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国に捨てられた烙印勇者、幼女に拾われて幸せなスローライフを始める  作者: はらくろ


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第百五十七話 マルテさんと治癒の魔法と精霊さんと。

 うん。

 エルシーが言うとおり、父さんの身体が丈夫だったら、きっと凄い勇者になってたと思う。

 それこそさ、母さんと父さんが並んで戦ってたかもしれないんだね。


「なるほど。過去に人族の枠を超えた勇者がいたと仮定して、もし彼らが子孫を残していたなら。その子孫たちは人族の枠を超えていたのか? ウェル君はそう言いたかったんだね?」

「ちょっと疑問に思っただけですよ。俺の死んだ父も母も普通の人で、俺みたいに勇者に憧れたわけじゃないですから」

「なるほどね。選別を受けようとしなかったのかな?」

「はい。父と母は成人する前から、二人で一緒に宿をやるのが夢だったって言ってました。俺の生まれ育ったところが比較的栄えていた宿場町だったからかもしれませんけど」

「うん。実をいうとね。僕の家系は僕だけしか、魔剣を操ることができなかったと聞いてるんだ」


 父さんの家系っていうと、あっちの王家ではってことだよね?


「そうだったのですか? お父様のお父様たちはできなかったと?」

「あぁそうだよ。ナタリアちゃんの言うとおり。僕の父も祖父も、その先代もあの剣と槍を抜くことはできなかったんだ。人族の枠を超えるだろう因子は子に受け継がなかったということなんだろうね」


 ナタリアさんは少し思い出すようにして、すぐに俺を見たんだ。


「そうですね。あたしの母は、治癒の魔法がそれほど得意なほうではありませんでした。あたしの父は強力得意だったはずです。それでも、魔獣を倒せるほどではありませんでした。それはきっと、ウェルさんの亡くなったご両親と、同じだったのかもしれません」


 うん。俺の父も母も、魔法なんて縁がないどころじゃない。

 俺が知ってるあの宿場町にいた人もそうだった。


「父は魔法回路を確か使えなかったから、母が火付けしていたのは覚えています。まるでグレインさんとマレンさんのような感じだったとも、言えますね父さん」


 グレインさんは火起こしの魔法を使えない。マレンさんが毎日、炉へ火を入れてるって言ってたからね。


「なるほどね。魔法という概念でいえば、人族よりも遙か先を行っている鬼人族ですらそういうものなんだね。……ときにナタリアちゃん」

「はい。なんでしょうか?」

「デリラちゃんを除いて、強力の魔法に一番卓越している人は誰なんだろう?」


 ナタリアさんはまた少し考えてる。


「強力の作用という面でいえば、お父様のおっしゃるとおりデリラが一番上手かもしれないんです。ただ、結果的な手を握る力や腕力という意味ではありません。そう、……ですね」


 ナタリアさんが父さんの実の娘みたいになっちゃってるよ。彼女が言ってること、俺には難しい言い回しになってるし。


「うんうん」

「あたしが知る限りでは、グレインさんが一番かと思われますね。瞬間的な力だけいえば、ウェルさんに並ぶかもしれません」

「それって、あ、そういうことか」

「どういうことだい? ウェル君」


 思い出したわ、あのときのグレインさんの言葉。


「実はグレインさんも、魔剣をある程度扱えるんです」

「あぁ、そのことかい。僕も彼から聞いてるよ」

「知ってたんですね。ただ、グレインさんは言ってました。彼は魔剣を扱いながら強力を使えない。魔石を鍛えるのは、強力じゃなく腕力だって。グレインさんははそこまで器用じゃないんだって」

「うん。強力の魔法もおそらく地の属性。魔剣を、魔石を扱うのもまた地の属性で間違いないはず。僕やマリサさん、若い勇者君たちは魔石の制御と強力の魔法を同時に扱うことは瞬間的にはできたとしても、長い時間は難しい。だから剣術や槍術でそれを補っているんだ。だからエルシー様は、その両方を全力で扱えるウェル君を『おばけ』と表現しているのかもしれないね」


 言い過ぎだってば、父さん……。ま、同じことエルシーが言ってたけどさ。


「そうですねぇ、よくできましたぁ」


 あ、マルテさんも同じ考えなんだ。


「本来ぃ、魔法はですねぇ。二つ同時にぃ発動させるのはぁ、長年の修練が必要とぉ言われているくらいにぃ、難しいものなんですねぇ。もちろんマルテも無理ですよぉ」


 うそ、マルテさんも無理なんだ……。


「やはりそうなんですね」

「えぇそうですねぇ。ですがぁ、例外はあるんですよぉ」

「といいますと?」


 マルテさんは俺をチラリと見て、優しい微笑みをくれた。あ、なるほど。俺がその例外なんだ。


「そのひとつがぁ、ウェルちゃんですねぇ」

「やっぱり俺かー」

「はいそうですねぇ。あとはぁ、一度にふたり以上のぉ、精霊さんにお願いする方法ですねぇ」

「あぁ、そういうことでしたか」

「はいそうですねぇ。マルテは絶対にぃ、できませんけどねぇ」


 精霊さんに守護されてるマルテさんも、そういうのは無理なのか。


「おそらくですがぁ、ウェルちゃんはぁ、大精霊様のエルシー様に守護されているからぁ、できるのかもしれませんねぇ」

「あー、言われてみたらそうなのかも。俺、勇者になりたてのとき、ぜんぜん駄目だったから」

「そうね。確かに私が教えていたあのときのウェルちゃんは、まだまだだった覚えがあるわ」

「母さんもそう思った?」

「そうね」


 槍の勇者だった母さんに、剣の基礎を教えてもらったんだよ。

 もちろん、魔剣の扱い方の基礎もね。

 それからエルシーに教わった方法は、それを根元からひっくり返すくらいに驚く方法だったんだけどさ。

 何もかもいっしょにできるようになったのは、エルシーがいたからだと思うんだよ。

 けれど俺の基礎を作ったのは、間違いなく母さんなんだ。

 それは間違いないと思うんだよ。


「最初は山犬の魔獣だって、倒すのは大変だったんです。けどある朝突然、エルシーの声が聞こえるようになってから、次の日には難しくなくなってたんです。やっぱりそれって、エルシーがいたからだと思うんだよね」

「討伐の数が急に増えたのって、ウェルちゃん」

「そうそう。あの朝からエルシーの声が聞こえたんだよ。『どんなに説明してもわかってもらえないから言っちゃ駄目よ』って、エルシーには言われてたんだけどさ」

「そうね。あの日、エルシー様に出会ったとき初めて、ウェルちゃんが強かった理由に納得がいったんだものね……」


 人の姿になったエルシーと一緒に母さんを助けにいった日のことか。


 ▼


 食事とお話を終えて、父さんはデリラちゃんの様子が気になるからって、俺たちの部屋へ行ったんだ。

 母さんの代わりにエルシーと一緒にデリラちゃんを見てくれるんだって。

 急にどうしたんだろう?


 エルシーの話ではまだデリラちゃんは寝てるみたい。

 一緒に寝てたフォリシアちゃんは、もう昼寝を終えてルオーラさんたちの元へ戻ってるって。

 ナタリアさんが治癒の奉仕をしてる部屋に場所を移して、マルテさん、俺、ナタリアさん、母さんの四人で話を続けることにしたんだよね。


「ここでいつもぉ、治癒をしてるんですねぇ?」

「はい。今日もこのあと、城下と領都から皆さんが来る予定になっています」


 母さんがナタリアさんの手伝いをしてるって聞いてる。

 なるほどなるほど。

 俺はここに入るのは、ここを作ってたときだけなんだよね。

 あのときは部屋の中はなにもなかったんだ。

 きっとナタリアさんが自分で必要なものを持ち込んだんだろうけどさ。

 まったく違う部屋になってるんだよ。


「ここはですね。皆さんの治癒だけでなく、年頃になった子たちへ治癒の魔法を教える場所でもあるんです」

「あ、それって俺はいてもいいの?」

「あなたは大丈夫ですよ。そう、エルシー様も言ってましたから」

「あははは……」


 あ、父さんがあっちに行ったのって、そういうことか?


 机の前にある背もたれの大きな椅子に座ったナタリアさん。

 治癒を受ける皆さんが座る椅子に、俺と母さんが座ってる。

 マルテさんはちょっと色々大きいから、ベッドの上に座ってもらってるんだ。

 ナタリアさんが、そのほうがいいだろうって判断したことなんだよね。


「あたしがお母様に教えた方法は、鬼人族の子たちに教えてるものと同じなんですね」

「あ、そうだったのね」

「はい。それでですね、マルテさん」

「はいぃ」

「あの方法をデリラがやってみせたと、ウェルさんから聞いたのですが?」


 あの方法とはきっと、『ナタリアさん式マナ増幅法』のことだと思うんだ。


「『おてて』のことですねぇ?」

「はい。そうです」

「大丈夫ですよぉ。何度も練習しましたからねぇ」

「されたのですね……」


 少し恥ずかしそうなナタリアさん。


「マルテたちはですねぇ。水の中にいないときはぁ、ある一定周期でですねぇ、足のほうから徐々にぃ、肌がが乾いてしまうんですねぇ」

「はい。種族的な問題なのでしょうか?」

「そうなんですよぉ。乾くとちょっとヒリヒリしてですねぇ、こんな感じに赤くなってくるんですねぇ」


 あ、まずい。

 俺はマルテさんから視線を外すために、後ろを向いたんだ。



お読みいただきありがとうございます。

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異世界転移ものです

興味を持たれたかたは、下記のタイトルがURLリンクになっています。
タップ(クリック)してお進みください。

勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。

どうぞよろしくお願いお願いいたします。
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