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【コミカライズ連載中】アラフォー男の令和ダンジョン生活  作者: 朝倉一二三


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124話 次の段階へ


 ダンジョン7層の温泉に戻ってきた。

 これで、俺たちが突破した7層の壁は正式なルートだと判明したわけだ。


 7層の安全地帯から、温泉までのルートも解ったし、これを地上に持って帰れば冒険者たちによって7層の攻略がスタートする。

 まぁ、ヤバい魔物が満載なので、かなり過酷なことになりそうな予感がするが……。


 俺たちのパーティーは全員がトップランカー、それプラスすることの――アイテムBOX&おそらく世界一のレベルの俺、助っ人に神の奇跡という黒い穴を持っているテツオも一緒だ。

 サナはイザルの聖女らしいし。


 実際、テツオがいなければ危ないシーンも多かった。

 シャザームに乗って空を飛び、浅層をひとっ飛びできたのもデカい。

 普通じゃこんなことは無理だ。


 テツオがシャザームを使って、温泉にすべり台を作った。

 女性陣がみんなでキャッキャウフフしてはしゃぐ。

 最初は静観していたカオルコも一緒になってすべり台で遊んでいる。


 皆が子どもに戻ったようだ。

 まぁ、サナなんて遊びたい盛りだろうし。

 今の法律では、強引に成人ってことになっているが……。


「「ふぅ~~~~!」」

 オッサンが2人で、湯船に浸かる。


「マジでいいお湯だ」

 テツオがつぶやいた。


「異世界に温泉はあるのか?」

「俺の住んでいる所は火山地帯ではないから、聞かねぇなぁ。もしかして門の中にはあるかもしれねぇが……」

 そもそも、お湯に浸かるという習慣があまりないらしい。

 せいぜい水浴び程度。

 それでも魔法があるから、綺麗にはなるのだろう。


「さっきの話になるが……今の迷宮の主を倒したら、イザルの神さまがダンジョンの主になるんじゃないかという……」

「ああ、多分な」

「日本にゃ800万の神さまがいるから、今更神さまが1人増えても問題ないと思うが、他の国はどうかなぁ……」

「まぁ、他の神さまを認めない宗教もあるからな」

「日本以外は揉めそうだな」

「まぁ、こっちは知ったこっちゃないがなぁ、わはは」

 そりゃそうだ。

 イザルの神さまによって日本だけダンジョンが復活して、他の国が揉めようが――下手すると内戦になるかもしれんが――ぶっちゃけ関係ない。


 女の子たちが遊び終わったあと、食事。

 水着姿の美女に囲まれて飯を食うなんて、オッサン冥利に尽きるってもんだ。

 食べ物のにおいを嗅ぎつけたのか、ハーピーたちが戻ってきた。


「ギャ!」「ギャギャ!」

「ダイスケ、ここは安全地帯で間違いないのか?」

 テツオが飯を頬張っている。


「ああ、以前にキャンプしたときにも、魔物が湧くこともなかった」

「こいつらは魔物じゃないのか?」

「まぁ、魔物だけど、ハーピーは他の安全地帯でも飯を漁ったりして、嫌われていたし……」

「魔物は侵入禁止になってて、絶対に安全――ってわけでもないのか」

「そうだな――7層の壁の所にキメラが湧いたことがあったし」

 あれは、迷宮教団の女がやったんだろうけど。


「でも、ほぼ安全ってことは、ここは一大拠点になるな」

「7層の壁に100mの高台があったろ? あそこにあった通路が、この温泉と直通になってるんだ」

「そうなのか? それじゃ、そっちが近道だと思うが……」

「中は虫の魔物だらけでな……」

「「……」」

 姫とカオルコが無表情になる。


「ああ、悪い! 食事中だったな」

「まぁ、虫は苦手なやつは多いから、そりゃ確かにきついな」

「でも、あの穴を拡張して、地下鉄でも通せればここまで直通だ」

「完全なカプセルみたいな列車なら、虫も関係ないしな」

「そのとおり」

 俺のアイテムBOXを使って、ここに建築資材を持ち込めば、ここはお風呂の遊園地状態に――。

 北海道民しか通じんネタだが、夢は広がる。


 食事のあとは、アイテムBOXからテントを出した。

 以前にここにやってきたときには、バスタオルを巻いてそのまま寝たのだが、やっぱり快適性に問題がある。

 テントがあれば、ちょっとは湿気が防げるのではなかろうか。

 ここから出ると、安全地帯から外れてしまうし、ここで寝るしかない。


 出発前の準備では、男性陣と女性陣の2つのテントがあればいいかと思ったのだが、女性の人数が増えてしまった。

 一応、予備のテントがあるので、そいつを出す。

 イロハとサナが一緒にテントに入ってもらえばいいだろう。


 テツオと一緒にテントの中に潜り込む。

 彼は魔法のランプを持っているので、明るいのがありがたい。


「本当なら、彼女たちと一緒にお楽しみなんだろうが、すまないな」

「いやいや、テツオが一緒の時点で、そういうのは最初から考えてないし……」

「わはは」

 俺は飲まないが、彼にビールを渡し、異世界のことを色々と聞いた。

 中々に興味深いが、ネットがない世界に行くのはなぁ……最初は面白そうだけど、すぐに飽きそうだし……。


 それでも、住めば都――彼は日本、地球での生活に未練はないという。

 そういうものか。


「ん?」

 なにか、ガサガサと音がする。


「魔物が湧いたのか? それにしては、シャザームが反応してない」

 彼は警戒のために、シャザームを外に出している。


「ギャ!」「ギャ!」

 テントの入口をこじ開けて入ってきたのはハーピーたち。


「なんだ、お前らか」

「ダイスケ!」「ギャースケ!」

「わかったわかった、一緒に寝るか」

 ハーピーたちが俺の腹の上で丸くなるのだが、さすがに二匹は重い。

 レベルアップして、身体が強化されてるから平気だが、ノーマルだったら潰れているだろうな。


 ――温泉地で一泊して、次の日。

 テントから出ると、カオルコがやってきた。


「おはよう、どうした?」

「ほら!」

 彼女が乳暖簾のドレスを見せたのだが、いつもと違う。


「なんだ? 黒い模様が……」

「はい」

 乳暖簾の下、いつも彼女のへそが見えているのだが、そこに黒い模様が下から伸びてきている。

 これはあれか? ――イザルの神さまの信徒になると、身体に黒い模様が出るっていう……。


「ということは? 魔石から魔力の取り出しかたを覚えたってことなのかい?」

「まだ、試してませんが、おそらくは……」

 彼女がニコニコしている。


「そんなに簡単に、わけわからん神さまの信徒になってよかったのかい?」

「別に構いません」

 彼女の身体の構成する滑らかな曲線が自然と視線を引き寄せるのだが、腹部に浮かび上がるような黒い模様。

 その模様は、まるで彼女の内面から滲み出た何かのように、肌に溶け込んでいる。


 模様は繊細な蔦のようにも、獣の爪痕のようにも見え、見る者によってその意味を変える。

 不思議な艶を帯びたその黒は、彼女の滑らかな肌とのコントラストを生み出し、官能的な雰囲気を一層引き立てていた。


「じ~」

 ついつい模様を観察してしまう。


「もっと下も見てみますか?」

 彼女が怪しい笑みを浮かべた。


「ははは……朝食にしよう」

 俺たちは朝食を終えると、7層の出口へ向かった。


「入口から、温泉までのルートは把握したし、すでにボス部屋から温泉までのルートはクリアしてる」

「それで、入口から出口までのルートが確立されたってことだな?」

 テツオの言うとおりだ。


「正解のルートが確保されたことで、脇道の攻略も進むだろう」

「姫の言うとおり――これだけ広い迷宮だ。取り残したお宝もあるんじゃないか?」

「浅ましい奴らが、わんさか押し寄せるってわけか! あはは」

「オガ、お前もその冒険者なんだが?」

「もちろんさ! ほら、お宝もゲットしたしな!」

 彼女はドロップアイテムの剣を、姫に見せびらかしている。


「ぐぬぬ……」

 あれから、それなりの戦闘を繰り返したが、剣系のドロップアイテムは出ていない。

 見たことがないポーションやら、ロッドの類は色々と出ているのだが。


「サナが使っている杖みたいに、魔法のロッドと見せかけて、実は打撃武器みたいなものもあるしなぁ」

「サナちゃんのそれって、そうなのかい?」

 彼女が杖を握りしめて照れている。


「そうなんだよ。しかも、彼女が使うとクリティカルが出まくるという」

 まぁ、実際にクリティカルなのかは不明なのだが。

 ゲームのように、クリティカルのエフェクトが出るわけでもないからな。


「そりゃすげー!」

「聖女で魔法は使えるし、接近戦も超強い」

「さすが、ウチの神さまはお目が高いぜ」


 そんな話をしているうちに、ボス部屋に到着した。

 威圧感も十分な巨大な扉が俺たちを出迎えてくれる。


「ボス部屋か? なにが出るんだ?」

「リッチだな」

「リッチ?」

 テツオは知らない魔物のようだ。


「アンデッドの親玉みたいなやつだよ」

「あ~なるほど、アレか」

 彼の世界では、リッチとは言われず、現地語の名称がついているらしい。

 まぁ、異世界だし。


「でもよぉ! アンデッドなら、サナの魔法で一発だし!」

 イロハの言うとおりだが、根性が曲がっているこのダンジョンだし。

 なにか違うボスが出てきたりして。


 皆がワイワイと話している間にも、カオルコは歩きながら魔法の実験をしている。

 魔力を封じ込めた魔石は、俺が提供した。

 神さまから教えてもらったといっても、簡単ではないだろう。

 サナもしばらく試行錯誤していたしな。


 それでも、一回成功すれば、徐々に技も精度を増していくのではあるまいか。


 皆が慎重に部屋の中へと足を踏み入れたその瞬間、背後で重々しい音を立てて扉が閉まった。

 まるで何かに閉じ込められたかのように、外界との繋がりが断たれた気配が漂う。


 同時に、部屋の温度が一気に下がり始めた。

 肌を刺すような冷気が俺たちの肌を這い、呼気が白く霧のように立ち上る。

 四方を囲む石造りの壁が、まるで墓のように無機質で、冷たさをさらに際立たせていた。


「ダーリン!」

「やっぱり、出てくるのはアンデッドで間違いないんだな」

 やがて、空間のあちこちにゆらめく霧が現れ、次第に人型の輪郭を帯び始める。

 それは光を反射しない、不定形な影のようでもあり、かすかに光を宿す半透明な存在。

 霊体たちは音もなく漂い、時折低く、耳の奥をぞわつかせるような囁き声が響く。


『ヒヒヒヒ』


 そのうち、ひときわ大きな霊のひとつが、ふわりと眼の前に浮かび、まるでこちらを観察するかのように、虚ろな眼窩の中から無言の視線を送ってくる。


 眼前に佇むその存在は、もはや人の姿を保っていない。

 骨と化したその身体は、時間の風化にも屈せず、異様なまでに整っている。


 金色の王冠の下の眼窩の奥深くには、赤い光が燐光のように明滅しており、その輝きは感情を欠いた静寂の中に、不気味な知性を宿しているかのようだ。


 纏う法衣は、漆黒の布地に金糸で織り上げられた複雑な紋様を刻み、まるで古代の儀式や禁忌の魔法を象徴しているようで、見る者に畏怖を抱かせる。

 袖口や裾には細かな魔法陣が縫い込まれているのだろうか?

 うっすらと魔力の残滓が漂う。


 不気味な沈黙と、見えない何かの圧力が、部屋全体を包み込んでいた。


「おっ? 前のリッチより、ちょっと豪奢じゃないか? 金の冠も被ってるぞ」

「そんなことはどうでもいいだろ! サナ、ぶちまかせ!」

 イロハの言葉にサナが反応する。


「はい!」

 彼女が精神統一に入った。

 詠唱する間、俺たちが時間稼ぎをする。


「俺は見てていいんだろ?」

 テツオの奇跡は、最後の切り札だ。


「あぶなくなったら、頼む」

「オッケー」


『滅びよ!』

 闇から青い粒子が集まり、リッチの魔法が炸裂する。


聖なる盾(プロテクション)!」

 サナの前に出たカオルコの防御魔法が、リッチから放たれた魔力の激流を逸らした。


「よっしゃ! 俺の嫌がらせポーションミサイルぅぅぅ!」

 アイテムBOXからポーションを出すと、俺は脚を高く上げた。

 指先から放たれたガラス瓶が、猛スピードで骸骨のハゲ頭に直撃――パラパラと破片が散らばったあと、白い煙が上がる。


『ギャァァァ!』

 リッチが悲鳴を上げた。


「お? 意外と効いてる?」

 その隙をついて、姫とイロハが敵をタコ殴りにしている。


「サクラコさま! 下がってください!」

「下がれ!」「おう!」

 姫の合図で、イロハも後ろに飛ぶ。


「圧縮光弾! 我が敵を撃て!(マジックミサイル)

『むぅ!』

 カオルコから放たれたピアノ線のような細い魔法の束がリッチに向かうが、なんらかの防御に阻まれたようだ。

 励起した魔法の粒子が、破片になってパラパラと舞う。


「圧縮光弾! 圧縮光弾! 圧縮光弾! 圧縮光弾! 圧縮光弾! 圧縮光弾! あはははは!」

『なんだと!?』

 魔物も驚く、カオルコの連続攻撃だ。

 普通の魔法じゃこんなことは不可能なので、俺の渡した魔石の魔力を使っているのかもしれない。

 それじゃ、魔力の変換に成功したってことか。


 さすがのリッチも魔法の飽和攻撃を弾けずに、それなりにダメージを負ってるように見える。


「あはははは……は……」

 なんだか、ハイになったカオルコが魔法を連発していたが、いきなりぶっ倒れた。

 豊かに揺れる2つの胸がゆっくりスローモーションのように舞っている。


「カオルコ!」

 駆け寄って、倒れる彼女を抱きかかえると、鼻血を出して白目を剥いていた。

 あんな攻撃をしたんで、なんらかの副作用的なものだろうか。


「いきます!」

 サナの詠唱が終わったようだ。


「よし!」

 俺も、カオルコを抱きかかえて、後ろに下がった。


「む~! 退魔(ターンアンデッド)!」

 閃光とともに魔法が発動すると、床面から淡く白いモヤが滲み出すように現れた。

 それはまるで霧が地を這うように、柔らかな円を描きながら同心円状に広がっていく。

 モヤは音もなく、しかし確実に空間を満たしていき、その触れた先にあるものを拒むことなく包み込んだ。


『何だと!?』

 豪奢な法衣に身を包んだ骸骨がそのモヤに触れた瞬間、動きが止まる。

 骨の表面がわずかに震え、白いモヤに溶け込むようにして粉々になっていく。

 白いチリとなって崩れ落ち、舞い上がることもなく、地へと吸い込まれていくように消え――主を失った法衣が、その場に残された。


「ターンアンデッドが来ると、リッチはみんな驚くよな?」

 倒れたカオルコを姫に預けるとテツオと一緒に、残された法衣の所にやってきた。


「そのぐらい珍しい魔法なんじゃね? 異世界の聖職者でもかなり偉い人じゃないと使えねぇ魔法だし」

 彼の言うとおりかもしれん――と、思いつつ、残されたものを漁る。

 なにかドロップアイテムがあるかもしれない。


 いままでは、リッチを倒すと乳暖簾がドロップしたが、今回もそうだろうか?


「ギャ!」「ギャギャ!」

 誰もいなくなったボス部屋を、ハーピーたちが飛び回っている。

 上を見上げてから、俺は足元に目を移した。


「ん? なんだ?」

 なにか金色のものが見える。

 そういえば、リッチは冠を被っていたな?

 それが残ったのか?


 手に取る――確かに冠もあったが、もっと長いものが出てきた。


「そりゃ――弓じゃね?」

 テツオがアイテムを覗き込む。


「そうだなぁ」

 俺が手にしたのは、まばゆい金属の装飾が施された大型の弓だった。


 金色の地金が滑らかな弧を描き、枝角のようにねじれた形状が獣の力を思わせる。

 握りの部分には深紅の宝石がはめ込まれ、かすかな光を内側から放っていた。

 弦は銀糸のように細く、だが張られたそれは明らかに常人の力では引けぬほどの強度を感じさせる。


 彫り込まれた文様は古の言葉か、あるいは封印の術式か。

 渦を巻くような線と刻まれた小さな紋様が、弓の腕全体にわたって流れるように繋がっていた。


「なんだい? ドロップしたのは弓かい?」

 やってきたイロハが、ちょっと残念そうな顔をした。


「なんかすごそうな弓なんだが、もしかしてすごい威力かもしれないぞ?」

「いやぁ……ダンジョンで弓を使ってるやつって、あまりいないじゃん?」

 俺はイロハの言葉に、はたと思った。


「そういえば、浅層なら見かけるが……」

 浅層でコンパウンドボウや、ボウガンを使っている連中はいるが、深層になるとまったく見かけない。

 遠距離攻撃ができて、かなり強力そうだと思うんだが。


「それを使うためにはさぁ……」

「ん? そういえば、矢は?」

 俺は、この弓の問題点に気がついた。

 矢がないのだ。


「ドロップアイテムの弓で倒すと、矢をドロップすることがあるらしいよ」

「その矢がねぇじゃん! なにこのクソゲー!」

 鶏が先か、卵が先か――バグじゃないのか?

 それとも、弓は強力な武器だから使わせたくないのだろうか?

 ダンジョン作ったやつが、弓が嫌いだとか?


「わはは!」

 テツオが大笑いしている。

 笑いごとではない。

 彼は、このダンジョンのことはどうでもいいから、他人ごとだろうけど。


 イロハが俺から弓を奪うと、姫の所に行った。


「桜姫、こいつを使って見ればいいじゃん。ドロップアイテムが欲しかったんだろ?」

 またイロハが姫を煽っている。


「こんなものをどうやって使えというんだ!」

「これで殴ったら意外と強いかもしれないぞ? あはは!」

「くっ!」

 イロハから弓を取り返す。


「アイテムBOXにしまっておくよ。外で意外と高値がつくかもしれないし」

 話していると、カオルコが正気に戻ったようだ。


「カオルコ、大丈夫か?」

「だいりょうぶれす」

 あまり大丈夫そうじゃないんだが……。


「あ~、魔力酔いみたいなものだろ?」

 テツオが彼女の症状を解説してくれた。


「魔力酔い?」

「魔石から魔力を引き出してはいるが、魔力回路は自前だから、負荷をかけすぎればそうなる」

「電気回路が負荷のかけすぎで加熱したようなもんか」

「まぁな」

「それに、充填されているのが他人の魔力だと、相性的なものがたまにある」

「へ~」

 ここらへんは、異世界ではよく知られているらしいが、この世界ではこれからの技術だ。

 ふらふらしながら、カオルコが弓を眺めている。


「見事な弓れすねぇ~」

 まだちょっと呂律が回っていない。


 カオルコも弓の造りを褒めているのだが、見てくれは最高だ。

 ファンタジーで耳の尖ったエルフが持ってそうな弓だし、イロハと一緒に映画にでた美少年、エイトに持たせたら映えそうだ。


 ドロップアイテムのことはさておき、リッチを倒したサナだが、今回はレベルアップしなかった。

 ここで複数の敵を倒すか、次の8層まで行かないと、次のレベルアップはちょっと遠くなるかもしれない。


「ほら、サナ――王冠だ」

 俺はアイテムBOXに入れた王冠を取り出すと、彼女の頭に被せてやった。


「ダイスケ、そういうので呪いのアイテムってないのか?」

「え?! あるのか?!」

「あの、デバフがかかるアイテムは確かにあるみたいですよ」

 回復したカオルコが説明をしてくれた。

 大丈夫そうだ。


「マジか――サナ、大丈夫か?」

「は、はい、別に……」

 ステータス画面には、状態異常は表示されないからな。

 鑑定などがあれば解るのだろうが。

 カオルコと呪いについて話していると、イロハがやってきた。


「ダーリン! これで7層はクリアしたってことだよな?!」

「そうだ。以前、深層から逆アタックしてきたときには、この先が8層だった」

「うむ!」

 姫もうなずく。


「よっしゃ! 次だ次! 腕が鳴るぜ!」

「姫、どうする? イロハもやるつもりだが?」

「サクラコさま、一旦地上に戻って、7層の注意喚起をするべきでは?」

 カオルコの言うとおりだ。


「俺たちの開けた穴を通って、7層に侵入する冒険者がいるかもしれない」

「ん~? あ~? そうかぁ……あたいは次に進みたいが、確かにそれはあるなぁ。対策なしで、この迷宮に突っ込んだら、マジで死ぬし……」

 イロハもそう思っているようだ。

 まぁ、当然だろう。

 俺たちも、テツオの能力がなかったら、かなり危ない場面があった。


「テツオ、一旦戻ることになりそうだが……いいか?」

「ああ、構わんぜ。別に俺も急いでいるわけでもねぇし。持ちつ持たれつってやつだ」

「神さまからの期限とかは?」

「神さまから見たら、俺たちの時間なんてあってないようなものだしな」

 そういうものか。

 神さまなんて代物とつき合ったことがないから、よくわからん。


 全員一致で、一旦地上に戻ることになった。

 しかし、ここで戻ると、7層に戻ってきたときに、また中ボスと戦う羽目になるなぁ……。


 まぁ、出てくるのがアンデッドならサナの魔法で一発だが。



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