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【コミカライズ連載中】アラフォー男の令和ダンジョン生活  作者: 朝倉一二三


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28話 政府の仕事


 アイテムBOXを持っていると公言してしまった俺だが、狙われる可能性が出てきた。

 反社などならまだマシで、各国の軍隊やら特殊部隊がやって来たらどうするのか。

 今の総理と直接連絡できるようになったので、質問してみたのだが、否定しなかった。


 総理の話では、監視とともに警護も入っているというのだが……。

 俺と一緒にいると、女の子たちが危険に遭うかもしれない。


 彼女たちに話をして、ギルドのサブリーダーにキララを立てて、俺はソロで動くことにした。

 ベテラン冒険者のキララがギルドに入ってくれて、よかったな。

 これで、女の子たちを任せられる。


 朝起きると、昨日アップした動画のチェックをした。

 俺のチャンネルはかなり有名になっているらしく、いきなりすごい再生数になっている。


『これって、新しく見つかった下層か?』

『罠がまだ生きている。エゲツな!』

『吊り天井?!』

『天井が消えたけど?! これってなに?』

『アイテムBOXじゃね?』

『アイテムBOX持ちを公言したのって、このチャンネル主?』

 どうも、アイテムBOXの話題が中心らしい。


『うわ! ミミックって初めて見た!』

『漫画やアニメのミミックはコミカルだけど、実物はキモい!』

 ミミックを初めて見た人も多く、こちらの動画も好評なようだ。


『ミノタウロス!?』

『ミノって6層の魔物じゃなかった?』

『新しく見つかった層って、ミノタウロスが出るんだ』

『え?! 石の壁?! どこから?!』

『アイテムBOXだろ?』

『ちょっとチートすぎね?』

 俺もアイテムBOXはチートだと思う。


 チャンネルは登録者数もうなぎのぼり。

 再生数もいきなり100万回以上――収入も増えるだろう。

 やっぱり、早急に法人化が必要だ。


 俺は朝飯の準備をしながら、税理士の先生に連絡を入れた。

 知り合いに司法書士がいたら、紹介してもらうためだ。


「おはよ~」

 腹をかきながら、眉毛のないキララもやってきたので、皆で飯を食う。

 今日はパンと、インスタントスープだ。

 シンプルだが美味い。


 スマホに、税理士の先生から連絡が来た。

 特区に司法書士の知り合いがいるらしい。

 連絡先を教えてもらった。


「昨日も言ったが、俺は会社を作るから、手続きで忙しい。ダンジョンはキララ中心で行ってくれよな」

「任せて」

 キララはやる気十分だが、サナは黙っている。


「サナ、どうした?」

「私も、ダイスケさんと同じぐらい強くなれば一緒に行けるんですよね?」

「そりゃそうだが……ちょっと危ないことには巻き込みたくないなぁ。君の爺さんから孫を頼むって言われたのに……」

「おじいちゃんは、関係ありません!」

 あると思うけどなぁ……。


「サナちゃん、無理をするのは駄目よ。そういうのが一番危ないんだから」

「は、はい……」

「さすが、経験者は語るなぁ」

 彼女自身が、そういう経験があるのだろう。


「うるさい!」

「ハグハグ!」

 俺たちの話はそっちのけで、ミオがパンを頬張っている。


「ミオちゃん、学校はどうだい?」

「楽しい!」

「そうか~、よかったな」

「私も早く中学校を出て、冒険者になりたい!」

「そうなのか~」

 オッサンとしては複雑な思いだ。

 子どもたちの「なりたい職業」でも、冒険者が上位にきているしな。

 こんな危ない仕事はオススメしたくないんだが……。

 そりゃ、当たればデカいし、有名になれるチャンスもあるけどな。


 かつては、動画配信者が人気の職業だったこともあるし、それが冒険者に変わっただけとも言えるが。


 朝食が終わったので、俺は紹介された司法書士の所に行ってみることにした。

 すでに税理士の先生からは連絡がいっているらしい。


「私は、羽田でパソコンを買ってきて勉強します!」

「おお、サナは気合が入っているな~」

「キララとレンはどうする?」

「それじゃ、2人でちょっと稼ぎにいきましょうか?」

「う、うん」

 魔導師2人だとやっぱりバランスが悪いよなぁ。

 そう思うが、レンは回復ヒールも使えるし、レベルも上がった。

 臨時で前衛を雇うことも可能だろう。


「実は、私もちょっと悩んでいるのよね」

 出かけようとすると、キララがそんなことを言い出した。


「悩みか? もしかして、そろそろ引退したいとか?」

「それはないんだけど……」

 彼女が悩んでいるのは、自分で持っているサイトのことらしい。


「ああ、成功した冒険者としての見栄っ張りサイトのことか」

「言い方!」

「だって、そのとおりだろ?」

「うう……」

 成功した冒険者と言っているわりには、大した成功してないし。

 見栄を張るために借金までしているなんて本末転倒だ。


「そういうのは止めて、冒険者一本に絞ったほうがいいだろう? ベテラン冒険者なんだから、若い冒険者の相談に乗ってやるサイトにするとかな」

「そう――なのよねぇ」

「もう、すっぴんの眉なしで配信したら?」

「ええ?!」

「そっちのほうが、親近感が湧くと思うけどなぁ」

「そんなの、ありえないんだけど……」

「そんなことないと思うが」

 全部晒して、裏表がないところを見せたほうが信頼されないだろうか?

 俺はそう思うのだが……まぁ、顔出しするのはデメリットもあるけど、キララの場合は化粧顔は晒してるし。


「うう~」

 彼女が悩んでいる。

 悩むことないと思うがなぁ。

 歳はどんどんとるし、いつまでもインフルエンサーじゃいられない。

 見てくれより、実益を取らないと。


 まぁ、俺もあまり人のことを言えるような立派な人間じゃないが。


 飯を食い終わったので、俺は出かけることにした。

 司法書士の所に行かないとな。

 税理士の先生から場所を教えてもらったので、ナビを使って特区の中を歩く。


『アイテムBOX持ちを公言した方って、丹羽さんだったんですね』

 なんてメッセージが、税理士からやって来た。


「そうです――色々と大変です。政府の仕事もやるようになると思うので、そのときはよろしくお願いいたします」

『え?! 政府関係ですか?!』

「どういう仕事が来るか不明ですが、総理はあると言ってましたねぇ」

『え?! 総理? 総理って?』

「今の内閣総理大臣ですよ」

『ええ~っ!?』

「あまり詳しいことは言えませんので、ご了承ください」

 そのままメッセージは沈黙してしまったのだが、しばらくしてから返信があった。


『承知いたしました』

 まぁ、いきなり総理だのなんのって言われてもにわかには信じられないだろうけどな。


 ナビで、司法書士の事務所を見つけた。

 コンクリ製で、外階段のビルだ。

 外壁は乱雑で、いかにもにわか作りって感じ。

 特区は建築法やらは、あまり関係ないからなぁ。

 たまに増築しまくって、倒壊事故なども起きてるし。


 それでも、面白いっちゃ~面白い。

 こういうなんでもありの状態が楽しいんだよ。

 その証拠に、ここは観光地にもなっているし。

 意外と治安もいいしな。


 8○3の事務所ができても、高レベル冒険者の前ではなにもできないしな。

 まぁ、その冒険者がチンピラ化したりしているんだが。

 総理の話では、魔法が使える特殊部隊がいるようだから、あまりにもひどくなったら投入されるのだろう。


 階段を上って事務所に入った。

 すぐ前にカウンターがあり、事務員の女性がいたので、話しかけた。


「税理士の先生に紹介されてやってきた、丹羽と申しますが」

「あ、はい! 伺っております。こちらにどうぞ」

 簡単な応接室に通されると、すぐにお茶と司法書士がやってきた。

 税理士の先生も女性だったのだが、こちらもスーツ姿の女性だ。

 ロングヘアを後ろでまとめて、メガネをかけている。


「おはようございます」

 挨拶を交わして名刺をもらう。


「今日はどのようなご用件で?」

「会社の登記をお願いしたくて」

「失礼ですが、冒険者の方ですよね?」

「はい、そうです。冒険者でも、法人化している方が多いですか?」

「トップランカーの方々は、そうですねぇ。電子書籍や写真集を出したり、公演を開いたりと副収入が多い方もいらっしゃいますし」

「ははぁ、なるほど」

 そういえば、トップランカーの女性は写真集が出てたな。

 強くて美人――そりゃ人気が出るだろう。


 かかる費用は、ダンジョンができる前に比べたら約倍だな。

 インフレしているから、仕方ないが。

 登記に必要な定款などは、あとでメッセージで送るということで、アカウントを交換した。

 やれやれ、稼ぎが多くなると面倒なことが増えるな。


「あの――」

「なんでしょう?」

「ダンジョンニュースに出てた、アイテムBOX持ちを公言した方って――もしかして」

「はい、私です」

「やっぱり……」

「もう、色々大変です」

「……」

 なんだろう?

 先生が、こちらを見ているのだが……。

 なにか企んでいるわけでもあるまい。


 とりあえず、用事は終了したので、外に出た。


「会社の定款と、それから会社のハンコがいるなぁ」

 会社印も、今は全部電子印鑑だ。

 種類を揃えて役所に届ければ、次の日には印鑑が発行される。


 ――それから会社登記のための定款などを作り、ソロでダンジョンに潜る日々が続いた。

 会社の登記も完了して電子印鑑もできた。

 これで、取締役社長ってやつだが、生活が変わるわけではない。

 金は入ってきているが、贅沢をするわけでもなし。


 キララのやつは、インフルエンサーを辞めるようだ。

 俺が提案したどおり、すっぴんで初心者冒険者のための講座などの配信を始めた。


 人気取りのためなのか、薄着で配信したりしているので――。


『BBA無理すんなw』

『俺はイケる!』

『いいぞ、もっとやれ』

 なんだか、コアなファンがついてヤンヤしている。

 キララのやつも、悪態をつきながらも、案外楽しそうである。


 配信をやっていると、彼女を慕って初心者の冒険者たちが集まってきた。

 そんな彼らを集めてキララは引率をしたりしている。

 中には冷やかしがいたりするのだが、彼女はベテランであり、そんなので凹むようなヤワではない。


 才能がある子もいるようなので、スカウトも考えているようだ。

 彼女にその気があるなら、別のギルドを作って俺が援助してやってもいいだろう。

 もともと俺は、ソロでやるつもりだったしな。


 サナは俺に追いつくと言っていたが――俺の高レベルも偶然ゲットしたものだしなぁ。

 正規な方法で高レベルになるのは、かなり大変だと思う。


 ――そんなことをやっていると、1週間ほどたった。


 外に出ると、メッセージが来た――武器屋からだ。

 俺の頼んでいたミサイルが完成したらしい。

 早速受取に向かった。


 店先に多数の武器が並んだ武器屋の中に入る。


「ミサイルみたいな投擲武器を頼んだ丹羽だが」

「お待ちしておりました」

 オッサンが奥から、ミサイルを持ってきてくれた。

 単管を使った安物じゃなく、削り出しなのでピカピカだ。

 まぁ、放り投げる武器だから、こんな立派なものはいらないんだけどな。


 少々無駄なような気もするが、安物じゃ対抗できないような強敵に遭遇するかもしれないし。

 6本は弾芯に超硬タングステンを使ったもの。

 あと2本は劣化ウラン弾だ。


 劣化ウラン弾は、衝突すると自己燃焼するとか、なにかで読んだ気がするのだが、本当だろうか?

 こんなブツを使うような化け物と対峙することはあるのか?

 使わないことに越したことないけどな。


「ありがとう。思ったどおりの品だよ」

「そんな武器を使う魔物と対峙なさるんですか?」

「いやいや、普段は安物を使っているんだが、いざというときの備えだよ」

 1本10万円もする武器を、ポンポン使い捨てできないが、戦艦の主砲の砲弾は600万円なんて聞いたことがあるな。

 本物のミサイルは一発数億円だし。

 強力な武器ってのは高いもんだ。


 まぁ、普通はダンジョンからドロップした、特殊効果がついている武器とか使うんだろうけどなぁ。

 俺が使っているような投石器でも、攻撃力アップのバフ魔法やら、アイテムがあれば威力を増すことができるはず。

 そのうちゲットするかもしれない、そういうアイテムに期待するか。

 そういえば、ミミックを倒したときに出た指輪をしているが、全体的にスピードが上がってる気がする。


 注文した武器を受け取って武器屋を出た。

 スマホを取り出してググる。


「バフの重ねがけってできるのかな……?」

 検索によると、魔法の重ねがけはできないようだが、アイテム+魔法ってのは可能っぽい。

 こういうところも、ますますゲームっぽい。


 人類はいつまで、こんな冗談みたいな状況につき合わないとだめなんだろうなぁ……。

 もしかして、これからずっと?


 ちょっと鬱々としていると、メッセージが入った。

 総理大臣だ。


『仕事の打ち合わせをしたい』

 ついに来たか。

 政府のお仕事。

 ちゃんと儲かる話なんだろうな?

 愛国心があるならはした金で受けろとか、絶対に嫌だからな。


「いいですよ。どうやって、打ち合わせするんですか? ネット会議ですか?」

『この前使ったホログラムを使う。役所にも連絡を入れておく』

「承知いたしました」

 直接話したほうが早いか。

 あれは直接じゃないかもしれないが……。


 俺は言われたとおりに特区の役所に向かった。

 いつものお姉さんの所に行く。


「ちわ~、連絡が来てると思うんですけど……」

「あ、はい! こちらへ!」

 ここのお姉さんの対応もずいぶんとよくなったな。

 最初は女の子を狙っている変質者扱いだったけど。


 階段を上って、前と同じなにもない部屋に案内された。

 部屋の真ん中にある椅子に座ると、窓が真っ黒になって、光が閉ざされる。

 俺は念の為、スマホの録音スイッチを入れた。


 前と同じように、俺の正面に椅子に座った総理が浮かび上がる。

 相変わらず、これは中々すごい技術だと思う。

 そう思ったのだが、今日の顔ぶれは総理ともう1人。

 髪は黒いが多分染めているんだろうな――と思われる爺さんだが、どこかで見た顔。

 確か、今の内閣を構成している大臣の1人だったと思う。

 政治家の顔なんてまじまじと見ないからな。


 まぁ、総理だけはいつもニュースなどに出てくるから知っているが。


「おはようございます」

『おはよう』

「お仕事ということでしたが、どんな仕事ですか?」

『君のアイテムBOXを生かした、運搬作業だ』

 まぁ、そんなところだろうな。

 アイテムBOXに入れれば、どんなものでも、重さなしで運べるんだから。

 収納できれば、重機も必要なく、どこにでも持っていける。


「わざわざ、私に頼むってことは、絶対に普通じゃないものですよね?」

『察しがいいな』

 彼から出たのは、かつての大地震で大被害を出した原発事故の話。


「あ~解りましたよ。私のアイテムBOXを使っての、廃棄物処理ですか?」

『そうなんだよ。現在もダンジョンに細々と廃棄をしているのだが、あそこは車もトラックも使えないゆえに、人力に頼るしかない』

「そこで、私のアイテムBOXにどっさりと入れて、一気にダンジョンに投棄しようと?」

『そのとおりだ』

 問題はそう単純でもない。


「そもそも、放射能の問題は? ウランやらプルトニウムやらは無力化されてますが、セシウムやらストロンチウムなどは残ってますよね?」

『それは大丈夫だ』

 国の実験や研究で、冒険者は放射能にも耐性が持つことが確認されているという。

 放射線で遺伝子などが傷ついても、すぐに補修されてしまうらしい。

 レベルが上がると、自然治癒力も上昇するわけだ。

 本当に超人だな。


「う~ん、ちなみに――今回のお話で国家事業で予算つけるとするとどのぐらいですか?」

『そうさなぁ――5000億円ぐらいか……』

 事故が起きた当時、処理のために想定された国家予算は20兆円規模。

 まぁ、今回のこれは、水を運んで捨てるだけの話なので……。

 全部更地にするとなると、数十兆円になると思うが。


「それじゃ――本当に、私が解決できたら、1/10――500億円ぐらいもらっても、構いませんよね?」

『おいおい……』

 隣にいた爺さんの表情も固くなる。


「いつ終わるか解らない5000億円の廃棄物処理事業が、あっという間に終わるかもしないんですよ? 500億なんて安いものじゃないですか?」

『う~ん』

 総理が腕を組んで考えている。


「原発の事故からなん年たってます? もう30年以上ですよ? 未だになんの解決もしてないじゃないですか。それが、綺麗さっぱりとなくなるかもしれないんですよ? それが500億でできるなら、大変お買い得だと思いますけど」

『……』

 総理の隣にいる爺が、苦虫を噛み潰したような顔をしてる。


「まぁ、私が仕事をすると、お偉いさんがキックバックをもらえないから、拗ねるのかもしれないですが」

『君! 失敬じゃないか!』

 隣の爺さんが立ち上がって、俺を指した。


「べつに、あなたのことを言ったわけじゃないですけどね。前にもお伝えしましたが、私の愛国心が揺らぐようなことがないようにお願いしますよ」

『若造が! 政府を脅すつもりか!?』

「いやですねぇ。脅してなんていませんよ。ただ、私の能力をより高く買ってくれる所があれば、そっちを選ぶのは当然でしょ? たとえば、アメリカとか高く買ってくれそうですよね?」

『おいおい、それは困るよ』

 本当に総理が困っているのだが、知ったこっちゃない。


「既得権益を取るか、30年以上解決できなかった国難を解決した大臣としての名を取るか、二択だと思いますけどねぇ」

『……ちょっと、一度中断して、相談をさせてくれ』

「承知いたしました」

 ホログラムが消えた。

 真っ暗だ。


 総理は頼みたいみたいだが、隣の爺が面倒そうだな。

 名誉より金やら利権なのだろう。

 原発の事故処理には未だに国家予算が注ぎ込まれている。

 ようは金になっているのだ。

 解決されると、それがなくなるってこと。


「コーヒーをいかがですか?」

 考え込んでいると、暗闇から声がした。

 お姉さんの声だ。


「ありがとうございます、いただきます」

 ドアが開いて、そこだけが白く浮かび上がった。

 数分すると、またドアが開き、コーヒーの香りが漂ってくる。


「どうぞ」

「ありがとうございます」

「……ほ、本当に500億円も取るつもりなんですか?」

 真っ暗な中で会話をする。


「当然ですよ。危ないことをやらせて、はした金なんて受け取れませんし」

「でも、政府に逆らったりして……」

「危なくなったら、ダンジョンに逃げ込みますよ。深部なら、高レベル冒険者しか追ってこれませんし」

「……丹羽さんって、レベル高いんですか?」

「まぁ、それなりですね」

 総理の話によると、対高レベル冒険者用に特殊部隊がいるって話だったが、そいつらはダンジョンに潜れるんだろうか?

 お姉さんと話していると、ホログラムが立ち上がった。


『待たせたね』

「いえいえ、色々としがらみがあるでしょうし、ははは」

『ぐぬぬ……』

「申し訳ございません。そちらのお偉い方はニュースなどで顔は拝見したことがあるようなないような……」

『こちらは、経済産業大臣だよ』

「原発って経済産業省管轄でしたっけ?」

『一応、資源エネルギー庁だが、その上層組織が経済産業省なんでな』

「ああ、なるほど。普通のオッサンに、あまり関係のない話なんで、あはは」

『それでな――話はまとまった』

「どうなりますか?」

『金額は確約できないが、多分近い金額は回せる』

「まぁ、反故にされたら、次はもう受けないだけですからねぇ」

『若造が! あまり調子に乗るなよ!』

「はいはい、失礼いたしましたねぇ」

『ぐぬぬ……』

 まぁ、スマホの録音で言質は取った。

 さっきも言ったが、反故にされたら次は逃げ回って受けないだけだし。


「今は若い子も積極的に選挙に行ってますし、金満政治なんてもう流行りませんよ?」

 やる気のない政治家は、すぐに落選運動が始まるし、情報もネットで即時に広がる。

 政府が経費削減のためにネットに力を入れたのが、裏目に出てる格好だ。


 まぁ国民の意見を聞きすぎるのもよろしくない。

 ポピュリズムで成功した国もないしな。

 ただ、国民が納得できる政治ってのをやってほしいもんだ。


 詳しい打ち合わせは、後日に直接会ってということになった。

 俺も総理とサシで語り合えるレベルになってしまったか。


 ホログラムが終了した。


「ふう……面倒ごとが増えそうだな。もっとサックリと金を稼いで田舎に帰るつもりだったのに」

「故郷はどこなんですか?」

「試される北の大地ですよ」

「食べるに困らないから、今は人気があるみたいですけど」

「まぁ、かつてに比べて入植者は増えましたね」

 若者がみんないなくなって年寄ばかりになったが、また若い子たちが増えつつある。

 喜ばしいことなのだが、そう簡単な話でもない。

 農作業ってのは、とにかく重労働だからなぁ。


 打ち合わせが終わって、俺は役所を出た。

 今頃総理は、根回しの最中だろう。

 利権を一つぶっ潰すというのだから、それに変わるなにかを用意しないと、納得しない奴らも多いはず。

 やつらも政治屋をやるメリットがあるから、政治屋をやっているわけだし。

 甘い汁を吸えないと解ったら、誰も政治屋なんてやらんだろ。

 逆に、多少吸ってもいいから、やることをやってくれればいいんだ。


 俺は、総理からの連絡を待つことにした。


 

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