69話 7層攻略準備
俺たち、トップギルド合同アタックチームは、ついにダンジョン7層に到達した。
以前、ここを訪れたときと同じように、巨大な壁が行く手を阻んでいる。
7層の先に進むためには、地面から100mの高さにある出入り口を使うしかない。
「「「……」」」
ここを訪れた全員が、魔法の明かりに照らされた天井を見上げている。
「ギャ!」「ギャギャ!」
俺たちのあとをついてきたハーピーたちが、100mの高さの足場に消えていった。
「今、ハーピーたちが行ったところに彼女たちの巣があって、そこに入口があったんだ」
「もう本当に、空を飛べないと無理じゃないですか」
イロハとコエダも天井を見上げている。
「ダーリン、壁に穴を開けるのは駄目なんだよな?」
「ここじゃなくて、7層の反対側でそれをやったけど――どこにつながっているのか解らない穴が開いただけだった」
「その穴は7層のダンジョンにはつながってなかったのかい?」
「ああ、行き先不明の穴だ」
「お~こわ」
イロハがうんざりした表情をしていると、姫が手を鳴らした。
「ここで一泊だ。キャンプの準備をしよう」
「う~す」「「「は~い!」」」
アイテムBOXから、皆の荷物を出した。
ここは安全地帯なので、魔物に襲われる心配はない。
本当にファンタジーな世界なら、どこにいても襲われる心配をしなくちゃならないんだろうな。
ゲームみたいな世界で、辟易することもあるが、便利なところもある。
食い物のにおいがしたせいだろう。
ハーピーたちも上から降りてきた。
「ギャ!」「ギャギャ」
「よしよし、待ってろよ。今、食わせてやるからな」
彼女たちの頭をなでてから、食事の用意をしていると、ハーピーが頭や肩に乗ってくる。
まぁ、親愛の行動なので無下にはできないのだが、ちょっと困るな。
各ギルドで集まって、食事をする。
イロハと彼女の仲間である魔導師のコエダ、黄金の道の魔導師であるミカンも一緒。
行き場のなくなったゴリラは、隅っこで1人で寂しく飯を食っている。
まぁ、信頼を失ってしまったのだから、仕方ない。
積み上げるのは大変なのに、崩れるときは一瞬――よく言われる。
皆で食事が終わり、魔法の明かりの下でミーティング。
寝て起きたら、俺のアイテムBOXに入っている足場を組立てて、100mの高さまで積み上げるわけだ。
普通なら、クレーンなどを使わないと無理だろうが、ここには力自慢の高レベル冒険者が揃っている。
戦闘では後方に回っていたゴリラも、力仕事ならできるだろう。
ちょっとずつ信頼を回復していかないとな。
彼にその気があるかどうかだが……。
ミーティングが終わったら個人の時間だ。
アイテムBOXからエアマットを出して寝転がる。
地面が土や岩なので、こいつがあるとないとでは、ストレスが段違い。
仰向けに寝ていると、俺の腹の上にギギとチチが乗ってきて丸くなっている。
2羽で30kgぐらいはあるので、結構重い。
「お~い、お前らそこで寝るつもりなのか?」
「ギ」「ギ~」
「上にまだ、仲間の巣もあるのか?」
「ギ」
YESなのかNOなのかイマイチわからんが、これだけ食い物のにおいをさせているんだ。
他のハーピーたちがいたら、飯を漁りにきてもおかしくない。
まぁ、こっちは大人数なので、警戒している可能性もあるが……。
多分、寝床を荒らされてしまったので、他の場所に移ってしまったのかも。
そう考えると、ちょっと可哀想でもあるのだが、7層を攻略するとなると、どうしてもあそこを通る必要性があるしなぁ……。
7層のことを考えると、突然ハーピーたちが飛び上がった。
「ギャギャ!」「ギャギャ!」
なにごとかと起き上がろうとしたら、身体に温かなものが覆いかぶさってきた。
「ダーリン」
「ちょっと、姫」
俺の上に乗ってきたのは、姫だ。
おそらく、ハーピーたちを威嚇で脅して、どかせたのだろう。
「……」
その横に、黙ってカオルコもやってきた。
「まてまて、ここで勝負するわけじゃないよな。イロハもコエダちゃんもいるんだぞ」
「おう! 次はあたいな!」
「じ~っ……」
声をするほうをみると、イロハとコエダがこちらを見ていた。
まさか、こんな場所でするわけがない。
他のギルドの子たちもいるのに――と、思っていたら……。
「「「じ~っ」」」「ワクワク!」
いつの間にか、魔導師の女の子たちに周囲を囲まれていた。
彼女たちが、興味津々な顔で、目を光らせてこちらを見ている。
「しないから! はいはい、退いて退いて! 解散!」
「ちえ~」「……」
残念そうな皆を散らす。
信じられん。
まぁ、このパーティは女の子が多いからな。
少数派の男子である幽鬼は、我関せずで、魔法の明かりの下で本を読んでいた。
そのあとは3人で寝るが、当然なにもしない。
彼女たちは残念そうだが、当たり前だ。
それとも、こういうアタックのキャンプで、勝負のあとの勝負をするのは普通なのだろうか?
ちょっと考え込んでしまうが、こういう命がけの極限状態の中、原始的な本能に目覚めてしまうこともあるのかもしれない。
――寝て起きる。
多分、朝。
飯の用意をしていると、カオルコが起きたので、時間を確認――間違いない。
「ギャギャ」「ギャ」
ギギとチチに、先に飯をやる。
腹いっぱいになったら、どこかに遊びにいくだろう。
ここは安地なので、ハーピー警報の必要もないはず。
皆も起きてきたので、アイテムBOXから荷物を出してやった。
一斉に魔法の明かりが出現するので、ダンジョン内が途端に明るくなる。
ワイワイと朝食を食べたあと、一休みしてから作業に取り掛かることになった。
地上100mまで足場を組むわけだが、本当にできるのかは、やってみないことにはわからん。
一応、強度的には大丈夫らしいが。
ダンジョンにものを放置すると吸収されてしまうという問題も、幽鬼が持っている固定という魔法でなんとかなるらしい。
皆が集まると、俺はアイテムBOXに入っていた高さ10mの足場を取り出した。
「お~」「きゃ~」「すご~い」
皆から歓声が上がった。
上を見上げる。
天井近くにある踊り場ピッタリに足場を建てなければならない。
とりあえず、幽鬼に固定の魔法をかけてもらう。
「固定」
彼が魔法を唱えると、青い光が舞う。
キラキラとしたものが、足場を構成している単管の中に染み込んでいく。
一応、魔法の光はあるのだが、局所的なものだ。
青い光が舞う光景は、本当にファンタジーのようで美しい。
まるで、妖精が踊っているようにも見える。
「ダーリン、設置する場所を決めないと」
「一応、その方法も考えてきた。お~い! ギギ!」
「ギャ!」
上にいたハーピーが反応した。
ちゃんと自分についている名前も理解している。
バサバサと俺の近くに降りて、ピョコピョコとやってきた。
アイテムBOXから、タコ糸の束を出した。
先に錘を結び、それをハーピーの脚で掴ませる。
「こいつを、あの上に持っていってくれ。わかるか?」
「ギャ!」
彼女は錘を掴んだまま、ちょっと助走をつけると空中に飛び上がった。
暗闇の中に白い線が描かれていく。
10秒ほどで、動きが止まる。
ちょっと引っ張ってみるが、問題ないようだ。
こんな感じで上からロープを張れればなんの問題もないのだが、そう簡単にはいかない。
この紐は強く引っ張ると落ちてきてしまうし。
こちらの紐にも錘をつけて垂らす。
紐がピンと張り、これで垂直が出た。
つまり、この紐の上が踊り場ということになる。
設置する場所は決まった。
「次に! 地面の水平を取る!」
地面が傾いていれば、そこに100mのものなど建てられない。
水平な面が必須だ。
俺はアイテムBOXから1mほどの水平器と糸を取り出した。
それには水が入った筒が取りつけられていて、泡が1個だけ入っている。
傾いていれば泡がずれ、水平ならば筒の泡が真ん中にくるわけだ。
水平を調べたら、次は糸を張る――原始的だが、一番確実な代物。
古代のピラミッドも、建築のときには水を使ったとかなんとか。
なにかで読んだ気がする。
世界が静止する前には、レーザー水平器を使っていて便利だったが、半導体レーザーが簡単に作れなくなってしまい、また水を使った水平器に戻ってしまっている。
張った糸と地面の高さを測り、高い所を削るわけだ。
もちろん機械は使えないので、手作業。
力自慢の高レベル冒険者がツルハシを持って、振り上げ、振り下ろす。
――とは、ならない。
俺がいいものを持っているからだ。
「ダーリン、岩をチマチマと削るのかい?」
覗き込むイロハを制止して、俺はアイテムBOXから腐敗するナイフを取り出した。
「こうする!」
岩の高くなっている場所をナイフで叩く。
すると、その場所がぐずぐずになるから、シャベルで掬えばいい。
「ギャ!」
ハーピーが戻ってきたので、チョコをやると喜んで食べている。
「本当に人間の言っていることが理解できているのですね」
幽鬼も感心しているが、俺もそう思う。
この可愛さが冒険者に浸透すれば、ハーピーが狩られることも少なくなるのではないだろうか?
そう思うのだが、これが俺の特殊能力のせいとも言えないこともないし……。
俺は、アイテムBOXから、シャベルとバケツを出した。
「このシャベルで、柔らかくなったところを掬ってくれ」
「なるほどな~、クンカクンカ――においはないな」
イロハはバケツに溜まったもののにおいを嗅いでいる。
「岩が脆くなっても、有機物になるわけじゃないからな」
この方法なら、地面を水平にするのも、そんなに時間はかからないはずだ。
イロハが地面を削り、バケツ運びはゴリラがやっている。
作業に参加しないんじゃないかと思っていたが、やるようだ。
すくなくとも、やり直すつもりにはなっているのでは――と思う。
「ダーリン、凹んだ所はどうするのだ?」
姫が地面の水平を測ってくれている。
「それなら――」
アイテムBOXの中には速乾性のセメントなども入れてきたのだが、試してみたいことがある。
俺は腐敗のナイフで柔らかくなった岩を凹んだ場所に入れると――綺麗に均す。
次にあるものをアイテムBOXから取り出した。
それは、緑色のポーション。
そいつを霧吹きの中に入れて、シュパシュパと吹きかけた。
このぐずぐずやドロドロになっている状態ってのは、状態異常のはず。
それならば、状態異常を治す緑色の回復薬で、元に戻るんじゃないかと――そう思ったわけだ。
「元に戻った――なるほど、状態異常が直ったわけか」
「姫のお察しのとおり。俺も成功するのか半信半疑だったが、上手くいった」
「それを使えば、ダンジョンに塀を作ったりできるかもしれませんね」
作業を見ていたカオルコがつぶやいた。
「型に入れてから、固めればブロックにもできると思う」
「ほう――ダンジョン内で建材の確保ができるようになれば、色々とはかどりそうですねぇ」
幽鬼の言うとおりだ。
今までは、ダンジョン内でなにか施設を作ろうとすると外から物資を運び込む必要があった。
「それに、こいつでブロックを作れば、大きな利点があるぞ」
俺の質問にカオルコがすぐに答えてくれた。
「普通のブロックなら、ダンジョンに吸収される可能性がありますが、これはダンジョンの材料なので……」
「はは、そういうこと。幽鬼の固定の魔法の価値は落ちてしまうがな」
「まずは、ダーリンが持っているそのナイフをゲットする必要があるでしょう?」
「なんで、幽鬼までダーリン呼びなんだよ!」
「もう、面倒なので通称がダーリンでいいでしょう?」
「「「賛成!」」」
皆の声が揃う。
「マジかよ。いいけどさ」
特徴的な名前なら、覚えやすいだろうし。
「私はダイスケさんと、呼びますから」
さすがにカオルコは、ダーリン呼びは恥ずかしそうだ。
「ありがとう、カオルコ、ははは……」
苦笑いしているうちに土台はできたので、1段目の足場を設置した。
1段目は、安定させるために2基を並行に置いている。
「これから積み上げていくが、皆は少し離れていてくれ。突然倒れたりするかもしれないからな」
「承知した」
姫が皆の誘導をしてくれる。
「召喚!」
アイテムBOXから出しているから、べつに召喚するわけじゃないんだが、いつの間にか「召喚」と言うのがデフォになってしまった。
大きな金属音を出して、足場の上に足場が乗った。
アイテムBOXもかなり使いこなしているから、コントロールもずいぶんと上手くなったもんだ。
もちろん、ピッタリというわけにはいかず、少々微調整が必要だ。
力仕事なら、高レベル冒険者がいる。
2人いれば十分だ。
位置がピッタリあったら、今度はボルト固定する。
地上なら電動工具が使えるが、ここでは無理。
全部手作業だ。
これは人海戦術でやるしかない。
アイテムBOXから工具とボルトとナットを出して、皆に手伝ってもらう。
「よし!」
2段目が完成。
親亀の上に子亀を載せた状態。
この上にどんどん積み重ねていく。
階段も取り付けられているので、移動は楽ちんだ。
まず、俺だけ最上階に上り、次の階を召喚する。
バランスが崩れそうになったら、すかさず収納し直す。
これを繰り返せば問題ない。
上手く足場が載ったら、皆に手伝ってもらい、ボルト・ナットで固定する。
足場は10個重ねるので――あと7回か。
まぁ、なんとかなるな。
「ギャ!」「ギー!」
ギギとチチが俺の周りをバサバサと飛び回る。
俺が遊んでいるとでも思っているのだろう。
「コラァ! クソ鳥ども! ダーリンの邪魔をするな!」
下から姫の怒号が聞こえる。
「ギャー!」「ギーッ!」
姫の怒号に、ハーピーたちが反応している。
「ええい、やかまし……」
さすがに、耳元で騒がれるとうるさい。
ハーピーたちの遊びにつき合いつつ、カオルコの時計で昼ごろには半分まで積み上がった。
心配していた安定性だが、問題ないようだ。
地上に地震が起きても、ダンジョンの中には関係ないようだし。
大震災などで危険になったら、ダンジョンの中に避難するという手もありそうだな。
まぁ、津波などが流れ込んできたら問題だが……。
昼になったので、皆の荷物を出して食事にした。
動いたので、結構腹が減る。
食事の前にカメラを出して、足場の様子を撮影――。
ダンジョンの深層で、こんなものを作っているなんて、お釈迦様でも気がつくめぇ。
俺たちの所もすっかりメンバーが固定化されてしまったな。
ゴリラの相棒だった女性魔導師も俺たちと一緒に食事をしている。
「彼の相手をしてあげなくていいのかい?」
「作業をちょっと手伝ったぐらいじゃ、だめね」
まぁ、すっかりと信頼をなくしてしまっているようだ。
彼女――ミカンは、俺たちのギルドに入りたいと言っていたが、本心だろうか?
今までのことが色々とあって、堪忍袋の緒が切れたなら、仕方ないところもあるが……。
そこらへんは、彼女たちの間のことで、俺たちには解らない。
ハーピーたちにも食事をやる。
「ギャギャ!」「ギー!」
俺のやったものを、喜んで食べていた彼女たちだったが、ピタリとその動きを止めた。
「ん?! どうした?!」
ハーピーたちの様子がおかしい。
なにもない所を見て、盛んに警戒音を発している。
「ギャッ! ギャーッ!」「ギギーッ!」
全身の羽が逆立ち、牙をむき出す。
こんなハーピーを見たのは始めてだ。
「姫!」
「うむ! なにかおかしい!」
皆も異変に気がついたのだろう。
各々に武器を装備し始めた。
「なんだってんだ! ここは安全地帯だろ?!」
イロハが叫ぶ。
「人智を超えたダンジョンの中なので、なにが起こってもおかしくはありませんよ」
幽鬼の言うことももっともだ。
ダンジョンを作り、物理法則すらひん曲げている存在がいるなら、いつルール変更をされてもおかしくはない。
暗闇はまるで生きているかのように、ざわめきと圧迫感を伴って周囲を包み始める。
空気は重く、何か不気味な存在がすぐそこにいるような感覚が全員を襲った。
目には見えないが、闇の中で確実に何かが動いている――その不快で理解不能なものが渦を巻き、音もなく忍び寄りながら、今にも形を持って現れようとしているかのよう。
見えないはずの何かが、そこに存在するという感覚が押し寄せ、息苦しささえ感じる。
闇はただの無の空間ではなく、その中に何かが蠢く。
音もなく、影もなく、それでも確実に何かが近づいてくる。
背筋をぞくりとさせる冷たさが、闇の中から徐々に広がってくるようで、時間の感覚さえも歪んでいく。
その場にいた全員が武器を構え背筋を凍らせ、息をひそめた。
心臓が鼓動を速める音すら、聞かれるのではないかと思わせるほどの静けさ。
皆の目は暗闇の中に潜む存在を探し、緊張は極限に達していた。
「なにか出てくるぞ!」
姫の言葉が響くと、俺はアイテムBOXのカメラで撮影を始めた。
「私の後ろへ!」
幽鬼が女の子たちを下がらせる。
「コエダ! バフをくれ!」
「は、はい!」
次々と暗闇に青い魔法の光が舞う。
「ダーリンさん! バフは?!」
幽鬼の後ろに下がった女の子から声が飛んできた。
「俺はいらん。他のやつに回してやってくれ」
それにしても、ダーリンさんってなんだよ。
まぁ、いいけどな。
「……」
後ろでは、目を閉じたカオルコが、静かに魔法の準備を始めていた。
相手が強敵なら、必殺の魔法を叩き込むつもりだろう。
皆が武器を構えて、息を潜めていると、腹に響くような唸るような声が聞こえてくる。
「ヌウォォォ!」
巨大な異形が暗闇から顕現した。
高さ5mほどの2足歩行を行う魔物だが、こんなのは見たことがない。
肥大した上半身に、丸太のような太い腕。
短い脚が、アンバランスさを強調している。
トロルに似ているが、毛は生えていない。
頭らしき出っ張りはあるのだが、首はあるのか?
「なんだありゃ!?」
イロハの声が響く。
「わからん!」「わかりません!」
歴戦の勇士の姫と幽鬼も見たことがないらしい。
「オォォォ!」
更に近づいてくると、頭らしきものは小さな頭が複数集まったものだと解った。
「キャァァァ!」「キャア!」
女の子たちから悲鳴が上がり始める。
それはどう見ても人間の頭に見えたからだ。
「こりゃグールなのか?!」
イロハの言うとおり、グールということになれば、元人間。
複数のグールが集まった超強力型か?
彼らは、下層までやってきた元冒険者だろうか?
そういえば、迷宮教団によって飛ばされて、行方不明になっている冒険者が多数いたはず。
「いや、待て! あの顔に見覚えがあるぞ!」
魔物の頭――苦悶の表情をしている顔、そいつに会ったことがある。
「はっ! あれは?! 踊る暗闇のリーダーじゃないですか!?」
幽鬼も気づいたようだ。
「た、確かにそうだぜ! あの厭味ったらしいやつだ! あたいも覚えてるぜ!」
それじゃやつらは、迷宮教団と一緒にダンジョンに逃げたという踊る暗闇の幹部連中か?
なんでこんなことになってんだ?
「ヌォォォォ!」
その正体を確かめる前に、魔物が突進してくるとパンチを放ってきた。
俺たちがジャンプで躱すと、巨大な拳が床にめり込み破片を四方に飛ばす。
「聖なる盾!」
幽鬼たちは、魔法を使って破片を避けたが、魔物を魔導師たちに近づけるわけにはいかない。
魔物のヘイトをこちらに向けさせないとだめだ。
「おい! こっちだ!! どりゃぁ!」
俺はアイテムBOXから出したミサイルを、小山のような魔物の身体に打ち込んだ。
「ヌグォォォ!」
魔物が悲鳴を上げる。
幸い、防御魔法があるとか、皮膚がとんでもなく硬いとか、そんな魔物ではないらしい。
投げた武器が、魔物の身体に突き刺さった。
これなら、身体がデカいだけで、ダメージを与え続けるだけで倒せるんじゃないのか?
そう思ったのだが――。
魔物の身体にめり込んだ単管が徐々に動いて、外に排出された。
地面に落ちた金属管が甲高い音を立てる。
「マジかよ……もしかして、再生能力ってやつ?」
「最悪だぜ」
イロハの言うとおりだ。
「グルル……」
魔物の頭に計10個の赤い目が光る。
元人間ってことは、知性は残っているのだろうか?
もしそうなら、ヘイトに構わず魔導師から狙ってくる可能性もある。
その前に、本当にグールなのか?
「姫! どうする?!」
「ううう……」
さすがの姫も、判断をしかねているようだ。
こりゃ、マジでどうすんのよ。




