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【コミカライズ連載中】アラフォー男の令和ダンジョン生活  作者: 朝倉一二三


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125話 祝勝会


 異世界からやって来たという男、テツオと一緒に前人未到の7層の攻略のために、ダンジョンを訪れていた。

 冒険者を阻んでいた7層の壁を攻略して、その先の迷宮も踏破した。

 以前に訪れたダンジョン温泉にもたどり着き、英気を養う。


 そのあと、迷宮の出口にいた中ボスも撃破して、7層は正式にクリアしたことになる。

 イロハは少々、心残りがあるようだが、一旦地上に戻り7層の注意喚起をしないと、続々と冒険者がこの層の迷宮に脚を踏み入れてしまう。


 正直トップランカーの俺たちでも、少々キツイレベルの階層だ。

 安易に入り込んでしまうと、命の危険がある。


 皆の総意で地上に戻ることになったのだが……。


「ダーリン! ここまで来たんだ――せめて8層の入口のにおいを嗅がせてくれよ!」

 やっぱりイロハは、後ろ髪を引かれているようだ。


「そうだな、一理ある。ここまで来たんだし、イロハとサナは初めてだしな」

「うむ、承知した」

 リーダーの承認も得たし、帰還する前に8層の入口を目指す。


 リッチのいた部屋を出ると、左右に別れた細長い通路。

 これも、以前と同じだ。


「ダーリン、どっちが正解なんだい?」

「これは、どっちに行っても外に出るはず。この通路では、魔物はポップしなかったな」

「ここは安地ってことか」

 とりあえず左に曲がると、細長い通路を進み、外に出た。

 一緒についてきていたハーピーたちが、待ってましたとばかりに空中に飛び出す。

 ずっと狭い通路の中だったからな。

 ここは天井が高いから、飛びやすいだろう。


 真っ暗な中、奥行きはどこまで続いているのか見当もつかないほど。

 天井も壁も、あるのかどうかすら判然としない。

 ただ、全体を包むような圧倒的な「空間の気配」だけが存在していた。

 視界は闇に沈み、目を凝らしても、なにひとつ見えない。

 いや、暗闇は見えるのだが、なにもないので、そう見えるだけだが。


 光のかけらすら存在しない漆黒の中に、音も気配もなく、ただただ虚無だけが広がっていた。


「なんじゃこりゃ、なにもないのかい?」

「なにもないんですか?」

 イロハとサナが呆れた声を出している。


「そうなんだよ。なにもないから、どこにいるのかもわからなくなる」

「これじゃ、マッピングもできないじゃないか。ダーリン、どうやって帰って……」

 俺は、上で飛んでいるハーピーたちを指した。


「あいつらは、マジで役に立つんだな」

 テツオがシャザームに乗ると、空中に高い背伸びをした。

 上から遠くを見下ろしているのだろう。


「なにもないだろ?」

「マジでなにもないな、はは!」

「7層も大変だったが、さらに8層も大変なんだよ」

「……」

 イロハが、珍しく真剣な顔をしている。


「イロハ、どうした?」

「いや――ここまで来たんだ。ゴリ押しで8層も行こうぜって言うつもりだったんだが……諦めた」

「まぁ、ここも一筋縄ではいかない感じだろ?」

「ああ」

「珍しく、賢い選択ではないか」

 ここぞとばかりに、姫の反撃が始まる。


「うるせぇ、こんなのどう見たってやべーやつじゃねぇか!」

「ははは!」

「でも、ダイスケさん。ここをどうやってクリアするんですか?」

 サナも攻略法を思いつかないようだ。


「おそらくだが、彼女たちが使えるんじゃないかと思ってる」

 俺はまた、上空をくるくると旋回している、ハーピーたちを指した。


「ハーピーですか?」

「ああ、あいつらは、4層から深層にいる俺のにおいを嗅いでやってくるぐらいに鼻がいい。もしくは、特殊な探知能力を持っていると思う」

「また、やつら頼みか?」

 姫が嫌そうな顔をする。


「深層から浅層へと道案内ができるなら、その逆もできるんじゃないか?」

「た、確かにそうだが……」

「サクラコさま、ダイスケさんがハーピーに優しいからヤキモチを焼くのはわかりますが、利用できるものは、どんどん利用しないと」

「そ、そんなものは焼いていない!」

 上から、テツオの声が聞こえてきた。


「そうそう、立ってるチ○ポは親のチ○ポでも使えってな、わはは!」

「セクハラだぞ、セクハラ」

「フヒヒ、サーセン」


 広大な8層の景色を見て、イロハとサナも納得したところで、俺たちは地上に戻ることになった。


 まぁ、普通なら戻るだけでも大変なのだが、ここにはテツオのシャザームがいる。

 彼女に乗せてもらえば、あっという間に地上だ。


 撤退を決めてから、あっという間に4層だ。


「ギャ!」「ダイスケ!」

「俺たちは帰るけど、他の冒険者たちに狩られるなよ」

「ギャースケ!」「ダイスケ!」

「なんでも、ダイスケかよ、はは」

 そして、8層の入口から半日もせずに、地上のエントランスホールに戻ってきた。

 テツオによるともっとスピードが出るそうなのだが、暗いし危険なので、スピードはセーブしてもらっている。

 途中で、イロハ以外の女性陣は、深くローブに身を包んだ。


「神さまのオッサン、やっぱりこの黒いのって便利だな!」

 イロハがシャザームをなでなでしている。


「あたりきしゃりきのあたぼうよ!」


 さて、地上に戻ってきたから、7層の攻略のことを各ギルドに連絡しないと。

 7層まで行けるとなると、トップギルドに限られると思うが。


 色々とやることがあるな。


 地上に出ると、空はすでに茜色に染まり始めていた。

 西の空には沈みかけた太陽が、ビルの合間から名残惜しげに顔をのぞかせ、長く伸びた影が歩道を覆っている。

 どこからか肉を焼く匂いが漂ってきて、街のゆうげの気配を感じさせた。


 いつものように騒々しい雑踏――耳に馴染んだその喧騒に包まれると、不思議と心が落ち着く。

 忙しなく行き交う人々の中に身を置きながら、自分もまたこの特区の一部なのだと実感する。


「ダイスケ、これからどうするんだ?」

 テツオが、このあとの予定を聞いてきた。


「イロハの所で、荷物を下ろす」

「オッケー!」

「ダーリン、あとでもいいぜ」

 イロハはそう言うのだが……。


「まだ時間も早いし、別に構わんよ。皆は先に戻っててもいいぞ?」

「そうはいかん。オガの巣に、ダーリンが引きずり込まれるかもしれん」

「なんだよ、ちょっとぐらいダーリンを貸してくれてもいいだろ?」

「やっぱり、そのつもりか――お前の浅はかな考えなど、すべてお見通しだ」

「ちぇ! それじゃ、7層クリアの祝勝パーティをしようぜ!」

「それはいいかもな」

「やったぜぇ!」

 イロハが、飛び上がってガッツポーズをした。


「ダーリン!」

「いいだろ?」

「サクラコさま、正式に7層を踏破したのですから、お祝いをしてもいいのでは?」

「うう……」

 カオルコにもそう言われて、姫も渋々OKを出した。


「ダイスケ、それじゃ俺は先に戻るわ」

 まぁ、テツオがイロハのギルドに行っても仕方ないからな。


「わかった。協力ありがとうな」

「わはは、こちらも戦力が必要だから、持ちつ持たれつってやつよ。さすがに、あのダンジョンを1人で黙々と進むのは、やる気も出ねぇし」

 確かにそうだ。

 彼は冒険者ではないし、このダンジョンはどうでもいい。

 ただ、神さまからの使命を帯びて、深層に行こうとしているだけなのだ。


 夕方の賑やかな特区内を進むと、イロハのギルド――ゴーリキーにやって来た。


「お~い! 帰ったぞ!」

「あ! イロハねぇさん!」

 窓から顔を出した女の子が、彼女のデカい声に反応した。


「イロハねぇさんが帰ってきた!」「本当に!?」

 ギルドの建物から、カラフルな服やら装備をつけた女の子たちが、わらわらと出てきた。


「イロハねぇさん、7層はどうでした?!」

「クリアしたぜ!!」

 彼女が大きくVサインを出した。


「「「やったぁ!」」」「さすが、イロハねぇさん!」

「これで、8層一番乗りですね!」

「いやいや――8層も9層も、ダーリンたちが迷宮教団に飛ばされちゃったときに、一番乗りされてるからなぁ」

「でも、正式なルートでは、今回が初めての攻略だと思うぞ」

「そうですよ!」「やったぁ!」

「今日はお祝いですね!」

 女の子たちの言葉に、姫が反応した。


「オガ! ギルドのメンバーがお祝いしてくれると言ってるぞ? 自分のギルドを大切にしたほうがいいんじゃないのか?」

「あ! 桜姫さん、ちぃーす!」「こんばんは~」「エンプレスさんも、こんばんは~」

 ギルドのメンバーが、姫たちに気づいた。


「うう……」

 イロハは女の子たちに囲まれて、困った顔をしている。


「イロハねぇさん、お祝いしましょうよ!」「そうですよ!」「パーティーですよ、パーティー!」

 仲間を大切にする彼女のことだ――この状態から「いや、ダーリンの所で祝勝パーティするから」とは、言えまい。


「さて、ダーリン、帰るか」

「そうだな」

「ちょ、ちょっと……」

 イロハはなにか言いたそうだが、ギルドメンバーに囲まれてしまっている。


「ねぇちゃん!」

 走ってきた女の子は、イロハの妹だ。


「カガリか」

「帰ってきたんだね!」

「7層を突破したぜ!」

 彼女が拳を突き出した。


「さすがねぇちゃん!」

「これから、イロハねぇさんと7層突破パーティをやるっすよ~!」

「「「ウェ~イ!」」」

 女の子たちが、ぴょんぴょんしている。

 さすが若いパーティだ――オッサンの俺にはノリがキツイ。

 そもそも、冒険者じたいが、若い子の職業だからな。


「それじゃな、イロハ」

「あ、ダーリンさん、こんばんは~」

 カガリが俺に挨拶をしてくれた。


「こんばんは、今回もすごかったから、お姉さんから色々と聞きな」

「ダーリンさんは、どうするの?」

「ん? これから、帰って俺たちの祝勝パーティをするが」

「じゃあ! 私も行っていい?! 晩ごはんまだだしさぁ」

「こらぁ、カガリ! あたいを裏切るつもりかぁ!」

「ええ? だってぇ、ダーリンさんちのご飯のほうが美味しいし……」

「カガリ、てめぇ!」

 イロハがどっと女の子たちに囲まれた。


「イロハねぇさん、パッ~っとやりましょう~」「やるっすよ~」「ウェ~イ!」

「おい、こら……ちょっと」

 彼女の巨体がグイグイと建物の中に押し込まれて、見えなくなった。

 まぁ、イロハのパワーなら、なんなく抜け出せるだろうけど、それはできないだろう。


「やったぁ、美味しい晩ごはんにありつける~」

「おい! なんで当然のように、ウチの祝勝パーティに混ざることになってるんだ」

「まぁまぁ、姫」

「そうですよ。多少のお裾分けはよろしいのでは?」

 カオルコと一緒に姫をなだめる。


「うぐぐ……」

「サナも来るだろ?」

「え? いいんですか?」

「もちろん、一緒に戦ったじゃないか」

「は、はい」

「うぐぐ……」

 姫が渋い顔をしている。

 彼女としては、カオルコと俺の3人で、しっぽり――みたいなことを考えていたんだろう。

 その前にお祝いだからな。


「やったぁ!」

 カガリが俺の腕を組んだ。


「あ~! それじゃ私はこっちで」

 反対側を、サナが組む。


「私のダーリンだぞ!」

「はぁ……」

 姫のいつもの行動に、カオルコがため息をつく。

 とりあえず歩きにくいので、腕にしがみついた2人は離した。


「はいはい、帰ろうぜ」

「む~!」

 今度は、姫が俺の腕にしがみついてきたが、そのままホテルに到着だ。

 ホテルの従業員に挨拶をすると、部屋に戻る。


「装備を置いたら、すぐに行きます!」

 サナは一旦、自分の部屋に戻ったので、俺はテツオを呼びにいく。


 ドアをノックすると、彼が顔を出す。


「テツオ、祝勝パーティするんだが、来るよな?」

「あ~、ちょっと用事ができて、俺は不参加……」

「用事?」

「あれ」

 彼が指した通路に女性がいた。

 彼女は――紋章隊の課長だか部長とかいう女性。

 右手は左腕に添えられて、縮こまってる――という感じ。

 緊張しているのか、顔はすでに紅潮している。


「あ~、ナントカのイニシエーションってやつ?」

「わはは、そのとおり! さすが、ダイスケ解ってるな」

 それなら、仕方ない。

 これも、信徒に対する使徒の務めだろうし。


 テツオが手招きして、赤い顔をしている女性を迎え入れた。

 彼に手を振ると、俺は部屋に戻る。


「ダイスケ!」

 俺に抱きついてきたのは、ミオちゃんだった。


「お、ミオちゃんも来たのか~って、なんでキララもいるんだよ」

「いいでしょ?!」

「サナは当然として、その妹のミオちゃんもいいけど、お前はなぁ……」

「なんでよ!」

「ギルドの他の面々は?」

 魔導師の女の子――エマだっけ? テツオの元連れの女子高生とあんちゃんとか……。


「さすがに、遠慮したみたいです」

「普通はそうだよなぁ……」

「なによ! 私が普通じゃないって言うの?!」

 まぁ、言わずもがな――だが、これ以上揉めても仕方ないので、参加を認める。

 姫もいいみたいだし。

 カガリも参加してるから、いいんだけどな。


 とりあえず、これから料理を作るわけにもいかないので、俺のアイテムBOXに入っているものを並べる。


「ちょっと、祝勝パーティとしては料理が寂しいか」

「お寿司ぐらい頼みなさいよ~」

 キララは、相変わらずで、まったく遠慮がない。


「お前なぁ……と、言いつつ、マジでちょっと寂しいか」

「世界に名を馳せるトップギルドでしょ?」

 キララはうぜぇが、ケチるところでもないしな。

 ルームサービスで、寿司を10人前ぐらい頼むことにした。


「ダイスケのご飯、美味しいよ!」

 ミオが俺の膝の上に乗ると、早速、俺の料理を口に運んでいる。

 また、姫とミオが睨み合っているが、食事にカオルコが参加していない。


「カオルコ、食べないのか?」

「あの、急ぎで送る資料を作っているので、あとで食べますよ」

 7層の注意喚起のための資料だろうが、後回しにしろとは言えない。

 役所や、ダンジョンニュースなどにも、記事を送るようだ。


 ダンジョンニュースは、冒険者ならほぼ見ているからな。

 確実かもしれない。


「ダーリンさん、7層ってのはどうだったんですか?!」

「相当ヤバいな。初見殺しみたいな階層だぞ」

「やっぱり……」

「トップランカーでも、6層相当のレベルで皆止まっていたからな。最初は慎重にいかないと、犠牲者が出るかもしれん」

「ウチのお姉ちゃんもレベルアップしてました?」

「ああ、かなりしたんじゃないかなぁ……」

「さすが、ねぇちゃん!」

「ゴーリキーの祝勝パーティに参加して、自分の姉から聞けばいいだろうが」

 まぁ、姫の言うことももっともなのだが。


「えへへ……」

 彼女は、こっちの料理目当てなのだろう。

 パクパクとよく食べる。

 そうしているうちに、寿司もやってきた。


 ホテルの寿司なので、かなりの上物だ。

 値段も目が飛び出るぐらいに高いが、今の俺は金に困ってない。

 会食なら、経費で落ちるだろうし。


「ダーリン、あの男は?」

「客が来てた」

「ふん……」

 彼女は、テツオのことがあまり好きではないようだ。

 まぁ、埒外の存在ではあるし、馬が合わないってやつだろう。

 カオルコは、即イザルの信徒になったりして、意外と平気っぽいが。


 姫と話していると、カオルコが食事に入ってきた。


「お疲れさま。寿司は取ってあるよ」

「ありがとうございます」

「ダンジョンニュースとかの、反応はどうだった?」

「すぐに話を聞きたいと言ってきましたが、取材は後日ということにしました」

 彼女は箸を使って寿司を口に運ぶ。

 7層のことは、速報ということで、すぐに記事に出してもらえるという。


「それなら、他のギルドの目に入るか……」

「7層に到達できるようなトップギルドは限られていますし」

「幽鬼あたりが、対抗心燃やして、すぐに突入しそうだが」

「ありえますね。彼もレベルが頭打ちなのを愚痴ってましたから」

 事故を起こさなきゃいいが……。


「ダイスケ、なにか高そうなお宝とかあった?」

 キララの目が輝いている。


「7層辺りの魔物となると、ドラゴン以外は肉としても食えないだろうし……値段なんてつかないんじゃね? 解体すれば、デカい魔石が出てきそうだけど」

 正直、命がけで挑んで、釣り合うかと言われれば、まったく釣り合わない。

 あそこまでいくと、意地と名誉だけだろう。


「な~んだ」

「そういえば――」

 俺は、アイテムBOXから黄金の弓を出した。


「これなんて高そうかも」

「弓?! どうせまた、矢がないとかそういうのでしょ?!」

 彼女が、がっかりとした表情を見せた。

 キララも、弓にまつわるバグみたいな仕様を知っているようだ。


「はは、大当たり」

「本当に弓って使えないのよね」

 やっぱり、ダンジョンで弓が使えないってのは、常識らしい。


「まぁ、なにか裏技があって、必殺の武器に化けるとかそういうパターンかもしれないぞ?」

「どうだか」

 キララが呆れ顔で、寿司を口に放り込んだ。


「ダイスケダイスケ!」

「なぁに? ミオちゃん」

「今日はダイスケと寝る~!」

「ぶっ!」

 姫が寿司を噴き出した。


「今日は、これからやることもあるしなぁ……」

「やることってなによ?」

 キララが疑いの目を向けてくるのだが、マジである。


「ダンジョンの中で撮ってきた動画データの整理とかあるし」

「む~、つまんない……」

 ミオは不機嫌だが、仕方ない。


 食事が終わり、祝勝パーティは終わった。

 イロハの所は、一晩中どんちゃん騒ぎをするのかもしれないが、やることが沢山ある。


「ダーリン」

 姫が抱きついてくるのだが、かまっていられない。


「姫、悪い」

「サクラコさま、邪魔しちゃ駄目ですよ」

「ぶ~!」

 彼女がむくれて、ボコボコ攻撃をしてくるのだが、やることをやらんと。

 情報ってのは鮮度が重要だ。

 姫との一本勝負は、いつでもできるし。


 ――ダンジョンから帰ってきた次の日。

 朝飯を食いながら、ダンジョンニュースを見ると、早速記事になっていた。

 コメントも沢山ついている。


『ついに7層突破?!』

『桜姫とゴーリキーの合同パーティか?』

『合同パーティというか、ゴーリキーのリーダーだけ同行したみたいだな』

『桜姫の所には、アイテムBOXのオッサンがいるだろ? やっぱりアイテムBOX持ちは反則だよなぁ』

 当然だが、テツオのことは話していないし、触れられていない。


『なんか記事を見ると、普通の防御魔法が効かない魔物がいるらしいから、かなり危険らしいぞ』

『下手に突っ込むと、瞬殺だな……』

『まぁ、7層に行けるだけでも、冒険者の上澄みの上澄みやし……スライムスレイヤーの俺、低みの見物w』

 7層が危険ということが、かなり広まっている。

 これなら、大丈夫ではなかろうか。


「カオルコのお陰で、かなり7層の情報が広がっているな」

「ありがとうございます。今日は、ダンジョンニュースの取材も来ますよ」

「俺は出なくてもいいだろ?」

「大丈夫です」

「まぁ、オッサンより美人のほうが見栄えもいいし、読者受けもいいだろうしな、ははは」

 冒険者として取材を受けるときには、ダンジョンアタックのときの装備をつけて受ける。

 読者は姫たちの冒険者としての姿しか知らないから、私服だと誰か解らんらしい。


「そんなことはないと思うが……」

「そんなことあるよ。全人類は、オッサンより、姫のビキニアーマーと、エンプレスのボイン(死語)を望んでいる」

「やめてください……」

 カオルコが嫌がっているのだが、これは真理だし。


 2人をからかうのはこのぐらいにして、動画の編集をしてくれるクアドリフォリオさんに連絡を入れた。


『承知いたしました! すぐに行きます!』

「急がなくても大丈夫ですよ」

『マッハで行きます!』

 マッハって……。


 マジですぐに来るようなので、データの入ったHDDを持って下に降りた。

 ホテルのロビーで待つ。


 10分ぐらいで、クアドリフォリオさんが、息を切らしてやって来た。

 高レベル冒険者なら、息切れなんてすることもほとんどないからなぁ……。

 息を切らしている彼女が新鮮に映ってしまう。


「はぁはぁ……おまたせしました!」

「そんなに急がなくても……カフェで飲み物でも」

「いいえ! すぐに、データをお受け取りして編集作業に入ります!」

「ええ?」

「だ、だって……7層のデータが入っているんですよね?!」

「は、はい――もちろん」

「編集作業をする私が、世界で一番乗りですよ!」

 ああ、なるほど。

 早く動画が観たいのか。


「はは……わかりました」

 彼女にHDDを渡す。


「すぐに編集作業に入ります!」


 まぁ、俺としても早く動画をアップしたいから、助かるけどなぁ。



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