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【コミカライズ連載中】アラフォー男の令和ダンジョン生活  作者: 朝倉一二三


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75話 外注


 姫の部屋にホログラムという立体映像の通信機が設置された。

 暗くなった部屋に浮かび上がる女性の姿――それを見た俺は、驚いた。

 大学で魔物を研究をしているというセンセにそっくりだったのだ。


 ホログラムの女性は八重樫グループで延命の研究をしている博士。

 彼女は、俺が売ったエリクサーを使って若返りの方法を編み出したらしい。

 彼女と色々と話すと、驚くような言葉が出た。


 なんと、この博士はセンセの母親だという。

 そりゃそっくりなはず。


「博士、子どもがいたのか?!」

 姫やカオルコも知らなかったらしい。


「そりゃいましたよ」

「まったくそんな話は……」

「そりゃ、20年も前の話ですからねぇ~」

 博士が自分にあきれているように、両手を広げている。


「そりゃ、若返ったら、娘にそっくりなのは解りますが、なんで名字が……」

「あの娘は、父親の姓を名乗っているのでしょう」

 橋立姓は、親父さんの姓なのか。

 それじゃ離婚したってことになる。


「それじゃ、離婚したのか?」

「あはは、サクラコ様が珍しく私のことが気になるのですか? いつもは、私を避けていらっしゃるのに」

「それは、なにをされるか解らんからだ!」

「キョウコさまのひ孫に、なにもしませんよ~」

「ふん、どうだか」

 姫はまったく信用していない。

 話に出てきたが、ひいおばあさんは、キョウコさんというらしい。


 120歳ぐらいというと、昭和の人間か。

 そのときには、○子という名前が多かったろうな。

 まぁ、姫もサクラコだし、カオルコもそうだが。

 もしかして、そのキョウコさんがつけた名前なのかも。


「まぁ、向こうも好いてくれているようでしたし、出産というのにも興味がありましたし」

「その様子だと、すぐにその興味とやらも失ったようだが」

「あはは、さすがサクラコさま」

 旦那と子どもそっちのけで、研究一筋になってしまい、愛想を尽かされたらしい。

 親権も旦那さんがゲットしただろうし――そりゃ、センセも親父さんの姓を使うわ。


 当の博士は、まったく後悔している様子もない。

 こりゃ、筋金入りだな。


「娘さんと連絡を取ったりとかは?」

 俺の質問に博士が答えた。


「いいえ、まったく。なにかの資料で娘の名前を見たので、魔物の研究をしているのは知っておりました」

 博士のことは、センセには話さないほうがいいかもしれない。

 彼女にとって、忘れたい存在かもしれないし。


 かなりの変わり者だが、エリクサーを使って若返りの方法を見つけたりと、かなり優秀な科学者なのだろう。

 八重樫グループに雇われているしな。

 その点は間違いなさそうだ。


 ホログラム通信を終了しようとしたら、博士がまだなにかあるようだ。


「あ! またエリクサーが手に入ったら、まっさきに売ってくださるようにお願いいたします」

「まぁ、八重樫グループに買ってもらえるなら確実だし。そうしますよ」

「キョウコさまにもお伝えします」

「よろしく」

「あそうだ。キョウコさまも、そちらのダーリンさんに、会いたいと仰ってましたよ」

 なんで、この人もダーリンなんだ。

 このまま、俺の通称がダーリンで固定されてしまうな。

 女性からダーリンはちょっとうれしいが、男に言われてもなぁ……。


 ――通信を終了した。


 これでホログラムが使えるようになった。

 政府からの通信も、ここで受けられるようになる。

 わざわざ役所まで行かなくてもよくなるってわけだ。

 それはありがたい。


「まさか、姫から聞いていたマッドサイエンティストが、センセのオカンだとは……世の中狭いな」

「ダーリン、そのセンセってのは魔物の研究をしているのかい?」

 イロハは、さっきの博士の娘に興味があるようだ。


「ああ、珍しい魔物を見せたりすると、すごく喜んでいたよ」

「それって、さっきの博士と似てねぇか?」

「いや、あんなにひどくはないと思うぞ? ごく普通の――そうだな魔物オタクって感じかな」

「へ~」

「姫と一緒に海で獲った、魚人の魔物にも興味津々だったぞ」

 俺の言葉に、イロハが反応した。


「うわ! あのキモいやつか!」

「もしかして、俺の動画を観たのか?」

「観た観た! 頭が魚みたいなやつだろ?! あの目が怖いんだよ。布団を捲って、あれがいたらあたいは、卒倒するね!」

 なんか、わけの解らんことを言って、バタバタしている。


「なんで布団捲ったら魔物がいるんだよ」

「いるかもしれないだろ?! ダンジョン以外にも湧くなら、あたいの布団の中に湧いてもおかしくねぇし!」

 そうかな~そうかも?


 まぁ、キモいのは解る。

 俺もそう思ったし。

 魚の目玉がキモいのも解るし、魚人の目玉は特大だったし。

 姫もキモいと言ってたし、動画の感想欄でも、『キモい!』『キモい!』の大合唱だった。


「魚人のことはさておき、色々とスッキリしたかい?」

 今回のダンジョン攻略では、色々あってスッキリしなかったので、ドンチャン騒ぎでパッとやるって話だったからな。


「それはもちろん! あたいも、毎晩ダーリンにスッキリさせてもらいてぇなぁ~」

「そうはいくか! 私のダーリンだぞ!」

「なんだよ、いいだろ?」

「私の分が減るだろ?!」

 姫とイロハがやり合っていると、カオルコが俺の所にスススとやってくる。


「カオルコは俺の背中にご執心みたいだけど、背中の広さなら、イロハのほうが広いぞ?」

「オガさんが、男性だったらよかったのですが」

「カオルコは、イロハみたいのが好みだったと……なるほどな~」

 マッシブな感じが好きなのか?


「いいえ、ダイスケさんとの絡みが見たかったと――ダイスケさん総受けで」

「俺が絡むのかよ! しかも俺が受け!」

「はい」

 はいじゃねぇよ。

 そういえば、彼女は御腐れさまだった。


 まいったな。


 作業が終わったので、カコが一緒にお茶を飲んでいる。


「ふぅ――信じられないわ。こんな仕事をする女の子が、こんなにいるなんて」

「カコさんは、そう言うが、今の時代に大学に行けるなんて一握りだし、行っても仕事がない。仕事なんて一次産業ばっかりだろ?」

「まぁ、そうねぇ」

「それなら、学校に行かずに一発当てる――という考えになっても、おかしくない」

「いつまでもできる仕事じゃないでしょう?」

「確かに――その話はいつも出るなぁ。イロハは、あとのことは考えてる?」

 他の冒険者の意見も聞いておきたい。

 俺も興味があるし。


「あたいは、引退したら相談役になって、若いヤツを育てるぜ」

「おお、ちゃんと考えてるんだな」

 キララのやつに、聞かせてやりたい。

 まぁ、彼女も最近は考えを改めたみたいだが。


「だがなぁ、ある日突然にダンジョンがなくなったら、路頭に迷うだろうな、あはは!」

 笑いごとじゃないような気がする。

 ある日突然に世界中に現れたダンジョンが、ある日突然になくなってもおかしくない。


「イロハなら、その肉体を使ってアクションスターになれるんじゃないか?」

「うんうん!」

 俺の提案に、話を聞いていたコエダが頷いている。


「ええ~?! あたいがかい?」

 彼女は自信なさげだが、絶対に人気が出ると思う。


「だって体型が、リアルスーパーヒーローじゃん。アメリカからオファーがあるかもしれないぞ」

「そう、そうかなぁ~」

 彼女が照れているが、フィジカルがスゲーし、ガチでアクションができるしな。


「ぶ~」

 俺がイロハのことを褒めているので、姫のご機嫌が斜めだ。


「それじゃ、姫も一緒に映画に出てみるとか」

「なぜ、私が……」

「キャラとしても対極にあるし、いいと思うんだがなぁ……」


 そうだ――金はめちゃ入ってくるし、映画を撮ってみるとかどうだろう。

 イロハなら、今の反応からすると、乗ってくる気がするし……。

 戦闘シーンは、ダンジョンの映像を使う。


 いいかもな!


 映画のことはあとで考えるとしよう。

 イロハたちも満足したということで、朝飯のあとに解散した。

 俺には仕事がある。

 今回のアタックで撮りためた動画を編集して、動画サイトにアップしなくちゃならん。


 これがかなり大変な作業なのだが――いや、待てよ?

 今の俺には金がある。

 編集を外注に任せてもいいのでは?

 プロに頼んだほうが、俺の適当な編集よりクオリティを上げることができるし。


 多少の経費がかかったとしても、再生が上回れば簡単に回収できる。

 最初にアップした動画など、すでに5000万再生ぐらいされているし、あとからの動画も軒並みの再生数が爆上げだ。

 1億再生ぐらい簡単に行くかもしれない。


 今のところ、ダンジョンの中の映像をデジタルで撮れているのは、俺だけのようだし。


「よし!」

 俺は、事前に調べていた外注業者に連絡を入れた。

 サンプルの動画もかなりクオリティが高い。

 値段は1本10万円ほど。


 動画サイトの黎明期なら、1本5万円ぐらいだったらしいが、今はインフレしている。

 ネットを調べても、このぐらいが相場らしい。


 引き受けてくれるというので、素材を渡す。

 どうやら、特区に住んでいる人のようだ。

 編集していない動画は、かなりの容量があり、これをネットで全部送るのは中々大変だ。


 特区に住んでいる人なら、手渡ししたほうが早くないだろうか?

 向こうも了承してくれたので、会うことになった。

 ホテルに滞在していることを告げると、ロビーまで取りにきてくれるという。

 それはありがたい。


 アイテムBOXからカメラを出すと、記録媒体のHDDを取り出した。

 まず、バックアップを取る。


「ちょっと、ロビーで外注の人と会ってくる」

「……私も行く」

 どうやら、姫も私服でついてくるようだ。

 彼女はビキニアーマーのイメージがあるから、私服だと気づかれないことが多い。

 まぁ、基本的に美人だし、超セレブのオーラが漂っているので、どうやっても注目を浴びてしまうのだが。


 バックアップが終了したので、姫と一緒に下に降りた。

 メッセージでは、目立つ格好をしているので、すぐに解るということだったが――いた。


 刈り上げた派手な色の髪型をして、ピンクの革ジャンを着ている――女?

 女性だったのか。

 姫が、それ見たことか――ついてきて正解――みたいな顔をしている。


「クアドリフォリオさんですか?」

「あ、はい!」

「丹羽です」

 彼女が勢いよく立ち上がった。


「あ、あの! も、もしかして! そちらは、もしかして、桜姫さんですか?!」

 女性がグイグイ姫に迫っている。


「そ、そうだが……」

「私、ファンなんです! 握手してください!」

「ちょっと、ロビーで騒ぐと追い出されるよ」

 一応、注意をした。


「す、すみません!」

 姫も仕方ないような顔で、彼女と握手をしてあげた。

 どう考えても、オッサンの俺はモブで、姫がヒロイン。

 ヒロインのほうが人気があるに決まっている。


「きゃ~っ!」

 女性が、バタバタしている。

 まぁ、姫のファンは多そうだしな。

 彼女が、俺の仕事を受けてくれたのも、姫とつき合っているというのを知ってのことか。


「今回の仕事に姫は関係ないんだが、いいかな?」

「あ! ご、ごめんなさい。お仕事ですよね! お引き受けします」

 まぁ、やる気はあるようなので、頼むことにした。

 サンプルを観た限りでは、かなりレベルは高そうだったし。

 彼女に素材が入っている外付けHDDを渡した。


「これって……桜姫さんの戦闘シーンなんかも……」

「多分、写っていると思うよ」

「やったぁ!」

 彼女がHDDを抱えて飛び跳ねている。


「おいおい、データの漏洩とかは、止めてくれよ」

「それは大丈夫です!(キリ!」

 キリ! ――は、いいけどさ――大丈夫だろうな?


 まぁ、プロだし、そういうことをするとどうなるか?

 解っているだろう。

 彼女に任せることにした。


「そうだ、クアドリフォリオさん」

「なんでしょう?」

「今回のに必要ないけど、戦闘シーンにエフェクトを入れたりできる?」

「う~ん、できなくもないですが――そういうのは、本職の知り合いがいるから、そちらに頼んでいただければ」

「本職って、映画などのCGIをやっている人?」

「はい」

 おお、これは意外なところから繋がりが。


「ダーリン」

 彼女が俺のシャツを引っ張ってくる。


「なんだ?」

「クアドリフォリオってなに?」

「四葉のクローバーのことだよ。確か、イタリア語」

「そうですぅ!」

「ダーリン、イタリア語なんてできるの?」

「いや、昔の車でそういう名前の車があったんだよ」

「そうなんだ」

 姫が感心しているが、彼女とカオルコは英語がペラペラである。

 ビジネスに絶対に必要だからと、子どものころからネイティブの先生をつけられていたらしい。

 カオルコはフランス語も喋れると言っていた。

 さすが、八重樫グループのお嬢様って感じだ。


 それが、グループ抜けて冒険者だからなぁ。

 そりゃ親戚連中も青くなるだろう。

 彼女たちはグループに戻るつもりはないみたいだが、向こうから絶縁されているわけでもないという。


 いずれ戻ってくるだろうと、たかをくくっているのかもしれないが……。

 どうだろうなぁ。

 彼女たちを見ると、そんなつもりは微塵もないようだが。


「桜姫さんって、丹羽さんのことをダーリンって呼んでいるんですか?」

「そ、そうだが……」

「なんか、可愛い……」

 可愛いか? よく解らん。


 とりあえず、CGIの本職さんにも話を通してくれるようだ。

 まだなにかをするって決まったわけじゃないけどな。


「こういうことを言っている人がいるんだよ~」

 ぐらいの話だ。


 データを渡したので、次はどうしようか。

 せっかく下に降りたので、市場で換金をするか。


「う~ん」

 姫がロビーで難しい顔をしている。


「どうした?」

「ダーリンが心配でついて来たが……」

「俺の心配より、姫のほうが圧倒的に有名人なんだけど……」

「うぐ……」

「俺なんて普通に歩いていたら、タダのオッサンなんだから、誰も気づくやつはいないと思うぞ?」

「しかし……」

 彼女は納得できないようだが、姫と一緒だと、俺もアクシデントに巻き込まれる確率が高いような。

 もしかして、姫が巻き込まれ体質なのか?

 ダンジョンでは、自分から突っ込んで巻き込まれているような感じがするが。


 姫と一緒に、市場に向かう。

 アイテムBOXに入っているものを換金するためだ。

 ただ、レッサーデーモンは、大学のセンセにサンプルとしてプレゼントするつもり。

 珍しい魔物には間違いないのだろうが、人型だし、肉も美味そうじゃない。


 毒々しい色ってことは、つまりは警戒色だ。

 毒がありますよってアピだと思う。

 なくてもあれを食う気にはなれん。


 それじゃ、オークやミノはどうなんだって話になるが――あれは豚や牛の親戚なのだ――ということで、自分を納得させている。

 おそらく、他の連中も同じだろう。


「ちわ~」

 ものを売るのは、いつものオッサンの所にした。

 初心者の俺にも誠実だったし、しっかりと商売してくれているしな。

 彼は信用できる。


「おお、兄さんか! そういえば、7層にアタックをしたって話だったなぁ!」

「「「7層?!」」」

 オッサンの話を聞いて、他の買い取り人業者も集まってきた。


「俺にも売ってくれ!」「こっちのほうが高く買うぞ!」

「あんたは、桜姫か?!」

 業者の1人が、姫に気がついたようだ。


「はいはい、今日の姫はオフだから。それに買い取りは、もう決めてあるからさ」

「そこをなんとか!」

「がはは! そういうことなんだ、悪いなオメェら!」

「最近、お前の所ばっかり、いい思いしているじゃねぇか!」

「この兄さんが初心者の頃から、面倒みてやってんだから、当然だろうが。お前らも、そういう冒険者を捕まえろ、がはは!」

「そうなんだよ。本当にここに来たときには、右も左も解らなかったからな」

「「「ぶつぶつ……」」」

 俺とオッサンの説明に、他の業者は渋々引き下がった。


「がはは! まぁ、こちらも儲けさせてもらっているからな」

「――といっても、今回のアタックは、ゴーレムとかレイスとか、金にならないのばっかりでさ」

「はは、それは災難だったなぁ」

「ゴーレムなんて、硬いし素材にはならないし、最悪だよ」

「まぁ、そうだろうなぁ……」

「でも、魔石はゲットしたんだ」

 俺は、アイテムBOXから魔石を取り出した。


「へ~! ゴーレムの魔石か! こいつなら、1個1本はいくぜ!」

 彼が指を1本立てた。

 まさかこの大きさで、10万とか1000万ってことはないから、100万円ってことだろう。

 まぁ、相場だと思う。

 俺もネットで調べたら、そのぐらいだったし。


 なにか使い道があるかもしれないので、数個残して、すべて売却した。

 これらは、ギルドの桜姫の口座にプールされるので、ギルドのメンバー ――つまり、俺と姫たちで等分される。


 デカい魔石を、他の業者が羨望の目で見てるのだが、そんな恨めしそうな顔をするなよ。

 別に俺が悪いわけでもないだろう。


 アイテムBOXに入っている、他の魔物も売ってしまう。

 全部売っても1000万円いかないぐらいだが、今の俺には大した金じゃない。

 俺も変わったもんだ。


 本来ならここで田舎に帰って、FIREって話だったが、今は姫がいるからそうもいかん。

 彼女が引退するまでつき合わないと。


 それでも、そう長い間できる商売でもないだろう。


 そうだ――買い取りは希望しないが、レッサーデーモンのことを聞いてみるか。


「ちょっと、見てもらいたいものがあるんだ」

「ん?! なんだ?」

 俺はアイテムBOXから赤い肌をした魔物を取り出した。


「うわ!」「「「おおっ!」」」「「「ざわざわ……」」」

 俺が出したものに、周囲がざわめく。

 陽の光の下に出した肌の赤い魔物は、その鮮やかな赤色が昼間の光に照らされることで、不気味さを増していた。

 光が当たる部分は、まるで燃えるように輝き、筋肉や皮膚の質感がはっきりと浮かび上がっている。

 角や爪の鋭さが光に反射し、ただならぬ威圧感を放っていた。


「なんだこりゃ!」

「どうやら、レッサーデーモンらしい」

「こいつが、レッサーデーモンか……これを買い取れってか?」

「いや、そのつもりはないんだが、値段がつくならどのぐらいかな――と」

「う~ん?」

 オッサンが、腕を組んだまましゃがみ込み、唸っている。


「いや、無理に値段をつけなくてもいいよ。俺も売れるものじゃないと思ってるから」

「ああ、これはちょっとなぁ……」

 あまりにキモいからな。


「まぁ、肉としても食えそうにないしな、ははは」

「そうだなぁ……」

「わかった、知り合いの研究機関に持ち込むよ」

「そうしてくれるとありがてぇ」


 収納する前に写真を撮って、センセに送ってみた。


「興味があるなら持ち込みますが、いつがいいですか? 都合のいい日を教えてください――と、こんなもんだろ」

 観衆がざわつく中で、レッサーデーモンをアイテムBOXに収納した。

 買い取りのオッサンに挨拶をして、市場を離れる。


 そのまま武器屋に向かうと、ミサイルの追加を頼む。

 材料になる単管はアイテムBOXの中に山程入っている。

 7層で使った足場の残骸だが、ここでは解体する場所がない。


 田舎に住んでいりゃ場所ならいくらでもあるから、チマチマとやるんだが、今はそんな時間もない。

 そんなことするなら、新しく買ったほうが早いし。

 すっかり俺もブルジョアになってしまったな。


 武器の注文をして店を出ると、センセからメッセージが入った。


『なんですかこれ! 初めて見ます! 今すぐでもいいですから、持ってきてください!』

「場所は、前と同じ場所でいいのですか?」

『はい!』

「それじゃ、今から向かいます。多分1時間以内には到着できるかと」

『承知しました。お待ちしております!』


 やっぱり、センセも見たことがない魔物だったか。


「姫、大学のセンセが、レッサーデーモンを見たいって言ってるから、今から行くけど……」

「私も行く!」

「いいけど、姫と行ったら、また魚人が出ないだろうな……」

「そんなわけない! ……と思う」


 実は姫のにおいが魔物を引き寄せているとか?

 変なことを考えてしまうが、彼女が洗浄クリーンの魔法を覚えてから、においはあまりしなくなっている。

 個人的には、ちょっと残念である。


 俺の性癖はともかく、羽田にある魔物の研究施設に向かうことにした。



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