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【コミカライズ連載中】アラフォー男の令和ダンジョン生活  作者: 朝倉一二三


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59話 色々と売る


 俺は原発跡地での処理水をダンジョンに捨てる仕事を政府から請け負い、その間に姫とカオルコが未整備のダンジョンに潜っていた。

 もう少しで俺の作業が終了といったところで、ダンジョンの奥から大型の魔物の襲撃だ。

 どうやら、このダンジョンのボスらしい。


 こんな浅層までボスがやってくるなんて、水をドバドバ捨てたせいでブチ切れたのだろうか?

 もし本当にそうだとすると、ダンジョンを水攻めするのは危険ということになる。


 それよりも、政府はダンジョンをなにかに利用しようとしていたらしいが、それがなくなってしまった。

 色々と計画していたものが、全部狂ってしまう。

 慌てた晴山さんが、あちこちに連絡をしまくっている。

 当然、総理には真っ先に連絡を入れただろう。


 その証拠に――。


「お、総理からだ」

『困ったことになったぞ?』

「そう言われましても、ダンジョンから魔物が出てくるのは想定の範囲内ですから」

『そう言われれば、そうなんだがなぁ……』

「東京の特区だって、地上に巨大な魔物が溢れてくる可能性があるんですよ」

 俺は、総理に討伐した魔物の写真を送った。


『こ、こんなやつが出てきたのか?!』

「ええ、高レベル冒険者の私たちがいなければ、甚大な被害が出たかもしれません」

『むむむ……』

「その前に、ダンジョンにものを大量に捨てると、魔物が地上に出てくるのかも――スタンピードってやつですよ」

『それは困る!』

 まぁ、ダンジョンにものを捨てるのは、各国でやられているからな。

 マジでスタンピードが起これば、ものを捨てるのは中止されているかもしれない。


「あの―― 一応確認させていただきたいのですが、ダンジョンが消えたのはお前らのせいだから、賠償しろ! とかないですよね?」

『これは事故だしなぁ――どこのダンジョンでも起こり得ることなんだろ?』

「そのとおりです。東京の特区だって、それが起こる可能性があります」

『おいおい、怖いことを言わないでくれよ』

「いやぁ、事実ですし」

『本当にダンジョンには全世界が振り回されっぱなしだな』

「そもそもが、人智を超えた代物ですし」

『そのとおりだ』

 とりあえず、賠償云々ということにはならないようで、安心した。

 これだけやってタダ働き――なんてことになったら、俺は逃げるからな。

 2度とやらねぇ。


 ――というわけで、仕事はここで中止になった。

 廃棄物を捨てるダンジョンが、なくなってしまったのだから、どうしようもない。


 姫たちと俺は、特区に戻ることにしたのだが、すでに真っ暗。

 夜間飛行もできないこともないが、騒音の問題やら色々とある。

 跡地に一泊することになった。


 八重樫グループが用意してくれたキャンピングカーで休み、アイテムBOXからノートPCを取り出した。

 発電装置は車にあるので、使いたい放題だ。

 まぁ、アルコールかガソリンか、燃料は食うが。


 早速、今日撮影した戦闘シーンを編集した。

 まとめたのだが、元々非公開のダンジョンだったので、上げるとまずいか?

 とりあえず、晴山さんに連絡を入れてみた。


 すぐに返答が来た。


『駄目です』

 やっぱりだめか~。

 魔物を売りに出すのは問題ないよな。

 どこで仕留めたなんて証拠はないし。


 特区のダンジョンの奥で仕留めて俺のアイテムBOXに入ってました――と、言われれば詮索しようがない。

 そこら辺も、アイテムBOXってのはチートだな。


「ダーリン~」

 PCをいじっていると、姫が抱きついてくる。

 毎日勝負していたら、普通は身体が保たないところだが、まして俺はオッサン。

 そんな俺でも高レベル冒険者の恩恵があれば、毎日の過酷な勝負もなんのその。


 彼女とカオルコ、無制限1本勝負。

 カオルコは早々に脱落し、俺と姫との1対1の勝負が空が白むまで続く。

 夜が明けると、俺たちは特区に戻った。


 ――特区に戻った次の日。


 激しい戦闘も、姫との勝負もなんのその。

 飯さえ食えれば無限の体力が、俺を支えてくれる。


 その恩恵に預かりまくっているわけだが、これって命の前借りをしているわけじゃないよな?

 あの根性ババ色のダンジョンを体験していると、そんな罠があるんじゃないかと勘ぐってしまう。

 まぁ、ダンジョンに潜るのは数年のことだし、それで寿命が10年縮んでも、八重樫グループの延命で延ばせば、プラマイゼロ。


 それはさておき、俺の眼の前では、まるで鏡合わせのように2人の美人が言い争っている。


「なんで、お前がここにいるんだ!」

「もちろん用事があるからに決まっているでしょ」

 俺たちが暮らしているホテルのスィート――ソファーにゆったりと座っている姉のカコが、姫と睨み合っている。

 彼女の横には、ジュラルミン製の小さなケース。

 なんでカコがここにやって来たかというと、俺との取引だ。


 そこにカオルコがコーヒーを持ってきてくれた。


「俺が呼んだんだよ」

「ダーリン?! なぜ?」

「カコさんが言っただろ? 取引だよ」

 俺はアイテムBOXから、エリクサーを取り出した。


「わぁ! これが噂のエリクサー?! 初めて見た!」

 彼女が瓶の中に漂う金色の液体に見入っている。


「まさか、グループに売るのか?!」

「俺の好きにしていいという話だったから……」

「ぐぬぬ……確かにそう言ったが……」

「八重樫グループは延命事業をしているということだったろ?」

「ああ」

「このエリクサーを研究すれば、そういうことの役に立つんじゃないかと思ってな。高く買ってくれそうじゃないか」

「そうとは限らないぞ?」

「それじゃ、ネットオークションにでもかけるから心配いらないし」

 俺の話を聞いて、カコが立ち上がった。


「それは止めて! グループが買うから!」

 俺はその言葉を待っていた。


「それじゃいくらで買う? はい! 一声!」

「10億!」

「売った!」

 オークションに出たときには数億って話だったから、10億なら文句はない。


「そんな金額で買って大丈夫なのか?!」

 カコから提示された金額に、姫が心配している。


「あなたに心配されなくても、グループ内で話は済んでいるから」

「それじゃ、どうしても手に入れてこいと?」

「そのとおりよ」

 カコは、俺の言葉を素直に肯定した。


「次に手に入るのが、いつになるか解らないからな」

「まぁね」

 待てよ――以前、エリクサーがオークションに出たということは、ダンジョンを攻略したやつらがいるのだろうか?

 いや、ゴブリンやらスライムしか出ない簡単なダンジョンならそれも可能だろうが……。

 エリクサーが出てくるようなダンジョンというのはどのぐらいの規模になるんだろうな。


 俺たちを襲った巨大なワームは、ドラゴンよりは弱かった。

 もっと低位なダンジョンでも、クリアすれば、エリクサーは出てくるのか。

 それでも、全クリするのはかなり大変だと思われるが……。


 まぁ、俺がいらぬ心配をしても仕方ない。

 この金色の液体は、世界有数の企業に買われることになった。

 研究の結果、延命が更に延びたりするんだろうか?


 すでに回復薬ポーションなどが、延命に使えないか、研究している所もあるという噂が、ネットに流れていたりする。


 カコが大事そうに金色の瓶を取ると、ジュラルミンのケースを開く。

 中には赤いクッションが敷き詰められ、クッションの隙間に丁寧に小瓶を入れると、彼女は金属製の箱を閉じた。


 ケースには金属製のワイヤーがついていて、彼女の腕輪に繋がっていた。

 すごく厳重だ。


「そんなことをするなら、他の人に運ばせたほうがいいのでは?」

「これに関しては、身内以外は信用できないわ」

「まぁ、なにしろ高価なものだからなぁ」

「お金を出して買えるなら、金を持っている人ならいくらでも出すかもね」

 さっきの話にも出たが、次に市場に出てくるのはいつになるか解らんしな。

 そう考えると――あまり深く考えないで、子どもが可哀想だからと俺はエリクサーを使ってしまったが……。

 エリクサーの価値を知っている人からすれば、愚かな行為に映ったに違いない。

 まぁ、後悔はしてないしな。

 ミオちゃんを助けた先に、今の俺があると信じているから。


 目当てのものはゲットできたようなので、カコはすぐに帰るようだ。


「忙しいな」

「実際に忙しいし」

 ドアを開けると、黒服のゴツい男たちが2人立っていた。

 彼女の護衛だという。


「そいつらが裏切るってことはないのか?」

「側近は、代々護衛をしている連中だから」

 ――ということは、護衛の家族も押さえているってことだ。


「たとえ裏切ったとしてもグループからは逃げられないから」

「そりゃそうか」

 世界中にグループ網があるし、協力企業も多い。

 裏の社会も、八重樫グループを敵には回したくはないだろう。


 一緒にエレベーターに乗り、ヘリポートまで送る。


「姫のことで、ご両親に挨拶したいんだが……」

「サクラコはなんて言ってるの?」

「そんなのは必要ないと――だが、そうもいかないだろう?」

「ふふ――まぁそうね」

 彼女が小悪魔的な笑いを浮かべている。


「君から、一応話しておいてくれ」

「解ったわ。こういうものを提供してくれたから、覚えはいいと思うわよ」

「そりゃよかった」

 女系家族らしいから、お母さんに挨拶するんだろうか?

 姫の母親だから、多分美人だよなぁ。

 男としては、そっちも気になる。


 屋上でアホなことを考えていると、すぐにティルトローター機が飛んできた。

 多分、俺たちが乗った機体と同じものだろうな。

 まったく想像もできんぐらいの金持ちだな。


 轟音と暴風の吹き荒れる中、カコと最後の会話を交わす。


「それじゃ、親族に俺のことを言っておいてくれよ!」

「わかったわ!」


 彼女は護衛と一緒に機体に乗り込むと、天高く舞い上がった。


「さて、どうなるかな?」

 部屋に戻ろうとすると、メッセージが入った。


『この前の魔物を見たいんですけど!』

 メッセージの送り主はセンセだ。

 ボスらしき魔物の写真を彼女に送ったのだが、そいつを見たいらしい。

 写真を送ったときにすぐに見たいと言ってきたのだが、あいにく出先だったからな。


「それはいいですけど、巨大なので場所が必要になりますよ」

『大きさはどのぐらいですか?』

「私のアイテムBOXに入っている大きさなので、10m弱ですね」

『それなら、研究所の敷地でどうにかなります!』

「体液で汚れたりしますが、大丈夫ですか?」

『う、う~ん……』

 研究所の中の解剖施設なら、水で流せばいいだろうが、敷地の中じゃそうもいくまい。

 異臭騒ぎやらなんやらになったりする可能性が高い。


「それじゃ、特区の市場にしませんか? 買い取りできるか聞いてみたいですし。研究所でも保管などできる大きさじゃないと思いますから」

 特区の市場は、魔物の取引で汚れるのが前提になっているからな。

 それに、特区ならギリ魔法が使えるから、綺麗にできる。


『私は、組織のサンプルさえいただければ』

「お時間は?」

『大丈夫です!』

「それじゃ、特区の市場で待ち合わせということで――到着したら連絡ください。すぐに向かいますから」


『解りました』

 さてさて、あんなキモいものを買い取ってくれるかなぁ。

 ミミズの肉じゃ食用にもならないだろうしな。


「姫、ちょっと市場に行ってくるよ」

「あいつを売りに行くのか?」

「ああ、ちょっと買ってくれるのか微妙だけどな、ははは」

「……」

 彼女もついてきたそうな顔をしているのだが。


「姫はどうする?」

「……私が市場に行くと、騒ぎになるし……」

「姫やカオルコは目立つからなぁ」

 その点、俺は普通のオッサンだ。

 人混みに紛れていたら、まず解らんし。


「ううう……」

 しばらくすると、スマホにメッセージが入った。

 センセだ。

 彼女がいる羽田の研究所と、ここは近いからな。

 船で少々時間がかかるが。


「さて、行ってくるよ」

「ちょっと待て! 今のメッセージは?」

「ほら、前の大学のセンセだよ。あの魔物を見て、サンプルが欲しいんだって」

「私も行くぞ!」

「ええ? まぁ、私服なら大丈夫かな?」

「よし!」

 今から、準備するのかよ。


「センセが待っているかもしれないから、早めにな」

「そうはいかない」

「すっぴんで、眼鏡とかかけたほうがバレないんじゃね?」

「そうか――眼鏡か!」

 あいにく伊達メガネは持ってない。

 カオルコの眼鏡は本当の眼鏡で度が入っている。

 ――と思ったら、姫がカオルコから眼鏡を借りている。


「え? ちょっと大丈夫なの?」

「これ、伊達だからな」

「ええ?! そうなんだ」

 その秘密をカオルコが話してくれた。


「本当に目が悪かったのですが、冒険者になってレベルアップしたら、近眼が治ってしまって……」

 それって、レベルが落ちてきたらまた悪くなるんだろうか?

 それとも、そのまま?

 相変わらず、謎が多い。


「そうだったのか――まぁ、カオルコの眼鏡は似合っているからいいけどな」

「むう……」

 俺の言葉を聞いた姫が、不機嫌になっている。


「姫の眼鏡も可愛いよ」

 まぁ、基本は美人なんだから、どんな格好も似合うに決まっている。


「そうか!」

 姫の機嫌がいいうちに部屋を出た。

 彼女はブラウスにキュロットスカートと黒いタイツ。

 髪はポニーテールにして、今日は眼鏡をかけている。

 これなら一見で、トップランカーだとは解らん。

 美人だから、目を引くとは思うけどな。


 エレベーターで下に降りて、従業員に挨拶をする。


 一歩外に出ると、人混みだ。

 ホテルから市場は近い。


「さて――どこにいるかな~」

 市場を探す。


「おっと、兄さんじゃねぇか! もうちょいで、この前のドラゴンやらの精算が完了するぜ」

 そういえば、忘れていた。


「やっぱり高かったかい?」

「そうだな――金になったのは鱗だな。なにせ数が多い」

 大小合わせて2000枚ぐらいあったらしい。


「それから、ドラゴンの皮も素材として高く売れた」

「滅多に手に入らない高級品の材料として使われるのか?」

「そんなところだろうな。唯一無二ってやつだ」

「まぁ、ドラゴンの鱗や皮なんてマジで伝説だからな」

 ドラゴンの革で作ったレザーアーマーとか、凄そうだな。


「今回初めて市場に出たのもデカい」

「初物のご祝儀もあるか」

「まぁな」

 たしかに今回が初物だが、次があるか解らんし。

 討伐する冒険者が出なければ、あれが唯一のドラゴンだし。


「それで、今日もなにか売りに来たのか?」

「そうなんだけど、ちょっと人を探してる」

「どんなやつだ?」

「女性で、眼鏡をかけてソバカス顔だな」

「もしかして、白衣を着てるいつぞやの大学の先生か?」

「あ、多分それ」

「それならさっき見たような――魔物のことをあれこれ聞いていたからな」

「間違いない」

 買い取りのオッサンが教えてくれた方向を探すと白衣を着たセンセがいた。

 肩からクーラーボックスらしきものを下げている。


「センセ!」

「あ、丹羽さん!」

 彼女の顔が明るく輝いたと思ったら、すぐに消えた。


「どうしました?」

「――また、桜姫さんとご一緒ですか?」

「私がダーリンと一緒なのは、当たり前だろ」

「そんなことより、早く見たいんですけど!」

 姫の言葉にも、彼女が俺の手を引っ張った。

 この人も、マジでマイペースだな。


「はいはい」

 さっきのオッサンの所に戻る。


「お、兄さん、見つかったかい?」

「ああ――それで、デカブツを出したいんだが……」

「おい! またかよ!」

 彼が呆れているのだが、俺のせいではない。

 まぁ、基本的にレベルが高いから、どうしても討伐する対象のレベルが上がってしまうのはやむを得ない。

 低レベルの冒険者じゃ、デカい魔物とエンカウントをしても逃げるしか選択がないからな。

 市場の人たちに客を整理してもらい、スペースを作る。


 客も興味があるのか、こういうときにはすごく協力的だ。

 ここにいるのはダンジョンに関係している職業や商売をしている連中ばかりだしな。

 観光客がいるとしても、珍しいものは観たいだろうし。


「よし、デカいのを出すから、気をつけてくれ! ――召喚!」

 アイテムBOXから、巨大な円筒形の魔物のかばねが出てきて、市場を占領する。


「「「「うぉぉぉぉぉ!」」」」「「「「きゃぁぁぁ!」」」」

 歓声と悲鳴が半々ぐらいだな。

 正直、キモいしな。

 ミミズを好きって人はあまりいないと思うし。


「なんじゃこりゃぁぁぁぁ!」

 買い取りのオッサンも絶叫している。


「すご~い!」

 もちろん、目をキラキラさせて大興奮している人もいる。

 センセだ。


「どうですかね? 珍しくありませんか?」

「初めて見ました! 環形動物の一種ですかね?!」

「カンケイ動物と言うと――」

「ミミズとかですね」

「やっぱりミミズの仲間なんだ」

「でも、口にギザギザは、円口類みたいです」

 円口類ってのはヤツメウナギみたいな種類らしい。

 そういえば、ヤツメウナギの口に似ているような気がする。


「血が青いのは?」

「ああ、それはですね――」

 血が赤いのは酸素を運ぶヘモグロビン――つまり鉄のせいで、青い血なら銅が酸素を運んでいるんじゃないかということだった。

 彼女が、体表や体液のサンプルを取っている。

 売る前だから、まだ俺のものなので大丈夫だ。


「はぁはぁ――すごいぃぃ」

 センセが涎を流して、明らかに興奮している。

 結構危ない姿だ。


 観衆はどよめきつつ、みんなスマホを出して撮影をしている。

 みんなが手前に小さな板を掲げている姿は、なにかの儀式のようだ。

 知らない人が見たら、異様に見えるだろう。


「ど、どこでこんなものを仕留めたんだ?!」

「ちょっと深層でな……場所は詳しくは言えん」

「はぁ――」

「どう? 金になりそう?」

「んん~これはなぁ――ちょっと見た目が……」

「わかる、ははは」

 まぁ、ミミズだしなぁ。


「しかし、すげぇな。さすが高レベル冒険者だな」

 俺のレベルは公開していないのだが、オッサンは俺のレベルが高いと理解しているようだ。

 こんなものを仕留められるのに、レベルが低いわけがないのだが。


「身体は駄目でも、この牙はすごくないか? 硬そうだぞ?」

 アイテムBOXから鉄筋メイスを取り出すと、白くて輝いている鋭利な牙を叩いてみせた。

 まるで陶器を叩くような甲高い音がしたのだが、もちろん欠ける様子もない。


「おし! それじゃ、この口周りだけ買い取るわ……あと、悪いがちょっとだけ肉のサンプルももらえるかな?」

「もしかしたら、売れるかもしれない?」

「まぁ、わからん」

「解体は、例の場所でやるのか?」

「ああ、準備ができたら連絡を入れるので、持ってきてほしい」

「わかった」

 オッサンが肉の塊を切り取ったあと、巨大な魔物をアイテムBOXに収納した。


「「「「おおお~」」」」

 再び、観衆から声が上がる。


「あああ~」

 センセから、残念そうな声が。


「いくら欲しくても、こんなの保管できる場所がないでしょ?」

「そりゃそうなんですけど……」

 魔物マニアなら、全部の魔物をコンプリートして、ガラス容器に保管して飾っておきたいんだろうな。


「ダーリン!」

 姫から手を引っ張られた。


「なんだ?」

「その女とくっつきすぎだ」

「大学のセンセだぞ?」

「それでもだ!」

「でも、ほら――俺たちの子どものことも相談しないと駄目だし」

「そうですよ? 計画はお聞きいたしました。非常に興味がありますし」

「ぐぬぬ……」

「センセも、今取ったサンプルを調べないと駄目なんでしょ?」

「あ、そうでした! それでは、また面白い魔物を仕留めたら連絡ください」

「はい」

 センセと別れて、買い取りのオッサンとも挨拶すると、市場を後にした。

 また、あの処理施設にいかないと駄目か。


 姫の機嫌が悪いので、市場を散歩してから帰ることに。

 食料などを買い込んでからホテルに戻った。


 ――そして夕方前。

 部屋にはキッチンがあるので、デカい鍋でカレーを作る。

 ご飯も山程炊く。

 アイテムBOXに入れておけば、いつでも食えるし、高レベル冒険者ばかりなので、とにかく食料が必要だ。


「あ、そうだ――カオルコ」

「なんでしょう?」

「ドラゴンやら、その他諸々の魔物の精算代金が振り込まれてくるらしいので、よろしく」

「承知いたしました」


 カレーを煮込んでいると、メッセージが来た。

 また政府から仕事の呼び出しだろうか? ちょっとうんざりしつつ、スマホを見ると――。


『ダイスケのカレーが食べたい』

 サナからのメッセージだが、これはミオちゃんではなかろうか?

 彼女が、お姉ちゃんのスマホを使って送ってきているみたいだ。


「ミオちゃんだよね? ごめんね」

 ――と、送ったら、女の子が泣いている絵文字が1個だけ送られてきた。


 止めてくれ――その攻撃は俺に効く。


「今、カレーを作っているから、お姉ちゃんに聞いてみて? お姉ちゃんが、いいって言ったら、カレーを食べに来てもいいよ」

 以前、皆で一緒に泊まったホテルにいると、メッセージを送った。


 どうだろうなぁ。


 

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