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国に捨てられた烙印勇者、幼女に拾われて幸せなスローライフを始める  作者: はらくろ


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第六十七話 例の報告会と、ナタリアさんの心配。

 母さんが、デリラちゃんを抱き上げて、俺に目配せをする。


「デリラちゃん。おばーちゃんと、お散歩しましょうか?」


 するとデリラちゃんは、首を傾げて『どうする?』みたいな表情。

 あぁ、この子は空気を読めるんだ。


 俺が返事をするまで、デリラちゃんは俺の顔をじっとみる。

 あぁ、俺に聞いてるわけだ。

 とても頭のよい子だよ。

 だから俺は、今できる目一杯の笑顔を見せる。

 すると、『うん』という感じに頷くんだ。


「いいよー」

「母さん、デリラちゃんをお願いね」

「えぇ。任せておいて」


 そう言ってくれると、母さんはここから出て行く。

 俺はルオーラさんを見る。

 ルオーラさんもわかってくれたみたい。

 母さんの後をついていってくれた。


「さて、ウェル君には面白くない話かもしれないけれど、『隣国の情勢』だと思って聞いてくれるといいよ」


 エルシーも頷いてる。

 何を言おうとしてるのか、なんとなくわかってるけどさ。

 そこまで気にしなくてもいいって、父さん。


「はい」

「ありがとう。まずは、軽めの話から。ロードヴァットたちの、娘だった二人の現状だが」


 それって軽めなんだ。

 元王女と言わないところが、『そういう扱いだ』と言ってるものだね。

 まぁ、俺にとってはもうどうでもいいことなんだけど。

 聞いておかなきゃならないことでもあるね、確かに。


「はい」


 俺の手を握るナタリアさん。

 大丈夫。

 俺はもう、なんとも思っちゃいないって。

 そう言う意味で、俺もナタリアさんの手を握り返した。


「マリシエールという娘は――」


 元王女の子だね。

 神殿で働いてるんだ。

 あぁ、下のあの子も孤児院で。

 二人とも無償奉仕をしているとのことだった。


 同情の余地はないけど、まだマシな方だと思う。

 なにせ、父さんから聞いた話だけど。

 母さんは二人をぶった切ろうとしてたらしいから。

 止めるのが大変だったって、言ってた位だし。

 俺にはもう、どうしようもないよ。

 

 デリラちゃんを連れて外に出たのって多分。

 母さんも面白くないからだと思うんだ。

 苦労かけちゃってるな……。


「ロードヴァットからは言質をとっている。『約束を違えたなら、魔獣の討伐から手を引かせる』とね」


 うわぁ。

 父さんも結構、腹に据えかねてたみたいだわ。

 凄く嫌らしい笑みを浮かべてるし。

 母さんをただ止めたんじゃなく、父さんも我慢してるんだから、という意味だったのかもしれないね。


「騎士団長には、前任の副団長が。副団長には、ウェル君も知ってるターウェックという青年が務めているそうだよ」


 なんと、あのターウェック君が。

 あの子は、槍の鍛錬を一日も欠かさなかった。

 すっごく真面目だったけれど、凄く運が悪かったよね。

 何せほら、あの『元騎士団長と元王女さん』について集落まで来ることになったくらいだし。

 ゆくゆくはあの子が騎士団を背負うことになるだろうね。

 良いことだよ。

 うんうん。


「あと、勇者だったあの少年。ベルモレット君だったかな?」

「はい」

「彼は、家業を継いだそうだ」


 あぁ、騎士団にも残らなかったんだ。

 そりゃそうだよ。

 俺が彼の心を折ったようなものだから。


「俺、悪いことしちゃったのかもしれないです」

「そうとも言えないだろうね。そうですね? エルシー様」

「えぇ。あの子はほら、身体ができる前から無理をさせたようなものだから」


 そうだったんだ。

 本当なら、俺が育てる側だったんだろうけど。

 彼も被害者なんだろうな……。


「はい」



「軽い話はここまでだね。あとは少々重たい話になるけれど」


 するとエルシーが父さんを片手で制した。


「ここからはわたしが、ね?」

「うん」

「ウェルも知ってるでしょう? 『聖魔石』のことを」

「名前だけはね」


 確か、王国の国庫にあるとか。

 それくらいしか知らないけどさ。


「あの魔石は、青い魔石だったのだけれ――」

「それってまさかっ」

「落ち着きなさい、ウェル」

「は、うん……」


 鬼人族の、女性の魔石かと思っちゃったんだよ。

 ナタリアさんは、エルシーの顔をじっと見てる。

 ナタリアさんの手が震えてる。

 きっと俺と同じことを考えてたんだと思うよ。


「大丈夫。鬼人族のものじゃ、なかったわ」

「そっか――」

「ありがとうございます。エルシー様」

「心配かけちゃったわね、ナタリアちゃん。ウェルはもう少し落ち着きなさい。あなたの方が年上なんですからね?」

「はい。ごめんなさい」

「よろしい。じゃ、続きだけれど」

「うん」

「あれはまずいわ」

「どういう意味で?」

「言葉を濁してきたけれど、まず間違いなく、魔族の、鬼人族ではない他の種族のものだと思うのよ。恨みや呪いのような、そんな恐ろしい感じがしたのよ……」

「その点についてだけれど」


 父さんが補足をしてくれる。


「あとでバラレック君に相談するつもりだよ。彼はほら、魔族にも詳しいみたいだからね」


 なるほど。

 彼の商隊にはたしか、人間じゃない人もいたはずだから。

 鬼人族だけじゃなく、他の集落にも伝があるんだと思う。


「あれは少なくとも、ここ百年、二百年のものじゃないのは間違いないわ。でしょう?」

「はい。エルシー様。僕が知る限り、僕の曾祖父の代には既に国庫にあったと、そういう資料もありますから」

「ということはさ、エルシー」

「何かしら?」

「あの魔剣って、かなり昔からあったってことなのかな?」

「そうね。少なくとも、わたしが勇者だったときにはあったのですからね」


 俺の手に、エルシーは自分の手をテーブル越しにそっと重ねてくれる。

 俺を落ち着かせようとしてくれるんだね。

 ありがとう。

 俺はゆっくり深く呼吸をし、落ち着こうと思ったんだ。


 そうか。

 エルシーの時代よりも前に滅ぼされた種族があったかもしれない。

 そう言いたいんだね、きっと。


「えぇ。その通りよ」


 ちょっと、俺の考え読んでるし。

 こうして触れるだけでもできるんだ。

 あっぶねぇ……

 俺が慌てて手を引っ込めると、エルシーは笑ってるんだ。


「なるほど。エルシーがいた以前に、滅ぼされた種族があったかもしれない。その種族が、あの魔剣と魔槍を打ったかもしれない。そう言いたいんだね?」

「そうね。あくまでも仮定の話だけれど。少なくとも人間の一部の国は、そういう業を重ねてきた」

「うん」

「でもね、その魔剣と魔槍があったから、わたしたちは生きて来れた。そうとも言えるから」

「うん」

「その方々に感謝しなきゃ、いけないわね」


 そうだね。

 バラレックさんに調べてもらって。

 もし、その人たちの生き残りがいたとして。

 困っていたら、俺たちが助けなきゃいけない。

 エルシーはそう言いたかったんだと思うよ。


「わかった。約束するよ。もし、その人たちの子孫がいたとして」

「わかってるならいいのよ」

「うん」


「あの、あたしからひとつよろしいでしょうか?」


 ナタリアさんがおずおすと手を上げたんだよ。


「どうしたの? ナタリアちゃん」


 エルシーは不思議そうな顔をしてる。


「あなた。あれを見せて」


 そう言ってナタリアさんは、俺の上着を脱がそうとするんだ。


「わかったって。引っ張らないで」

「あ、ごめんなさい……」


 心配なのはわかってるから。

 ごめんってば。

 そんな拗ねた表情をしなくても、ね?


「父さん、エルシー。これなんだけど」


 俺は左肩だけ上着をはだける。

 そこであの烙印を見せたんだ。


「ウェル。これ……」

「ウェル君。これは」

「ごめんなさい。ナタリアさんに言われるまで、俺も気づかなかったんだ」


 漆黒の龍が絡みつく烙印。

 それが大きくなってるのが、エルシーと父さんにも見えただろう。


「母さんにはあとで話してくれると助かるんだ。デリラちゃんには心配させたくないからね」

「それはそうよ。でもこれ、わたしもよくは知らないのだけれど、確か。数年で消えるとか、そういう話じゃなかったかしら?」

「うん。俺も噂しか知らないから」


 父さんがエリオットさんに目配せをした。

 するとエリオットさんは、部屋から出て行き、ややあってバラレックさんが連れてこられたんだ。

 彼も今日の式典に参加する予定だったし、新王都で拠点の準備にも忙しそうにしてたから、数日前からクレイテンベルグ(ここ)にいたんだっけ。


「……良かったです。姉さんからの呼び出しだったらと、ひやひやしておりました」

「バラレック君。これを見てくれるか?」

「はい?」


 バラレックさんは、俺の肩の烙印を見て驚いた。


「これは、ウェルさんが以前言ってた烙印――いやちょっと待て、これって聞いてたのと違うような……」


 顎に手を当て、考え込むバラレックさん。

 彼の情報をもってしても、すぐに考え至らない状況なのか?


「しばらく時間をいただけないでしょうか?」

「えぇ、大丈夫だと思うわ。ウェルのことだから、そう簡単にはどうこうなったりはしないはずよ」


 エルシーはさらっと言うし。


「エルシー様がそうおっしゃるなら、僕も安心してマリサに話ができますよ」


 父さん、それおかしいから。

 俺ってそんなに、……もういいよ。

 はいはい。

 新種の魔族ですよーだ。


「肩から切り落として、生えてくる保証は、さすがのウェルでもないのよねぇ」

「いやそこまで化け物じゃないから、俺」


 ナタリアさんまで笑ってるし……。


「できる限り調べてみますので。ではウェルさん。またあとで」

「うん。よろしくね、バラレックさん」


 バラレックさんが部屋から出て行く。

 ややあって、母さんとデリラちゃんが戻ってくる。


「ぱーぱ」

「うん。おかえり」

「じゃ、ナタリアちゃん、デリラちゃんも。着替えてしまいましょうね」

「はい。お母様」

「うん、おばーちゃん」

「ウェルも。さっさと着替えてしまいなさいね?」

「はいはい」


 全ての報告が終わり、母さんとナタリアさん、デリラちゃんとエルシーが部屋を出ていった。

 俺も準備をしないとだね。


「じゃ、父さん。また後で」

「そうだね。僕も着替えるとしよう」


 そうして、挨拶を交わした俺と父さん。

 このあとは、街道の開通式典が待ってるんだ。

 準備は大丈夫かな?

 現地の確認もしなきゃだよね。

 忙しくなるぞ――って、あ。


 俺、国王だったんだ……。



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異世界転移ものです

興味を持たれたかたは、下記のタイトルがURLリンクになっています。
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勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。

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アホな元王女二人は悲惨な最後をむかえることを望んでます
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