表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国に捨てられた烙印勇者、幼女に拾われて幸せなスローライフを始める  作者: はらくろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/182

第五十二話 感謝の仕返し。

 王城の内装が完成したと、グレインさんから報告があった。

 家具なんかは、クレイテンベルグから直輸入。

 実を言うと、俺達家族だけが住むには大きすぎて、鬼の勇者達の宿舎や、グレイさんの工房も、城内に作ってあるんだってさ。

 なんせ、俺の住んでた屋敷の数十倍じゃ、効かない大きさだし。

 ぽつんと、家族四人で住むには寂しすぎるって。


 落成式を兼ねて、建国の宣言をする日。

 俺はルオーラさんにお願いして、母さんと父さんを招待したんだ。


「いや、これは驚いた。僕の城そっくりじゃないか」

「そうね。間取りまで同じみたいだわ」


 うんうん。

 そりゃそうでしょう。

 なんせ、『同じに作って欲しい』って、お願いしたんだし。


「そう言ってもらえると、こちらの職人達も、喜んでくれると思います」

「おばーちゃん、だっこー」

「はいはい。デリラちゃん、元気そうね」


 母さんは、もう、デレッとした笑顔で、デリラちゃんを抱き上げた。

 抱いてもらったデリラちゃんは、父さんを向いて笑顔を見せた。


「おじーちゃん、こんにちわー」

「嬉しいね。孫に歓迎してもらえるなんて。こんにちは。元気にしてたかい?」

「うんーっ」


 さて、ここからが本番だ。

 俺達は、鬼人族の皆が集まってくれてる、城の入り口まで出てきた。

 エルシーは、俺の考え読んでるもんだから、さっきからニヤニヤしてるし。

 駄目だよ、バラしちゃ。


「鬼人族の皆さん。こうして、王城もできあがりました。皆さんの家の建設も、始まっています。少々早いですが、母さんと父さんを迎え、お義母さんも、エルシーも見守る中、ある宣言をさせていただきたいと思います」


 拍手で迎えられる俺達。

 俺の横にはナタリアさん。

 ニヤニヤしてるエルシー。

 笑顔のお義母さん。

 デリラちゃんを抱いた母さん。

 横にデレ顔の父さん。

 後ろに控える、ルオーラさんと、鬼の勇者の皆。

 グレイさん、マレンさんを初めとする、鬼人族の重職の皆。


「――俺の名は、ウェル・クレイテンベルグ。愛する妻、ナタリア・クレイテンベルグと、愛娘、デリラ・クレイテンベルグ。エルシー、母さん、父さん、お義母さん。そして、鬼人族の皆さんに支えられて、今日まで来ました」


 一層大きくなる拍手を、俺は手を上げて制する。

 しんとした、空気の中、俺は言葉を続ける。


「俺を国王とし、ナタリアさんを王妃と、デリラちゃんを王女として、ここに宣言したいと思います。では、……鬼人族国家、クレイテンベルグの建国を宣言します」


 母さんと父さんは唖然としてる。

 エルシーはクスクスと笑ってるし。

 ナタリアさんは緊張しまくって、デリラちゃんはいつのも愛らしい笑顔。


 わぁっという、歓声と共に、鳴り止まない拍手。

 もう一度、手で制して、更なる宣言を続ける。


「俺は皆のため、家族のために魔獣を狩りまくる。お金を稼いでみせる。安全で、豊かな生活をしてもらいたい。そのためには、俺は全力を尽くすつもりだ。鬼人族でもない、人でもない、こんな、新種の魔族、こんな訳の分からない化け物の俺。そんな俺だけど、付いてきて欲しい。どうかな?」


 再び歓声が上がる。

 拍手も。


「集落じゃない。もう、ここは、一つの国だ。これから、交易も定期的に始まるだろう。作物も良く育ってると報告がある。皆あってのこの国。ただね、俺は、鬼人族だけの国で終わらせるつもりはないんだ。皆も知ってる商隊、バラレックさんの商会も、ここにできる予定だ。他の魔族の人も、場合によっては受け入れるつもりだ。勿論、魔族じゃなくてもね。笑顔の絶えない、豊かで、過ごしやすい国にしたいと思ってる。頼むね、皆」


 こうして、建国の宣言も終わり、俺の国、クレイテンベルグが始まったんだ。


 ▼▼


 建国の宣言の後、俺達は城内に戻り、お茶を飲みながらゆったりとしてた。

 今は、三階にある、王家だけの階層。

 そこの食堂に皆で集まってたんだ。


「う、ウェル君。さっきのは、一体?」


 父さんが言ってるのは、多分、国名の事だろうね。


「何かおかしいところ、ありましたっけ?」

「いや、クレイテンベルグ、って……」

「あれ? 俺の名前、ウェル・クレイテンベルグじゃないですか。家名が国名じゃないと、おかしくないですか? 王国も、そうですよね?」


 珍しく、困惑してる表情の父さんの肩を優しく叩いた母さん。

 俺の考えを理解してくれたんだろう。


「あなた。これはきっと、ウェルちゃんの感謝と、仕返しみたいなものなんでしょう。いいじゃないですか、これで、名実ともに、私達の息子となってくれたのですから」

「……そうだね。ウェル君の気持ちは嬉しい。けど、少しは相談して欲しかったのも、本音だけどね」


 やっと、父さんの表情は、苦笑に戻ってくれた。

 すると、何やら、母さんと耳打ちしてるんだけど。


「マリサ、これなら、あれを言っても驚かないかな?」

「そうね。……あ、そうそう、ウェルちゃん。クリスエイルさんから、話があるんですって」

「はい?」

「あのね。クレイテンベルグは、王国から離別しようと思ってるんだ」

「は?」


 俺は素っ頓狂な声を出してしまう。

 してやったりという感じの、父さん。

 母さんとエルシーは知ってたのか、並んで笑顔で俺を見てる。


「ウェル国王陛下」

「は、はいっ」

「私達、クレイテンベルグは、領民と共に、御国に亡命を求めます」

「はいーーーーーっ?」


 驚かせるつもりが、逆に驚いたわ。

 そんなこと、考えてたんだ。


「クレイテンベルグ領とこの国へ、街道を設置して欲しい。旧クレイテンベルグ領で、王国との折衝をし、防壁となって、王国より、人の流入を防ぐ役割をしようと思ってるんだ」

「はい」

「どうかな? 受けてくれるかな?」

「どうしよう。エルシー」

「あなたねぇ。もう、国王なのよ? 自分で考えなさい」


 そりゃそうだけど。

 こんなこと、予想してなかったから。

 いや、ナタリアさんも、デリラちゃんも見てるんだ。

 しっかりしないと。


「わかりました。その、申し出、受けさせていただきます。クレイテンベルグ城下の皆さんとも、約束をしましたし。鬼人族の皆とも、仲良くしてくれるのを知ってますから」

「……よかった。断られたらどうしようと思ってたんだ」

「あなた。本当に小心よね」

「仕方ないだろう? まだ、宣言してる訳じゃないけど、近いうちに、僕は、王国の公爵を返上する。マリサの勇者時代の報酬として、領民と土地をもらい受けるつもりだ。文句は言わせない。なにせ、王国を危機に陥れようとしてたのは、王国なんだからね。それが済めば、やっと僕も、マリサも引退できる。孫や娘と仲良く暮らせるんだ」

「えぇ。私達の夢でしたね」

「でも、そんな簡単にできますか?」

「僕はね、身体さえ丈夫だったら、今頃国王だったんだよ。それくらいできなきゃ、笑われちゃうからね。勿論、もし、国王だったとしても、マリサを妻にしてたと思うけどね」

「あなたったら……」

「僕が、マリサが、ウェル君の無実を信じてたと同様、領民の皆も、同じように信じてくれた。だから、鬼人族の皆さんが来る時も、笑顔で迎えてくれたんだと思うんだ」

「そうね。もし、領民の皆さんが信じてくれなかったら、私とあなただけでも、国外に出ようという話もしてましたけど、そんなことにならなくて、良かったと思うわ」


 こういう、温かい気持ちを、デリラちゃんは受け取ったんだろう。

 だから、俺は、母さんと父さんを信じることができた。


 そのとき、ベランダの方から、音が聞こえてきた。


「ウェル様。お客様がお付きになりました」


 ルオーラさんが、教えてくれる。

 誰だろう?

 ベランダの大窓が開いて、そこから姿を現したのは、思ってなかった人だった。


「建国、おめでとうございます。私は、グリフォン族の長、フォルーラ。この子は――」


 小さなグリフォンが羽ばたいて、デリラちゃんに抱きついた。


「デリラちゃん、ひさしぶりー」

「あ、フォリシアちゃんー」


 フォリシアちゃん、話せるようになったんだ。

 デリラちゃんも、成長と共に、言葉数が増えてるし。

 そんな二人を見て、苦笑してるような目をしながら、フォルーラさんは続ける。


「すみません。お転婆な娘で。娘のフォリシアです。鬼人族さんと結んでいただいた、変らぬ(えにし)がございますので、建国のお祝いを申し上げに来た次第でございます」

「フォルーラさん、お久しぶりです。ここ、遠くなかったですか?」

「ウェルさん、私達グリフォンにとって、この程度の距離は無意味です。大陸の果てまで、一瞬で飛べと言われたら、無理と言いますけどね」


 よかった。

 だから、フォリシアちゃんを連れてこれたんだろう。

 フォルーラさんとフォリシアちゃんの、突然の訪問には、ルオーラさん達を知ってる母さんと父さんも、流石に驚いただろうね。

 グリフォン族の長は言わば女王で、フォリシアちゃんは王女みたいな立場だから。

 そんな人達が、ここに来るとは思ってなかっただろう。


 少し大きくなったフォリシアちゃんの背に乗って、デリラちゃんはこの部屋をぐるぐると飛んでもらってる。

 フォルーラさんは、外に一人で出ちゃ駄目だと念を押してたね。

 今でも、勝手に散歩しちゃうんだろうなぁ。

 そんな微笑ましい光景の中、グリフォン族との縁を、どうやって結んだか、そんな話をしながら、今後の話をしていく。

 クレイテンベルグの離脱は、慌てないで行うとのこと。

 俺達鬼人族の存在が、王国になくてはならない存在になったら、宣言するそうだ。

 父さんも、案外辛辣な方法を思いつくもんだね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界転移ものです

興味を持たれたかたは、下記のタイトルがURLリンクになっています。
タップ(クリック)してお進みください。

勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。

どうぞよろしくお願いお願いいたします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ