123話 私は帰ってきた
異世界からの使徒――テツオという男を助っ人に、ダンジョン7層を攻略している。
俺たちを阻んでいた7層の大壁はあっさりと攻略。
ちょっと裏技で攻略してしまったので、ここが本当に7層の迷宮なのか、ちょっと怪しいという問題は残っている。
それでも、このまま進んで俺たちがかつて訪れた場所にたどり着ければ、今回の攻略が正解だと証明されるだろう。
強力な魔物と対峙しつつ、迷宮を進む。
キャンプできそうな場所を見つけて、1日目が終わろうとしていた。
そんなときに、ハーピーのチチを依り代にした、神さまが降臨した。
イザルという、テツオに超常の力を与えている張本人――主神である。
姫とイロハの「本当に神さまがいるなんて……」というのは、正直な感想だろう。
俺もそう思ったし。
俺たちの中でも、カオルコは神の存在を真っ先に受け入れて、魔石の利用方法を教えてもらうようだ。
サナができたのだから、彼女もできるだろう。
魔石に込めた魔力を利用できるようになれば、魔法文化、魔法科学が1歩先に進む。
テツオが八重樫グループに売った、魔道具というものも、魔石に蓄えた魔力で動く。
実用のために必要な知識だろう。
――ダンジョン7層を攻略して2日目。
起きると皆で朝食を食べる――パンやスープにした。
食事をしながら、打ち合わせをする。
「この迷宮も、シャザームで飛んでいけば早いんだけどなぁ」
「それでは、我々の経験値にならん」
テツオの提案を姫は即時に否定した。
まぁ、そうだよな。
迷宮のマップを完成させるだけなら、シャザームに乗ってマッピングすれば簡単だ。
魔物とのエンカウントも、逃げることが可能かもしれないが……。
神さまと出会った俺だが、ちょっとした変化があった。
テツオが出している黒い穴というものが、見えるようになったのだ。
確かに黒い円盤らしきものが存在しており、そこからシャザームが出入りしている。
「テツオの目的が迷宮の最深部にあるなら、シャザームを使ってひとっ飛びに向かう手もあるだろ?」
「そうなんだけど――俺としても、強力な助っ人がほしいわけよ」
神の奇跡という超常な力を持つ彼でも、未知の敵と対峙するには不安があるのだろう。
戦力は多いに越したことはない。
戦いは数だよ! ――と、偉い人も言っている。
「テツオは、最深部になにがあるのか解っているのか?」
「う~ん、多分――このダンジョンを作ったやつだろうな」
「それを倒すのか?」
「神さまからは、はっきりと示されていないが、おそらくはな……」
「ダーリン――それじゃ、その神さまのオッサンが、そこを目指しているということは、最後に待っているのは世界中のダンジョンを作ったっていう、超大ボスじゃないのか?」
おそらく、イロハの言うとおりだろう。
「そうだろうなぁ」
「でも、ダイスケさん。ダンジョンを作ったという大ボスを倒してしまったら、この世界からダンジョンが消えてしまうのでは……」
以前、俺が考えたと同じことに、カオルコも気がついたようだ。
「そうかもしれない――が、そこでイザルの神さまの出番だと思う」
「倒したものに、イザルという神が成り代わるのか?」
姫がちょっと呆れた顔をしている。
「そういうことじゃないのかなぁ――なぁ、テツオ」
「ダンジョンじゃなくて、俺の世界にある門方式になるのかもしれん」
「門だって?」
突然出てきた単語に、イロハが首をひねる。
「どうやら、その門から異世界につながっていて、色々なものが落ちているらしい」
「そいつを拾って、鉱山のように活用しているわけだ」
テツオが異世界の門のことを説明してくれる。
「魔物と戦闘したりは?」
「たまにいることはあるが、ほとんどないな」
「なんだ、つまらねぇな!」
「うんうん」
戦闘好きなイロハと姫は否定的だ。
「ダンジョンがなくなったあとでも、日本人がそれを望んでいるなら、そのままダンジョン方式が引き継がれるかもしれん」
「一つ、解らんのだが――なぜ、神さまがそんなことをする」
姫がダンジョンの疑問点をあげた。
「まぁ、ひとえには信徒の獲得だな。なにもない所に門を作って物資を出せば、みんな感謝してくれるだろ?」
「このダンジョンは?」
「こいつは、ただの遊びに感じるな。人間もケースに虫や動物を入れて観察して楽しんでいるだろ?」
テツオが、ダンジョンの部屋をぐるりと見回した。
「我々は、虫や動物と同じだというのか」
「神さま連中から見たら、人間も虫も変わらんよ。人間が虫や動物で面白がっているのに、神さまが人間を使って同じことをするのは間違っているという道理はねぇからな」
「うぐぐ……」
「わざと難しいダンジョンやら、理不尽なことをして、人間が悶え苦しむのを楽しんでいるんだろ」
「あ~、このダンジョンを見ていると、否定できないのがツライところだな」
「ふぅ……我々は、神同士の覇権争いというツマランものに巻き込まれてしまっただけの虫と一緒か……」
姫がため息をつく。
「そういう裏側を覗いてしまうと、なんだか白けてしまいますねぇ」
カオルコが姫と一緒にため息をついた。
「華やかな舞台裏がツマランのはいつの時代もどの世界も一緒ってわけだ」
「「……」」
その言葉に、みんな黙ってしまった。
「おいおい、ここでダンジョン攻略を止めよう――みたいな話にならないよな? 俺も最深部に行かないと駄目なんだが……」
テツオの言葉に、姫が口を開いた。
「始めてしまったからには、こいつを終わらせないとな。このダンジョンの果てになにがあるのか、それを確かめたい気持ちもある」
「始まりがあったら、終わりがあるってもんだぜ」
イロハも姫の言葉に同調する。
「昔々、ある所にお爺さんとお婆さんが、幸せに暮らしましたとさ」
「物語というのは、すべからくハッピーエンドでなければ」
姫の言葉だが、もちろん異論はある。
そうは問屋が卸してくれないのが、世の中だ。
悲しいけど、これって現実なのよね。
「サナはどうなんだ?」
彼女はずっと黙って俺たちの話を聞いていた。
「私ですか? ――う~ん、神さまがダンジョンを作ったら、こんな意地悪なダンジョンにはならないと思います」
「わはは、それはあるな。でも、変なものが好きなやつはいるから、ひねくれた今のダンジョンのほうが好きだとか言いだすやつはいるだろうな」
テツオの言うとおり、世の中には、クソゲーハンターみたいな連中もいるからなぁ。
「でもよぉ、サナちゃん」
「はい」
「この世界の主神にイザルの神さまがなると、サナちゃんはその御旗ってことになるんだぞ?」
「ミハタってなんですか?」
「群衆の先頭で旗を振る人っていうか」
「その覚悟はできてます。そのミハタってのになれば、ミオやお祖父ちゃんの安全は保証されるわけですよね?」
「神さまの加護の中に入るのは間違いないな」
「それなら、大丈夫です」
「死なないだけで、地獄巡りになるかもしれないぞ?」
テツオが死んだような目をしている。
彼は、神の尖兵として戦場に送り込まれて、数千人単位で人を殺しているという話だったし。
「覚悟の上です」
「テツオの話だと、沢山の人を殺したりすることになるかもしれないんだぞ?」
まぁ、神さまも、聖女にそんなことはさせないと思うがなぁ……。
いや――相手が異端者なら、そういうのもあるのか?
「……ミオや、お祖父ちゃん、ダイスケさんが無事でいてくれるなら……」
「俺も入ってるのかい?」
「……」
彼女が聖女となった願いの中に、俺も含まれているということになってるのだろうか。
サナは一言も発さなかったが、その沈黙の奥には、静かに燃えるような強い意志が宿っていた。
まっすぐにこちらを見つめるその瞳は、言葉以上に雄弁で、揺るぎない決意を物語っている。
俺はその眼差しと決意に圧倒され、口を開くことができなかった。
――ダンジョンの中をさまよい、キャンプした所で起床――3日目。
バックパックに入れたチチを覗いてみると――。
「ギャ!」
元気そうだ。
朝食をやると、ギギと一緒によろこんで食べている。
回復したとみて間違いないだろうが、彼女にちょっとした変化が現れた。
「ダイスケ! ダイスケ!」
なんと、俺の名前を覚えてしまったらしい。
翼をバサバサしながら、俺の名前を呼ぶ。
ちゃんと人間の発音に近い言葉を発しているのだが、話せる単語は「ダイスケ」だけ。
神さまが依り代に使ったことで、ちょっと知恵がついて、もっと会話ができるようになったりするのだろうか?
「なんで、畜生がダーリンの名前を呼ぶんだ!」
「姫、そんなことで怒らないでよ。オウムやインコが、「ナントカちゃん!」みたいな言葉を話すのと似たようなものだろ?」
さすがの俺も、姫の言葉に少々呆れた。
「し、しかし……」
「ギャ! ギャ! ギャー! ギャースケ! ギャースケ!」
俺の名前を口にしたチチに対抗したのだろうか?
ギギも俺の名前を喋ろうとしているようだが、こちらは「ギャースケ」止まり。
「あはは! この分じゃ、ダーリンが犬や猫を飼っただけで、桜姫のやきもちが見れるな」
「私と猫とどっちが大事なの?! って感じですかね~」
「あはは!」
「ぐぬぬ……」
イロハとサナが、姫を煽りまくっている。
「ほらほら、そんなことより、食事を終わらせて7層を攻略しないと」
「わかっている!」
「ダイスケ! ダイスケ!」「ギャースケ! ギャースケ!」
「うるさい!」
姫が、ハーピーたちに八つ当たりをしている。
「まったく……」
食事のあと、ダンジョンの中で戦闘を繰り返すが、イロハが手に入れたドロップアイテムの剣のお陰でかなり戦闘力がアップしている。
通常の剣では、切り裂けない魔物の毛皮なども、両断できるようになっていた。
彼女も順調にレベルアップしている。
「ぐぬぬ……」
イロハの活躍を見ている姫は、実に悔しそう。
「姫、そのうち姫にもドロップアイテムが出るさ」
「し、しかし……」
「それなら、ダイスケさんに戦闘をしてもらって、アイテムだけもらったらどうです?」
「そ、そんなことができるかぁ!」
ちょっと意地悪なサナの提案に、姫が声を荒げた。
「そうなんですか。プライドが変に高い人は大変ですね」
「なんだと!」
「サナ、止めなさい」
「ぶ~!」
俺が姫の味方をしたので、サナが口を尖らせている。
こういうことをしていたら、聖女としての徳が下がるんじゃないのか。
神さまが、サナのことを未熟だと言っていたが……こういうことかもな。
「まったくもう……」
「サクラコさまも、オガさんのドロップアイテムを悔しそうにしているからですよ」
カオルコからの苦言に、姫が渋い顔だ。
「あはは! どうだぁ、桜姫。羨ましいか?」
イロハが、ゲットした剣をこれ見よがしに掲げている。
「ぐぬぬ……」
「イロハも煽るの、止めなさいっての」
「あはは!」
いつもいじられているので、ここぞとばかりに仕返ししてるな。
ちょっと悪ふざけがすぎる感はあるが、険悪な雰囲気ではない。
そのまま戦闘を繰り返してダンジョンを進む。
「ふう……」
基本、俺は後方で女性陣の援護だ。
俺が倒してしまったら、経験値にならないし。
「ギャ!」「ダイスケ!」
ハーピーたちは、シャザームの上で戦闘を見守っている。
彼女と一緒にいれば安全だと理解したのだろう。
ちょっとため息をついていると、女性の姿になったシャザームがやって来た。
「なんだ?」
「!」
黒い身体の彼女は、女性の豊満な肉体を模倣し、その曲線美を余すところなく誇示していた。
豊かな胸元は軽やかに揺れ、しなやかな腰つきは見る者の視線を自然と誘導する。
布などを羽織られたら、人間の身体と区別つかないかもしれない。
シャザームは自分の胸を持ち上げ、なにかを訴えているように見えるのだが……。
「テツオ、シャザームはなんて言ってるんだ?」
「とりあえず――おっぱい揉む? って言ってるんだろ」
「なんで?! ははは」
「ダイスケがちょっと元気なさそうだったので、慰めようとしたんだと思う」
「そうなのか? はは、ありがとう」
テツオの話では、ひどい戦場の中でも、シャザームのおっぱいを揉むと男たちが元気になるという。
「やっぱり、古今東西おっぱいぷるんぷるんか」
「異世界でも、それは変わりないってこっった、わはは!」
「ほらぁ! やっぱりダイスケさんは、おっぱいですよ!」
オッサンたちの会話に聞き耳を立てていたのか、サナが騒いでいる。
「ダーリン!」
姫もしっかりと、俺たちの話を聞いていたのだろうか。
「今の話は、あくまで一般男性の話としてだなぁ」
「その一般男性の中に、ダイスケさんも入っているってわけですよね?」
「ダイスケ! ダイスケ!」「ギャースケ! ギャースケ!」
ハーピーたちが、サナの声に反応して、バサバサしている。
「やかましい!」
「――というわけで、シャザームの胸を揉んでもいいぞ? お好みなら、もっと爆乳にもできるが」
巨大なバストに埋もれて恍惚の表情をした歴戦の戦士もいたという。
「はは、遠慮するよ」
眼の前に実る見事な黒い果実に思わず手が出そうになったが、思いとどまった。
なんか男として、大切なものを失いそうな気がするし。
「あははは!」
俺たちのアホな会話に、イロハが腹を抱えて爆笑している。
「イロハ姉さんは随分と余裕じゃないか」
「止めてくれよ。オッサンに姉さんとか言われると、鳥肌が立つ」
イロハはテツオの姉さん呼びに嫌悪感を示している。
「それじゃ、孤高の女戦士はダーリン争奪戦には参加しないんだ?」
「そんなことしなくても、あたいが生き残れば、ダーリンはあたいのものだし、わはは」
「ふ……それは巷では、『フラグが立った』というらしいぞ?」
話を聞いていた姫が、毒を吐いた。
「「ぐぬぬ……」」
イロハと姫がにらめっこしつつ、ダンジョンの中を進むと、迷宮の様子が変わり始めた。
乾いた空気は次第に重く湿り気を帯び、呼吸をするたびに鼻腔の奥にひんやりとした水の気配が感じられる。
足元にはうっすらと水たまりが現れ、かすかな波紋を描いては消えていく。
壁面には無数の苔がびっしりと生い茂り、その中には淡く光を放つものも混じる。
「おっと?! これはもしかして――温泉が近いのか?」
「うむ!」
「そうですね! 以前と同じ感じがします!」
迷宮に広がる温泉の予感に、姫とカオルコの顔が一段と明るさを増す。
あのダンジョンにたどり着ければ、この7層がまちがいなく、俺たちが以前訪れた7層と同じ所――ということになるからだ。
――と思わせておいて、実は違うダンジョンだったとかありそうだが、いくらなんでもそこまでひねくれてないと考えたい。
「ダイスケ、本当にダンジョンに温泉があるのか?」
テツオもちょっと信じられないようだ。
「安全地帯だし、温泉には体力や魔力の回復の効果もあるぞ」
「へ~、すげぇな。ここまで鉄道が敷けたら、スパができるんじゃね?」
「俺もそれを作ってみたいんだよなぁ」
ただ、4層辺りまでの魔物なら、機関車のほうが速いし、体当たりでも強い。
5層すぎるとどうかなぁ。
魔物の攻撃を受けたりしたら、ただでは済まないと思うし……。
防御魔法を使える魔導師を同乗させて、魔物を防ぎながら進むとか?
そこまでして、ここに来る意味があるのか? ――と、問われると微妙だな。
ダンジョンの奥へと慎重に進んでいくうちに、突如として視界が白く霞みはじめた。
もやのようなものが足元から立ち上り、瞬く間に濃密な湯気があたり一面を覆っていく。
湿った熱気が肌にまとわりつき、衣服の下までじんわりと温めてくる。
警戒しつつもさらに一歩踏み出すと、目の前のもやが一段と濃くなった。
その先に広がっていたのは、天然の岩肌に囲まれた、蒸気の立ちこめる広大な温泉。
「やったぞ! 湯船よ! 私は帰ってきた!」
「すげー! 本当に温泉かよ!」
イロハも驚く。
テツオはしゃがみ込むと、湯船に手を突っ込もうとして止まった。
「ダイスケ、手を入れても大丈夫だよな?」
「ああ、いいお湯だぞ」
「おりゃ! おお~本当に、いいお湯じゃねぇか、わはは!」
「硫黄のにおいとか、ヌルヌルしたりはしないけどな」
「……そういえばそうだな」
「ああ~っ! もう我慢できねぇ!」
突然、イロハが装備を脱ぎ始めた。
気温は高いし、湿気はすごいし、服を着てサウナに入っているようなものだからな。
「おいおい、ちょっと遮るものを出すからさ」
俺はアイテムBOXから、デカいタンクを取り出した。
原発の処理水のときにつかったタンクだ。
以前、タンクにここのお湯を満たしてアイテムBOXに入れていたが、燃える魔物と対峙したときに使ってしまった。
「私も脱ぐぞ!」
「私も限界です」
「私も……」
女性陣は全員、タンクの陰で装備を脱ぎ始めた。
「こんなこともあろうかと! ほい! すまんが、種類やサイズはないぞ!」
俺のアイテムBOXから取り出した、女性用の水着をタンクの向こうに放り投げた。
一応、ビキニとワンピースを用意してあるが、サイズの基本は姫とカオルコである。
まさか、イロハやサナが同行するとは思ってなかったし。
色は全部黒――白だと濡れると透けるし……。
女性陣が着替えでキャッキャウフフしている間に、オッサンたちも着替える。
裸になって黒い海パンだ。
「俺は素っ裸でもいいが……」
「一応、女の子たちもいるからさ」
「ずっと、シャザームに隠してもらうってのは?」
「まぁ、それでもいいけどな。セクハラにならないようにな」
「わはは!」
テツオは素っ裸になると、股間を黒いシャザームが隠している。
まるで、漫画のエロシーンで張り付いている海苔みたいだが……。
「ギャ! ギャ!」「ギャギャ!」
ハーピーたちは、翼をバシャバシャさせてお湯浴びしたあと、どこかに行ってしまった。
ここは湿気も多いし、苦手な場所なのかもしれない。
前にここのお湯に浸かったときにも、泳げないみたいだったしな。
「ダーリン!」
水着に着替えた女性陣が姿を現した。
姫はビキニ、カオルコとサナはワンピース。
問題はイロハだ。
鍛えられた肉体に、サイズの小さいピチピチのビキニ。
色々と見えそうだ。
「イロハ、ビキニじゃなくて、マイクロビキニになってるぞ? ちょっとマズイんじゃないか?」
「あはは! いつもの装備とたいして変わらねぇじゃん」
彼女の魔法装備も露出は高いが、普段は他の部分がアーマーで隠れているしなぁ……。
「タオルをさらしに巻くか?」
「これでいいよ」
相変わらず男前だ。
それに彼女がビキニだと、まるでスーパーヒーローのキャラみたいで、エロいより格好よさが際立つ。
「おお! まるでアメコミのスーパーヒロインだな」
「テツオもそう思うか?」
「ああ」
「なにせ、映画の主人公になったぐらいだしな」
「おお、その映画は評判になってたから、ホテルのネットで観たぞ」
「結構人気なんだよ。制作費はとっくに回収して、儲けが分配されてきてるし」
「あたいのところには、他の映画にもでてくれって誘いが沢山来てて、まいるぜ」
俺は絶対にOK出さないから、個別にアタックしているのか。
彼女だって冒険者が本職だ。
映画の出演だって望んでないだろう。
あれだって、俺に借りがあったんで、仕方なく出てくれただけだしな。
「とぅ!」
姫が湯船の中に飛び込んだ。
大きな湯柱が立つ。
「ダイスケ、深さは大丈夫なのか?」
「奥に行くと脚がつかないからな。危ないぞ」
「よっしゃ! それじゃ、あたいも泳ぐぜ!」
イロハも湯船の中に入ったのだが――。
いやいや、その水着で泳いだりしたら、全部丸出しになるだろうが。
逆にピチピチだから大丈夫なのか?
姫とイロハははしゃいでいるが、髪を持ち上げたカオルコとサナは大人しくお湯に浸かっている。
「ダイスケ、ダイスケ!」
テツオが呼んでいる。
「なんだ?」
「こんなのを作ってみたぞ?!」
テツオが見せたのは、黒いすべり台。
おそらく、シャザームが化けたのだろう。
「マジか」
「わははは!」
テツオがシャザームの触手に持ち上げられると、すべり台を滑り落ちた。
湯面に突っ込むと、湯柱が上がる。
「おい! オッサン! 面白そうなの作ったじゃねぇか!」
どうやら、イロハもすべり台をやるつもりらしい。
「プハッ! どうせなら、もっと高くするか」
お湯の中から顔を出したテツオがシャザームに命令すると、すべり台の高さが増した。
「ヒャッホウ!」
角度が急になったすべり台をイロハがすべり落ちると、凄まじい湯柱が上がる。
「きゃあ!」
カオルコたちの所にも、大きな波が襲う。
「もう! 私もやります!」
我慢できなくなったとういう感じで、サナがすべり台に向かった。
どうやら、やってみたかったらしい。
「これは、温泉にすべり台を作るのは確定だな」
「あははは!」
お湯の中からイロハが顔を出したのだが、黒いビキニが吹き飛んで、胸がもろ出しになってる。
「イロハ、胸! 胸!」
「いや~ん! ダーリンのエッチぃ!」
彼女が胸を隠して、身体をひねった。
「いまさらかよ」
「あはは!」
「おえ~! 気色悪いものを見てしまった――悪夢に出そうだ」
見慣れないイロハのポーズを見た姫が、気持ち悪そうにしてる。
「なんだよ、桜姫。言いたいことがあるなら、聞こうじゃねぇか」
「今のポーズを、お前のファンとやらに、見せてやればいいじゃないか」
「「ぐぬぬ……」」
姫とイロハが睨み合ってる間に、イロハのビキニはシャザームが探してくれた。
「テツオ、すべり台もまっすぐだけじゃなくて、ぐるぐる回るやつとかもほしいな」
「お?! いいねぇ!」
黒いすべり台が変化して、渦を巻くような形になった。
「おっしゃあ! あたいが一番乗りだぜぇ!」
一番喜んでいるのは、イロハだな――ははは。
遊んでいる女の子たちを横目に俺は、アイテムBOXからタンクを出して、お湯に浸けた。
ここに訪れる冒険者も多くなるから、温泉ポーションの出番は少なくなるだろうが、このお湯は色々と使い道がある。
ピンチのときにも助かったしな。
備えあれば憂いなし――アイテムBOXに入るものは、入れておいて損はないはず。
また活躍してくれると期待している。




