第四十二話 魔獣の駆除と調査結果。
夕日が落ちる前に、簡単な小屋が三つと、魔獣を落とすための大穴ができあがっていた。
ナタリアさんが持たせてくれたお弁当を皆で食べて、腹ごしらえも終わった。
実にうまかった。
ナタリアさんの料理ってさ、集落でも評判なんだよ。
グリフォン族でも評判が良くてね、ナタリアさんに料理を習う人が後を絶たない位なんだそうだ。
「腹ごしらえも終わったし。じゃ、準備はいいよね? 火を点けるよ」
「「「「はいっ、ごちそうさまでしたっ」」」」
『『『『了解しました。美味しゅうございました』』』』
鬼の勇者達も、グリフォンの皆も満足してくれたみたいだね。
燃えやすい木を井桁状に高く組んで、それに火を点ける。
すると、明るさと熱で、まるでそこに人がいるような、迷い込んだ人がいるのと勘違いしてね、魔獣が集まってくるんだよ。
早速、一体目の魔獣の姿が見えてきた。
最初はオークかいな。
子鬼とオークは、俺たちもグリフォン族も食べる事はない。
――って、アレイラさんが走り込んで、すぱーんと首を飛ばしちゃった。
グランデールを始末できなくて、鬱積が溜まってるのかもしれないって、ジェミリオさんがこっそり言ってたっけ。
『すっきりしました』っていうのは、俺に対する遠慮だったのかもしれない。
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いやー、いることいること。
そろそろ、空がしらっと明け始めてきたんだけどさ。
食べられない魔獣は、かなり深く掘った穴にそこそこ溜まってきてる。
食べられる魔獣は、血抜きが終わってる物は、逐一掴んで運んでもらってるし。
「ルオーラさん、エリオットさんによろしく伝えてねー」
『かしこましました。ウェル様』
ルオーラさん、的確な指示を出しつつ、片手間に魔獣をさっくり倒してるんだから、凄いよな。
「ライラットさん、ジョーランさん、怪我してない?」
「はいっ、大丈夫ですっ!」
「はい、無事です。あ、こっち血抜き終わってますよ-」
ジョーランさんが食べられる魔獣、ライラットさんが食べられない魔獣と、手分けして倒してるみたいだ。
器用だなぁ。
「アレイラさん、ジェミリオさん、二人は大丈夫?」
「はい、よゆーでーす」
「はいっ、ご心配おかけします」
うん、頼もしい限りだね。
女の子は二人とも、小さな頃から治癒の魔法を教わってるって、ナタリアさんから聞いてるし。
ライラットさんが頑張りすぎて、あちこち切り傷負ってるみたいだけど、二人が入れ違いで治癒をかけてくれてるから、安心して見てられるんだよね。
四人とも元気なもんだわ。
皆、無駄な体力使わないで、一太刀で倒してる。
教えたとおりできてるみたいだね。
いやー、それにしたって、この森。
どうなってんだよ。
魔獣、多過ぎだろうに。
もしかしたら、王国に来る魔獣の何割かは、この森から出てくるのかもしれない、って思うくらいに出るわ出るわ。
魔獣の発生する理由とかも、そのうち調査しないと駄目だね。
これは結構疲れるわ。
明るくなったら、穴に落とした魔獣の死骸は燃やす予定。
放っておくと腐っちゃうし、それを目指して魔獣がまた来ちゃうから。
きちんと処置をしておかなきゃならないんだよね。
食用になる魔獣の肉は、かなりの数を届けてるよ。
質の良い肉は、半分集落に持って行ってもらってるし。
それでも、集落でだけじゃ食べきれないくらいあるんだよ。
ルオーラさん達に届けてもらってるけど、なんでも、クレイテンベルグ領の町で売られてるものより質が良いって、エリオットさん、喜んでたらしいわ。
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はい、夜が明けました。
皆には交代で休みをとってもらってる。
若いから俺より元気だけど、無理はさせられない。
俺はほぼ徹夜だけど、そんなに疲れてないかな。
深夜になっても絶え間なく襲ってくる魔獣を、三交代くらいで休みを入れながら討伐し続けた結果。
勇者だった頃の、おおよそ一ヶ月程の数は討伐というか、駆除したと思う。
魔石も、大きな布袋にいっぱいになったものが、四つ程になってるよ。
ほとんどが小さい魔石なんだけどさ。
俺が知るだけでも、一回の討伐では新記録かもしれないわ。
「エルシー、どう? 気配感じる?」
「そうねぇ。獣の気配はするけど、魔獣は感じられないわね」
エルシーは小屋の中で、アレイラさん、ジェミリオさんとお茶を飲んでるところ。
何気に、四人の成長の度合いを喜んでるっぽいね。
一応、俺とエルシーの愛弟子達だから。
今、穴に放り込んだ魔獣から、もくもくと炎と煙が上がってる。
食用にならない魔獣が七割位だったよ。
まぁ、そんなもんなんだろうね。
アレイラさんとジェミリオさんが、朝食を食べた後、早速周りの調査をするのに、さっき出て行ったんだ。
もう、辺りからは魔獣の気配が感じられないから安全だって、俺もエルシーも確認済み。
これだけ討伐すれば、魔獣が枯れた状態になったっておかしくはない。
あとは定期的に、集落と王国の上空から監視を続ければ、魔獣討伐は楽なものになるだろうね。
それこそ俺が勇者だった頃のように。
お。
アレイラさんとジェミリオさんが戻ってきたみたいだ。
ん?
何やら腕に沢山の紫色した何かを抱えてる。
二人ともいい笑顔してるな。
きっといいことがあったんだろうね。
「族長さん、族長さん。ここ、凄いですっ!」
「アレイラ、それじゃわからないでしょ。すみません、彼女、興奮しちゃって……」
ジェミリオさんのさりげないツッコミに、アレイラさんはペロッと舌を出して恥ずかしがってる。
「山葡萄の群生地があったんです。それもね、集落が何個も入ってしまうくらいの、広大なところだったんです。……ちょっとだけ食べてみたんですけど、これがまた味が濃くて、すっごく甘いんですっ」
うんうん、わかるよ。
味見した時のだと思うけど、口の周りにさ、拭いきれなかっただろう、果汁のついた跡があるからね。
アレイラさんの話では、集落で作ってる、あの果実酒の材料が山葡萄なんだそうだ。
あれ、旨いからなぁ。
バラレックさんも褒めてたくらいの鬼人族謹製果実酒。
そっか、ここに来ても、作れるってことなんだね。
今までは年に数樽しか作れなかった果実酒も、もっと作ることができるらしい。
なんでも、野生の山葡萄の方が味が良く、栽培も試してみたけど、枯れつつあった土地のせいもあって、なかなか甘いものが育てられなかったんだって。
今の集落の近くには、少量の山葡萄があっても、取り尽くしてしまうと、次の年に取れなくなるから制限してらしい。
山葡萄ひとつとっても、それだけ作物を育てることに関していえば、土地は良く肥えていて、今の集落とは比べものにならないくらい、良い作物を育てることができるだろう。 アレイラさんの判断は、そういうものだった。
山葡萄の群生地は、魔獣の多くいた森から離れてるらしいから、都合もいいかもしれない。
その山葡萄、今、エルシーのお茶請けになってるわ。
「これ、美味しいわ。甘くて、ちょっと酸っぱくて。デリラちゃんも好きそうな味ね」
「そうなんです。このまま食べても、お酒にしても、干しても美味しいと思いますよ」
「いいわね。お酒のお供にもいいかもしれないわ」
もう、お酒の話になってる。
エルシーはそう言いながら、ひょいぱく、ひょいぱく、と、美味そうに食べてる。
アレイラさんが抱えきれないほどに持ってきてたけど、これはほんの一部にもならない量なんだろうね。
エルシーとアレイラさん、ジェミリオさんが食べても減らないし。
「魔獣の焼却作業、粗方終わりました」
「はいよ、ライラットさん、お疲れ。こっち来てお茶飲んで」
「すみません。まだ、ジョーランが作業中なので、そっち手伝ってきます」
働き者だ。
魔獣の後片付けは、彼らに任せて、こっちは土壌の報告を聞いてしまおうかね。
「アレイラさん。結果的に、どんな感じ?」
「はいっ。問題ないどころか、とんでもなく上質な土です。集落では私たちで作った堆肥を混ぜて植えてますけど、こちらでは必要がないくらいに肥えた土だと思います。交易商の方に種を仕入れてもらうつもりでいますので、何を植えようか迷っちゃうくらいですね」
よかった。
土壌は問題ないみたいだね。
クリスエイル父さんの話の通りだった。
疑うつもりはなかったけど、自分達の目で見ないと不安だからさ。
「ほら、言った通りでしょう?」
「だから、頭の中読まないでってば……」
次の更新はまた、週末の予定です。




