30話 未整備ダンジョン
アイテムBOXを使った政府関係の仕事をするために、原発事故の現場にやって来た。
プルトニウムやらウランなどの重元素は無力化されてしまったが、コバルトやらストロンチウムやら、セシウムなどの放射性同位体は残っている。
現在でも危険は危険なのだが、高レベルの冒険者は、放射線による遺伝子の破損を即座に修復してしまうらしい。
まして俺は、かなりの高レベルだし。
問題ないのかと思う。
そういえば、以前に使ったエリクサーとやら、酷い放射線障害なども治療できるのだろうか?
先天性心疾患なども治るのだから、治るんだろうなぁ。
現場で俺の担当になってくれたのは、晴山さんという女性。
資源エネルギー庁の役人らしい。
危険な仕事だと思うのだが、面白そうということで手を挙げたようだ。
笑っているのだが、中々の豪傑ではなかろうか?
そんな彼女の車に乗せられて、山の中に案内された。
到着した所にあったのは、森の中にあるコンクリートの壁。
丁度谷間にすっぽりとハマったような形になっている。
「いったいなんですか? 秘密基地?」
「うふふ、こっちへ来てください」
彼女が誘うほうに鋼鉄製の扉がある。
晴山さんは、そこの鍵も持っているようだ。
電子キーなどではなくて、機械的なシリンダー錠。
彼女と一緒に扉をくぐる。
「おお~っ」
不気味な黒い穴は、岩肌の暗い色合いが深い陰影を生み出していた。
その口はまるで巨大な獣が咆哮するかのように、暗闇から漆黒を吐き出している。
入り口の周りは、薄暗い光がほんのりと差し込んでいるだけで、洞窟の奥深くへと延びる暗闇には何も見えない。
そこからは、不気味な生物の気配や未知の存在が潜んでいるかのような、強烈な恐怖感が漂っている。
入口はコンクリで固められ、下につながるように、スロープになっている。
「驚きました?」
「これは――ダンジョンですか?!」
「はい、未整備のダンジョンです」
「ああ、もしかして――ここに放射能廃棄物を捨てようということですか?」
「そのとおりです。前々から計画があったのですが、運搬の手段がなかったんですよね」
「まぁ、こんな山の奥ですからねぇ」
それにダンジョンの周りでは、トラックや重機も使えない。
そういえば、ここにあるコンクリの壁はどうやって作ったんだろうか?
もしかして、みんな手作業?
「それが、丹羽さんの出現で、にわかに現実味を帯びてきたわけです」
「ははぁ――なるほどなぁ」
ついでに、どうやってここを作ったのか聞いてみた。
「詳しくは知らないのですが、蒸気で動く重機を使ったらしいですよ」
「へ~」
――とは言うものの、そう簡単ではない。
電気は使えないので、全部機械式の蒸気機関だ。
昭和の蒸気機関車みたいなものだろうし、扱うには熟練職人技が必要だろう。
昔、蒸気機関車を運転していた方々などは、生きていないだろうし。
ゼロから育成したのだろうか?
ちょっとダンジョンに入ってみたのだが、俺のあとを晴山さんもついてきた。
入口にデカい岩がゴロゴロしていたので、アイテムBOXに入れる。
こいつは攻撃に使えるだろう。
「へ~、これが未整備のダンジョンか。本当に洞窟って感じがするなぁ」
すごく湿っぽいし、カビ臭く、なにやら生臭いにおいも漂ってくる。
ここが入口ってことは、1層のはず。
敵は、スライムなどか。
「私、ダンジョンに入ったのは初めてです!」
なにやら興奮しているようなのだが、興味があるなら冒険者になれば――なんてな、苦労して公務員になったのに、そんなことしないよな。
今は公務員が人気の職業で、倍率もめちゃ高い。
そもそも、大学に行ける人が少ない状況だ、よほど余裕がある家庭じゃないと、中々難しい。
インテリは公務員、貧乏人は冒険者ってのが、今の主流だ。
そして冒険者特性のないやつは、一次産業へ。
ダンジョンといっても、入口からの光があるので明るい。
もう少し進んだら、真っ暗だろう。
一応、上下左右を確認する。
「おっと!」
「きゃ!」
緊急事態に晴山さんの腕を掴んで引っ張った。
ちょっと勢いよく引っ張ったので、レベルの補正がかかってしまったかもしれない。
彼女のいたところに、デカいスライムが落ちてきたのだ。
ここは天井から来るのか。
中々やっかいだな。
俺はアイテムBOXから、鉄筋メイスを取り出すと横に薙ぎ払った。
「おら!」
透明な軟体生物の身体が抉れて動かなくなる。
「こ、これってスライムですか?!」
「そうそう! ちょっと乱暴に引っ張ってしまって申し訳ない」
「ちょっと痕がついちゃっているかも……」
彼女が腕の部分をさすっている。
「あちゃ~」
後悔している暇がない。
周りをスライムに囲まれてしまった。
さすが、擦れてないダンジョンだな。
獲物が豊富だ。
「あちゃ! おちゃ! 玄米茶!」
オヤジギャグを入れつつ、スライムを叩き潰す。
10匹ほどのスライムの山ができた。
そういえば、コレも金になるとか言ってたがなぁ。
大金入ってくるかもしれないのに、スライムを拾うこともなかろう。
「すごいですね!」
「お?! ポーションだ」
ラッキー! なんと3つも瓶が落ちていた。
これはあれか? 誰も倒してないから、ドロップが溜まっているのだろうか?
そんなことはないと思うんだがなぁ……。
「それが、回復薬ですか?」
「そうそう、飲んでみます? 痣が治りますよ」
「本当ですか?!」
「魔物に襲われた傷でも治りますから、そのぐらいはすぐに治ると思いますよ」
「飲んでみます!」
好奇心旺盛だなぁ。
好奇心は猫を殺すっていうのだが、大丈夫だろうか?
彼女は躊躇なく、ポーションを飲み干した。
本当は特区以外で回復薬を使うと薬事法違反になる。
まぁ、お目溢しされている状況ではあるが。
「美味しくないでしょ?」
「そうですねぇ。本当に薬みたいです……あ!」
「どうしました?」
「ちょっと痛かった腕が治ったかも! それに肩こりも治ってるかも! すごい! もっと欲しい!」
「ああ、ポーションはダンジョンで使わないとあまり効果が上がらないみたいですよ」
「それってネットでよく見かけますけど、本当なんですか?」
「本当ですよ」
いつまでもここにいるわけにはいかないので、外に出た。
ダンジョンにポップするのがスライムだけなら、塀を作っただけで防げるだろうな。
こんな山の中のダンジョンじゃ、交通の便が悪すぎるし。
村興しに使えそうな気もするが、基本は危険な代物だしなぁ……。
やっぱり東京湾の特区ってのは、条件が揃っていると改めて思う。
現地の視察は済んだので、原発跡地に戻ることにした。
「このあとの予定はどうなるんでしょう?」
「タンクの製作に1週間ほどかかりそうですねぇ」
「それじゃ、そのときに、またここにやってくるわけですね」
「はい、お手数ですが、よろしくお願いいたします」
彼女がペコリとお辞儀をした。
役人というと、高圧的な印象があるのだが、いい方でよかった。
「それはいいですが、契約書とかありますか? 会社を登記したので、会社との取引にしたいんですが」
「もちろん可能ですよ。報酬が数百億となると、個人との取引は難しいでしょうから」
ああ、俺がふっかけた報酬の話はもう伝わっているのね。
個人じゃ難しいというか、税金とられるだけだしな。
「それで、今日はこのあとどうなります? まさか、自力で特区まで帰れとかいいませんよね?」
「まさか! ヘリを用意しますので、それを使ってください」
「仕事が始まったら、ここに泊まり込みですかねぇ。毎日帰っていられないし……」
「宿泊施設も用意しますから、私もおつきあいいたしますよ」
「なんか、すごく大変なお仕事のような……」
「それを言ったら、丹羽さんのほうが大変だと思いますから、あはは」
明るく笑っている彼女だが、原発跡地に単身赴任――中々ハードな仕事だ。
そりゃ役人仲間は誰も手を挙げないよな。
まして、アイテムBOXを持っているオッサンのせいで、襲われる可能性があるってんだから。
「あの、ここで仕事を始めるとしますよね?」
「はい」
「原発跡地から、あのダンジョンまで毎日車で通うんですか?」
「いいえ、ヘリポートを建設しているので、ひとっ飛びですよ」
「よかった――アイテムBOXに入れる度に、車で移動するのかと思いました」
「期間が長引くとそれだけ経費がかかりますから」
「作業員は私たちだけってことはないでしょうしねぇ」
「ええ、もちろんですよ。現場で補助作業をする作業員が多数投入される予定です」
ダンジョンの近くじゃ機械が動かないから、どうしてもマンパワーが必要になる。
工事で一番高いのが人件費だし。
原発跡地に戻ると、すでに昼。
「昼食を摂られてから、戻られたらいかがでしょう?」
「そういえば、腹が減りました。食べる所があるんでしょうか?」
「こちらです」
彼女に案内されたのは、作業員が集まっている食堂。
補助金が出ているらしく、安い。
俺は、カツカレーを2つ頼んだ。
少々ダンジョンで暴れたので、腹が減った。
晴山さんと一緒に隅っこのテーブルに座って食べることにした。
彼女もカレーを選んだようだ。
とりあえず、どんな所でも、カレーを頼んでおけば大外れってことがない。
東京に住んでいたときに、通勤路に立ち食いそば屋があったんだが、そば屋なのに客の誰ひとりとしてそばを食っていない。
みんなカレーを食っている。
不思議に思いつつも、俺はそばを頼んでしまったんだが、大後悔した。
とにかくクソまずかった。
そんな店でも、カレーは普通に食えたので、常連客はカレーを食っていたのだ。
同じパターンで、ラーメン屋なのに客の誰もラーメンを食っていないラーメン屋というのもある。
そこで客が食っていたのは、チャーハン。
――というわけで、どこでもカレーとチャーハンだと、とりあえず食える。
前置きが長くなったが、食ったカレーはとりあえず無難な味。
可もなく不可もなく――カツはペラペラだったが。
「そんなに召し上がるんですか?」
「冒険者ってのは、腹が減る商売なんですよ」
「へ~」
「ははは」
「でも、本当にアイテムBOXって便利ですよねぇ」
「ええ、ゲームでこういうのをチートっていいますけど、マジでチートだと思いますよ」
「あはは」
作業員がたくさんいる食堂で昼食を済ませると、ヘリを呼んでもらう。
やってくるのは、朝のようなティルトローター機ではなくて、普通のヘリらしい。
多分、2人乗りの小さなやつだろう。
彼女と冒険者談義などをして1時間ほど待つ。
そのあいだに、彼女とSNSの連絡先の交換などをしていると、ヘリがやって来た。
やっぱり、丸い風防が目立ち脚にはスキッドが装着されている小さなタイプだ。
まぁ、小さくたって車で下道を走るよりは速いだろう。
「それでは、予定が決まりましたら連絡をください」
「承知いたしました」
ローターからの強い風で、髪がくしゃくしゃになりながら彼女が答えてくれた。
最後の挨拶をすると、俺はヘリに走る。
ドアが開いたので、そこに乗り込んだ。
「お願いします~」
「はい、出発します」
ヘリが浮き上がると、みるみる原発跡地が小さくなる。
あのタンクの山を全部なくすのか?
マジで大変だな……。
まぁ、全部片付ければ500億!
それだけあれば、死ぬまで左団扇だ。
そういえば――ある日突然にアイテムBOXの能力などがなくなったら、信用してもらえるんだろうか?
「もう、アイテムBOXは使えなくなったんです!」
「嘘をつくな!」
――などと、拷問などをされたりしないだろうな。
ゲットしたスキルが最終的にどうなるのか、いまいち解ってない。
冒険者を引退するとどんどんレベルが下がるから、それに従いスキルもなくなると思うのだがなぁ……。
そういうことを確かめるのにも、鑑定の力を欲しがるのも当然ともいえる。
つまらんことを考えていると、特区が見えてきた。
原発跡地近辺は撮影を控えていたが、ここならいくら撮っても平気だろう。
これは、また再生数を稼げそうだぞ。
まぁ、大金が入るから、動画をせっせと上げる必要もないのだが……。
政府を信用してないわけではないが、本当に金がもらえるのかもまだ解らんしな。
せっかくバズって再生数も爆上げしているし。
選択肢は多いほうがいい。
チャンネルの維持に勤めよう。
そういえば――東京上空の制空権は米軍が持っているみたいな噂があったのだが、今はどうなっているのだろう。
日本各地にあった米軍基地は、すでにない。
世界が静止してしまって、それどころではなくなってしまったせいだ。
コンピュータは動かない、核は使えなくなった。
攻めてくる可能性がある国がなくなってしまったのだから、それに予算を割いていられない。
それよりも、自分の国を立て直すのに精一杯だった。
それは日本もそうだったが。
ホテルの屋上に着陸すると、出発したときに見送ってくれた女性がまた来てくれた。
彼女がここの担当なのだろうか?
ヘリを下りると彼女の所に駆け寄った。
「ありがとうございます」
「おかえりなさいませ」
突然、そんなセリフを聞いて、俺はちょっと照れてしまった。
まぁ、ホテルに泊まっているときに外出から戻ると、そう言われるか……。
「あなたがヘリポートの担当なのですか?」
「はい、そうです」
「これから、度々お世話になると思うので、よろしくお願いいたします」
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします」
「ぶっちゃけ、ここのヘリポートを使うと、ホテルにお金って入るんですか?」
「ええ、もちろん」
彼女が笑っている。
まぁ、そうか。
ホテルも商売でやっているわけだからなぁ。
泊まり客がドクターヘリなどを使ったのなら、請求はしないとは思うが……。
彼女と一緒にエレベーターに乗ると、1階に降りてきた。
まずホテルの従業員が一緒じゃないと、このエレベーターには乗れないし、屋上にも上れないな。
政府側の担当は、あの晴山さんなので、彼女からこのホテルに連絡がいくのだろう。
そう考えると、大変な仕事だな。
俺はホテルを出て、宿に戻った。
カウンターに、オバちゃんがいる。
「あんた、またソロになったのかい?」
「いや、ちょっと危ない仕事を頼まれてしまったんで、一緒に行動できないんだよ。女の子たちはベテランの女冒険者に任せてる」
「あの女の人も結構やりそうだしねぇ」
「まぁ、真面目にやれば、それなりの実力はあると思うよ」
レベルが20以上ってことは、結構高いはずだし。
オバちゃんと世間話をしても仕方ないので、部屋に戻ってきた。
誰もおらず、ミオもまだ学校から帰ってきていない。
俺はノートPCを出すと、今日の動画を編集しはじめた。
間近のティルトローター機と、特区の空撮映像。
中々ない映像だろう。
昔は、東京上空の観光飛行などもあったのだが、今はそんなものをやっているところもない。
ヘリはあるので、燃料代などを払って機体を貸し切りにすれば、空撮も可能だろう。
ただし、すげー金がかかる。
戦闘シーンなどではないので、使えるシーンを繋げてサムネイル画像を作るだけ。
編集はすぐに完了した。
動画サイトを開くと即アップ。
反応が楽しみだ。
皆の帰りを待っていると、メッセージが来た。
役人の晴山さんからだ。
契約書の素案を送ってきたらしい――早い。
とりあえず、目を通してみたが――よく解らん。
「あ、そうだ」
俺は司法書士の先生にメッセージを入れた。
「いつもお世話になっております。会社の登記でお世話になりました丹羽です。
取引先から仕事の契約書が送られてきたのですが、法律的に問題はないのか?
私になにか不利益になることはないのか?
――というチェックなどを、司法書士の先生にお願いしたりできるのですか?」
待っていると、返事が来た。
『可能ですよ』
「へ~、そういうことも頼めるんだ」
金があれば、なんでもできるなぁ。
金持ちになればなるほど、有利になるってわけだ。
そういう世の中だから仕方ないが……。
早速、素案を先生の所に送ってチェックしてもらうことにした。
まぁ、金はかかるが、やむを得ん。
つまらん契約書の穴で、500億をパーにしたくないからな。
暇なので、自分のチャンネルのコメント欄を覗く。
やっぱりネタはアイテムBOXのことだ。
信じていない連中もそれなりにいるっぽい。
公式に発表されているのに、それでも信じてないなんてなぁ。
まぁ、陰謀論とか好きな連中もいるしな。
地球は平面だと言っているのもそれなりにいるし。
あとは、アイテムBOXを「チート」だという、やっかみも多いな。
まぁ、俺もかなりのチートスキルだとマジで思う。
だって、使い方次第でなんでもありになるし。
悪口も多いが、コメント欄は放置だ。
アクセス数はそれだけ金になるからな。
実害があるようなことがあれば、法的手段に出るだけだし。
「さて、皆が帰ってくる前に、飯の用意をするか」
外の露店で餃子をゲットして、でき合いの惣菜も少々。
あとは、宿の屋上に行って、肉野菜炒めを作る。
中華鍋を振っていると、後ろから声が聞こえてきた。
「あ~、ダイスケ見つけた!」
後ろを振り返ると、ミオだった。
「ミオ、帰ってきたのか」
「うん」
「お姉ちゃんたちは、部屋にいたかい?」
「ううん、まだ――なにを作っているの?」
「今日は野菜炒めだよ」
「ダイスケのご飯好き~!」
彼女がニコニコしている。
子どもは野菜嫌いだったりするのだが、この子はなんでもよく食べる。
今まで身体の調子が悪くって食事を摂れなかった反動なのかもしれない。
「まだ、晩ごはんまで時間があるから、おやつを食べるかい?」
「うん、食べる!」
彼女にチョコが載ったお菓子を2つほどやった。
俺のアイテムBOXの中には、こういうのがたくさん入っている。
高レベルのせいで、身体を動かすと、とにかく腹が減るのだ。
とりあえず高カロリーなものならなんでもいい。
一番確実なのはブドウ糖だと思うので、錠剤も常備している。
「たくさん食べると晩ごはんを食べられなくなるから、それだけな」
「うん」
彼女と一緒に料理を作る。
こんなものだろう。
できあがった料理をアイテムBOXに入れて、ミオと一緒に部屋に戻ると皆が帰ってきた。
「あ~、ダイスケ帰ってきてる!」
レンが俺を指した。
「今日は下見みたいなものだからな。次の仕事の準備が整うまで1週間ぐらいかかるらしい」
「それじゃ――動画の作成で解らない所があるので、教えてもらってもいいですか?」
サナが自分の荷物からノートPCを出した。
「ダンジョンの映像がないと、チャンネルの再生数も伸びないだろう」
「そうなんですけど……全部ダイスケさんにおんぶにだっこってわけにはいきませんから」
「まぁ、そうだなぁ」
「それでも! レンちゃんと一緒に拾ったアイテムや、魔物を換金したりする映像はそれなりに再生されてますよ」
「実際に、冒険者の収支に興味ある人も多いかも知れないなぁ」
そこにキララがドアから入ってきた。
すでに化粧を落としている。
「私のライブでも、よく聞かれるけど――そんなに気になるのかしら?」
「冒険者は儲かるって言われるけど、実際はどうなんだ? ってのは、知りたいところだと思うよ」
「ふ~ん」
「それよりも、ダンジョンのほうはどうだ? なにか新しい噂やら話題は?」
「新しく発見された階層があるじゃない」
「ああ、俺が潜ったところだな」
「なんか、行方不明者が増えているようよ」
「そうか……結構強力なトラップやら敵がいるからなぁ。やられてしまっているのか」
「転移トラップがあるって話も出ているみたいよ」
「ええ? それはやっかいだな」
早速、ネットをググってみる。
少ないが、そういう噂話もあるようだ。
そもそも、偶然転移トラップの近くにいたとか、仲間が飛ばされたが運良く生き延びた――みたいな連中がいないと、本当に転移トラップがあるのかも解らない。
転移トラップで飛ばされた先から、生きて帰ってきた連中がいないからだ。
強いやつでも、レベル20や30だろ? それがいきなり10階層などに飛ばされたら、生き延びることはほぼ不可能だ。
その前に、ダンジョンがなん層まであるのかも確認されてないしな。
それより、気になる噂がある。
ダンジョンの中にいる子どもたちの件だ。
中に子どもがいるというのは公然の秘密のようになっていたのだが――最近、その数が減っているらしい。
単に取り締まりが厳しくなったのか……それとも、なにか他の原因か?
ダンジョンの中は治外法権みたいなものだからなぁ……。
なにかマズいことにならないといいのだが。
心配ではあるが、そういう噂が流れれば、ダンジョンの外に子どもたちも避難するだろう――と、思う。
「ヤベーな――みんな新しく見つかった所に行ったりしたらだめだぞ?」
「もちろんですよ。ダイスケさんの動画を観ただけでも無理って解りますし」
「ミノタウロスなんての出る時点でアウトよね~。命あっての物種って言うし」
「そのとおりだな」
「その割にダイスケは、危ない所に行ってるじゃない」
まぁ、キララの言うとおりなんだが、俺には高レベルとアイテムBOXのチートがあるし。
「俺はアイテムBOXでなんとかなるからな、はは」
「もう、それだけでズルよねぇ」
キララが愚痴っているのだが、配られたカードで勝負するしかない。
たまたま、俺にはロイヤルストレートフラッシュの手札が最初から揃っているから、それを使っているだけだ。
そのあとは、皆で晩ごはんを食べて就寝。
――原発跡地から帰ってきた次の日。
タンクの準備に1週間ほどあると聞いていたから、ダンジョンにでも潜るか~と思っていたら――。
晴山さんからメッセージだ。
『誠に申し訳ございませんが、今日もおつきあいいただけますか?』
なんだろうか――他にも仕事があるのか?
「別のお仕事なら、別料金を取りますよ?」
――とメッセージを送ったのだが、すぐに返事がきた。
『それは、総理からも了解を得てます』
本当かぁ?
それなら、受けようと思うのだが、なんの仕事だろう。
まぁ、どうせ誰もやらないような仕事なのだろうけど。




