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国に捨てられた烙印勇者、幼女に拾われて幸せなスローライフを始める  作者: はらくろ


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第百五十二話 マルテさんはデリラちゃんの。

「そうですねぇ。マルテは元々水辺で育ったものですからぁ、火の精霊さんに会うことはなかったんですよねぇ。聖の精霊さんはぁ、マルテも話でしか聞いたことがなかったのも事実ですねぇ」


 鬼人族の集落があったところも、俺たちのこの国も内陸にある。

 水辺にあるというマルテさんの故郷とは違うわけだ。

 オルティアと出会った羊魔族のいる大陸に行く間も、遠くに海辺や湖もあったはず。

 おそらく、マルテさんたちスキュラ族はそんな場所に住んでいるんだろうね。


「なるほどなるほど。この国にはおそらく四大元素(しだいげんそ)と呼ばれる地、水、風、火の精霊さん、あとナタリアちゃんの側にいてくれる聖の精霊さんということなんですね?」


 父さんがまるで少年のように目をキラキラさせながら、マルテさんに質問してるんだ。

 俺からみてもさ、すごく楽しそうなんだよ。


「はいそうですよぉ。ほかにもですねぇ。闇とぉ、光ぃ。あとはぁ、マルテも知らない精霊さんがぁ、いるかもしれないですねぇ。これでいいでしょうかぁ?」

「はい。ありがとうございます」


 んんんん?

 ということはあれだよ。

 精霊さんの存在を俺たちは知らなかったから、必然的に魔法後進国だったわけか?

 いやでも、ナタリアさんたちは精霊さんを知らなくても魔法を使えたわけだし。

 んー、よくわかんなくなってきたよ……。


「あの、マルテさん。あたしもよろしいでしょうか?」

「はぁい、ナタリアちゃん。なんでしょぉ?」


 今度はナタリアさんだ。

 しっかり右手をあげて質問してる。

 まるでデリラちゃんが父さんに教わってるときみたいだ。

 もしかしたら、ナタリアさんが教えたのかもしれないわ。


「精霊さんは、あたしたちの目に見えるものなんでしょうか?」

「はい、よい質問ですねぇ。マルテが知る限りなのですがぁ、毎日少しずつマナをあげていたらぁ、いつか姿を見せてくれるはずなのですよぉ。マルテもねぇ、五十年かかったんですよぉ」


 へぇ、精霊さんが見えないようにしてるのか。

 それとも、見えづらいのを見えるようにしてくれるのか。

 うん、よくわかんないわ。

 あれちょっと待って。

 ナタリアさんの表情がさっきの父さんみたいなんだけど?


「そ、それはどのようにしたら、よろしいのでしょうか?」

「簡単ですよぉ。デリラちゃんもいいかしらぁ?」

「はいっ」

「利き手をこう上げて」


 マルテさんは左手を一度握って、人差し指だけを立てると目の高さに上げる。


「余った手をぉ、こうするのですねぇ」


 右手を胸の高さにして、手のひらを上に向けた。

 ナタリアさんもデリラちゃんも同じように。

 ナタリアさんは右手、デリラちゃんはそうだ左手だった。

 匙を持つのも左だったもんね。

 マルテさんは最後に、左手の人差し指を右手の平に上に近づける。


「あとはぁ、こうしてぇ、指先にマナをちょっとだけぇ、出すつもりで念じるのよぉ」


 マルテさんはもちろん、マナが枯渇したデリラちゃんの状態でも大丈夫だからやってみせてくれているんだと思う。


「あら」

「あはは」


 どうしたんだろう?

 ナタリアさんがちょっと驚いた表情。

 デリラちゃんは笑ってる、いや、くすぐったそうにしてるのか?


「あのねあのねパパ」

「うん?」

「あのですねあなた、指先を誰かが甘噛みしたような感じがとてもくすぐったくて」


 うーわ、デリラちゃんとナタリアさん、これまたそっくり。

 母娘だから当たり前なんだけど。

 俺に『見て見て』と言わんばかりの笑顔なんだもの。


「うんうんそうなのパパ」

「こうして仲良くしてるとですねぇ、明日かもしれないしぃ、マルテみたいに五十年後かもしれないですけどぉ、いずれ姿を見せてくれると思うのですよねぇ」

「マルテちゃんマルテちゃん」

「なんでしょぉ?」

「このご飯、いつあげたらいいの?」

「あのですねぇ、一度仲良くした精霊さんはぁ、お腹がすいたらですねぇ、頬をぺたぺた触ってくるのですよぉ。そんなときですねぇ、手のひらをこうしてあげるとねぇ、『食べてもいいよぉ』という意思表示になるのねぇ。指先じゃなくてもぉ、手のひらにマナを出してもいいのよねぇ」


 要は、慣れてる方法でいいってことなんだ。


『ウェルだっていつもしてくれたじゃないの?』


 ん?

 あーそっか。

 剣にマナを込めるあれか。


『そうよ。討伐じゃないときでもたまにやってくれたでしょ?』


 うんうん。

 あれがそうなんだ。


『ウェルから漏れ出てるのをつまみ食いしていたのも――あ、そういうことなのね』


 どういうこと?


「マルテさんいいかしら?」

「はい、何でしょぉ?」


 マルテさんはエルシー相手でも態度を変えないんだね。


「わたし以外の精霊さんは、身体から漏れ出てるマナを食べて寄り添う人を決めるのかしらね?」

「エルシー様ぁ、正解ですよぉ」

「やっぱりそうだったのね」

「ですからぁ、こうして直接食べてくれるというのはですねぇ、精霊さんが守護してくれる証でもあるのですねぇ」

「ところでマルテさん。精霊さんにマナを食べてもらっても、魔法は間違って発動しないのですか?」

「それは大丈夫ですよぉ。『お願い』とはぁ、違いますからねぇ」

「あ、そうなんですね。安心しました」


 今回の事件はさ、デリラちゃんが水の魔法同様に、精霊さんにお願いしちゃったことから始まったんだ。

 だからその方法を教えてくれた、マルテさんも責任を感じてるんだと思うんだよ。


「あのねぇ、デリラちゃん」

「なんでしょ? マルテちゃん」

「マルテから魔法を学ぶつもりぃ、あるぅ?」

「うんっ」

「是非お願いします。ねぇあなた」

「うん。俺からもお願いします」


 俺とナタリアさんも、頭を下げてお願いした。

 マルテさんなら、安心して任せられると思うんだよ。


「あらあら。王妃様、国王陛下にまでぇ」

「いえその王妃様だなんて……」

「久しぶりに呼ばれたな、そういえば」


 すっかり忘れてたよ。

 俺は国王というより、族長程度にしか思ってないからね。


 あ、そっか。

 マルテさんはデリラちゃんのことを姫様って呼んでない。

 いや、呼ばないようにしてくれてるんだろうね。

 お友達だと思ってくれているはずから。


「教えてもいいのですけどぉ、約束があるんですぅ」

「はいっ」

「マルテのことはぁ、教えてるときは師匠と呼ぶことぉ。そうじゃないときはぁ、いつも通りでいいんですけどねぇ」

「わかりました、師匠」

「だからぁ、今はぁ、違うんですよぉ……」


 マルテさん、何気に照れてる。

 慌てていても口調は変わらないんだ。

 これがマルテさんの素の状態なんだね。


「あ、そういえばマルテさん。僕、疑問があったんです」

「なんでしょぉ?」


 父さんが思い出したかのように質問。


「マルテさんは、治癒の魔法を使えますか?」

「使えませんよぉ。というよりぃ、マルテの育ったところにはぁ、教えてくれる人がいなかったんですねぇ」


 スキュラ族に治癒の魔法の使い手がいなかったってことか。


「なるほど。それならですね。ナタリアちゃんの手が空いてるときに、教えてもらったらどうでしょう? うちのマリサさんもナタリアちゃんから教わって、使えるようになりましたので」

「あらぁ、いいのかしらぁ? スキュラで使える人ぉ、マルテだけになっちゃうかもぉ」


 何やら嬉しそうなマルテさん。

 デリラちゃんに師匠って呼ばれたときみたいに、すごく喜んでる。


「はい。構いませんよ。昼までは治癒の奉仕がありますが、お昼ご飯より後であればいつでも構いません」

「ありがとぉ。そしたらねぇ、マルテもお昼より後に来るわねぇ」

「あ、そうだ。これから朝ご飯だろうし、マルテさんもうちで食べたらどうかな?」

「……いいのですかぁ?」

「はいきっと。大丈夫だよね? オルティア」

「はイ。ちょっとフレアーネさんに言ってきまス」


 ひょこっと立ち上がってペコリとお辞儀。

 きっと強力を使ってるんだろう、ささっと足音立てずに行っちゃった。


「えぇ? 今日からよろしいのですかぁ?」

「そうですね。今日からデリラちゃんにもお願いします」

「わかりましたぁ。よろしくねぇ、デリラちゃん」

「はいっ、師匠っ」

「あらあらぁ」


 こうして、デリラちゃんの師匠になったマルテさん。

 ナタリアさんはマルテさんの師匠になるから、また先生と呼ばれることになるんだろうけどね。



お読みいただきありがとうございます。

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異世界転移ものです

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