64話 パワープレイ
トップギルド共同での、ダンジョン深層へのアタックが始まった。
野次馬に囲まれてしまったので、4層からのスタートになったが、メンバーには高レベル冒険者が多い。
あっという間に5層に到達した。
推奨レベル30前後という階層だが、ここにいる面々からすれば楽勝――と思いきや、苦戦している。
相手がゴーレムという、打撃も魔法にも耐性があるという魔物のせいだ。
血の通った生き物ではないので、恐れることもない。
黙々と攻撃と防御を繰り返す、岩でできた人形。
攻撃が上手くいかないことに業を煮やした姫が、ゴーレムの脚を取ってひっくり返して、魔石を破壊した。
完全なパワープレイだ。
それを見ていた俺だが、このゴーレムを使って金儲けができるのでは?
――と、思いついた。
ゴーレムは破壊に手間取っていると、復活してくるのだ。
当然、魔石も復活している。
結構デカい魔石なので、上手く外すことができれば、金になるんじゃないのか?
まぁ、細工は流々仕上げを御覧じろってやつよ。
「おし!」
俺は気合を入れると、ゴーレムに突進した。
皆が攻めあぐねているようだし、俺がやってもいいだろう。
「ゴゴゴ!」
「うぉぉ!」
巨大な腕が、俺にめがけて振り下ろされてきたが、そいつをひらりと躱す。
地面に叩きつけられた魔物の拳が、地面を割り礫を飛ばした。
敵の懐に飛び込み、姫のように脚に取り付くと、冷たくゴツゴツとした岩の感触が掌に伝わってくる。
目の前にそびえる巨体は、大地に根を張った巨人。
その存在感に圧倒されそうだが、俺には高レベルパワーがある。
深く息を吸い込み、体の中心に意識を集中させた。
全身の筋肉が徐々に緊張し、エネルギーが体中に流れ込むのを感じる。
両足をしっかりと地面に踏みしめ、大地から吸い上げられる力が、体の中心を通り、腕へ、そして指先まで巡る。
「おっしゃおらぁぁぁ!」
全身の筋肉の爆発とともに、眼の前の巨体がひっくり返り、1人バックドロップのようになった。
全身を地面に叩きつけられて、岩の手足がバラバラになる。
それを見た俺は、アイテムBOXから腐食の短剣を取り出した。
手足をもがれて、ジタバタしているゴーレムに飛び乗ると、胸の大きな魔石に取りつく。
このまま短剣を魔石に突き刺してしまっては、せっかくのお宝が台無しだ。
「俺の目当ては――!」
魔石の枠の部分。
ここを腐食させれば、魔石が取れるのではなかろうか。
短剣を岩肌に突き刺すと、すぐにグズグズに変化を始めた。
「おりゃ!」
立ち上がって、魔石に蹴りを入れた。
岩が割れる音とともに、魔石が外れる。
それまでジタバタしていたゴーレムが突然動きを止めた。
「とったど~!」
俺はゲットした獲物を高く掲げたのだが――なんか昔に、こういうネタがあったなぁ。
「「「おおお~」」」
戦っている冒険者たちから、歓声が上がる。
いままでこういう魔石の取りかたをしたことがなかったのだろうか?
面倒なので、手間をかけるより破壊したほうが簡単だったに違いない。
あるいは、戦闘そのものから逃げてしまうとか。
「ダーリン!」
姫の声に振り向くと、彼女が次のゴーレムの脚に取りついていた。
「よし!」
俺は彼女の意図を汲むと、手に持っていた魔石をアイテムBOXに収納して、合図をした。
「いやぁぁぁ!」
彼女の気合とともに、ゴーレムがひっくり返る。
俺のときと違い、敵が半壊していないので、まだ動く。
俺が近づこうとすると――魔物は動力源である魔石を守るために、ハエたたきのような動きを見せる。
「そんなものは、ひらりと躱すのだ」
ゴーレムのハエたたき攻撃を躱すと、胸の魔石に取りついた。
またドロップアイテムの短剣と蹴りを使い、大きな魔石を取り外す。
俺を叩き潰そうとしていたゴーレムがピタリと止まる。
本当に電源を切ったようにピタリと止まった。
「ダーリン!」
彼女はまだやるようだ。
喜んでいるようなので、ゴーレムをひっくり返すのが楽しいのかもしれない。
他の冒険者たちは呆れて、すべての攻撃を俺と姫に任せるようだ。
まぁ、苦労するだけだしな。
ここで無理をしなくても、他にも魔物はいる。
そのときがきたら、俺たちは休んでバトンタッチをすればいい。
最初に俺が倒した1体、姫が倒した1体、そのあと4体ほど魔石を取ったところで一休みをする。
ゴーレムは1体復活したから、残り5体だ。
姫と一緒に逃げ回りながら、アイテムBOXから取り出して、食事をする。
「おい、ダーリン、どうするんだ!」
イロハが俺たちに、声をかけてくる。
「しばらくしたら、また増えるだろ? そうしたら、魔石がたくさん取れるかな~と思ってな」
「おいおい」
彼女が呆れている。
「ちょっと、隠れてていいよ」
「いいのかよ」
「俺が出した岩の陰に隠れれば、攻撃してこないと思うぞ」
アイテムBOXからデカい岩をなん個か取り出して、冒険者を一旦避難させた。
目視できる目標がいなくなれば、ターゲットから外れるようだ。
とりあえず、眼の前にいる俺と姫に攻撃を集中している。
10体ほどに増えたところで、再び攻撃を開始した。
「ははは!」
姫がひっくり返して、俺が魔石を取る。
このコンビネーションだが、あまりここで長く戦っていると、顰蹙を買いそうだ。
俺と姫だけなら、延々とやっていたいところだが……。
再ポップした10体を全滅したところで、終了とした。
「ああ~たまんね~ダーリン、あたいもひっくり返して蹂躙してくれよぉ」
イロハがアホなことを言っている。
「ここで、そんなことができるわけないだろ――ほれ!」
彼女にゴーレムからゲットしたデカい魔石を投げ渡した。
魔石を、各ギルドに1つずつおすそ分けをする。
こっちも好き勝手やっているから、ご機嫌を取っておかないと。
「いいのかよ、ダーリン……」
イロハが、もらった魔石を魔法の明かりに掲げている。
「はは――まぁ、俺と姫の遊びにつき合わせてしまったしな」
「遊びってなぁ――普通は、あの攻撃を食らっただけで、終了なんだぜ?」
「……」
ゴリラが、魔石を持ったまま固まっている。
どうしたんだろうか。
「黄金の道さんも悪いね」
「い、いや……」
「ははは、ゴリラも桜姫を狙っているなら、あれぐらいはできねぇとな!」
イロハの言うことももっともだが、それは中々難しそうだ。
「あんなことができるのは、ダーリンだけだからな」
姫が腕を組んで鼻を高くしている。
「しかし、そんな楽しそうにしている桜姫は初めて見たが?」
「そうですねぇ。いつもは厳しい感じでしたが……」
イロハと幽鬼の意見が一致している。
俺と出会う前の姫がどういう感じだったのか俺は知らない。
冒険者のトップランカーにビキニアーマーの美女がいる――ぐらいの解像度だ。
「けどよぉ――ダーリンが来てくれたお陰で、エンプレスは楽になったんじゃねぇの?」
いきなり矛先がカオルコに向いた。
「そうですね。私は仕事に専念できるようになったので、ありがたいですよ」
「ははは!」
イロハが豪快に笑っている。
「「「きゃぁぁ~」」」
魔石を持ったまま話を聞いていた俺だが、女の子魔導師たちに囲まれた。
「オジサン、本当に強いんですね!」「すごーい!」
「おいおい、さっきと随分違うじゃないの。高速手のひら返しか?」
「だって、あんなに強いなんて思わなかったしぃ!」「桜姫さんより強いんですよね?」
「ああ、見てわかった?」
「はい!」「だって、ゴーレムが思いっきりひっくり返ったし!」「そうそう、すごいよね!」
女の子たちの、キャッキャウフフに囲まれていると、上からハーピーの声が聞こえる。
「ギャギャ」「ギャ!」
「ちょっと離れてくれ」
女の子たちを離すと、ハーピーがやって来た。
ギギが近くに降りると俺に所に飛んでくる。
「よしよし、よく教えてくれたな。チョコをやるぞ」
「ギャ!」
「食いねぇ食いねぇ、チョコ食いねぇ」
「ギャー」
今度はチチだ。
彼女は俺の所に直接飛び込んできた。
大きな胸が俺の顔につくと、鳥くさい。
「ほら、離れた所で食いな」
「ギャ」
ハーピーにチョコをやっていると、女の子魔導師がやって来た。
「魔物のくせに!」
「あ、こら、ちょっかいを出すな!」
「ギャーッ!」
警戒音を出して飛び上がったハーピーが、女の子に白いものをぶっかけた。
「にゃー! くさぁぁぁぁーッ!」
姫もやられたハーピーの糞攻撃だ。
非常に臭い。
「ギャギャッ!」
「この! クソ鳥! 光弾よ! 我が敵を撃て!」
よほど頭にきたのか、彼女は飛んでいるハーピーに向けて魔法を撃った。
魔法は発動に時間がかかるし、飛んでいる的には偏差射撃をしなくては当たらない。
オマケにダンジョン内は暗い――当たるはずがない。
――とは、言っても、マジで当たると困るので止める。
「こらこら! 洗浄の魔法を使えるだろ? 悪かったな――これをあげるから」
俺は糞まみれになってる女の子に回復薬を1本やった。
「もう、最悪! だから、魔物は嫌いなんだ!」
「彼女たちは、ゴーレムのことも教えてくれただろ? 大事にしてやってくれよ」
「……洗浄」
青い光が、彼女の身体を包むと、白い糞が剥がれ落ちた。
「本当に、ハーピーが懐いているんですね!」「すごい!」「どうやって手懐けたんですか?!」
「なんで懐いたのかは、よく解らないんだ。もしかして、なにかのスキルなのかもしれない」
「テイマーとかそういう感じですか?」
「ステータスには出てないけどなぁ」
女の子に囲まれてキャッキャウフフしていると、姫がやって来た。
「こらぁ! 私のダーリンだぞ!」
「「「きゃぁぁぁ!」」」
女の子たちが、姫に追い払われた。
「ちょっと、ちょっと……」
俺はイロハを手招きした。
「なんだい? ダーリン」
彼女とひそひそ話をする。
「幽鬼の所って、女の子は幽鬼のゴニョゴニョなんじゃないの?」
「あはは、違うよ。だって、魔導師は勝負すると回復魔法が使えなくなるだろ?」
「う~ん? え?! それって男にも当て嵌まるの?」
「そうだよ」
彼女の話では、どこまでセーフなのか、引退する魔導師たちによって検証されているという。
マジか~。
ちなみに、口はOKらしい。
そんな関係ではないとしても、女の子魔導師たちは、先輩として冒険者として、魔導師として幽鬼のことは尊敬しているらしい。
それだけ慕われるってことは、人格者なのだろう。
戦闘が終わったので、食事にする。
俺と姫は戦闘中に軽食を取ってしまったのだが、それでもずっと戦っていたので、腹が減った。
各ギルドから預かった荷物がまとめてあるパレットを出した。
めいめいがパレットに集まって、必要な物資を取り出している。
それが終わったらまた俺のアイテムBOXの中に戻す。
外に出す時間が長いほど食品は傷むが、保存食を揃えている所が多いようだ。
ウチも俺が作ったカレー以外は、パンやおにぎり、弁当、レトルト食品が多い。
今回はカレーも大量に作って、飯も同じぐらい炊いたからな。
それでも高レベル冒険者が3人もいれば、あっという間になくなりそうだが。
「ダーリン、あたいにも分けてくれよぅ!」
イロハが仲間の魔導師の女の子を連れてやって来た。
「おう、食え食え」
「やったぁ!」
「オガは自分の所の食料があるだろうが!」
姫は、食料を分けるのは気が進まないようだ。
ご飯とカレーを盛りながら、ちょっとマズかったかもしれないと思った。
すぐにOKしてしまったが、姫がリーダーだ。
一応、確認を取ったほうがよかったか。
「あるけど……うまそうなにおいが漂ってきたら、我慢できねぇじゃねぇか」
そう言うと、イロハがカレーをかき込み始めた。
「早! カレーは飲み物じゃないんだぞ」
「カレーは丹羽さんが作ったんですか?」
魔導師の女の子もカレーを食べている。
補助魔法しか使っていないから、あまりカロリーは消費していなさそうだ。
彼女は俺のことをオッサン呼びしないようだ。
それだけで、好感度が上がる。
「ああ、独身のオッサンだからな。料理は一通りできるよ」
「すご~い!」
別にすごくはない。
「ははは、食いねぇ食いねぇ、カレー食いねぇ――イロハは料理できないのか?」
「できねぇ! おかわり!」
彼女が皿を差し出した。
見た目とおりの大食いだな。
「私もお願いします」
「カオルコもか」
イロハも食うが、カオルコも同じぐらいに大食いだ。
あの身体のどこに入るのか、不思議ではある。
全部胸や尻に集まっているのかもしれない。
強力な魔法を使えば腹が減るのは解るのだが、まだ彼女は魔法を使っていない。
せいぜい、光よの魔法ぐらいだ。
「おかわり!」
イロハが皿を出した。
「ちょっとは遠慮しろ!」
姫が叫ぶ。
「いいだろ? カレーぐらい」
「私の分が減るだろうが!」
「「ぐぬぬ」」
いつものように、姫とイロハがにらみ合う。
「それにしても、ランカーの女子は皆料理が駄目か」
「私は必要ないだろ。ダーリンに作ってもらえばいいわけだし」
姫は最初から作る気がないらしい。
「私もそうです」
「カオルコ、お前もか」
「私は、簡単なお料理ならできますよ」
魔導師の女の子が手を挙げた。
「偉い! まぁ、ちょっと古い考えかと思うが、男を捕まえるなら、料理はできたほうが確率が上がるかもしれないな」
「そうなんですか?」
「ああ、美味い料理がでてきたりしたら、ころりと落ちる男もいる」
「へ~」
「「「……」」」
姫を含めて3人が、カレーの皿を持ったまま固まっている。
「でも、ほら――こういう商売が30や40歳になってもできるかといえば、そうじゃないし。俺はやってるけどさ」
「オジサンは珍しいですよね~」
「俺も、たまたま冒険者になっちゃったけど、すぐに引退するつもりだったんだよ」
「え~? そうなんですね~」
「ううう……」
イロハが唸っている。
「どうした?」
「そりゃ、アラサーになって、こういう格好をするのもキツイと思うけど……」
「一応、そういうことも考えてるわけね」
「そりゃそうだよ」
「派手に稼いで、金を貯めて、他の商売をするもよし。訓練所みたいな所を作って、後進を育成するのもよし。色々と手はあると思うぞ」
「そうなんだよなぁ……」
まぁ、歳を食っても、地味に活動して飯を食うって手もあるけど。
別に派手な格好をして、華やかな活躍をするだけが、冒険者じゃないし。
そう考えたりするが、最初にランカーとして華々しい活躍をしちゃうと、それも難しいのかなぁ。
ちょうど、俺のギルドには、キララというサンプルもいたし。
あいつなんかは、確実に過去の栄光を引きずっていたタイプだな。
最近は考えかたを変えたっぽいが。
「姫は、働かなくてもいいぐらいに金持ちだし、カオルコは会社の1つ2つ余裕で回せそうなぐらい優秀だし――困ることはなさそうだな」
「ありがとうございます」
カオルコがペコリとお辞儀をしたのだが、全部事実だ。
現在も、ギルドの運営やら交渉などを全部やってくれているし。
「姫は、カリスマはべらぼうにあるが、会社経営などには向かないタイプだろうし」
「私もそう思います」
「ハグハグ」
姫も、自分の評価に異論はないのだろう。
黙々とカレーを食べている。
「ダーリンはどうなんだよ」
イロハが心配しているのだが、彼女は俺の事情をあまり知らないからな。
「俺か? 俺は、見た目によらず、めちゃ大金持ちなのよ」
「ええ!? そうなのかい?!」
「まぁ、それで金も稼いだし引退して故郷に帰ろうとしてたら、姫と知り合って、こういうことになっているけどさ、ははは」
「なんだ! それじゃ簡単じゃねぇか! ダーリンに、みんな養ってもらえばいいんだ、わはは」
「オガぁ! 人のダーリンをなんだと思ってるんだ!」
姫が口からご飯を飛ばしながら叫んだ。
「なんだよ、めちゃ金持ちなら、女の1人や2人どうってことないだろ?」
「そういう意味じゃない!」
「だいたいよ――」
彼女が俺たちを手招きをして、ひそひそ話をする。
「ここにいる女たちは、桜姫の秘密計画のメンバーなんだろ?」
「うぐ――それはそうだが……」
ひそひそ話のついでに、聞こうと思っていたことを聞いておく。
「なぁ、イロハ」
「なんだい? ダーリン」
「子どもができた気配ある?」
「いや?」
「そうか――姫とも勝負しまくっているんだが、こっちもその気配がないんだよなぁ」
「そうなのかい?」
「女の子の問題がないとすると、やっぱり俺のほうなのかなぁ……センセに調べてもらったほうがいいかもしれん」
自分がそういう身体だと、自分では解らんからなぁ。
「あ、あの~」
カオルコが小さく手を挙げた。
「なんだい?」
「高レベル冒険者同士での子作りじたいが禁止されている可能性は?」
「うっ?! そ、それは……」
姫はその可能性を考えていなかったようだ。
「あ~なるほどねぇ。高レベル冒険者同士で超人を生み出せるようになると、ダンジョンもあっという間に攻略されちまうってわけだ」
「イロハの言うとおり――このダンジョンってのは、人をもてあそぶように作っている感じがある」
「確かにそうですねぇ……まるでゲームみたいに、アイテムや宝物が落ちてきたり」
カオルコも俺の意見に賛成してくれた。
「まぁ、単に俺が種なしって可能性もあるから、今回のアタックが終わったら、センセの所に行って調べてもらうよ」
「ダーリン、センセってのは?」
そういえば、イロハはセンセのことを知らないな。
「大学で、魔物の研究をしている人だよ。医師免許も持っているから、俺の身体のことも興味あるはず」
「へ~――でも、その先生に調べてもらうときにどうやるんだい?」
「え? そりゃ――出したやつを渡すしか」
「へへへ、それじゃ――あんなことやこんなことをして出してもらうとか?」
イロハがニヤニヤしている。
「ダーリン……?」
姫が睨んでいるのだが、睨まれても困る。
「調べてもらうんだから、仕方ないだろ?」
「……」
彼女が怪しんでいるのだが、どうだろう――あのセンセも、ちょっとぶっ飛んでいるところがあるからなぁ。
「む~」
3人でひそひそ話をしていたので、女の子の魔導師がむくれている。
「わはは、コエダ悪いな! トップランカーでしかできねぇ話もあるからさ」
女の子の名前はコエダらしい。
「別にいいですけど……」
「お前も、あたいぐらいレベルが上がれば会話に入れるぞ?」
「イロハお姉さんみたいにですか? 無理ですよ」
「そんなことはねぇ――ダーリンみたいに強いやつに引っ張ってもらって周回すればいいんだ」
「それはそうですけど……」
まぁ、俺がもっていたギルドでも、同じことをやっていたしな。
他のギルドでもやっているだろう。
「それはそうと、ゴーレムから取った魔石ってデカいけど、あれってどのぐらいするんだ?」
俺は詳しそうなカオルコに質問してみた。
彼女はギルドの金の管理などもしているからな。
「そうですねぇ――多分100万円ぐらいだと……」
「へ~、やっぱり高いもんだなぁ」
「でもよぉ、桜姫とダーリンみたいな化け物ならともかく、打撃も魔法も効かないあんな岩人形と命がけで戦って100万円じゃ……」
イロハの言うことも解る。
俺もそう思うし。
でも、化け物はひどい。
腹ごしらえが終わったので、そのまま5層を進んで戦闘を繰り返した。
敵は、トロルやオーガなど。
「おい、オガ! お前の兄弟だぞ! 嫁入りしたらどうだ! ははは!」
オーガと戦闘している姫が叫ぶ。
「うるせぇ!」
姫の悪口に、イロハが反応した。
まぁ、確かにデカくて筋肉ムキムキなので、似てるちゃ似てる。
ツノをつけたら、そっくりかもしれん。
オーガは、人間に似ているので、食材としてはまったく人気がない。
味も美味くないらしい。
――不味いって味が解っているということは、食ったやつがいるんだな。
人間に似ていても、めちゃ美味かったら、食うやつがいるかもしれんし……。
これで、メスがいればある方面に人気が出そうなもんだが、メスはいないらしい。
ちょっと残念である。
――戦闘をしながら、俺たちは6層に到着した。
ここからは、敵も強力になる。
推奨のレベルは36辺り。
ここにいるトップランカーたちと、ほぼ同レベルだと思われる。
多分、40を超えているのは姫とカオルコだけだろう。
つまり、気を抜くと危険ってことだ。
とりあえず、そのまま突っ切れるような階層ではないので、6層入口でキャンプをして1泊することになった。




