第八十五話 誕生会の、二次会のような内祝い その2
『陛下』
「ん? あぁ、ルオーラさん。気配感じなかったから驚いたよ」
「はい。エリオット殿から教えを受けましたもので」
父さんの執事のエリオットさん。
あの人もさ、ただ者じゃないと思うんだよ?
ほんと、何を習ったんだか……。
「ところでどうしたの?」
「はい。その」
『ぴゅいーっ』
『あ。遅かった……。フォルーラ様と、フォリシア様がおいでになりましたと、お伝えするつもりだったのですが……」
「あぁ、そうだったんだね。ありがとう」
『いえ。本当にあの子は……』
頭を抱えてるルオーラさん。
そっか。
族長のフォルーラさんとは親族の間柄だっけ、ルオーラさん。
ということは、フォリシアちゃんの伯父にあたるんだろうな。
この食堂は、集落の屋敷にあった居間とは比べものにならいほど、天井が高い。
あっちは二百五十くらい?
百八十以上ある、俺の背丈でも、部屋の中は多少余裕があったけどさ。
部屋の入り口は少し低くて、気をつけないと頭をぶつけるくらいだったからな。
こっちは倍の五百は軽く超えるくらいはあるかな?
幸い、俺の身長でも頭をぶつける場所がないほどに、高さに余裕はあるんだよ。
だからみんなの頭を飛び越して、フォリシアちゃんはデリラちゃんの元へ。
「フォリシアちゃん」
『デリラちゃん』
ひしっと抱き合った二人。
……ってあ、話せるんだねもう。
さっきのは、何だったんだろうか?
それにしても、フォルーラちゃん。
一回りどころか、二回りくらい大きくなったように思えるんだ。
前はデリラちゃんが抱きかかえられるくらいだったのに。
今は手が背中まで届かないくらいになってるよ。
『これ、フォリシア。あぁあああ、本当にすみません』
「いいえ。フォルーラさん、こちらへいらっしゃいな」
エルシーが手招きをする。
『はい。ありがとうございます。エルシー様。ウェル殿、ナタリア様。デリラ様の六歳、おめでとうございます』
「どうも、ご丁寧に」
「あ、はい。ありがとうございます」
俺とナタリアさんは、フォルーラさんに会釈。
彼女たちグリフォン族は、精霊のエルシーを崇拝してるらしくてさ、俺もナタリアさんも、よくしてもらってるんだ。
そういえば暫く姿を見せなかったフォリシアちゃん。
母親のフォルーラさんが言うには、こんな感じ。
首元から背中にかけての、産毛が一度ごそっと抜けて、最近やっと生え替わったばかりなんだそうだ。
これまでこっちへ一人で飛んでやってくるほどだった、フォリシアちゃんも女の子。
恥ずかしくて家の外へ出られなかったそうだ。
ごにょごにょと、近況報告をしていたのかな?
フォリシアちゃんと小声で話していたデリラちゃんは、フォルーラさんを見て。
「フォルーラちゃん。ありがとぉ」
「デリラ、こっちへ来て直接お礼をしなさい。あとでゆっくり、フォリシアちゃんと遊んでも良いですからね」
「うんっ」
『ぴゅいっ』
あ、またあの声になってる。
「ところでフォルーラちゃん」
『はい。何でしょう? エルシー様』
「フォリシアちゃんは、確か五歳だったかしら?」
『えぇ。そうですね。今年、五歳になりました』
「なるほどね。ところで、生まれた季節はいつくらいだったの?」
『そうですね。デリラ様と同じ、今くらいだったかと……』
「あら? それならもうすぐ六歳になるの?」
『いえ、私たちグリフォン族はですね――』
グリフォン族は、生まれてすぐ一歳と数えるそうだ。
鬼人族や人間は、生まれて一年経つと一歳と数えるから、五歳なんだそうだ。
フォルーラさんによれば、グリフォン族も鬼人族同様内祝いのみで、こうして大々的に誕生日を祝う習慣がないとのこと。
「それならここで、デリラちゃんと一緒にお祝いするのはどうかしら? ねぇ、ウェル」
「そうだね。それがいいかもしれない。グリフォン族のルオーラさんたちが協力してくれるから、この国の安全が保証されてるようなものだからね」
ありゃ?
隅の方で、ルオーラさんが壁を向いて背中を向けてる。
もしかしたら、照れてる?
隣に控えてたエリオットさんが、彼の肩口をポンポンと叩いてる。
労ってるんだろうな、師匠としてね。
『よろしいのですか?』
「えぇ。ナタリアちゃんもいいわよね?」
「はい。良いと思います」
「フォリシアちゃん、おめでとう」
俺がそう言うと、ここに集まるみんなもお祝いの言葉を紡いでいく。
フォリシアちゃんは、きょとんとした目をしてる。
きっと状況が、わかってないんだろうね。
『ありがとうございます。本当に、嬉しいです……』
フォルーラさんの方が嬉しそうだね。
「フォリシアちゃん」
『ん?』
「おめでとぉ」
『んー……。デリラちゃんも、おめでとう?』
「ありがとぉ」
「ウェル様。遅くなってしまい、申し訳ございません」
「うぉっ、なんで?」
俺の背後に突然現れた、バラレックさん。
全く気配を感じられなかったよ。
まるでさっきのルオーラさんみたいだった……。
「バラレック。それ、やめなさいって昔から――」
「はい。姉さん。ごめんなさい」
相変わらず、母さんはバラレックさんに手厳しい。
弟だからなんだろうけど。
「母さん、いいって。お祝いの席なんだから」
「ほんと、ウェルちゃんは甘いんですから……」
「あははは」
父さんも笑ってるし。
「こちら、ご所望のお品です。わたくしは、ここで。仕事がありますので」
あ。
デリラちゃんがこっち見たよ。
フォリシアちゃんに何やら耳打ちしてる。
あれ?
フォリシアちゃん、フォルーラさんのとこに行ったよ。
とことこと、こっちに歩いてくるデリラちゃん。
足をぴたっと止めて、可愛らしくお辞儀をする。
あぁ、そうか。
デリラちゃんには、遠感知があるから。
だからバラレックさんの気配も、フォリシアちゃんが来たのもわかったってことなのね。
「バラレックのおじちゃん。いつもありがとぉ」
「……姫様。おめでとうございます。立派におなりになって。嬉しゅうございます」
「うん。ありがとぉ」
「姫様、わたくしは仕事がありますので、ここで失礼いたしますね」
「うん。いってらっしゃい」
感動をかみしめたバラレックさん。
仕事に戻っていったんだ。
「あ。そうだ。デリラちゃん」
「なぁに、ぱーぱ」
俺の横にある、大きな荷物。
きっとわかっちゃってるんだろうな。
だって、結構甘い香りがしてるんだもの。
「遅くなったけど、これ。俺からのプレゼントね」
フォリシアちゃんサイズの、大きな白いすべすべした布袋。
それを抱きかかえるようにして。
「あまいの?」
「そうだよ。おめでとう。デリラちゃん」
「デリラ、おめでとう」
俺とナタリアさんの間にぺたんと座って、布袋を背中に置いて。
デリラちゃんは、満面の笑みを浮かべて。
「ぱぱ、まま。ありがとぉ」
美味しい料理を食べて、美味しい飲み物を飲んで。
余韻に浸りながら、デリラちゃんたちの誕生日は、こうして過ぎていった。
お祝いが済んで、片付けもある程度終わって。
お酒大好きエルシーたちは、ちょっとした飲み会状態になってる。
「はやいはやいー」
『ぴゅいーっ』
今まで我慢してたデリラちゃんとフォリシアちゃんの二人は、仲良く遊んでる。
一回りも二回りも大きくなったフォリシアちゃん。
デリラちゃんを背中に乗せて、部屋の中を飛んで回ってる。
前は、肩を捕まえて飛んでたけど。
「本当に、大きくなったんだね-」
「えぇ。デリラはあまり変わりませんけどね」
「すぐに大きくなるよ、きっとね」
「えぇ。そう思います」
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