32話 迷宮教団の影
原発跡地に呼び出され、宇宙に行くような防護服を着込んで瓦礫拾いをした。
これも大金になるというのだから、アイテムBOX様々だ。
高レベルのお陰で、放射能もなんのその。
まったくのノーダメージだ。
――とはいえ、ウランもプルトニウムも放射能がなくなっているので、入ったら即死――みたいな現場ではない。
実はダメージが蓄積されていて、ダンジョンがなくなったと同時に全部清算される――なんてことになったら、世界中がまたパニックだな。
それはさておき、30分ほど瓦礫拾いをしたら、規定の線量になってしまい続きの作業ができなくなってしまった。
冒険者は特例とか、冒険者は除く――そういう法律やルールが整備されていないせいだ。
一緒にいた晴山さんが、総理に連絡してくれたようなので、あとで改善されるかもしれない。
そうしないと、作業が遅れるばかりだ。
作業が続けられないので、東京の特区に帰ろうと思ったのだが、晴山さんからデートのお誘い。
まぁ、以前に見た未整備のダンジョンに行ってみたいだけらしい。
一応、俺も男なんだがなぁ。
誰もいないダンジョンに2人きりなんて、危ないのに。
オッサンだから大丈夫だと思われているかもしれないが――全然大丈夫じゃありません。
オッサンでもやるときにはやるのよ?
それはさておき、ダンジョンでスライム退治をしていると、うさぎがポップした。
色は白くてふわふわである。
見かけは可愛いのだが、こいつは魔物だ――油断大敵。
撮影のカメラも起動させた。
準備ができたので速攻で倒す。
蹴り飛ばしたうさぎが、ボールのように飛んでダンジョンの天井に衝突した。
それを見た晴山さんが悲鳴を上げる。
「きゃぁぁぁ!」
「晴山さん、晴山さん――こいつは魔物なので……」
「で、でもぉ……」
「見てくれは可愛いですが、肉食ですし」
「そ、そうなんですか?」
「ダンジョン初心者が、被害を受けるのはこいつが一番多いんですよ」
そう、見かけによらず、意外と凶悪なのだ。
ジャンプ力があるしとても素早く、対処が遅れる。
俺は初回にうさぎとエンカウントしなかったが、運がよかった。
多分、油断したと思う。
「晴山さん、後ろに回り込まれないように気をつけて」
「は、はい」
なんて言ってると、ぞろぞろと10匹以上のうさぎに囲まれた。
さすがにスレてないダンジョンだ。
数が多い。
「晴山さん、俺の背中にひっついて」
「はい!」
1匹が俺に向かって飛びかかってきたので、メイスを使って叩き落とした。
「オラァ!」
「きゃあ!」
別に魔物の相手をまともにする必要はない。
「岩召喚!」
俺は、以前このダンジョンで収納した岩を出した。
結構デカい岩が、頭上から出現してうさぎどもを押し潰す。
「ギュ!」「プギュ!」
へんな鳴き声を出しながら、次々と魔物が潰れていく。
「ううう……」
晴山さんは、俺の背中にひっついて、前を見ないようにしている。
正解だ。
「よし、だいたい片付いたな――おっと!」
残っていたうさぎが襲ってきたので、はたき落とした。
「ギュ!」
落ちたうさぎを踏み潰して止めを刺す。
「収納っと」
岩をどけると、せんべいのようになったうさぎたちが現れた。
岩の床が、白と赤の斑模様になっている。
カメラもアイテムBOXに戻した。
「み、見ないほうがいいですか?」
「あ~そうですねぇ。ぺったんこで内臓などが飛び散ってますしねぇ」
「ぎゃあ!」
彼女が俺に抱きついてきた。
「そんな感じだと、ダンジョンツアーなどには参加しないほうがいいですねぇ」
「丹羽さんは平気なんですか?」
「私は田舎者ですから、食糧不足のときには、肉をゲットするために山でうさぎを獲ってましたよ、ははは」
「……」
彼女が眼の前の惨状を絶対に見ないように、俺の背中に顔を押し付けている。
さっさと収納してしまおう。
ここは未整備のダンジョンで公開されていない。
本当は撮影は控えたほうがいいだろうが、ウサギやスライムなら、どこのダンジョンでも出るしな。
この映像を見ても場所の特定は不可能だろう。
「収納っと――かなり潰してしまったので、これじゃ金にならないかもしれないなぁ」
そうなると、ダンジョンに捨てるしかない。
まぁ、原発の仕事をやれば、1000億近い金が入ってくるかもしれないんだ。
うさぎぐらいどうってことはない。
魔石も取らないでもいいだろう。
うさぎの死骸がなくなると、ドロップ品が何個か残された。
「晴山さん、なくなりましたよ? 血は残ってますけど」
「ううう……」
「戻りましょうか?」
「は、はい……」
まぁ、ダンジョンの中の冒険にちょっと興味があったのかもしれないが、実際はこんなもんだ。
生き物を殺すってのは、かなりデカい抵抗がある。
俺は、食糧を確保するために、やむを得ずそういうことになってしまったので――悲しいかな、都会の人間よりは擦れてしまっている。
ドロップ品を拾うと、2人で明るい場所に戻ってきた。
ダンジョンの中で解らなかったが、彼女の顔色が悪い。
まぁ、血の海だったからなぁ。
普通はそうなんだよな。
なんかダンジョンでは、生き物を平気で殺しまくっているけど、本当は異常なんだよな。
明るい所でドロップアイテムを確認する。
小瓶に入ったなにかの薬が数個と、指輪が1個。
「お? 指輪かぁ。なにか効果があればいいけどな」
とりあえず、指輪を装着してみたが、効果は解らない。
一層のアイテムだから、そんなに大きい効果は出ないだろう。
ゲームでいう、なにかの数値+1とか、そんなもんだ。
「指輪ですか?」
「ええ、なんらかの数値を底上げするタイプだと思いますけど、現時点では解らないですね」
「政府は、鑑定の能力者を探してますけど……」
「アイテムBOXだって、公表する人がいないんですから――本当に持っている人がいたら、隠すでしょうね」
「丹羽さんは、どうしてアイテムBOXを公表してしまったんですか?」
「ダンジョンの外に魔物が湧いてしまって、それを倒すためにアイテムBOXを使ったんですが、それを特区の住民に見られてしまって……」
「それがなかったら、ずっと隠してましたか?」
「ええ、まぁ――メリットなさそうでしたからねぇ……」
原発跡地の後片付けなんてデカい仕事がやってくるなんて思ってなかったけど。
ダンジョンから出て、コンクリート塀の外に出ると、スマホにメッセージが入った。
人智を超える世界の圏外に出たのだろう。
見ると、総理だった。
『規則で連続作業できない件は、例外で処理してもらうことにする』
あれじゃ仕事にならないし。
まぁ、普通はそうなのかもしれないけど。
返信をする。
「晴山さんから連絡がいったと思いますけど、デカい鉄骨などはカットしてもらわないとアイテムBOXに入りませんし、細かな瓦礫は箱かなにかに入れてもらわないと収納できません」
晴山さんと一緒に、車に戻ることにした。
歩いていると、返信がきた。
『承知した。できる範囲で構わない』
「転がっている燃料棒などは、収納しましたよ。アイテムBOXの外に放射能が漏れている様子もないです」
『すごいものだな……』
まぁ、これこそチートってやつよ。
「瓦礫は、ダンジョンの人がいないテキトーな場所にでも、捨ててもよろしいのでしょうか? それとも、どこかに運ぶ予定の場所があったりします?」
『いや、ダンジョン内で処分するつもりだったから、そちらに任せる』
「それって、ダンジョンでは放射能物質でも吸収されると、実験かなにかをされたのでしょうか?」
『そのとおりだよ』
「承知いたしました」
さて、ダンジョン内といっても人がいるような場所はヤバいだろうな。
一度、深部に潜って捨ててくるか。
ダンジョンの深い場所なら、冒険者はあまりやってこないだろう。
「あの~」
通信が終了すると、晴山さんが話しかけてきた。
「なんですか?」
「あんなに瓦礫などを入れて大丈夫なんでしょうか?」
「う~ん……とりあえず、いっぱいになっている感じはないですねぇ」
「そうなんですか?」
「以前にも、アイテムBOX持ちの方がいらしたみたいですが、こんなには入らなかったみたいですね」
「ええ」
彼女も、その話は知っているようだ。
それとも、その現場にいたのだろうか?
晴山さんと一緒に車に乗り込むと、原発に戻ってきた。
丁度昼頃なので、また作業員向けの食堂で昼食にする。
彼女はさっきのダンジョンで食欲をなくしたのか、アイスコーヒーを飲んでいる。
俺は醤油ラーメンにした。
こういう所のラーメンは冷凍ものだと思うのだが、中々美味い。
ウチの親の時代だと、こういう食堂のラーメンは、ソフト麺みたいなものだったと話を聞いたのだが、テクノロジーは進歩している。
「晴山さんは、どこからか通っているんですか?」
「はい? いえ、近くにある宿舎から通っています」
「そうなんですか? 俺だけヘリ通勤をしてもいいのかなぁ」
「うふふ……事業の大きさからすれば、ヘリのお金なんて微々たるものですよ」
「どこかに知られたら、税金のムダ遣いとか言われそう……」
「そんなことはありませんよ。30年間にわたって税金を使っていたことが、解決するんですから」
実際に、そうだよなぁ。
食事が終わったので、ヘリを呼んでもらった。
毎日ヘリ通勤とは、豪気だよなぁ。
「それでは、また明日」
「はい」
俺はローターの巻き起こす強風の中、ヘリに乗り込んだ。
そのまま空に舞い上がると、30分ほどで特区のホテルに到着。
また、案内のお姉さんのお尻を眺めつつ、外に出た。
いつものように人混みに入る。
「そういえば、司法書士のほうはどうなったかな?」
契約書の内容を確認してもらっている件だ。
スマホで連絡を入れてみると、すぐに返事が帰ってきた。
『問題ないと思います』
「ありがとうございます」
よしよし、これで晴山さんに返答してもいいな――いや、ちょっとまて。
処理水をあの未整備ダンジョンに流すとなると、水攻めするってことになるな。
もしかして、洪水で魔物が退治できたりしないか?
「う~ん?」
水を流し込んで、ダンジョンの深部にいる魔物を倒したら、俺に経験値が入ったりするだろうか?
いや――裏庭に穴が開いて、上から攻撃したら俺に経験値が入ったわけだし。
入る可能性があるな。
実際の経験値がどうなるのか、それはダンジョン次第だから、契約書には盛り込めないな。
所有権が問題になるのは、ドロップアイテムか。
「それじゃ契約書に、ダンジョンで出たドロップアイテムは、丹羽ダイスケのものとする――という一文を追加してもらおう」
早速、晴山さんにスマホで連絡をした。
契約書はOKだが、ドロップアイテムの項目を追加してもらう。
水攻めで魔物を攻撃できる可能性は、伏せておく。
くくく、こちらに有利な情報は明かす必要はないからな。
すぐに彼女からメッセージが来た。
『ドロップアイテムですか? 今日拾ったみたいなやつですよね? 問題ないと思いますよ』
よし! 俺はこぶしを握った。
「よろしくお願いいたします」
『はい』
ダンジョンに潜っていない役人たちに、アイテムの重要性を理解している奴らはいないだろう。
まぁ、水攻めでアイテムがドロップするのかも不明だし、それをゲットできるのかも解らん。
アイテムを拾いに、一々ダンジョンに潜ってもいられないだろうし。
実際にはどうなるのか――とりあえず、やってみないことにはな。
宿に戻ってくると、ミオが帰ってきていた。
「おかえりなさい~」
「ほい、ただいま~」
「えへ~」
俺がエアマットの上に座ると、彼女が膝の上に乗ってくる。
「ミオちゃん~、俺はパソコンをいじりたいんだけど」
「ミオもやる!」
アイテムBOXからノートと、カメラを取り出した。
ミオにもみくちゃにされながらも、動画を取り出してHDDに保存。
動画の編集をする。
今回は、未整備のダンジョンの動画だから、GPSのデータなどは消去した。
これで場所はどこか解らんだろう。
「ミオちゃん、気持ち悪い動画がたくさん出てくるから、観ないほうがいいよ」
「う~ん、どんなの?」
「うさぎがたくさん潰れる……」
「なんでうさぎを潰しちゃうの?!」
ミオが怒っているのだが、説明が難しい。
「なんでって――魔物だし、襲ってくるんだよ」
「む~!」
子どもにはまだ理解できないだろうか。
まぁ、実際に初心者の冒険者も、うさぎの見た目に騙されて、怪我をするんだよな。
彼女も冒険者になりたいと言っているし、いずれはその厳しさに直面するだろう。
一旦、編集を中止するか。
サナが来たら、彼女の相手をしてもらって、その隙にやるか。
俺はアイテムBOXから、お菓子を取り出した。
「ミオちゃん、お菓子食べる?」
「……食べる」
ちょっと機嫌を直してくれるだろうか。
世の中の親御さんは大変だ。
これから、思春期になると、もっと大変だろうし。
「う~ん」
いらぬ心配をしていると、サナたちが帰ってきた。
レンも一緒だが、なんだか元気がない。
どうしたのだろうか?
「あ、ダイスケさんおかえりなさい」
「サナとレン、おかえり~」
「……」
「レンはどうした? なんか元気がないみたいだが……」
「それが……」
サナの話では、ダンジョンで迷宮教団に遭遇したらしい。
「迷宮教団って、もしかして俺が動画を撮っていた、あの裸の女か?」
「そうなんです……」
「君たち、あの新しい深層に潜ったわけじゃないよな?」
「違うわよ!」
そこに化粧を落としたキララが入ってきた。
「そうなのか?」
「私がいて、そんな危ない所に、彼女たちを連れていくはずがないでしょう?」
「それもそうだが……それじゃどこで……」
「出会ったのは、3層だったけど」
サナもレンも、レベルが結構上がっているらしく、3層でも問題ないらしい。
「迷宮教団って、ダンジョンの中を自在に移動できるのか?」
なにかそういう魔法を得ているとか?
それとも、そういうことができるドロップアイテムを持っているとか?
「知らないわよ」
「それで、迷宮教団とレンがなにかあったのか?」
「ええ」
キララによると、女がレンを一目見て、ある女の名前を口にしたらしい。
「それって、もしかして――レンの母親の名前か?」
「そう」
あの裸の女は教団の幹部かなにかだろう。
どう見ても、只者ではなかったし。
それなら、信者の名前を把握していてもおかしくない。
それぐらいに、レンと彼女の母親の顔が似ていたのかもしれないが。
「その女になにか言われたのか?」
「……お母さんは、ダンジョンの中で、元気でやっているからって……」
思い詰めたような顔をしているレンが、ボソリとつぶやいた。
「それって罠じゃないのか?」
「私もそう思うから、言ったのよね」
「母親もいるからって、勧誘だろう?」
「多分ねぇ」
キララが嫌そうに舌を出している。
「レン、そいつらは君の母親をダシにして、君を教団に引き込もうとしているだけだぞ?」
「……うん」
わかっちゃいるんだろうけど、気にするなって言うのも難しい。
とりあえず、これ以上は俺はアレコレ言えんなぁ。
――というわけで、サナが来たので俺は動画の編集の続きをする。
「サナ、ミオの相手をしてやっててくれ。俺がうさぎを潰す動画を編集していたら、機嫌が悪くなってしまって」
「だって、可哀想だもん!」
彼女がお姉ちゃんに抱きついた。
「まぁ、あれの見てくれだけは確かにねぇ」
キララもそう思っているようだ。
彼女は自分のカバンから、道具を出して爪の手入れをし始めた。
伸ばしてはいないが、なにかコートのようなものを塗っているようだ。
こういう商売は、いつ死ぬか解らないから、いつも綺麗にしておけってのが、彼女の持論のようだしな。
「中身は魔物だから、全然可愛くないんだけどな」
「そうそう――私も初心者を集めて話をするときには、『うさぎには気をつけてね』って言ってるわよ」
「思うに、あれを殺れるかが、冒険者になれるかどうかの分水嶺のような気がする」
「ああ、そんな感じはするわねぇ」
「でも、ミオは冒険者になりたいっていってたけど、そうなるとうさぎをやっつけないとだめだと思うけど」
そう言う俺の言葉にミオが反応した。
「うさぎはやっつけない!」
「ええ~?」
「あはは――まだ、子どもだからね~」
子どもらしい言葉に、キララも笑っている。
「それに、中学生になると考え方が変わるだろ? ちょっと斜めに構えたりして『命を奪うのは冒険の摂理だから――』『くっ! 静まれ! 力が封印された私の右手!』みたいなことを言い出して」
「ちょっと! なんで私の昔のことを知ってるの!?」
なんだかよく解らんが、キララが騒ぎ始めた。
「別に知らんが、こういうのは定番だろ? でも、キララ姉さん、ダンジョンができた10年前にはもう結構いい歳だったんじゃないの?」
「まだ若かったわよ!」
「え? そうか~、ははは。それじゃダンジョンができる前から、私の考えた格好いい呪文とかノートに書いてたタイプだな」
「ちょっと古傷をえぐるのは止めてよ! それがマナーってものでしょ?!」
「知らんがな」
そういえば、キララの格好は、ちょっと派手でコスプレっぽい。
彼女が力を入れている化粧もその一環なのだろう。
まぁ、俺にもそういう時期があったし、これ以上はいじらないでおこう。
「今の子どもたちはそういうことしないのかしら……?」
「世界が静止して、娯楽のない時代に育ったから、超現実的だぞ?」
「やっぱり、そうなのねぇ……」
キララが暗い顔をしている。
若い子と会話が噛み合わなくて、滑ったとか――そういう感じだろうか。
「まぁ、ドンマイ」
「はぁ? なによ?」
彼女が訝しげな顔をしている。
少々、レンのことが気になるが、俺にはデカい仕事がある。
キララに任せるしかないな。
それはさておき、動画の編集をしてしまおう。
今回は晴山さんの音声が入っているので、ミュートにしてしまう。
プライバシーの問題があるしな。
戦闘シーンだけつなぎ合わせると、即サイトにアップした。
――原発の後片付けをした次の日。
朝起きると、チャンネルの確認をする。
たくさんのアクセスと、コメントがついていた。
『これってどこのダンジョンだ?』
『うわっ! これってアイテムBOXから出したのか?! えげつねぇ』
『うさぎ相手にこういうことができるってことは、他の魔物相手でもできるってことだよな?』
『ミノタウロスでも平らな石みたいなものを落として倒していたし』
『チートすぎる』
一見して、東京のダンジョンではないと解るらしい。
まぁ、毎日潜っていたら、ホームグラウンドなら解るか……。
朝飯を用意しながら、思いついた。
「原発の食堂のラーメンとかカレーとか持ってこれないかな?」
結構美味かったよな。
一応税金の補助が出ているだろうから、作業員とか関係者以外はだめか?
おかわりするフリをして、1杯2杯ならバレないだろうけどなぁ……。
大金入ってくるのに、そんなセコいことをしなくてもいいか――はは。
皆で揃って朝飯を食う。
毎日通勤するのも面倒などと考えていたのだが、こうやって食事を一緒に摂るってのも大事なことだよな。
金が入ったら冒険者を引退して、特区にビルでも購入してギルドを引っ越す。
キララをリーダーにして金銭的にバックアップする方向に切り替えよう。
――その日から、毎日原発跡地への通勤が始まった。
ルールが変わったということで、俺は連続して作業できるようになり、作業がはかどりまくる。
原発の建屋の内部に散らばっていた瓦礫や燃料棒はすべてアイテムBOXで回収した。
ずっといれっぱなしだが、アイテムBOXが満杯になる気配はない。
細かい瓦礫は集めてなにか入れ物に入れてもらわないと回収不可能だ。
飴細工のようになってしまっている鉄骨なども、10mにカットしてもらわないとな。
それでも、これだけゴミが片付けば、他の作業も進むだろう。
放射線量もだいぶ少なくなったようだし。
最終的には、表土を削ってそれもダンジョンに捨てれば、この悲劇の土地は完全に復活することになる。
俺が原発瓦礫の回収を行っている間に、処理水を入れるタンクの準備も進んできた。
巨大なタンクが大型ヘリで次々と運ばれてくる。
タンクが大容量なので、処理水を移し替える作業も大変だ。
「しかし、このタンクの水をダンジョンに捨てるとなると、入口にあるコンクリの壁をどけないと駄目だなぁ……」
俺のつぶやきに、晴山さんが反応した。
「あ、大丈夫です! もう解体工事は始まってます!」
「そうなんですか? でも、あれがなくなると魔物が外にでたりしないだろうか?」
「もう少し離れた場所――重機が使える場所に、もう少し背が低い壁を作るそうです」
「まぁ、あそこに湧くのはスライムとうさぎぐらいだから、それでも平気かな……」
「私も実地を確認して、総理に報告しました!」
彼女が、フンスしている。
ああ、そのためにダンジョンに入ってみたいと言っていたのか。
巨大なタンクが満水になったので、アイテムBOXに収納する。
「「「おおお~っ!」」」
周りの作業員たちから、歓声が上がった。
タンクは2つあったので、残りもアイテムBOXに入れた。
今までかなりの量を収納しているので、空き容量を心配していたのだが――杞憂だったようだ。
「すごいですね!」
消えたタンクに、晴山さんも興奮している。
「さて、こいつを持っていって、上手くダンジョンに捨てられるかですよ」
「早速試してみましょう!」
「ええ? これってバルブとかついてますが、開け閉めは?」
「ちゃんと、作業員が待機してますよ」
さすがエリート、手際がいい。
仕事は、段取り8割って言うぐらいだからな。
回り道ばかりする俺とはえらい違いだ。
俺は彼女と一緒に、あの未整備ダンジョンに向かうことにした。




