83話 厄介な階層だ
イロハの妹さんの捜索と救助のために、俺は姫たちと一緒にダンジョンに潜っている。
急遽参加したサナも一緒だが、彼女は早速レベルアップした。
俺が手伝ったりしているとはいえ、ペースが早くないだろうか?
レベルは高いが、ダンジョンについて素人の俺はそう思うのだが、ベテランのイロハも同じ意見らしい。
これは――サナがなにかスキルなどを持っているとか?
ファンタジーやゲームなどでは、経験値が多くゲットできるとか、成長が早いとかそういうタイプがいたりする。
それと似たようなものの可能性が……。
それはさておき、レイスとエンカウントしたということは、ここは6層相当だと思われる。
6層の下を掘ったら6層だったなんて、普通にあり得るのが、この捻くれているダンジョンだ。
逆にとんでもない高レベルの階層にたどり着いてしまうこともあるだろう。
そもそも、ここは冒険者を楽しませるようには作られていないからな。
どちらかといえば、こんなゲームがあったらクソゲーのジャンルに当てはまるに違いない。
いきなりエンカウントしたレイスの群れを退治した俺たちは、他の場所に移動しようとしたのだが――。
俺は部屋の隅になにか落ちているのを発見した。
罠がないか調べてから近づき、ものを確認する。
「剣と杖……」
そのファンタジーチックなデザインから、ダンジョンのドロップアイテムだろう。
「そいつは、ドロップアイテムかい?」
興味があるのか、イロハが横から覗き込む。
「剣はかなり使い込まれているから、ここでドロップしたアイテムではないだろうと思う」
「……確かに、傷も多いな……」
「杖には、シールも貼ってあるし、これらには持ち主がいたんだろう」
暗くて解らなかったが、少し離れた場所に、アーマーやブーツなどもあった。
「「……」」
姫やイロハも察して言葉を失ってしまう。
「あ、あの! それって、前の持ち主がここで……ってことですか?」
コエダが手を挙げた。
ここでやられたあと、死体や外から持ち込んだ装備は吸収されて、ドロップアイテムだったものだけ残った……ということか?
「なぁ、イロハ」
「……なんだい、ダーリン?」
「6層までやって来れるってことは、それなりのレベルがないと駄目だと思うんだが、モグラの連中ってそんなに高レベルなのかい?」
「いや、そんなことはないね。ここまで来るために高レベルの冒険者を雇っていたはずだよ。ここで見つけたお宝を山分け――みたいな条件でさ」
「そうか……」
感傷に浸っても仕方ない。
ここは情け無用のダンジョンなのだ。
「この剣は誰か使うか?」
アーマーは男用なので、女子には無理だろう。
俺も動きにくそうで、装備したいとは思わない。
「「……」」
姫もイロハも、興味ないようだ。
「とりあえず、予備に取っておくか。なにかエンチャントがかかっていればいいんだが……そのときには姫に渡すよ」
とりあえず、使ってみないことには、どんな武器か解らないのが困る。
「承知した――ダーリン、杖はどうする?」
「魔導師の女の子たちは? どう? なにか強力なエンチャントがあるかもしれないぞ?」
「そういう杖って使っている人がいるんですけど。威力や魔力消費が微妙に上下する――みたいなものが多くて……しかも制限があったりとか……」
コエダは否定的だ。
数パーセントでも、積み重ねると結構大きいと思うんだがなぁ。
あとは、指輪やアンクレットなどで、重ねがけするとか……。
「それじゃ、私がもらっていいですか?」
サナが使うと言うので、渡した。
「なにか超高性能な杖だったらいいな」
「はい!」
彼女がすごく喜んでいる。
「そういうのは、噂にも聞きませんけど……」
カオルコもイマイチ反応が悪い。
そういえば、黄金の道の女性魔導師――ミカンだっけ? 彼女は杖を持ってたな。
「杖を持っている魔導師はいるんだ。やっぱり意味があるんだろ?」
「狙いを定めやすくなる人もいるみたいですよ」
「なくても平気な人もいると……」
「そうです」
やっぱり、そうそう伝説の武器――みたいなものはないか。
「武器じゃないが、一番のぶっ壊れ性能のアイテムっていえば、やっぱりエリクサーだよな」
「はい」
「そんなエリクサー級の強力な武器がドロップしたら、あっという間にここを攻略してしまうだろう。ここのクソダンジョン主がそんなものを出すと思うか?」
「姫、そういう下品な言葉遣いは――」
カオルコのお小言にも、姫は知らんぷり。
美人は下品な言葉でも、アクセサリーになるのがすごいよな。
う~ん、墓標に手を合わせるべきだろうか?
少々悩むが――まだ死んだと決まったわけでもないし……いや、生きてる可能性は低いが……。
戦闘が終わった部屋から、皆で出ると、俺たちを出迎えたのはまっすぐの通路。
上下左右が石でできている。
「罠がありそうな雰囲気だが……」
「ダーリンの言うとおりだ――注意して進もう」
「だが、俺のアイテムBOXを使えば余裕だ」
ちょっと先にアイテムBOXから瓦礫を出す。
罠があれば、これに反応するはず。
飛び道具、落とし穴、吊り天井――ほとんどが、重さに反応するタイプだろうし。
「なんともないな」
イロハがつぶやいた。
「こいつを繰り返せば、あっという間にクリアできるだろ?」
「ダーリンだからできる芸当だな」
「はは、まぁな」
歩きながら、掌にぎりぎり収まるぐらい――大きめの魔石に魔力を注入する。
こいつを振り回してぶつければ、敵に大ダメージを与えられるのではなかろうか?
「ダーリン、そんなデカい魔石をどうするんだ?」
中心が青く光る石を、イロハが覗き込む。
「魔石に入れる魔力が多いと、威力が上がるんじゃないかと思ってな」
「そういうもんかねぇ」
「たとえば、レイスの親玉みたいなリッチとかノーライフキングとか……」
そんな話をしていたら、通路が冷気で満ちてきた。
さっきより狭い所なので、急激に冷える。
「ダーリンさん、フラグ回収かもしれませんよ……」
「イロハさ~ん、コエダちゃんが嫌なことを言うんですが」
「あたいも、コエダの言うとおりだと思うよ」
「マジか~」
暗闇に白いモヤが漂い始めると同時に、不気味が声が狭い通路に反響する。
俺は、フラグ回収の早さにげんなりしながら、動画の撮影を開始した。
「ヒヒヒヒヒヒ」「ヒヒヒ」
「また、レイスか!」
「でも、ダーリン! レイスなら楽勝だぞ!」
「俺とか姫にゃ、レイスをいくら倒しても、まったく関係ないし」
「そうですよねぇ……」
カオルコもため息をついた。
「もしかして、物量で押して消耗させる階層なのかもしれないが」
「それはそれで面倒だな!」
姫がうんざりといった表情をする。
特に、魔導師などはここで魔法を使ってしまうと、次にもっと強敵が出てきたときにガス欠になってしまう。
「魔導師たちは、魔法を節約してくれよ」
「は、はい!」「はい!」
コエダと、サナから返事が返ってきた。
カオルコは当然状況を把握しているだろう。
「やぁぁ!」「おらぁぁ!」
早速、姫とイロハが、レイスたちを蹴散らしている。
もう、完全に攻略法を編み出してしまったので、ただのルーチンワークのようになってるな。
経験値を積むのにはいいのかもしれないが……。
「そうだ」
さっきゲットした剣を試してみるか。
なんらかのエンチャントが施されていれば、レイスにダメージを与えられるはず。
俺はアイテムBOXから剣を取り出すと、白いモヤのような魔物に突っ込んだ。
「とぅ!」
ジャンプすると、水平に暗闇を一閃する。
持ち手からなにか吸われる感覚とともに、魔物が青白い閃光に包まれた。
今までにない感じだ。
「ギャァァァ!」
俺の攻撃に、レイスが悲鳴を上げて四散する。
見た感じでは、稲妻のようなものが見えたので、電撃系のエンチャントがかかっているようだ。
着地すると、剣を見る――吸われる感じは、魔石に似ているような気がする。
もしかして、剣に魔力をチャージするタイプなのかもしれないな。
「むん!」
精神を集中して、掌から剣の中に身体から溢れ出たものを送る。
言葉では説明しにくいが、身体と剣がつながっている感じだ。
しばらくすると満タンになった気がする。
「しかし、こいつはどうやって使うんだ? 振るとか?」
とりあえず、両手で持って頭上に掲げてみた。
なんか映画のポスターでこんなポーズを見たことがある。
「どうだ?!」
自分でも半信半疑だったのだが、剣が光り始めた。
「え?! 姫! イロハ! 下がってくれ」
「!」「なんだ?!」
2人が戦場から退くと、頭上に掲げた剣から閃光が放たれた。
剣の刃先から放たれた青白い稲妻が暗闇を切り裂き、鋭く鎖を描きながらほとばしり出る。
その光は瞬時に周囲を照らし、雷鳴のような轟音が大気を揺るがし、稲妻は生き物のようにうねった。
疾風のような速さで魔物たちに向かって次々と突き進み、鋭い閃光が敵を包み込む。
一網打尽ってやつだ。
「ダーリン!」「こりゃ、チェインライトニングじゃん!」
イロハが叫んだように、以前カオルコが使った魔法によく似ている。
「ひぇ~!」
使った俺が一番驚いたよ。
一発で魔物が全滅じゃん。
魔法が使えなかった俺だが、この剣を使えば魔法が使えるようだ。
「ダーリンさんすごい!」「ダイスケさん!」
コエダとサナが叫んでいるようだが、よく聞こえない。
この狭い通路で魔法を使ったので、耳がキンと鳴っている。
「ダーリン!」
姫が飛びついてきたので、剣を渡そうとした。
「これだけ強力な剣なら、姫が持っていたほうがいいだろう」
「どうやって使うんだ?」
「魔力を剣に込めればいいらしい」
「う~む……それでは、私では使えないと思う。私にはダーリンほどの魔力を込めることができないだろうし」
「多分、ダーリンは高レベル魔導師並の魔力を持っているんだと思うぜ?」
俺はイロハに聞き返した。
「魔法は使えないのに?」
「まぁ、そういうこったな。ははは」
なんという面倒な仕様なんだ。
そう思ったのだが、なにか触媒みたいなものがあれば、魔法が使えると解った。
たとえば、火属性のエンチャントされた武器があれば、火炎系の魔法も使えるのに違いないが……。
こいつの前の持ち主も、切りつけたらちょっと雷撃のダメージが入る――ぐらいの感じの武器として使っていたのではなかろうか。
まぁ、使い道はある。
火炎系しか持っていない魔導師に渡せば、その魔力を使って雷撃に変換できるし、攻撃の幅も広がる。
皆でワイワイと、装備の談義をしていると、またぞろ空気が冷え始めた。
「おいおい、またレイスかよ」
少々、イロハも呆れ顔をしているのだが――さっきと様子が違う。
空間全体に広がる、目に見えないけれど肌で感じる重苦しい気配。
それはまるで、空気中に無数の細かい塵が漂い、命を遮りながら淀んでいるような感覚だ。
ただの静寂とは異なり、耳鳴りのような微かな音が混じり、周囲の空気が異様に冷たくまとわりつくような不快感をもたらす。
視界に映るものはどこか歪んで見え、奥行きや距離感が狂っているような錯覚に襲われる。
「いや、なにかおかしいぞ?!」
「ダーリンの言うとおりだ! 警戒しろ!」
姫の言葉が通路内に響くと、不安と警戒が現実となった。
漆黒の闇を切り裂くように、空間が十字に割れる。
鋭い光が溢れ出し、裂け目の奥から異様な存在が姿を現す。
その存在は長く重厚なローブをまとい、風もないはずの空間でそれがゆっくりと揺らめく。
ローブは深い黒紫の色をしており、縁には黄金の刺繍が施され、不気味な紋様が浮かび上がっていた。
「おい、こいつはリッチだぞ!」
「リッチ?!」
おそらく、イロハはこいつを見たことがないだろう。
「リッチは、7層の中ボスみたいな所を守っていたんだ」
「7層?!」
彼女が驚くのも無理もない。
レイスが沢山出てくるから、ここは6層相当だと思っていたんだ。
しかも、ここは中ボス戦の間ではない。
通常の何の変哲もない通路。
そこに強力な魔物が出現したのだから、こいつはかなり厄介だ。
魔物の頭部は、肉のない骸骨でありながら、不自然なほど完璧に整っている。
眼窩には暗黒の深淵が広がり、内側から紫色の微光が漏れ出す。
歯列は鋭利に研がれ、微笑んでいるように思えるが――多分、愚かな侵入者に対する嘲笑だろう。
「圧縮光弾! 我が敵を撃て!」
突然、後ろから光弾がリッチに向けて発射された。
強力な敵を眼の前にして、後ろを振り返ることはできないが、この声はサナだ。
「ムォォ」
不気味な唸りか声とともに、彼女が放った魔法が弾き飛ばされた。
暗闇に光の粒子が放物線状にこぼれ落ちて、床に散らばりコロコロと転がる。
防御魔法だ。
それを見た、姫が叫ぶ。
「魔導師! 軽い魔法でいいから連射しろ! 我々はなんとかして回り込む!」
「「「はい!」」」
防御魔法は一定の方向にしか出せない。
たとえば、正面に出せば裏はがら空きになるのだが、回り込むといっても、ここは狭い通路だ。
リッチの横をすり抜けて背後に回るのはかなり難しい。
「「「我が敵を撃て!」」」
3人の魔導師から放れた複数の魔法矢がリッチに向かう。
当然、防がれるだろうが、そこで俺の攻撃だ。
「足場召喚!」
重さ数トンの壊れた単管足場がリッチの頭上を襲う。
「ムォォ!」
さすがに、光弾より足場の攻撃のほうがダメージがデカいと踏んだのか、防御魔法で足場を受けた。
「オガ!」「おう!」
阿吽の呼吸で、姫とイロハがリッチの脇をすり抜けざまに攻撃を仕掛ける。
「ムグォォ!」
さすがに、魔法の武器で両脇を斬られて、魔物もダメージを食らったようだ。
集中力が切れたのか、敵の防御魔法が消えて足場の下敷きになる。
下が石造りなので、ホコリが舞うこともない。
姫たちの攻撃の間、俺は剣に魔力を込めていた。
「喰らえ! 超必殺! 南無サンダー!」
両手で掲げた剣から、敵に向かって閃光がほとばしる。
鋭い閃光が敵の方角を目指し、瞬く間に宙を駆けた。
その光は一瞬で闇を切り裂き、大気を震わせる轟音がその後を追いかける。
立ち込めるオゾンの香りとともに、俺が出した足場と一緒にリッチが青白いプラズマに囲まれた。
「やったか?!」
まぁ、この言葉が出たときにはやってないのが、お約束。
煙と焦げくささをまとって、最後のあがきなのか――こちらに向かって突進してきた。
「我が敵を撃て!」
カオルコの光弾をものともせずに、魔物が魔導師たちの所へ一直線に迫る。
どうやら、敵の狙いはサナかコエダのようだ。
「くそ!」
死なば諸共で、一番弱そうな魔導師を狙ったのか?
それとも、人質のつもりか?
反応が遅れて、攻撃が間に合いそうにないのだが、そのとき――サナの悲鳴が響いた。
「きゃぁぁぁ!」
「サナ!」
彼女が振り回した、杖がリッチの頭蓋を直撃した。
まるでホームランボールのように魔物の頭が飛ばされて、ダンジョンの壁に衝突。
ゴムボールのように、衝突を繰り返したあとに床に転がる。
「ギャァァァ!」
リッチの悲鳴とともに、黒い穴でしかなかった眼孔から青い炎を噴き出した。
数秒それが続いたあと――いきなりの静寂が訪れると同時に、サナの身体が光り出す。
レベルアップだ。
「なんだ、その子が倒しちまったのかい?」
俺の所に剣を肩に担いだイロハがやって来た。
「まさか、クリティカルでも出たんだろうか?」
ゲームみたいなダンジョンなら、クリティカルもありそうではある。
「ははぁ――あるかもなぁ……」
「それとも、あの杖が、実は――打撃武器だったとか?」
「ははは! それもあるかもなぁ。もしくは、両方だったかもしれねぇ」
イロハが豪快に笑っている。
「なんなんだ、その女は……」
姫もやって来て、サナに呆れている。
彼女が連続でレベルアップしているからだ。
「う~ん、もしかして――サナは、ラックとか幸運値がめちゃ高いとか?」
個人のステータスは見ることができないため、どんなパラメーターがあるのか不明だが、幸運値があってもおかしくない。
ゲームライクだとすれば、重要な要素ではあるし。
「なるほどなぁ、幸運値かぁ――そうえばウチのギルドにも、やたらとアイテムの引きがいい子がいるし」
イロハも、そういうパラメーターの存在を感じることがあるようだ。
まぁ、現実でもやたらと運がいいやつはいるしな。
「それじゃ、宝箱があったりしたら、サナに開けてもらったほうがいいかもしれないな」
「ダーリン、最初から宝箱の中身は決まっているんじゃないのか? だって、眼の前にあるんだぞ?」
「いやぁ、開ける瞬間にどこからか転送されてる可能性もあるんじゃない? 実際、イロハの所じゃ、いいアイテムを連続で引いちゃう子がいるみたいだぞ?」
「ううう……たまたまかもしれないし……」
姫の意見も解る。
たとえば、普通にあけても、叩き壊しても中身は一緒なのか? ――とかな。
俺は、壊しちゃえば――なんて思ってたけど、諸々考慮すると、アイテムのランクダウンが起きているのかもしれないし。
本当はどうなっているのか、ここのダンジョンを作っているやつにしか解らん。
パラメーターの話をしていると、サナのレベルアップが終わったようだ。
「サナ、やったな」
「はい!」
「いくつになった?」
「レベル34になりました!」
「うっ!」
姫から思わず、声が漏れた。
おそらく、下に見ていたサナが、ひたひたと自分のレベルまで近づいてきているのだ。
なにやら、得体のしれない恐怖を感じているのかもしれない。
姫のことはさておき、リッチがいた所には黒いローブのようなものが残されている。
なにかドロップアイテムがあるかもしれない。
ボロボロになった黒い布の下から、艷やかな布が出てきた。
掲げてみる――。
「黒いドレス――だな」
金糸の刺繍がしてあって、かなり派手派手しい。
サナがトドメを刺したから、女性向けのアイテムに変化したのかもしれない。
そういえば、カオルコがリッチにトドメを刺したときにも、彼女に合わせたものが出たような気がする。
「ダーリン、なにかの魔法装備かい?」
イロハの言うとおり、7層の中ボスをやっていた魔物からドロップしたんだ――多分、そうだろう。
「サナ、多分すごい装備だぞ? 着てみたら?」
「わ、私がですか?!」
「だって、トドメを刺したのが、君だし」
「今、エンプレスが装備しているのも、リッチから出たドロップアイテムなんだよ。魔法耐性と、体力と魔力の自動回復つきだ」
「そうだったのか!? その乳暖簾ってリッチから出たのか?!」
「うう……エンプレスも乳暖簾も止めてください……」
カオルコが恥ずかしそうにしているのだが、羞恥心より装備の性能が優先されるのが、このダンジョン。
なにせ命がかかっているからな。
「う~ん」
サナは黒いドレスをじ~っと見ている。
「姫に追いつくためには、装備も重要だぞ?」
「着ます!」
少々悩んでいたサナが、俺の言葉に即答した。
「ダーリン! ダーリンは、どっちの味方なんだ!」
「もちろん、姫だが――冒険者の先輩としては、後輩にも強くなってほしいし。ここでリッチが出たってことは、このさきもっとヤベー敵が出ないとも限らない」
先輩といっても、ほんのちょっとだがな。
「ダーリンの言うとおりだぜ、桜姫」
「ううう」
イロハの言葉に、納得しているのか、してないのか。
姫が複雑な表情をしている。
サナが着替えるというので、アイテムBOXから毛布を出してやった。
コエダに持って隠してもらう。
「どうだ、サナ?」
「あ、あの……」
彼女が毛布に隠れたままで、もじもじしている。
「サイズが合わないとか?」
「い、いえ、ピッタリなんですが……本当にこの格好で?」
彼女の言葉で察した。
なぜか、高性能なアイテムほど際どい格好になってしまう、このダンジョンの掟。
「いやまぁ、無理にとは言わんよ。君の好きにすればいいから――でも、その装備は高性能なのは確かだ」
「このダンジョンの装備って、性能がいいやつほど、変な格好になるよな――あはは」
イロハが笑っているのだが、彼女もそう思っていたらしい。
「うう……」
サナが毛布の陰から出てきた。
彼女が装備したのは、金糸の刺繍と、レースに覆われた黒い乳暖簾ドレス。
布の黒さと、彼女の太もも、下乳の白さのコントラストが素晴らしい。
ゴシックなんとかというやつだろうか。
「あ~、やっぱりそういうタイプか~」
「あはは、エンプレスと一緒にエロ装備だな! 男どもに人気が出そうだぜ!」
「むむむ……」
笑っているイロハとは対照的に、姫は難しい顔。
いやまぁ、俺にとっては眼福なのではあるが――。
ここで、笑っているうちは華で、この先になにがあるのかわからない。
俺たちは先に進むことにした。




