31話 爆心地
原発跡地で、俺のアイテムBOXを使っての、ヤベーお仕事を引き受けることになりそうだ。
準備に1週間ほどかかると聞いていたので、ダンジョンにでも潜るかな~?
――と、考えていたら、政府担当の晴山さんから連絡が来た。
なにやら、他の仕事があるようだ。
まぁ、どうせヤベーやつなんだろうなぁ。
ここぞとばかりに俺に押し付ける魂胆だろう。
受ける限りはしこたま報酬は取るつもり。
国民の税金をぶんどってしまって、国民の皆様――大変申し訳ございませんが、すべて政府の責任です。
俺の仕事の件はさておき、ダンジョンでは高レベル冒険者が次々と消えているらしい。
場所は、新しく発見された階層だ。
確認されていない転移トラップなどが、あるのかもしれない。
それとは関係ないのかもしれないが、ダンジョン内の子どもたちの数が少なくなっているというのも気になる。
単に当局の取り締まりが強化されたせいだろうか?
なにか悪いことの前兆でなければいいのだが。
――朝起きると、昨日上げた動画のチェック。
やっぱりティルトローター機と、特区の空撮は好評だ。
『ええ?! こんなのに乗れるってなに者なの?!』
『特区上空!』
『すげぇぇぇ!』
『メスプレイ! メスプレイ!』
『ティルトローター機、カッケー! これって新型だよな?』
やっぱり男の子はこういうの好きだよな。
今回はアンチコメも少ないようだ。
当然、再生数も爆上げ状態。
また入金が増えるな。
朝飯を食い終わると、晴山さんから連絡が来た。
またホテルの屋上からヘリコプターだ。
「悪い、今日もちょっと遠出するから、もしかして遅くなったり、泊まりになるかもしれない」
「ダイスケの動画観たけどぉ、あんなものに乗って、どこに行ってるの?」
キララも、俺の動画を観たようだ。
「悪いが、守秘義務があるからな。教えられない」
「え~?! ケチィ~!」
「いい歳して、口を尖らすなよ」
「歳は関係ないでしょ!」
あるに決まってるだろ。
口に出しては言わんが。
「皆、ダンジョンでは、ご安全にな」
「「はい!」」
「ミオは、学校でよく勉強してな」
「うん!」
本当は面倒をみてやりたいが、俺と一緒にいるほうが危ないときているからなぁ。
総理は、俺に護衛や監視がついていると言っていたが、この子たちにもついているのかな?
人質などに取られる可能性があるしなぁ。
今度連絡受けたときに聞いてみるか。
俺は皆と挨拶を交わすと、宿の外に出て、ホテルを目指す。
その前に役所のお姉さんに、気になることをちょっと聞いてみるか。
キララ絡みもあるので、連絡先の交換は済ませてある。
「おはようございます。ダンジョン内で子どもがいなくなっているみたいなんだけど、役所は把握してますか?」
すぐに返事が来た。
『はい』
「守秘義務があるとは思いますが、役所が絡んで取り締まりとかしてます?」
『いいえ』
役所絡みじゃないのか……。
う~ん。
俺が気にしても仕方ないことだとは思うが……気になる。
ホテルに到着すると、フロントと話をする。
「おはようございます。丹羽様」
向こうもプロだ。
一発で俺の名前を覚えていた。
数百億の金が入ったら、このホテルをギルドの拠点にしてもいいんだよなぁ。
いや、その前に金があったら、冒険者をやる必要もないんだが……。
新しい拠点のことを考えていると、案内役の女性がやって来た。
また彼女のお尻を眺めながら、エレベーターに乗って屋上を目指す。
屋上に到着すると、ヘリの到着を待つのだが、美人と一緒でもなにも言わずに黙っているのも少々気まずい。
「あの~」
「はい?」
向こうから話しかけられて、俺は少々驚いた。
「毎日、ヘリに乗るなんて――なんのお仕事をなされているんですか?」
「それは秘密です。その前に仕事は冒険者なんですけどね」
「あ!」
俺の言葉を聞いて、彼女はなにか気づいたようだ。
「なにか……?」
「あの……冒険者でアイテムBOXを持っている方が、丹羽さんというお名前だと……」
「そうです、そのオッサンです」
少々珍しい名字だからなぁ。
田中、鈴木、佐藤さんなら、別人です――なんてごまかせるんだが……。
「ヘリも資源エネルギー庁からのご連絡なので、政府絡みのお仕事を?」
「ノーコメント」
「も、申し訳ございません」
向こうもプロだ。
マズイ質問だと解ったのだろう。
客のプライベートには、踏み込んではイカン。
少々気まずい雰囲気になっていると、空から叩きつけるような爆音が近づいてきた。
さすがにティルトローター機ではなくて、普通の小型ヘリ。
俺はお姉さんと別れると、強風の中をヘリに乗り込んだ。
「よろしくお願いします」
挨拶を交わす。
昨日のパイロットとは別の人だ。
毎日飛んだりしたら、そのうち同じ人に当たるだろうな。
そんなにパイロットって多そうじゃないし。
海岸沿いを30分飛ぶと、原発跡地にやって来た。
昨日と同じヘリポートに降りると、下には手を振っている晴山さんが見える。
俺は着陸したヘリから飛び降りた。
「おはようございます」
彼女と挨拶を交わすと、ヘリが再び飛び上がった。
小さくなるヘリを見送る。
「早速ですが、追加の仕事ってなんですかね」
「……あの~、あれです……」
彼女が申し訳なさそうに、遠くに見える銀色の巨大な建造物を指した。
四角い箱の上に円筒形が載っているヘンテコな建物――それはかつて、原子炉があった建屋の成れの果て。
残骸を更に巨大な建屋で囲んで棺桶のようにしているわけだ。
「まさか、原子炉の残骸をどうにかしろと? 以前に見た映像だと、中は飴のように曲がった鉄骨やらでグチャグチャだったような」
「できる範囲でいいからと……」
「ええ~? 言っておきますが、つながっているものなどは、多分収納できませんよ?」
「はい」
かつてはむき出しになった燃料棒の残骸などの高レベル放射線で、近づくことも不可能だった。
燃料のウランも無効化されてしまった今は、それほどの線量ではないらしいが……。
放射能の嵐が吹き荒れているのは、間違いない。
「報酬は、処理水の仕事と同じだけ出すと、総理が……」
「契約もまだなのになぁ……」
「やっぱり、だめでしょうか?」
晴山さんが、上目遣いでこちらを見てくる。
オッサンはそれに弱い。
とりあえず、中がどうなっているのか、興味はある。
こんな機会じゃなけりゃ、絶対に入れないし。
「防護服とか、ガイガーカウンターとかあります?」
「もちろんです! 引き受けてくださるなら、私もご一緒しますよ」
「いやいや、晴山さんは普通の人なんで、あまり無茶はしないでくださいよ」
「いいえ、丹羽さんばかり、危険なことをさせられませんから!」
気持ちはありがたいんだがなぁ。
それに、高レベルの放射線廃棄物をアイテムBOXに入れて、放射能が漏れないか心配だな。
「それじゃ、アイテムBOXにちょっと入れてみて、線量を測ってみましょう」
「アイテムBOXから外に漏れたら大変ですよね?」
「そうそう、その場合は中止ってことに」
「わかりました! 総理にもそう伝えます」
彼女がポチポチと、スマホでメッセージを打っている。
「どう?」
「総理も了承してくださいました」
そりゃそうだ。
俺が歩く放射線源になるわけにはいかないからな。
「う~ん、それじゃ行くだけ行ってみますか」
「ありがとうございます!」
今は、近づいたら即死するような状況ではないだろうし。
ガチでそんなだったら、絶対に受けないが。
張り切る彼女と一緒に、作業詰め所に向かった。
コンクリ造りの普通のビルだ。
こういう場所ってプレハブ建築のイメージがあるのだが、事故から早30年だからなぁ。
鉄むき出しの階段を上って、詰め所の事務所に入った。
中には机が並び、グレーの作業服を着た男女が座っている――普通の事務所という感じ。
晴山さんが、そこの所長らしき人と話している。
頭の禿げたオッサンがこちらをチラチラみている。
ここがなくなると仕事がなくなるかもしれない人だな。
作業員の1人が案内してくれるらしい。
ちょっと背が高い若者だ。
「こちらです」
男について行って1階に降りると、扉を開けて中に入る。
さらに奥に扉があり、そこを開いて中に入った。
薄暗い部屋の中に――映画で観たようなオレンジ色の防護服が並んでいる。
宇宙服みたいな格好だが、デカい風防がついていて、視界がよさそうだ。
こいつは1人では着られないらしい。
重い服に手足を通すと、晴山さんに手伝ってもらう。
彼女が着替えるときには、俺が手伝うのだが、ちょっと気になることが……。
「これって、中は暑くないかい?」
「これは、空調がついている高機能作業服なので、大丈夫ですよ」
「なんか背中に機械がついているのは空調か」
「そうです」
「晴山さん、結構重いと思うけど平気かい? 俺は冒険者だから、大丈夫だが」
「だ、大丈夫です」
そこに男が割り込んできた。
「冒険者の普段ってどんな感じなんですか? 高レベルだと凄い力なんですよね? 力の加減とかどうしてるんですか?」
「普段は平気だけど、咄嗟に動いたりするとだめだね。パワーのセーブが上手くできない」
「へ~、そんな感じなんですね」
なんだか、男が興味津々なのだが……。
「冒険者に興味があるのかい? あまりおすすめしないけど」
「けど、一度はやってみたいじゃないですか」
そういうものか。
俺は、偶然力をゲットしてしまったが、それがなかったら冒険者になろうとは思わなかったがなぁ。
着替えを完了したので、3人で建屋の廃墟に向かう。
――のだが、男が俺たちをつれてきたのは、詰め所の裏。
そこには、小さなオープンカーがあった。
箱にタイヤとライトがついたようなシンプルな格好。
どうやら電気自動車らしい。
この格好だと、ちょっと普通の車に乗り込むのは大変そうだと思っていたら、こういうものがあったのか。
3人でオープンカーに乗り込むと、巨大なタンクの谷間を縫って現場に向かう。
宇宙服を着込んで、月面探査に向かうような気分だ。
徐々に銀色のデカい墓標のような建屋が近づいてきた。
上に載っている円筒形のものはなにか意味があるんだろうか?
「中には入れるのかい?」
「ええ、燃料棒が無効化されましたから――それで少しずつですが、処理が行われていたんですよ」
「それを全部俺に押し付けようという魂胆か……」
「あの――アイテムBOXって本当にあるんですか?」
「ええ、もちろん。そんなわけで、今こういう状況になっているわけで……」
「作業員からも聞いたのですが、巨大なものが目の前から消えるとは信じがたくて……」
まぁ、そうだろうなぁ。
10年前、世界は突然変わってしまったが、それでもアイテムBOXってのは超常のものだ。
それにしても、彼はすごくダンジョン関係に興味津津だな。
世間の関心は、そうなのかもしれない。
彼と話している間に、銀色の巨大な建屋に到着した。
男性が、現場の監督らしき人間と、あれこれ話している。
相手が頭を抱えている気がするのだが、気のせいだろうか。
「大丈夫です。行きましょう」
「はい」
「線量計のスイッチを入れてください」
「え? あ、はい」
そういう装置もついているのか。
マジで宇宙服だな。
彼のあとをついて、建屋の金属製の粗末な階段を上っていく。
空調がついているので、動き回っても涼しい。
重たそうな金属製の引き戸に男性が苦戦している。
「手伝うよ」
「はい」
鉄の塊が鈍い音を建てて開いた。
高レベルパワーがあれば、このぐらいは余裕だ。
「すごいですね」
「はは、冒険者だからな」
扉が開いたので、中に入った。
途端に、線量計の音が激しくなる。
「うわ……」
瓦礫や鉄骨が転がる事故現場は、まるで時間が凍りついたかのような光景だ。
天井の小さな窓からわずかな光が斜めに差し込み、そこには無機質な鉄やコンクリートが、無情にも砕け散り、散乱している。
空気は静寂に包まれ、生命の息吹すら感じられない。
まるで、そのまま永遠に固定されたかのような錯覚を覚える。
かつてはここが稼働して日本中に電気を送り出していたのだろうが、今はそれらもすべてが失われ、ただ廃墟としての残骸だけが残されている。
まるでこの場所が今もなおその悲劇の余韻に包まれているかのような気配を感じさせる。
時間が止まったその現場は、ただ無機質な残骸が静かに語りかける、過去の記憶の断片だけが残る場所となっている。
「ここにはどのぐらいの時間いられるんですか?」
男性に質問をする。
「通常は30分です」
「それじゃ――とりあえず入れられる瓦礫をアイテムBOXに入れて、外で線量を測ってみてもいいですか?」
「え? あ、はい! もう、丹羽さんにお任せいたします」
「危険なら、外で待たれていても結構ですよ」
「いいえ、一応監督する立場なので……」
俺の言葉に男性が答えた。
まぁ、なにかあったときに、現場の責任者がいないと困るのだろう。
――ということは、この男性はそれなりの立場ってことになる。
晴山さんと同じような、資源エネルギー庁からの出向組だろうか?
「さて、行くか」
建屋の内部には、ぐるりと鉄筋でできたキャットウォークが張り巡らされている。
それが幾層にも重なり、階段で下へのアクセスも可能だ。
俺はそれを使って、下に降りた。
下に向かうほど線量は高くなっているようだ。
「丹羽さ~ん! 大丈夫ですか?!」
上から晴山さんの声が聞こえる。
「大丈夫ですよ」
彼女はスマホで動画撮影をしているようだ。
多分――こういうことをしてました――みたいな、総理への報告用だろう。
俺はそのまま下に降りて、瓦礫の地面に到着した。
この生き物の気配すらない灰色の景色が爆心地か……。
とりあえず、転がっていて、他につながっていたり絡んでいないものをアイテムBOXに入れていく。
おおよそ10mのものが入るらしいので、結構色々と取り込める。
デカいコンクリートの破片なども、収納できた。
こいつを魔物の上に落としたら、攻撃に使えるかもな。
そのまま灰色の景色の中を建屋の中心に向かって進むと――地面に大穴が開いていた。
「ここが地獄の入口か」
その中には多数の細長い物体――多分、あれが原子炉の燃料棒だろう。
以前は、ここに近づいただけで即死レベルの放射線を浴びたに違いない。
今は――確かに線量計の音はけたたましいが、死ぬようなレベルではない。
それでも、普通の人が長時間浴びれば、ヤバいかもな。
目につくような大きな瓦礫は収納できたので、俺は一旦引き返すことにした。
かなりの瓦礫を収納したはずだが、まだいっぱいになった感じではない。
いったいどのぐらいの量が入るのだろうか。
「丹羽さん! 大丈夫でしたか?」
晴山さんが、心配そうな顔をしている。
「ああ、問題ないな。巨大なものは10mにカットしてもらわないと収納できないし、細かな破片はなにか入れ物に入れてもらわないと、効率が悪い」
「は、はい! 総理にそう報告させていただきます」
一旦、俺たちは外に出ることにした。
建屋から離れて、線量計を確認――大丈夫だな。
「アイテムBOXから、放射能が漏れたりはしないようだ」
「やっぱり、便利ですねぇ!」
男性が興味津津である。
「中では時間がすごく遅いか、もしくは止まっているらしい」
「へぇ~」
「大丈夫そうなので、私は引き続き他の建屋で作業をしてもいいですか?」
アイテムBOXにはまだまだ入る。
「あの~、それなのですが……」
男性が申し訳なさそうにしている。
「なにか?」
「規定量の放射線を浴びた場合は、健康診断を受けていただく決まりになっていまして……」
「私も例外ではないと?」
「はい、申し訳ございません」
まぁ、法律に冒険者はタフだから冒険者は除く――とは、書いてないのだろう。
ここらへんは、いかにもお役所仕事的だが、彼らの立場というものもある。
無理強いはできないな。
つ~か、俺ならこの宇宙服もいらないんじゃないのか。
「解りました」
彼らと一緒に、またオープンカーに乗り込み、事務所近くにある白い建物にやって来た。
中に入ると、診療所のよう。
作業服を脱いで、健康診断を受ける。
診察は頭の禿げた初老の医者と、女性の看護師。
俺が装着していた線量計を眺めて、脈を測ったり、血圧を測ったり、血液検査もしている。
放射線を受けると、白血球が減少したりするんだっけ?
そういうのを確認したりするのだろう。
「だるいとか、吐き気とかは?」
丸い椅子に座った俺の胸を聴診器でペタペタしている。
「ありません」
「う~ん、冒険者なんだっけ?」
「はい」
「放射線に強いって聞いたんだけど、本当なのかね?」
こういう現場の医師には、伝わっていると思ったのだが、そうではないだろうか。
「総理の話では、そういう実験をやって、立証されていると仰ってましたが……」
「ふ~ん……」
カルテになにやら書き込んでいる。
信じているのか、いないのか。
実際に、なんともないし。
もし、なにかあっても、ダンジョンに行って回復薬を飲めば治るんじゃないのか?
思考がダンジョンベースになっているのだが、自分でも危険だと思う。
世の中が全部そうなってしまって、ある日突然にダンジョンがなくなったらどうなるのだろう。
診察の結果は問題なしだが、数日作業はできないらしい。
なんだよ面倒だな。
まぁ、そういう決まりになっているのだから、冒険者は例外ってことにできないのかもしれないな。
これで、今日はやることがなくなってしまった。
30分の作業で終了だ。
「晴山さん、冒険者に作業をさせるなら、法律の改正をしてもらわないとだめじゃない?」
「それも、総理に伝えさせていただきます!」
「もう、それじゃもう帰るかぁ……今から帰れば昼からちょっとダンジョンに潜れそうだし」
「それじゃ! あのダンジョンに行きませんか?」
「ダンジョンって、あそこですか?」
「はい!」
彼女が言っているのは、俺と一緒に少し入った未整備のダンジョンだ。
「大丈夫なんですか? 公私混同では?」
「管理は私に任されていますし……調査だと言えば、誰も怪しがりませんよ」
「私は構いませんけどねぇ――あそこは、擦れてないので、アイテムのドロップも多そうだし」
「それじゃ行きましょう!」
なんだか、彼女がすごく張り切っている。
一応、俺も男なんだがなぁ。
そういう所に2人きりというのは、マズイと思わないのだろうか?
それともオッサンだから、大丈夫だと思われている?
まぁ、そりゃ手を出したりはしないけどさぁ……誘われたりすれば、ゲフンゲフンだけど。
ちょっと複雑な心境ではあるが、あのダンジョンは面白そうだ。
彼女がいなければ、奥まで入ってみたいと思う。
誰も入ってないってことは、お宝もあるかもしれないし。
そうと決まれば、彼女の運転する車に乗って、ダンジョンに向かう。
山の中を進み、警備員と鍵のかかっているフェンスをパスして、谷間に鎮座しているコンクリの壁にやって来た。
彼女の鍵を使って扉を開け、ダンジョンの中に入る。
前に来たときと同じように、湿気とカビくささが俺たちを出迎えてくれた。
俺はアイテムBOXから、鉄筋メイスを出した。
浅い層の魔物には、コレが丁度いい感じらしい。
敵とエンカウントしてもいいみたいなので、俺はカメラの準備をした。
「今日はちょっと奥に行ってみませんか?」
晴山さんが張り切っている。
「ええ? 大丈夫なんですか?」
「丹羽さんがいるじゃないですか」
彼女の目がキラキラで、子どもみたいな目だ。
「なんでまた――ダンジョンに興味あるんですか? 特区に観光用のツアーもあるらしいですけど……」
「そういうのは生の冒険者の活躍じゃないじゃないですか!」
「いや、確かにそのとおりですけど」
どうもやる気マンマンなので、彼女にケミカルライトを手渡した。
俺も撮影を開始する。
「丹羽さんは、平気なんですか?」
「俺は真っ暗でも見えるから」
「ええ?! すごい! ライトなどがなくても見えるんですか?!」
「まぁ、色は白黒だけどね」
「へ~」
などと言っていると、スライムがやって来たので、早速倒す。
バラバラと回復薬が出てきた。
やっぱり、ここはスレてないのか?
もっと整備したほうが――とか思っていたら、すぐにアイテムはドロップしなくなった。
やっぱり、最初だけだったようだ。
「丹羽さん! 丹羽さん!」
「なんですか?」
「うさぎですよ! うさぎ! 可愛い!」
俺は素早く白いふわふわに近づくと、思い切り蹴り上げた。
「おっしゃおらぁぁぁ!」
「きゃぁぁぁぁ!」
ダンジョンの中に晴山さんの悲鳴がこだました。
あ~、もう。
こうなるんじゃないかと思ってたよ。




