55話 ダンジョンでデート
大学のセンセと知り合ったのだが、彼女が突然特区にやって来た。
前に話した意思の疎通ができるハーピーに会いたいらしい。
魔物の専門家なら興味があるのかもしれないが、連絡ぐらいはしてほしい。
今日は、暇だからいいけどな。
役所に行って、センセの仮免許をもらった。
もしかして、彼女にも冒険者の素質があるかもしれない。
そうすれば、俺に頼らなくてもダンジョンの調査ができる。
「早く行きましょう!」
「はいはい」
センセを連れて、ダンジョンの入口にある自動改札を通る。
エントランスホールに入ったら、アイテムBOXから自転車を出した。
「やっぱりアイテムBOXは便利ですね~」
「ええ」
「荷物やサンプルも運び放題だし……」
「なんでも運べるから、面倒な仕事を押し付けられたり、ヤバい所から狙われたりしてますけどね」
「え?! やっぱりそうなんですか?」
「ええ、特に私のような容量がデカいアイテムBOXは、もしかして世界に1人かもしれないですし」
「そうですよねぇ……」
話していても仕方ないので、彼女を自転車の後ろのステップに立たせた。
「センセ、運動神経のほうは?」
「まぁ、そこそこです」
「それはよかった」
運動音痴だと、冒険者はちとつらいし。
冷たいダンジョンの空気が頬を撫でる中、俺は彼女を後ろに乗せて、自転車を漕ぎ出した。
暗闇が静かに広がる道を進む。
暗闇にチラチラと浮かぶ冒険者の明かり。
「あの、真っ暗なんですけど、丹羽さんは見えるんですか?!」
後ろからセンセの声がする。
「ええ、高レベルになると、夜目が利くようになる冒険者は多いんですよ」
「それも便利ですね~」
「ははは」
「明かりがたくさん動いているんですが、あれは他の冒険者ですか?」
「そうです」
「ちょっと幻想的ですねぇ」
まぁ、怪我をしたり、下手すると死人が出てたりするんだが。
肩に感じる彼女の手の柔らかさが心地よく、ペダルを漕ぐたびにその感触が伝わってくる。
そのまま自転車を走らせて、2層に進む。
そうすると、いつものように狼が追ってきた。
本当にこいつらは、いつもウザい。
脚も速いから、振り切るのも大変だし。
引き連れたまま、走ってしまうと、トレインという他の冒険者に魔物を擦りつけてしまうマナー違反になってしまう。
しかたなく自転車を止めて、狼と対峙する。
「え?! 狼ですか?! どこにいるんですか?!」
俺はアイテムBOXからバットとケミカルライトを出した。
ライトをセンセに渡す。
彼女がライトを折ると、緑色の光の中に5匹の狼の姿が浮かび上がった。
「わ! 本当に狼ですね!」
「そうですよ」
俺の武器は、最近使ってなかったが、武器屋で特注した強化バットだ。
特殊繊維で覆われた中には砂鉄が入っており、芯にはバネが入っていてよくしなる。
「す、すごい!」
彼女はリアルな魔物に興奮しているようだ。
「センセは、俺の後ろに」
「はい!」
「おらぁ!」
襲ってきた狼にスイングをかます。
「ギャン!」「キャイン!」「キャン!」
3連発ジャストミートで、狼をノックダウンさせると、残りは逃げた。
「ふう……まったくうぜぇ」
「すごい! 鮮やかですね~」
「ここを通ると、いつも狼に絡まれるんですよ。まぁ、列車を使えばいいのかもしれませんが……」
「けど――暗闇の中をあんなスピードで走れるなら、列車は要らないですよね」
「そうなんですよ」
そんなことよりもだ。
「これ、どうするんですか?」
さすが、魔物の専門家だ。
狼をツンツンしたりして、少しも動揺していない。
「収納――消えませんよね?」
「はい」
「こんな具合に、まだ生きているので、アイテムBOXには入りません」
「そうなっているんですね」
「それでは、センセが止めを刺してください」
俺はアイテムBOXから取り出した短剣を、彼女に手渡した。
「私がやってもいいんですか?」
「ええ、センセに冒険者の特性があれば、すぐにステータス画面が出て、レベルアップすると思いますよ」
「わかりました!」
彼女がフンスと気合を入れている。
これまた、「え~?」「ホントにやるんですか?」とか、まったくない。
「うわ!」
彼女の行動に俺は驚いた。
どうして驚いたのかといえば――彼女が狼の頭をライトで照らしながら、短剣を眼窩に差し入れたからだ。
普通はいきなりそんなことはしない。
止めを刺すといっても、腹や胸に剣を突き立てたりするだろう。
狼の身体がビクビクと痙攣している。
「う~ん、駄目ですかね……?」
なんか平然とやっているので、ちょっとドン引きする。
さすが専門家だ。
「まだ、心臓が動いているんじゃないですか?」
「そういう判定なんですか?」
「まぁ、よくわからないんですけどね、ははは」
今度は、彼女が短剣を狼の腹に突き入れた。
臓物がどこにあるのか完全に把握している動きだ。
刃が魔物の身体に埋没すると、センセの身体が光り始めた。
「え?!」
「センセ、やりましたね。ステータス画面が出ますよ」
「本当ですか? でも、これ――いつ終わるんですか?」
「普通は、スライムなどからやるのをすっ飛ばしてますからねぇ」
彼女と話している間に、光が止まった。
「あ! ステータス画面が出ました! いきなりレベル5になってます!」
「やりましたね。もう立派な冒険者ですよ」
「やったぁ!」
これに関しては、彼女が普通の女性らしくはしゃいでいる。
楽しそうだ。
まぁ、普通の女性なら、生き物を殺してしまって、ちょっとげんなりしたり落ち込んだりするんだろうが。
「センセ、ついでに残り2匹も止めを刺しては」
「いいんですか?」
「私はもう、ここらへんの魔物を倒しても、微塵もステータスが変化しないので……」
「ああ、なるほど……丹羽さん、レベルが高そうですものね……」
「ははは」
「ちなみに……どのぐらいなんですか?」
「それは企業秘密です」
「もう!」
彼女がちょっとすねたような表情を見せて、狼に短剣を突き刺している。
表情と行動が一致していない。
これはある意味怖い。
彼女のことを知らない男なら、ちょっとドン引きするかもしれない。
「やりました! いきなりレベル8です!」
「あと数匹狩れば、2層は大丈夫でしょうねぇ」
「あ! 魔法を覚えてます! 光よの魔法って書いてありますけど」
レベル8なら、他の魔法を覚えても不思議じゃないが――個人差がすごいな。
「それは、明かりの魔法ですよ」
「こういうライトがなくても光るんですか?」
「そうです。ちょっと使ってみてはいかがですか?」
「え? いったいどうやって……」
「私も魔法は使えないので、どうするのかは……ちょっと」
彼女が色々と試していたのだが、すぐにやり方が解ったらしい。
こういうのは、なんとなく使い方が解るっぽい。
「光よ!」
俺たちの前に、青白い魔法の光でできた玉が浮かぶ。
「やりましたね」
「すごい! これは解剖したりするときに便利かも!」
「そっちにいきますか、はは」
ダンジョンから離れると、魔法の威力は減衰するのだが、羽田辺りならなんとか使えるかもしれない。
「でも、ダンジョンから離れると、魔法って使えないんですよね……」
「どうでしょう? 羽田辺りならもしかして」
「あとで試してみます」
「学生たちも驚くと思いますよ」
「ええ、多分!」
随分と楽しそうだな。
これってデートっぽくなっているのだが、こんなところを姫に見られたら、厄介だな。
オガさんなら、なにも言わないのに。
「あとは、洗浄の魔法が欲しいですねぇ」
「それって使うと、きれいになるんですか?」
「ええ、血まみれでも、魔法一発でキレイキレイ」
「ほ、ほしい! ほしいんですけど! どうやったら、覚えられますか?」
「こればっかりは、運なので」
「ええ~? そうなんですか?」
これはマジだ。
もう大魔導師レベルになっているカオルコも、洗浄の魔法は持っていない。
目的地はここじゃないので、先を急ぐ。
2層の狼以外は、スピードで千切れる魔物ばかりなので、飛ばしていく。
それに俺も、今日は潜るつもりじゃなかったので、普通の服だ。
センセも、合羽を着ているだけで、防具などは一切なし。
こんなの他の冒険者に見つかったら、「ダンジョンを舐めるな!」とか、また絡まれてしまう。
まぁ、俺が悪いのは解っている。
「速い! 速い!」
後ろでセンセが喜んでいる。
「ははは」
「……」
はしゃいでいたと思ったら、突然黙ったりしている。
彼女の行動がよくわからない。
変わり者なのは、間違いないが。
ダンジョンの中を疾走して階層の境目にある坂を下る。
4層に到着した。
「こんなに速ければ乗り物はいらないですね~」
センセが、魔法の明かりで周囲を照らしている。
最初に出した明かりがここまでついてきた。
まぁ、見える範囲は狭いので、なにも解らないと思うが。
「さて、やつはいるのかな?」
「ここにいるんですか?」
「ええ、いつもは――おお~い! いないか?!」
上からもハーピーらしき鳴き声は聞こえてこない。
「今はいないみたいですが、ちょっと待ってみましょうか」
「はい」
壁際まで移動して、食べ物や飲み物を出す。
食い物のにおいでやってくるかもしれん。
「どうやら、私のにおいを辿っているみたいなんですよねぇ」
「そうなんですか?」
「ええ、かなり深い深層まで、抜け穴を通って私の所までやってきましたので」
「随分と愛されていますね~」
「愛って――ただ、食い物などをあげたので、餌付けしてしまっただけかもしれません」
「ああ、そうなんですねぇ。それが原因なんですかね?」
「解りません。ネットでも、そういう事例はなかったと思いましたから」
「そうですねぇ――私も初めてお聞きしましたし」
もしかして、これも俺の特殊能力の一つかも。
センセがチョコをパクついている。
「は~、チョコは甘くて美味しい……」
「チョコも高くなりましたからねぇ」
「そうなんですよ。大学の給料だけでは、中々食べられません……」
「冒険者になれるんですから、暇ができたらダンジョンに潜りにくるとか? これで生活するのは大変そうですが、チョコ代ぐらいは稼げそうですよ」
「チョコを食べるためのバイトと考えると、いいかも!」
「センセは定職がありますし、そっちのほうがいいと思いますよ」
彼女と話していると、上から鳴き声が聞こてきた。
「ギャー! ギャ!」
「多分ハーピーだと思います」
「あ、生の鳴き声は初めて聞いたかもしれません。ああいう鳴き声なんですね」
ダンジョンは電子機器が使えないからな。
レコーダーなども当然、動かない。
「そうですけど……いつものあいつとはちょっと鳴き声が違うような……」
あいつじゃなければ、タダの魔物で普通に敵――迎撃の用意をする。
俺はアイテムBOXから、武器とボーラーを取り出して回し始めた。
「それで絡めて取るんですか?」
「生け捕りできると高く売れるんですよね~」
「なるほど!」
「一番最初のハーピーもそうやって獲って、外で売ったんですけど――いつの間にかダンジョンに戻ってきてまして」
「――ということは、魔物にも帰巣本能があるってことですね」
すぐにそういう話題が出てくるあたり、さすが学者だな。
襲ってくるのかと思ったのだが――来ない。
そのうち、近くに降りたと思ったら、ペタペタと地面を歩いてきた。
「ギャ」
「あ、お前か」
顔を見せたのは、いつものあいつではなかった。
姫たちと帰還途中で、100mの高さの巣にいた、ちょっとトボけた表情をした個体だった。
そういえば、こいつもなんだか懐いてたな。
「よしよし、お前だけか?」
「ギャ」
彼女を抱きかかえて、俺たちが食っていたお菓子をやる。
「はわ~! ほ、本当に懐いてますね!」
「そうなんですよ。こいつはいつものやつと違いますが、なんだか懐かれてしまいましたね」
「へ~」
「こいつは、他の個体と比べると、少々胸がデカいかも。胸があるのはなにか意味があるんですかね?」
「多分、ここで卵を温めているのだと思いますけど……」
「なるほどねぇ――胸が大きいのは?」
「多分――ピジョンミルクのようなものを出すかもしれません」
鳩は胸の所にミルクを溜めて、雛に口移しで飲ませて子育てするらしい。
「鳩は、口からミルク飲ませますけど――ハーピーは人間みたいな顔をしてますから、胸から飲ませたほうが合理的かなぁ」
「繁殖させた記録がないので、あくまで推測になりますけど」
そもそも、ダンジョンにポップしている魔物は生殖能力がないみたいだしな。
「丹羽さん、ハーピーの卵を見たことがありますか?」
「う~ん、たくさんのハーピーがいた営巣地みたいな場所はありましたが、そこに卵はなかったですねぇ」
ただの、寄り合い場みたいな感じだったのかもしれないが。
「え! そんな場所があるんですか?!」
「7層の、地上100mの高さの場所でしたよ」
「100m! やっぱり高い所が、巣になっている感じですか……」
「みたいですね」
生殖能力がなくても、無精卵を生む可能性があるみたいだな。
俺が卵のことを考えていると、センセがハーピーの下半身をチェックしている。
「下半身は総排泄腔になっていて、完全に鳥ですね」
「でも、上半身には歯も生えているから、砂嚢もないんでしょうねぇ」
「砂嚢ご存知ですか?」
「よく鶏を絞めたんで……ははは」
鳥は歯がないので、丸呑みだ。
そこで砂嚢という器官で、食ったものを擦りつぶす。
砂嚢というだけあって、砂などを蓄えている種類もいる。
俺が絞めていた鶏の砂嚢には砂が詰まっていたな。
ハーピーには歯が生えているから、それが必要ないわけだ。
「そういえば――お前、髪の毛めちゃ伸びてるなぁ」
人間の頭みたいに髪の毛が生えているけど、自分では切れないだろうから、伸び放題なわけだ。
どうやって手入れしているんだろうか。
獣の毛皮みたいに、一定以上は伸びないようになっているとか?
「本当ですね」
アイテムBOXからハサミを出すと、髪の毛を切ってやる。
目にかかっていると、見づらいだろうし。
そう思ったのだが、飛んでいるときにはオールバックみたいになるから、平気なのか?
俺とセンセでハーピーの身体をいじくり回していると、上から声が聞こえてきた。
「ギャ! ギャ!」
「あ、この声はやつかな?」
やっぱり、無事だったか。
それなりに知能は高いみたいだし、冒険者と敵対するより食い物を掠め取ったりするほうが安全だと理解したのかもしれない。
そうすれば、冒険者にやられることもない。
近くに降りた音がする。
ぴょこぴょことやつがやってきたのだが、叫び声を上げた。
「ギャー! ギャ!」
翼をバサバサさせて、爪を向けてきた。
「おい、どうした?」
魔物の本能が目覚めてしまったのだろうか?
慌てて、俺が抱いていたハーピーが逃げ出すと、開いたスペースに彼女が乗ってきた。
「ギャ」
敵意はない。
「なんだ、俺が他のハーピーを抱いていたから、嫉妬でもしたのか」
「す、すごいかも! 完全に意思疎通できてますよ!」
俺がハーピーをなでているのを見て、センセが感動している。
まぁ、俺になでられながら目を細めていて、完全に身を委ねているしな。
「ほら、チョコ食うか?」
「ギャ!」
彼女がうまそうにチョコを食べている。
「嫉妬というか、餌場を取られたんで、怒ったのかもしれないな」
「ああ、確かに――鳥なども、餌場の取り合いをしますしね~」
結構、喧嘩したりするんだよなぁ。
「センセ――今日は私が付き添っているから、こんな場所までやって来れましたが、1人でダンジョン潜ったりしちゃだめですよ?」
「大丈夫ですよ。さすがの私でも、それは無茶だと解ります」
「まぁ、防具をつければ1層は大丈夫だと思いますけど……」
「一層はスライムとかウサギしかいないじゃないですか」
「それは飽きましたか?」
「スライムはスライムで面白いのですが、サンプルがたくさんありますし……」
それもそうか。
「ぎゃ!」
「さて、ハーピーもなでてやったし、そろそろ帰りますか~」
「あの~、この子連れていっちゃ駄目ですかね?」
「多分、私がいないと言うことを聞かないと思いますよ。逃げ出してここに戻ってきちゃうかも」
「ああ、やっぱりそうですよねぇ。多分、丹羽さんだから、大人しくしているんですよねぇ……」
研究材料として、こんなに面白そうなサンプルはないだろうが、ちょっと無理だな。
それに可哀想だし……。
帰ろうとしたら、俺の袖を掴まれた。
「なんですか? まだなにか……?」
「今日はありがとうございました。お礼をしたいんですけど……」
「お礼――そういえば、センセにお願いしたいことがあったんですよね」
「え? なんでしょう?」
「俺と姫とが進めている計画についてです」
「計画?」
計画ってのは、もちろん高レベル冒険者同士で子どもを作るって話だ。
彼女に詳しく話す。
「どうですかね? 興味深くありませんか?」
「面白そう!」
暗闇の中でも、彼女の目が輝いているのが見える。
「やっぱり、専門家がいたほうがいいと思うんですよね」
「私、医師の免許も持ってますから、ぜひとも協力させてください」
「医者の免許もあるんですか?」
「はい」
こいつは強力な味方ができたぞ。
「それじゃ、よろしくお願いいたします」
「はい! ――それはそれで、今日のお礼なんですけど」
「え? ああ、いや――今の話だけで十分ですけど……」
「ええ? 困ります……お礼をもらってもらわないと、次からお願いとかしづらいし……」
「いや、こっちも困るんですけど……」
「……」
彼女に引っ張られて、ダンジョンの隅っこにやってきた。
「いったいなにをするんで?」
俺が困っていると、彼女が予想外の行動をし始めた。
合羽の下を脱ぎ始めたのだ。
つづいでズボンも脱ぐ。
「え~? もしかして、それがお礼ですか?」
「私のだと、お礼になりませんか?」
「いやいや――センセがそういうことをする女性だとは思わなかったので」
「だ、だめですか?」
「いやいや、駄目じゃないですけど」
「それじゃ……」
「なんか最近は若い子に好かれるなぁ……こんなオッサンのどこがいいのやら」
「え? そんなことありませんよ。とても強いですし」
「まぁ、ダンジョンじゃレベルが高いですからねぇ」
「それに、背中が……」
「背中?」
「背中が思ってたよりたくましくて……ドキドキしちゃいました……」
ああ、自転車に乗っていたとき、突然無口になったりしたのはそのせいか。
カオルコもそんなことを言ってたような気がするな。
なにしろ10年畑仕事で鍛えたからな。
耕すために鍬を振ったりすると、どうしてもな。
それはさておき――お礼をくれるというのだから、もらうしかあるまい。
まったくお礼を期待してなかったので、こいつは嬉しい誤算だ。
暗闇の中で、センセと一本勝負をしてからダンジョンの外に出た。
勝負の最中、ハーピーがうるさかったが、まさか嫉妬ではないだろうが。
「本日はありがとうございました」
「次は、事前に連絡をくださいよ」
「はい」
「それから、1人で潜ったりしないように」
「大丈夫ですよ」
本当かなぁ。
まぁ、いいや。
思いがけないお礼も中々よかったし。
ダンジョンの外で、センセと別れてホテルに戻ろうとしたのだが……。
「よぉ! ダーリン!」
声をかけてきたのは、オガさんだ。
「なんでオガさんまで、ダーリン呼びなんです」
「ははは! オガさんなんて、他人行儀は止めてくれよ」
彼女が俺に肩を組んできた。
「はは」
「これからやろうぜ!」
彼女が豪快に笑いながら、あっけらかんとそんなことを言う。
「ええ?!」
「なんだよ~俺じゃだめなのか?」
「そんなことはないが――姫からもOKもらってるし」
さっき勝負したばっかりなんだが……まぁ、高レベルになっているせいで、無制限1本勝負も可能になっているが。
向こうもその気なので、もちろんやる。
それにしても――最近若い子にモテモテじゃね?
冒険者として高レベルになっても、ステータス画面に細かい能力値などは出ていない。
画面に出てないだけで、細かい数値が設定されていて、軒並み上昇しているのか?
たとえば、カリスマ、魅力――みたいな数値だ。
彼女と勝負できる場所を探し、一本勝負をする。
あまり長時間はできないな。
相変わらず、声が可愛い。
これだけで燃えるな。
彼女は可愛いのだから、他の男からもモテそうではあるが……。
「可愛いんだから、君もモテそうなんだが? 俺みたいなオッサンじゃなくても他にいるだろ?」
「あたしより強い男が条件だし……」
「他の男から言い寄られたことは?」
「そんなやついねぇよ……」
彼女が顔を真っ赤にして、そんなことをつぶやく。
可愛いので、なでなでする。
見る目がない連中ばっかり揃ってるな。
こんなに可愛いのに。
彼女の条件が、「自分より強い男だと」しても、アタックしてみる価値はあるだろう。
オガとの勝負のあと、ホテルに帰った。
「ただいま~」
「おっかえり~ダーリン!」
姫と同じ顔の女が、ソファーに座って手を挙げたのだが、彼女は姫ではない。
姫の姉のカコだ。
それよりも――なんで、みんなダーリン呼びなんだよ。




