61話 ギルド模様
トップギルド合同で、ダンジョン深層へのアタックが決まった。
俺には大事な仕事がある。
それは、各ギルドが持ち込む大量の荷物をアイテムBOXに収納すること。
無論、タダ働きではない。
ダンジョン内での、ギルドの稼ぎの10%を手数料としてもらう。
そんなわけだが、大量の荷物の細かな管理などはできない。
各ギルドの荷物は、大きな箱やパレットに載せてそれぞれ管理してもらう。
俺はそれを出すだけ。
細かな荷物の管理は各ギルドに任せる。
最初、俺たちは黄金の道というギルドにやってきた。
ここのリーダーは、ゴリラみたいな男だ。
どうやら、姫に気があるみたいで、俺も喧嘩を売られたことがあるのだが――ウチのお姫様の条件は自分より強い男。
彼は姫より弱いらしい。
ダンジョンの深層に飛ばされて、俺と共闘していた姫のレベルはさらに上昇している。
俺を除けば、人類最強クラスだろう。
普通の冒険者で、敵う者はいない。
雑談をしながら、アイテムBOXに荷物を収納していると、デカい声が聞こえてきた。
声もデカいが、身体もデカい。
声の正体は、オガさんだ。
「やってるなぁ!」
「オガ、なにをしにやってきたんだよ」
ゴリラとオガはあまり仲がよろしくないように感じる。
まぁ、似たもの同士にも見えるし、同族嫌悪ってやつだろうか?
「ダーリンがアイテムBOXに荷物を入れてるって聞いたから、様子を見にやってきたんだよ」
「はぁ? ダーリン? それになんだ、お前のその格好?」
いつものオガさんは、デニムにTシャツだったのだが、今日は違う。
横がメッシュになっている黒いミニスカと、身体の中心線とヘソが出ている大胆な革の上着。
「へ~、オガさん、格好いいじゃない。まるで、アクション映画のヒロインみたいだよ」
「え?! え? そ、そうかい?」
オガさんが、俺の言葉に照れている。
「うん、マジマジ。オガさん、主人公で映画とかの話が来たりしない?」
「はは、そんなことあるはずがないよ」
「そうなの? 実にもったいないなぁ」
彼女の肉体美なら、剣でも銃でも、当然肉弾戦もできるだろうし。
なにせ背が高いから、見栄えと無敵感がすごい。
ショタの男の子を守って戦う、無敵のヒロイン――受けないかなぁ。
まぁ、単なる俺の趣味だが。
「えへへ……」
オガさんが照れている。
ここらへんが、女の子っぽくていい。
「このオガをヒロインとか、オッサンは目が腐っているんじゃねぇのか?」
ゴリラが俺の言葉に不満を漏らしている。
「はぁ~、オガさんのよさが解らんとは……」
「それに、ダーリンってなんだよ」
「ダーリンは、ダーリンに決まっているだろ」
オガさんの言葉だが、それには俺にもちょっと異議がある。
「なんで、オガさんまでダーリン呼びなの?」
「ええ? いいじゃねぇか!」
「いや、俺はいいけどさ」
当然、別の人からクレームが来る。
「私のダーリンだぞ!」
「なんだよ、すこしぐらい分けてくれてもいいじゃねぇか!」
「分けたら減るだろ!」
「「ぐぬぬ……」」
睨みあう2人に、ゴリラがため息を吐いた。
「なんでこんなオッサンに……」
それは俺が知りたい。
それにしても、このゴリラはまだ姫に気があるようだ。
そのゴリラの世話を甲斐甲斐しくしているのが、ここのギルドの副リーダー。
「そういうあんたは、副リーダーさんと仲がいいじゃないか」
俺の言葉に、副リーダーさんが顔を赤くしている。
「こいつとは、ただの幼馴染――腐れ縁ってやつよ」
その言葉に彼女の表情が暗くなる。
幼馴染! それは、果実のような甘酸っぱい負けヒロインの味。
それじゃ、姫は幼馴染から恋人を奪う泥棒猫役ということになるが――当然そんなことはない。
前に言ったように、姫の相手に求める条件が、「自分より強い男」だからな。
「なんだ、ゴリラ。お前まだ桜姫を狙っているのか? いい加減諦めろ。お前じゃ桜姫の足元にも及ばねぇ、わはは!」
オガさんの言葉に、彼が反論する。
「クソ! やってみねぇと解らねぇじゃねぇか!」
「わはは!」
オガさんが笑い倒している。
「オガさん、俺たちはこの前、またデカいのを仕留めたんだよ。噂を聞いてない?」
「もしかして、デカいミミズの化け物が持ち込まれていたって聞いたけど、あれか?」
「そうそう、ミミズのデカいやつね」
そいつは、まだ俺のアイテムBOXの中に入っているのだが。
「そんなのどこで仕留めたんだ」
「それは秘密」
「ちぇ!」
「そのときに、姫が止めを刺したから、さらにレベルが上がっている」
「あ~、これじゃもう一生追いつけねぇな」
彼女が半ば諦めたような顔をしている。
それは、横で話を聞いていたゴリラも同様だ。
「まぁ、共同でアタックするから、デカブツを仕留めてオガさんが止めを刺せば、レベルは上がるんじゃない?」
「それはそうだけどさぁ……」
彼女はウチのギルドのメンバーではないので、そうもいかないのだろう。
共同でアタックといっても、よほどのことがない限り、他のギルドの獲物には手を出さない――という、暗黙の了解もある。
「ギルドに関係なく、オガさんなら個人的に獲物を分けてもいいぞ」
「ほ、本当か?!」
「ああ、俺とオガさんの仲じゃないか」
「え? えへへ、そ、そう? それなら、こんな格好をした甲斐があったってことだ」
「いや、その格好は本当に似合ってるよ」
「う、うん――ありがと……」
彼女が赤くなってもじもじしているのだが、ここらへんが女の子だ。
そんな会話に姫からクレームだ。
「これは私のダーリンだぞ!」
「あんだよ、少し分けてくれてもいいだろ?」
「分けたら減るだろうが!」
「「ぐぬぬ……」」
なんかループしてないか?
「けど、ウチの戦力アップは、カオルコのデカい魔法のお陰もあるしなぁ」
「でも、あの魔法は一発しか使えません。あれを使うと、魔力切れで他の魔法も一切使えなくなってしまいますし」
相手がデカいの一匹だけ。
それだけ仕留めればOKって場合なら使えるが――。
複数の強敵などが出てきた場合――たとえばドラゴンが2匹出てきた――なんて場合にはちょっと使いづらい。
それでも敵の戦力を削ぐために、使わなければならない場面も出てくるだろう。
「それは聞き捨てなりませんね」
皆で話していると、男の声が割り込んできた。
そちらを見ると、オガほどではないが、細身で長身の男。
髪も長く、一見モデルのようなスタイル。
黒い革のファッションに銀のアクセサリー。
耳にピアスもしているし――若いのか歳なのかよく解らん格好だな。
まぁ、顔だけみると、シワなどもないし若いのだろう。
「なんだ――幽霊、お前も来たのか?」
彼は、オガの知り合いらしい。
「私は、幽霊ではありません。いつも言っているでしょう?」
「名前に幽霊と同じ漢字が入っているじゃねぇか」
「漢字が同じだからといって、幽霊ではない」
「オガさん、この人は?」
「こいつは、魔導師だよ」
「魔導師――ああ、魔導師中心のギルドがあると聞いてたけど、そこの人かぁ」
「そうです。私はユウキ――お見知りおきを」
彼が礼をした。
ユウキって勇気じゃないよな。
オガが幽霊って漢字の話をしているから、もしかして幽鬼だろうか。
本名だとしたら、すごい名前だな。
「こりゃどうも、ご丁寧に――丹羽だ。アイテムBOXを持っているオッサンな」
「ああ、あなたでしたか」
「そちらのギルドの荷物も、俺が預かることになると思うけど、よろしく」
「よろしくお願いいたします」
すごく礼儀正しい。
「それより、さっきの聞き捨てならないというのは……?」
「エンプレスさんが取得した魔法についてですよ」
「ああ、え~と……カオルコいい?」
「はい、別に教えて困ることでもないですから」
「波動砲みたいな超強力なビームの魔法だよ」
「ハドウホウ?」
ああ、昔のアニメだから解らない人もいるか。
「まぁ、超強力なビームの魔法ってことで」
「それで、巨大な魔物も一撃で屠れるということですか?」
「確かに強力なんだが、どこまで通用するのか解らない。ドラゴンにはまだ試してないしな」
「なるほど……」
彼が顎に手を当てて考え込んでいる。
「でも、取得できるのは、かなりの高レベルなのは間違いない」
「つまり、エンプレスさんもそのぐらいのレベルになっているということですね」
「そういうことだな」
普通は、ダンジョンを降りていって、徐々に強い敵と当たるはずなのに、俺たちの場合はまったくの逆だったからな。
一番最初にダンジョンの深層に飛ばされて、それを登ってくるという格好だったし。
「う~む」
魔導師ならば、未知の強力な魔法には興味があるのだろう。
そもそも、魔法じたいが好きなのかもしれないし。
そうでなけりゃ、魔導師だけのギルドなんて作らない。
「魔導師だけのパーティで潜って不便じゃないかい?」
「まぁ、確かに苦手な敵はいますが――そういう場合は逃げればいいわけで」
そこらへんは意地を張らずに、割り切っているのか。
そりゃすごいな。
「でも、深層にいたドラゴンなどには魔法はどうかなぁ。カオルコの爆裂魔法も効き目がなかったし……」
「え?! マジかよ! 爆裂魔法も効かないのか?!」
俺の言葉にオガが驚いている。
「食らっても、ケロリとしてたぞ」
「う~む――おそらく、あの大きな鱗が魔法を減衰しているのでしょうね」
「詳しく聞いてなかったけど――そんなやつを、ダーリンはどうやって倒したんだよ」
「これだよ」
俺はアイテムBOXから、短剣を取り出した。
「その短剣は――ドロップアイテムですか?」
魔導師の男が、普通の短剣ではないと、気がついたようだ。
「こいつは、対象物を腐敗させる効果がある短剣だ」
「それじゃ――そいつでドラゴンの鱗を剥がして、攻撃をブチ込んだと?」
「オガさんの言うとおりだよ。鱗を剥がせば、剣も通るんだ」
「ええ? そうでもしないと勝てないってことか?」
「どうだろうなぁ。なにか弱点があるのかもしれないが――定番では、口の中とか、尻とか……」
「ははは、確かにケツの穴には鱗はねぇな」
「ちょっと、女性がケツの穴とか言っちゃ駄目よ」
「はは、ダーリンとあたいの仲じゃねぇか」
そういうことじゃないんだよなぁ。
まぁ、俺はいいけどさ。
「おい、オガ! 確かに、ダーリンと勝負するのは認めたけど、ちょっとは遠慮しろ! 私のダーリンだぞ!」
「なんだよ、できるもんなら奪ってもいいとか言ってただろ?」
「奪われてたまるか!」
「「ぐぬぬ……」」
2人が睨み合っている。
「オガさんも、あまり姫を煽らないでくれよ」
「ちょっとオガさんは止めてくれねぇかなぁ――」
「じゃあ、オガ? それとも、名前で呼んでもいいが」
「じゃ、じゃあ……イロハで……」
彼女が恥ずかしそうにしている。
「オガさん、イロハって名前なのか。いい名前じゃない。それじゃ、俺もダイスケでいいよ」
「ダーリンって呼んだらだめ?」
「ええ? 別にいいけど……なんでイロハまでダーリン」
「そうだぞ! 私のダーリンだぞ!」
また、ループしそうなので、切り上げた。
「さて、カオルコ、次はどこのギルドの荷物を入れるんだ?」
「あたいの所だよ!」
どうやら、次はイロハのギルドに向かうようだ。
ここの副リーダーに挨拶をして、次の目的地に向かう。
リーダーのゴリラは、俺が女の子たちと仲がいいので、気に入らないようだ。
そんなことを言われてもな。
俺もなぜモテキが来ているのかよく解らん。
まぁ、単純に考えれば、高レベル冒険者で強くて金を持っている。
確かにモテる要素ではあるような気がする。
悲しいかな――オッサンは今までモテたことがないからな。
次のギルドのリーダーは、眼の前にいるイロハ。
ギルドの名前は、ゴーリキーらしい。
彼女らしい名前だが、やっぱりギルド名というのはそれぞれ謂れがあるんだろうな。
姫の桜姫は、名前のサクラコからだろうし。
俺のギルドだったフォーティナイナーも、レベル49から取ったしな。
「さっきのギルドの黄金の道ってのも、なにか理由があるのか?」
「はは、そりゃあのゴリラの名字が小金井だからだよ、ダーリン」
イロハが教えてくれたのだが、やっぱりダイスケじゃなくてダーリンのほうを取ったのか。
「なんだ、そうなのか」
「そうなんだよ」
俺たちの後ろを、魔導師のユウキがついてきている。
漢字を聞いたら、やっぱり幽鬼らしい。
すごい名前だ。
本名かは、聞けない。
「幽鬼さんのギルドの名前は?」
「幽霊の所は、ローリング・ストーンだよ」
「幽霊ではない」
「それは、諺から取ったのか、はたまたローリング・ストーンズのファンなのか」
「両方だ」
「俺の親の世代の歌とバンドだがなぁ。サティスファクションしか知らないが……」
「うむ……」
まぁ、若い彼の琴線に触れるなにかがあったに違いない。
「俺はエアロスミスとか聞いたが……」
幽鬼と古いロックの話をしていると、イロハのギルド――ゴーリキーに到着した。
ここも、バラックのようなコンクリむき出しのビルが、本拠地になっているようだ。
「ねぇさん! どうでした?!」
「イェー!」
イロハが、親指を立てている。
リーダーが女性だからだろうか――メンバーも女性が多いように見える。
服装は私服と、冒険者装備の者が半々といった感じ。
ギルドの前には、パレットに山積みされている荷物がある。
あれをアイテムBOXに入れるのか。
俺の仕事のことを考えていると、女の子たちに囲まれた。
「ねぇさんに頼まれたから、服とか考えてあげたけど、相手がこんなオッサンなんですか?」
「随分と似合ったファッションだと思っていたら、彼女たちの助けを借りたのか」
「だ、だって――あたいは服とか知らねぇし……」
もじもじしているイロハを見て、女の子たちが騒ぎ始めた。
「うわぁぁ、ねぇさんマジだぁぁ」「なんでこんなオッサンに……」
「おいおい、随分とご挨拶だなぁ。まぁ、オッサンだから仕方ないが」
「こんなオッサンが本当にねぇさんより、強いんですか?」
「ああ、間違いないよ。あたいが手も足も出ないから」
「「「へぇ~」」」
ジロジロとオッサンを眺める女の子たちに囲まれてしまった。
「なにはともあれ、ついにねぇさんにも春が来たってわけだ!」
「「「わぁぁぁ!」」」
なんかすげー盛り上がっているのだが、これだけ見てもイロハがギルドの面々から慕われているのが解る。
「お前たち、私のダーリンだぞ!」
姫の大声に、女の子たちが飛び上がった。
「え?!」「だ、誰?!」「わかんない」
今日は私服だから解らんか。
桜姫といえば、ビキニアーマーだしな。
「桜姫だよ」
イロハの短い言葉に、女の子たちが声を上げた。
「「「えええ~っ!?」」」
「桜姫ねぇさん、失礼いたしました!」「はじめまして!」「ウチのねぇさんが、いつもお世話になってるっす!」
みんなが姫に向かって一斉に礼をした。
とても礼儀正しい。
まぁ、姫は冒険者たちから一目置かれているトップランカーだからな。
女性の冒険者から見ても、憧れの存在だろう。
「……」
みんな礼儀正しくいい子たちなので、腕を組んでいる姫も怒るに怒れないでいる。
悪気はないのだ。
「しかし、ねぇさん! やっとねぇさんにも春が来たと思ったら、いきなりの三角関係?!」
「そりゃマズイんじゃないっすかねぇ」
「そうそう!」
とりあえず、否定しておかないと。
「いやいや、べつに三角関係じゃないから」
「それじゃ、遊びっすか?!」「ひどい!」「ウチのねぇさん、めちゃいい人なのに!」
「いやいや、遊びとかそういうのじゃないから……イロハも、了承済みだし」
「まぁ、そうなんだ」
彼女が赤くなって照れている。
「えええ~っ!」「ねぇさんは、それでいいっすか?!」
「まぁ――ガキができたら、あたいが育てるし……」
「「「えええ~っ!」」」「もう、そういう関係ですか?!」「ただれてる! ただれてるっす!」
別に責めているわけではない。
みんなでキャッキャウフフしているだけだ。
「「「……」」」
――と、思ったら、女の子たちが俺のほうをじ~っと見てる。
「ウチのねぇさんどころか、桜姫さんまで」「このオッサン、どんだけすごいっすか?」「マジで?」
「ちょっと、待て待て」
姫に向かって皆で迫ってくるのを、彼女が押し止めている。
「ねぇさん、そんなにすごいっすか?!」
「……う、うん、すごい……」
「「「きゃぁぁぁぁぁ!」」」
女の子がたくさんでキャッキャウフフしていると、さすがにかしましい。
「それじゃ、ウチらもおこぼれに……」「どうすかね?」「……興味あるぅ……」
じりじりと、俺に迫ってくるのだが、彼女たちの前に姫が立ち塞がった。
「ダーリンと勝負したければ、私を倒すことだな!」
「そ、そんなの無理っす!」「ムリムリカタツムリ~」
そりゃ無理だろう。
ここにいる冒険者の女の子たちが束になっても、姫には敵わない。
「おっと、そんなことより、俺の仕事をしないと」
積んである荷物を、パレットごと収納する。
「「「すご~い!」」」「めちゃ便利だよね」「ウチにもほしい!」
「ひっそりと運用している人はいるかもな。めちゃ小さいアイテムBOXなら、バレないと思うし」
たとえばバックパック1個ぶんぐらいのアイテムBOXでも、十分に役に立つ。
余計な荷物を持たないで済むしな。
大事なものだけ、アイテムBOXにいれるとか、使い道は無限大だ。
「ねぇさんをよろしくお願いします!」「悲しませないでくださいよ!」
「わ、わかった」
ギルドの女の子たちに、めちゃ詰められる。
仕事は済んだので、イロハのギルドをあとにして、最後の場所に向かう。
一緒についてきていた、幽鬼という男のギルド。
魔導師中心のギルドらしいが、どういう感じなのだろうか。
ちょっと興味がある。
到着したのは、ツタで覆われたビル。
幽霊屋敷みたいだが――幽鬼が住んでいる幽霊屋敷。
イメージ的にはピッタリ。
イロハが「幽霊」というわけだ。
リーダーも、幽鬼なんて名前だし。
「おかえりなさい」
魔導師たちが、リーダーを出迎えているのだが、ここも女性が多いようだ。
イロハのギルドと違い、ここの魔導師たちはほぼ冒険者装備のまま。
皆が一見して、魔導師――といった格好をしている。
「「「きゃ~!」」」
女性たちから、黄色い声が上がったので、また姫のファンかな? ――と思ったのだが、違う。
「あ、あの! エンプレスさんですよね!」
「は、はい」
胸を強調した、魔導師装備の女性たちに、カオルコが囲まれている。
普通の冒険者の憧れのトップランカーが姫だとすると、魔導師の憧れは、エンプレスということになるのか。
カオルコも私服だったのだが、一発でバレてしまったようだ。
もしかして、胸か?
そう思ったのだが、彼女の私服はゆったりとしていて、胸が強調されているようなデザインではない。
そうなると、普通に顔を覚えていたのかもしれない。
ここでもパレットに載った荷物を収納して、俺のお仕事は終了。
――と、思いたいのだが、実はまだある。
最後に向かう所は、俺がいつも利用している武器屋。
ここの爺さんに、あるものの注文を入れている。
「ちわ~、注文したものが入ったって聞いたけど」
「いらっしゃいませ。入ってますが、羽田にある倉庫にあります」
「ここまで持ってくるのが大変だからなぁ」
「申し訳ございませんが、そのとおりでして……」
俺が注文したものは、ちょっとデカいもので、今回のダンジョン攻略に必要なもの。
わざわざ送料をかけて特区に運び込むより、俺が取りにいったほうが早い。
なにしろデカいから送料も半端ないと思うし。
「それじゃ、羽田に行くか」
そのとき、スマホにメッセージが入った。
『例のミミズの化け物の買い手がついた。明日持ってこれるかい?』
メッセージの相手は、いつも買い取りをしてくれるオッサンだ。
それなら、ちょうどよかった。
どうせ、羽田に行くことになるからな。
「大丈夫だ」
――と、返信した。
『それじゃ、頼む』
あれは、買ってくれるだけありがたいよな。
ダンジョンに捨てないと駄目だと思ってたし。
「姫、あのミミズの化け物を買ってくれるそうだよ」
「アイテムBOXの肥やしにならなくてよかったな」
「その前に、ダンジョンに捨てるけどな」
「前に話していたとおり、歯の部分だけでしょうか?」
カオルコがちょっと疲れている。
幽鬼のギルドで、魔導師たちの質問責めにあってしまったのだ。
魔導師たちは、自分の知らない魔法には興味津々だった。
逆に、あのギルドは魔導師が多いから、俺たちの知らない魔法もあるようだ。
そいつをダンジョンで披露してくれることになっている。
それはさておき――明日、羽田に行ってくるか。




