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国に捨てられた烙印勇者、幼女に拾われて幸せなスローライフを始める  作者: はらくろ


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第百九話 羊魔族の族長さんとお話 その2

 思ったよりも、大足蛇の肉は悪くなかった。

 出汁も骨からそれなりに取れたし。

 俺の稚拙な料理を、羊魔族(ここ)ここの皆さんも一応、喜んでくれたっぽくて助かった。

 炊き出しが終わって、羊魔族の皆さんもとりあえず落ち着いたところ。


「ほんと、ウェルは子供に『だけ』はモテるわよねぇ」


 別にいいんです、今はナタリアさんがいるし。


 俺の膝の上に頭を乗せて、寄りかかるようにして眠ってるしろかみちゃん。

 俺が気に入られた理由はさ、分けてあげたマナが『美味しかった』からなんだって。

 デュラハン族のしろかみちゃんにとって、食事も俺のマナも同じなんだろうな。

 勇者の仕事しか知らなかった俺にはさ、世の中ってほんと広いなって感じるよ。


 しろかみちゃんは今、身体と首が繋がってる。

 長くて薄い布で、首と肩を固定してるんだ。

 ちょっと不便そうに見えちゃうけどさ、こうすると一人で歩けるらしい。

 けど、すぐにほどけてしまうから、一日に何度もまき直してあげる必要があるそうなんだ。


「ワタシたちは、この子の家族にはなれませんので」


 そう、寂しそうな表情(かお)をする、族長さんの奥さん、ナティマさん。


 彼女たち羊魔族は、人間と見た目が違う。

 もこもこの髪の毛に、耳の後ろから生えてる、二本の黒い角。

 長さは短いけれど、角のかたちは鬼人男性のそれに似ている。


 肘と膝から先には、長いこちらももこもこした体毛。

 足には蹄があって、靴は履いてないんだ。

 マナの薄い地域にも馴染める種族らしいけれど、寿命は人とあまり変わらない。


 遊牧と農耕で生計を立てる、争いごとを好まない温和な種族だそうだ。

 勿論、魔獣を倒すことは叶わない。

 逃げて流れてこの地へ来た。

 鬼人族のような生き方をしてるんだって。


 しろかみちゃんの家族にはなれない。

 おそらく、以前俺が悩んだ理由と同じだと思う。


『「寿命の関係で、しろかみちゃんと一緒の時間を生きてあげられない」そう、言いたいんでしょうね』


 うん。

 そんな意味だと、俺も思うんだ。


 この集落を襲って、しろかみちゃんが囮になったあの大足蛇の牙は、魔石ほど鋭くはない。

 俺も噛みつかれたけど、傷一つ付けられることはなかった。

 同様に、しろかみちゃんの身体にも傷をつけられなかったみたいだ。

 彼女の場合はもし傷を負っても、その場で自然治癒が始まる。

 半日もあれば、傷は治ってしまうとのこと。

 俺のように、他の種族を上回る回復力などから、不死ではないかと言われているらしいんだよね。

 その分、マナの消費が激しいのが、デュラハンらしい。

 情報が少なすぎて、何歳まで生きられるのかもわからないし。

 かなりの長寿なんだろうと、思うよ。

 彼女の母親の、時間に対する概念から察するにね。

 エルシーがそう言ってたよ。


 しろかみちゃんのお母さんが、しろかみちゃんが大きくなるまでこの地に残らなかった最大の要因は、『食事』にあったのかもしれない。

 マナ摂取のためとはいえ、この小さな身体で、驚くほどの食事を必要とするらしいから。

 もし大人のデュラハン女性がいたとして、生きていくために必要なマナを得るためには、予想もできないほどの食料が必要になるだろう。

 俺の側には、マナで悩んだエルシーがいるから、なんとなく理解できてしまう。


 ちなみに、しろかみちゃんの首から発せられる黒いもやもやの正体。

 族長のアティロさんたちにもそれはわからないとのこと。

 血じゃないし、マナでもない。

 滑舌の良いしろかみちゃんだけど、まだ十歳なんだし。

 いずれ色々と教えてくれるかもしれないから、今は待つことにしようと思うんだ。


『あら? ウェルは、しろかみちゃん(このこ)の家族になってあげるつもりなのかしら?』


 どうなるかは、帰ってみないとわかんないけどさ。

 とにかく連れて帰って、父さん、母さん、ナタリアさんと相談して決めようと思ってる。


 ▼


 翌日、俺は朝早くから建物の壁を直してたんだ。

 粉々になった壁も、案外簡単に直せたんだよ。

 力仕事は、ルオーラさんも手伝ってくれたからさ。

 魔石に比べたら、石壁なんて楽なもんだったよ。


 マナ切れを起こさないかエルシーも心配してたけど、そんな感じは全くなかったし。

 俺ってどこからマナを取り込んでるんだろう?

 エルシーがまた『お化け』って言ってたし……。


 こうして、壊された建物は直せる。

 鬼人族の集落で一度やってたからさ、魔獣が入って来にくいような柵も、やってやれないこともないんだ。

 けどさ、大足蛇に食われちまった、大事に育ててた獣は元に戻らない。

 蓄えてあった穀物も荒らされたらしいから、普通の生活を送れるようになるまで、時間はかかるだろう。

 とにかく、冬を越せるくらいの蓄えは必要だから、彼らの助けになれたらと思ってるんだ。

 だからルファーマさんを、グリフォン族の集落へやったのもあるって、ルオーラさんも言ってたし。


 夕方過ぎ、五人ほどの若い人を連れて、ルファーマさんが戻ってきたんだ。

 いや、早かったねぇ。

 ついてきてくれた若い男の子も、うつ伏せになってぐったりしてるよ。


『お疲れ様です。ルファーマ』

『はい。頑張りました。フォルーラも、「頑張ってるみたいね」と喜んでいましたし』

「それはよかったね」

『はい。仕事で見直してもらえるのは嬉しいものです。そうそう、ウェル様へ、奥様からご伝言がございます』

「うん」

『「予定していた二、三日を超えてしまっているため、ウェル様のお父様、お母様が心配するといけない」と心配されていました。そのため、デリラ姫様と一緒に、先にクレイテンベルグへ戻るとのことでした』

「あ、そうだろうね。結局ゆっくりできなかったから、ナタリアさんにあとで謝らないと駄目だわ。うん、ありがとう」

『いえ、勿体なく思います』


 あれ?

 ルファーマさん、どうしちゃったんだろう?

 口調がまるで、ルオーラさんみたいになってるよ。


「ところで、うちのデリラちゃんは元気にしてました?」

『あ、申し訳ないです。うちの娘と一緒に遊んでいるらしく……』


 飛び回っていて会えなかったわけね。


「あ、そうなんですね。元気そうで良かった」


 ところで、フォリシアちゃんに『パパ』って呼んでもらったのかな?

 なんて聞けないよね、正直言って。

 それになんて言うか、段々ドツボにはまってる感があるんだよ。

 七日かかったこの距離を、無理すれば一日で戻れるって、自分で言ってしまってるようなもの。

 ルオーラさんとそんな話、してたんだよね。


 俺の執事ルオーラさん、元々はグリフォン族長の側近、いわばフォルーラさんの執事のような立場になるべく、修行、勉強していたそうだ。

 フォルーラさんやルファーマさんより年上の彼は、二人が小さな時から色々と面倒を見る立場だった。。

 そんなルオーラさんから見たルファーマさんは、年下の親類。

 よく面倒を見ていた若い子が立派になって、族長の旦那さんになった。

 そう思っていたんだろうね。


 そこまではいいんだけれど、そういやルオーラさんも愚痴を漏らしていたっけね。

 思うところがあって、ルオーラさんは俺の執事となった。

 それ故に、族長を支える立場の側近になれなくなった。

 本来、フォルーラさんを支えるのは、ルファーマさんだった。


 立場から言えば、族長の夫なのだから、上に居るのは間違いない。

 外遊調査だって、グリフォン族の大事な仕事ではある。

 それなのに、外遊調査の際、外界の楽しさに酔ってしまい、四年も里へ帰らないという失態を侵した。


 そりゃね、ルファーマさんがいない間、側近になるべく里を支えようとしてたルオーラさんだって、言いたいことはあるんだろうし。

 それをぐっと堪える代わりに、ルファーマさんの肩を持つわけにはいかないんだろう。

 俺はそうならないように、気をつけよう。

 もっとも、ルファーマさんのようにならないようにと、前からルオーラさんから釘は刺されてたんだけどね。


 ▼


 俺とグリフォン族の数人の若手さんたちは家の補修を。

 残りは、羊魔族の人たちと、荒らされた農地を直してる。

 大勢の手で進めたおかげで、集落の補修作業はほぼ終に近づいた。

 あとは以前、鬼人族の集落で俺が、黙々と一人でやった作業をするつもり。


 集落の外側、土を多めに削り取って、それを材料にする。

 俺はひたすら固めて柵を作っていく。

 土を掘るのと、柵を並べていくのは若手さんたちの仕事。

 岩山から切り出す必要もないし、材料は周りに山ほどある。

 堀のように深くすることで、更に強固な柵になると思うんだよ。


 厚さ二百、高さ五百、集落をぐるっと取り囲む感じに柵はできた。

 仕上げに俺は、柵と柵の間を外れてしまわないように融合していく。

 これで見た目は、一枚岩で取り囲んだかのようになってる。

 もはや柵というより、城壁に近いものが仕上がりつつあるよ。


 一カ所だけ出入りをできるよう、入り口を作ってある。

 そこには、グリフォン族の若手さんたちが作った、木製の分厚い扉。

 木工職人が作ったわけじゃないから、表面は粗い。

 それでも使うには十分なものになってる。


 今まで使っていた水路の上にも、柵がかかってる。

 水だけ通せるような隙間は、魔獣は勿論入ってくることはできない。

 ここに住む羊魔族の皆さんが、魔獣に襲われる懸念は減らせたはず。

 これで集落の外から中に入り、外へきちんと水が流れていくから、水が淀むこともない。

 まあ、良い仕事したと思うよ。

 うんうん。


 今まで育てていた獣と同じ種のものを数十匹、グリフォン族の若手さんたちが捕獲してきた。

 比較的大人しい種で、野生の物でも飼育が難しくないんだそうだ。

 あとは、ルファーマさんたちに持ってきてもらった穀物などを、新しく建てた蔵に入れてある。

 捌いて処理をした大足蛇の肉もあるし、これだけの蓄えがあれば、集落の人たちが来年の夏までは暮らしていけるだろう。


 本当は、全員俺の国に来てもらっても良かったんだけど、族長のアティロさんは、


『魔獣の被害を調べているしろかみちゃんの母親が、ここを訪れて誰もいないのは困ってしまうはず。この大陸には、ここ以外にも魔獣に怯え苦しむ人たちがいる。ワタシたちだけ甘えるわけにはいかない』


 とのことだった。

 グリフォン族の人も定期的にこちらへ来て、交流をもってくれるとのこと。

 魔獣が沸いているようなら、ついでに駆除してもらえる。

 その見返りとして、グリフォン族が外遊調査をする際、補給や宿泊などを協力してもらうことになった。

 だからしばらくは、大丈夫だと思ってるんだ。



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