンは一瞬で水を凍らせる。この状況にした時点で、桃の勝ち。それと……桃はもうA級程度じゃない」
たちまち氷漬けになる沼川さん。
手を抜きすぎって注意するのはわかるけど、これはいくらなんでもやりすぎじゃないのかな?




