53話 魚の目
アイテムBOXに入っていたドラゴンなどの大物を納品するために羽田に向かった。
大型の魔物を処理するために、新しい施設を作ったようだ。
今までは、ダンジョンの深層から大型の魔物を運んでくるのはほぼ不可能な状態だったが、今はアイテムBOX持ちの俺がいる。
10mほどにカットすれば、アイテムBOXに収納することができるわけだ。
施設で、魔物を研究している大学のセンセと知り合いになった。
専門家視点からの魔物の話は聞いていて面白い。
新しい知見が得られるし、大切にしたいと思う。
俺が持ち込んだ大物も、すでに問い合わせが殺到しているらしい。
ドラゴンは、世界で初めて仕留められたみたいだしな。
世界中にあるダンジョンでも、そこまで到達した冒険者はいなかったようだ。
もしかして――俺たちと同じように転移トラップで深層に飛ばされたやつらはいるかもしれないが――。
地獄の果てから戻ったのは、俺たちが初めてということになるのか。
魔物を処理している施設を離れて、波止場近くの量販店で食料を大量に買い込む。
食料はありすぎて困るということはない。
いくら買ってもアイテムBOXに入るしな。
そのあと特区に戻った俺だが、失った武器の補充をするために武器屋に向かうことにした。
以前、特注の投擲ミサイルを作ってもらった店だ。
沢山の武器が並ぶショウウィンドウを眺めてから中に入る。
こういうのは見ているだけで楽しい。
まぁ、剣だの刀だの、俺には使えないし。
単純に投げる! ぶん殴る! 俺にはこいつが似合っている。
そういえば、剣などを使っている連中は、剣術の練習などをしているのだろうか?
少し考えてみたのだが、剣術というのは基本的には対人戦闘技術だ。
相手が魔物じゃあまり役に立たないのかもしれない。
そのうち対魔物剣術という流派ができたりして。
「ちわ~」
俺の声を聞いて、奥から年老いた店主が出てきた。
俺の顔を見て表情が明るくなる。
「劣化ウランのお客さん!」
「はは、えらい覚えられかただな」
「失礼いたしました。でも、お客さんでしょ? ドラゴンを倒したという巷で噂のお客さんは?」
「そうそう、知っていたのか?」
「魔物の買い取りをしている知り合いがいましてね。ドラゴンの胴体には劣化ウランが入っていると……そうなると、お客さんしか」
「そうなんだよ。だから、胴体の肉は取らないでくれと言っておいた」
放射能の心配はないが、劣化ウランじたいの毒性は残っている。
「それで、どういう所で、あの武器は活躍したんですか?!」
爺さんの顔は満面の笑みで、俺の話を聞きたそうにしている。
そんなに期待されてしまうと、こっちも話さざるをえない。
「それが――」
俺たちが辿ったルートを説明してやる。
「迷宮教団によって、冒険者たちが深層に飛ばされたという話は聞きましたが、そんなことになっていたとは……」
「タングステンの弾頭だと貫通しなくてな、こいつを使った」
俺はアイテムBOXから一振りの短剣を取り出した。
「これは?」
「おっと、迂闊に触らないでくれよ。なにか要らないものはないかな?」
俺が手に持ったのは、ドラゴン戦のときに使ったドロップアイテムらしき短剣だ。
「ああ、それなら――」
彼が破棄するらしい剣を持ってきた。
そいつを受け取ると、切っ先に短剣を立てる。
「おおっ!」
短剣が触れた所が黒く変色して、剣の切っ先が落っこちた。
「まぁ、こんな具合になる」
「ドロップアイテムですか?!」
「なんでも腐食する特性持ちらしい。こいつを使ってドラゴンの鱗を弱体化させてから、ミサイルをぶち込んだ」
「すごい!」
「もう暗闇に火花が散って綺麗だったぞ、ははは」
実際には死にかけて、それどころじゃなかったけどな。
目をキラキラさせた爺さんは、冒険譚を聞く子どものようだ。
やっぱり自分の卸した武器が、最前線でどのように使われるのか、活躍しているのかが、すごく気になるらしい。
「――というわけで、劣化ウラン弾を使い切ってしまったんだよ。追加で6発ぐらい作れないか?」
「多分、大丈夫だと思いますが……」
「まぁ、無理だったら、数を減らしてもいいよ」
「承知いたしました」
ついでに、普通のタングステン弾芯のものも10発ぐらい注文する。
やっぱり使っていると、血まみれになるし、錆びる。
そうすると徐々にボロボロになってくるしな。
錆があったほうが毒性が上がるかもしれないが、ダンジョンの中じゃ短期決戦だし。
急ぎでやってもらっても2週間ほどかかるらしいので、じっくりと待つ。
まぁ、いきなり深層に潜ることもないと思うし。
トップギルド共同でのアタックの話もあるが――それなりの準備も必要だし。
ついでに、ダンジョンの中で戦闘の経験を積んで、必要だと感じたものを注文する。
「紐ですか?」
俺の注文に店主が不思議そうにしている。
「俺は剣などの扱いが上手くないから、投石器をよく使うんだが、普通の紐だとパワーに負けて千切れてしまうんだよ」
「それで、丈夫な紐がほしいと――なるほど」
「なにかいい素材はないかい?」
「八重樫グループで新しい素材を作ったようなので、それを取り寄せてみましょうか?」
なにやら、魔物の素材の構造を取り入れた繊維らしい。
そういう研究も進んでいるんだ。
「頼むよ」
「かしこまりました」
全力で使っても千切れない投石器、高レベル冒険者が振れば、必殺の武器になる。
――武器を頼んで2日ほどあと。
羽田の量販店から、注文した食料が到着したという連絡を受けた。
弁当などもあるから、早く取りにいかないと。
「姫、ちょっと羽田まで行ってくる」
「む~」
姫がソファーに寝転んだまま、ふてくされている。
「なんで機嫌悪いんだ?」
「サクラコ様、また面倒くさい女になってますよ」
カオルコがすぐに反応した。
「面倒くさいって言うな!」
「なんだなんだ」
「ダイスケさん、姫は散歩につれて行ってほしいんですよ」
「ええ? 羽田に荷物を取りにいくだけだぞ?」
「それでもいいんですよ」
「そうなのか。それじゃ、一緒に行こうか」
「わかった!」
姫がソファーから飛び上がる。
それはいいのだが、女はここからが長い。
キララほどではないと思うのだが――と、思っていたら、やっぱり準備に30分ほどかかった。
「エンプレスはいかないのか?」
「家で、その呼び方は止めてください」
そう言いながらも、タブレットから視線を離さない。
「はは、スマン」
どうやら、小説を読んでいて、一緒には行かないようである。
元々、あまり外を出歩くタイプには見えない。
少々嫌々ながらも、姫に引っ張られて冒険者になったのだろう。
姫の格好は、キュロットスカートに黒いタイツ、上は白いブラウス。
いつもビキニアーマーなので、私服は中々新鮮である。
見せたがりなのかなと思っていたのだが、それは違うようだ。
普段もゆったりとしたパンツ姿だし、基本的に肌は露出させない。
ダンジョンの中では裸みたいな格好なので、その反動があるのかもしれないな。
彼女と一緒に部屋を出ると、エレベーターに乗ってロビーに出た。
ホテルの従業員たちに軽く挨拶をして外に出ると、そのまま波止場に向かう。
特区内に交通がないのが不便な気がするが、ごちゃごちゃしているこんな場所でバイクや車はちょっとヤバい。
実際、輸送に使うトラックなど許可されている車両以外は、立ち入りを禁止されている。
まぁ、俺のアイテムBOXがあれば、それも必要なくなるんだが……。
社会に貢献する――なんて意識高い行動は俺には似合わないしな。
俺はセコいオッサンなのだ。
「姫、自転車でも出す?」
「せっかく、ダーリンと歩いているのに……」
「はは、そうか」
一緒に波止場までやってきた。
空は青く、白い雲が美しいグラデーションを描いている。
波止場には静かな波の音と、遠くでかもめが鳴く声。
波止場には、沢山の乗客と、揺れ動く水面に一緒に上下する小さな船。
彼女の手を握りながら並んで、その船に乗り込んだ。
船に乗り込むと、焼玉エンジンが連続的な音を立てて動き始め――ゆっくりと進み出した。
海に出ると風が少し強まり、涼しい潮風が顔に当たる。
姫の髪が風に揺れ、ダンジョンにいるときには見せないような穏やかな表情。
俺たちは言葉を交わさず、水面に反射して煌めく光景を――この瞬間を共有していた。
いつもは面倒な船での行き来だが、姫と一緒だと中々、乙な時間になるな。
そんなことを考えていると、対岸に到着した。
ゆっくりと船が波止場に近づく。
「おい?! なにか聞こえないか?!」「え?!」
突然、乗客の一部が騒ぎ始めた。
「聞こえる?!」「聞こえるかも」
冒険者は聴力が強化されており、俺と姫もその異変にすぐに気がついた。
なにか鈴のような甲高い音。
「これは、湧きだ!」
姫が叫ぶ。
俺は、アイテムBOXにアクセスして、カメラの準備をした。
外での撮影なので、綺麗に撮影できるだろう。
「湧き?!」「魔物?!」
突然のできごとに乗客たちがざわつく。
俺は剣を出すと彼女に手渡した。
「そいつは安物だから、投げてもいいぞ」
「承知」
すでに彼女の顔つきが変わっている。
さっきまでの穏やかな表情から一転して、戦士の顔だ。
「なにか浮かんでくるぞ!」
乗客が指す方向を見ると、白い背びれが見える。
「なんだ!? サメか?!」
姫も注視しているが――ヒレに筋やトゲが見えるからサメじゃないし、こんなデカい魚がいるなんてありえん。
ダンジョンじゃない場所に、水棲の魔物が湧いたのだろうか?
「どう見ても、違うな――おらぁ!」
俺はアイテムBOXから手のひらサイズの瓦礫を取り出すと、白く見えている背びれに向かって投げつけた。
時速数百キロの瓦礫が着弾した水面に巨大な水柱が立つ。
「きゃあああ!」「うわぁぁぁ!」
降り注ぐ海水もそうだが、水柱によってできた波によって船が激しく上下した。
「これで水中になにかいても、かなりのダメージになるだろ」
水中は衝撃波が伝わりやすい。
川辺で、石やコンクリブロックを叩くと、魚が浮かんでくる。
禁止されている漁法だ。
「船が岸についたら、焦らずに降りろ! 敵は大丈夫だ! 私たちで見ている!」
姫が客を誘導し始めた。
「きゃああ!」「押すな! 押すな!」
「こっちにもなにかいるぞ!」
乗客の1人が反対側を指したので、姫が駆け寄ったのだが、水中からなにか光るものが彼女を襲う。
「姫!」
「くっ!」
とっさのできごとだったのだが、彼女は剣を立てて、それを防いだようだ。
姫の刃に絡みついていたのは、先が3つに分かれた鉄の武器。
「なんだありゃ!」
乗客の指した方向には、まさに悪夢のような姿をした魔物が。
その姿は魚の頭を持ち、鋭い歯がずらりと並んだ口を開け、皿のような目がこちらを睨んでいた。
魚の目が怖くて仕方ないという人がいるが、その人が見たら卒倒するような光景だ。
頭の両側には、エラのようなひだが動いており、水中でも自由に呼吸できるのだろう。
魚の胴体からは、血管が浮いた筋肉の腕が生えており、武器を握る手には鋭い爪が生えていた。
「うわ! キモッ!」
思わず、そんなセリフを吐いてしまったが、俺はアイテムBOXから再び瓦礫を取り出した。
「ダーリン!」
「オラァ!」
敵に向かって投げつけた瓦礫が、魚の頭を半分削り取り、水面に水柱を上げた。
さすがにくたばったのか――武器を離すと、水面にたゆたい始めた。
最初に放り投げた瓦礫のほうを見ると、巨大な白い腹が浮かんでいる。
やっぱり、身体は魚のようだ。
「くそ……生臭い……」
姫が、魔物の身体を覆っていたヌメヌメを被ってしまったようだ。
それが、生臭いにおいを発している。
「「「おおおお~っ!」」」
騒ぎに、波止場の人たちが沢山集まってきてしまった。
辺りを確認するが、魔物はこの2匹だけのようだ。
撮影を終了、カメラを収納した。
「あれは?」「魚の魔物?!」「腕が生えてるぞ?!」「キモい!」
ファンタジーで見かける魚の魔物だが、実際に眼の前にあると、正直キモい。
大学のセンセは、生物的に破綻していないと言っていたが、これもありなのだろうか?
彼女に送ってやったら、喜ぶかもしれない。
スマホを出して写真を取ると、魔物の屍をアイテムBOXに入れた。
「「「おお~! 消えた!?」」」「消えたぞ?!」
「もう一体はどうするかな?」
数十メートル離れた所に白い腹を上に浮かんでいるのだが、ここからじゃアイテムBOXに収納できない。
「あれを引き寄せたいのか?」
俺が考えていると船長がやってきた。
「そうそう、近くにないとアイテムBOXに入らないんだよ」
「それがアイテムBOXってやつか。こいつはぶったまげたな」
「なんとかならんかね? 船を動かすわけにはいかないと思うが……」
「ちょっと待ってな」
船長が船の後ろに行くと、虎ロープを手に持ってきた。
よく見ると、先にはなにか金属がついている。
「こいつでひっかければいい」
「それじゃ、俺がやるよ」
「結構難しいが、大丈夫か?」
「はは、まぁな」
俺には、ものが飛んでいく軌跡が解るという、高レベルの補正があるからな。
ロープの先についた鈎をくるくると回すと、海に浮かぶ白い腹の向こうに投げる。
それを引っ張ると、浮いた屍に引っかかって、こちらにスルスルとやってきた。
桟橋にいる野次馬たちが一斉に端末を掲げている。
「収納!」
屍が消えると、また観客のどよめきが起きた。
「すげー!」「高レベル冒険者だ」
「はいはい、通して~」
野次馬の1人から、声が上がった。
女性の声だ。
「もしかして、桜姫様ですか?!」
「……今は、プライベートなんで申し訳ない」
「きゃー!」
女性たちが手を伸ばしてくるのだが、今の姫はかなり汚れている。
「汚れるぞ」
俺の言葉にも、観客たちは、お構いなしだ。
まったく凄い人気だな。
まるで、大スターじゃないか。
「これじゃ埒が明かない」
俺はその場でジャンプをすると、脱出ルートを探した。
「ダーリン」
「姫、向こうだ」
俺は人混みの薄いほうを指した。
彼女と手を繋ぐと、その方向へジャンプ。
人混みを飛び越して走り出した。
高レベル冒険者の疾走に追いつけるのは、同じレベルの冒険者だけ。
あっという間に、野次馬を撒いて俺たちは人混みの中に消えた。
「さて、姫のそれをなんとかしないとな」
「どこか着替えるところがあればいいんだが……は~」
珍しく、彼女がため息をついた。
「カオルコがいても、洗浄は持ってないしなぁ」
「……」
「洗浄持ちを1人、ギルドに入れるとか?」
「それだけの高レベルがいればいいがな」
「そうか」
これから俺たちは、ダンジョンの深層に突入する。
半端なレベルでは、足手まといになってしまうだろう。
初心者を連れて、浅層でレベル上げするのとは、わけが違う。
――と、いいつつ、俺もまだ初心者だと思うのだが……。
「そうだ! これから注文した食料を受取にいく量販店で、洗い場や更衣室を借りてしまおう」
「それはいいかもな! すぐに行こう!」
「よし!」
姫と一緒に量販店に到着した。
とりあえず、姫には玄関の所で待っていてもらう。
かなり生臭いので、店の中に入るのはまずいだろう。
店に入ると、連絡先を交換した女の子を探す。
「あの~」
店員のオバサンに、女の子のことを聞いてみた。
「ああ! ものすごく沢山の食料を注文したお客さん!」
「そうそう、それそれ!」
「聞いてますよ! いったい、なんに使うんですか?!」
「はは、それよりも――」
話が進まないので、女の子を呼び出してもらうことに。
館内放送が流れると、すぐに玄関に女の子がやってきた。
「お待たせしました!」
「スマンが、連れがちょっと汚れてしまってな。洗い場と更衣室を使わせてくれないだろうか?」
俺は姫のほうを指した。
喜んできたと思ったら、女の子のテンションが下がったのが解る。
俺が女連れでやってきたのが解ったからだろうか?
「ええ? あ、あの、申し訳ございませんが……」
「いい、ダーリン――トイレで着替える」
「そうか、それじゃ替えの服を買おうか」
「わかった」
女の子に待ってもらい、姫の服を買う。
とりあえずだから、ジャージでいいだろう。
紙袋に入れたそいつを彼女に渡す。
「あと、シャンプーいる? タオルは、これぐらいでいい?」
「うむ、助かる」
時間がかかりそうなので、俺は、注文した荷物を受取ることにした。
荷物は倉庫にあるらしいので、従業員通路を通って倉庫に向かう。
「……」
店の女の子は黙ったまま。
俺の名前を知っているぐらいなら、姫のギルドに入っていることも知っていると思ったが。
女の子の後ろをついて、天井の高い倉庫までやってきた。
パレットラックに載った荷物が上まで積み上げられている。
「俺の荷物は……?」
「こちらです」
倉庫の一角に、パレットに載りシートがかけられた荷物があった。
うず高く積まれた大量の食料や飲料。
弁当やらパン、ジュース、牛乳もある。
昔は、安くて栄養があってカロリーがあるといえば、バナナなどが定番だったのだが、今はとても高価で手が出ない。
海外から輸入が簡単にできなくなって、バナナが入ってこないせいだ。
国内で生産している分もあるのだが、中々手に入らない。
同様にチョコレートに必要なカカオなども国内生産しているが、やっぱり高い。
いつも食べているカロリーバーも、あれもいまや高級品だ。
冒険者をやっていなければ、しょっちゅうは食えないだろう。
「おお、ありがとう――パレットももらってもいいのだろうか?」
「いえ、パレットは困ります……」
「そうか――しょうがない」
アイテムBOXから、段ボールを出して、詰め替えると一塊にしてから収納する。
1個1個収納していたら、えらい手間になってしまうからな。
「「「おお~!」」」
いつの間にか倉庫にいた人たちが集まってきていて、俺のアイテムBOXに歓声を上げている。
「あ、あの……」
「なんですか?」
「さっきの人って、桜姫さんですよね?」
「そうそう」
「……」
彼女の表情を見ると――やっぱり、俺が女連れでやってきたので、テンションが下がってしまったようだ。
連絡先を交換するということは、そういうことだとは思ったのだが、やっぱりそうなのか。
個人的には、下心はまったくなく、物資を集めるときに便利かな~ぐらいの気持ちだったのだが。
「物資をゲットするのを君に頼みたかったので、連絡先を交換したんだが、あまり乗り気じゃないなら、他の担当を紹介してくれる?」
「……大丈夫です」
「そう、それなら今後とも頼むよ」
「かしこまりました」
仕事として対応してくれそうだ。
まぁ、好き嫌いで仕事してたら、仕事にならないからな。
荷物を受け取ったので、倉庫の人たちに挨拶をして店内に戻った。
「さて、姫は終わったかな?」
スマホでメッセージを送る――どうやら玄関にいるらしい。
店の玄関に行くと、黒いジャージ姿の姫がいた。
髪をポニーテールにしているのだが、まだ濡れている。
「まだ濡れてるね――においは?」
ちょっとクンカクンカしてみる――と、まだ少々生臭い。
まぁ、トイレの洗い場じゃ頭しか洗えないだろうしな。
これは帰ったら風呂だろう。
「アイテムBOXから、モバイルバッテリーを出せば、ドライヤーが使えるが?」
「大丈夫だ」
「そうか。荷物も受け取ったから――帰る?」
「……」
彼女が複雑な表情をしている。
せっかく来たから、もっと遊びたいような、くさいから早く帰りたいような――そんなところだろう。
――そうはいっても、荷物を受取りにやって来て荷物を受け取ってしまったしなぁ。
「あ!」
俺は、海で仕留めた魔物を思い出した。
撮った写真を大学のセンセに送る。
「こんな魔物が出ましたが、珍しくありませんか?」
こんなところだろう。
「……」
つまらなそうな顔をしている姫と一緒に歩き、桟橋のほうへ向かうと――メッセージが入った。
『きゃー! なんですか、コレ?! 水棲の魔物ですか?!』
「魚の胴体から手が生えているとか、キモいでしょ? ――送信と」
『売っちゃいました?!』
さすが研究者。
魔物の外見がキモいとか、そういうのはどうでもいいらしい。
「こんなの買ってくれるかどうかも怪しいので、アイテムBOXに入ったままですよ」
『それじゃ、持ってきてください!』
持ってくるって――どこへ。
メッセージを送ると研究室に持ってきてほしいらしい。
「研究室ってどこにあるんですか? あまり遠くには行けませんよ?」
センセの話だと、その施設は、この羽田にあるらしい。
マップの座標も送られてきた――めちゃ近くじゃん。
「そこに、シャワーはありますか?」
『シャワー? ありますけど……?』
「やった! 姫、近くに魔物の研究室があるので、そこに行ってみよう」
「……わかった」
彼女も興味がありそうだ。
俺たちは、大学の研究室とやらに行ってみることにした。
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