122話 黒い神さま
自称、神の使徒――というオッサンを助っ人に迎えて、ダンジョン7層を攻略中だ。
7層で冒険者を拒み続けていた巨大な壁も、彼が持っている神の奇跡であっさりとクリア。
7層の迷宮の中に侵入した。
ただし、誰も脚を踏み入れたことがない前人未到の迷宮だし、正式な方法でクリアしたわけではない。
以前、深層に飛ばされた際に逆攻略した迷宮と、本当に同じ場所なのか?
まだ答えが出ていない。
俺と姫たちが浸かった迷宮温泉を訪れることができれば、あのときの迷宮と同じものだと証明できるはず。
とりあえず、7層の迷宮に侵入した俺たちの目的地はあの温泉。
逆攻略した際に、カオルコがマッピングしているので、温泉にたどり着ければ、フロアボスのところまで一気に行ける。
まぁ、ここのボスはリッチだったから、サナの退魔で1発かもしれないが……。
彼女はすでにリッチも倒している冒険者だし。
それにフロアボスのリッチより、途中でエンカウントしたグレーターデーモンや、ケルベロスのほうが強敵だったような……
俺たちは、強敵を倒したあと、キャンプ地を探すことになった。
そろそろ、地上では日が暮れるころだ。
こんな場所で無理をしても仕方ない。
「あ! そうそう、魔物をアイテムBOXに入れないと」
魔物の屍を、そのままにしたままだった。
「ダーリン♡」
イロハが離れてくれないので、彼女をお姫様抱っこしたまま、魔物の死体の所に行く。
興味があるのか、テツオも一緒だ。
「収納」
巨大な躯をアイテムBOXに入れたのだが、残滓の中になにかあるのを見つけた。
「ん?! ドロップアイテムか」
見たところ、剣のようだ。
床に広がった魔物の体液と臓物の中に白い刃が見えている。
「はは、こういうところがゲームっぽいよな」
テツオがドロップしたものを見て、苦笑いをしている。
まぁ、真面目に考えると、意味が解らんよな。
俺もそう思うが、こういうものなんだから、しゃーない。
さすがに、イロハを抱っこしたままでは、落ちているものは拾えない。
彼女を降ろして、剣を拾う。
「お?! なんかゲームのアイテムっぽい剣だな」
テツオの言うとおり――銀色の刃を持つ長剣で、鍔の部分は金色で翼を広げた女性のレリーフになっている。
このダンジョンでは、ファンタジー系の派手なアイテムほど高性能な傾向があるから、これもそれなりの強さを持つ剣ではなかろうか。
「イロハ! ほら、ドロップアイテムだ」
「マジか、ダーリン」
「ほら」
彼女に剣を手渡した。
「おお! すげー!」
イロハは喜んでそれを受けると、ブンブンと勢いよく振り回したあと、剣を構えた。
「このダンジョンは、派手なデザインほど強いからな。かなり強そうじゃね?」
「やったぁ! あたいはやるぜ!」
「そうか、やるのか」「やるなら、やらねば」
俺とテツオの声が重なる。
俺たちが戻ってこないので、姫たちもやってきた。
「ダーリン、どうしたのだ?」
「ドロップアイテムだよ」
「む?!」
喜ぶイロハとは、対照的に姫は渋い顔。
「どうした?」
「ど、ドロップアイテムを取られてしまった……」
「再度、ケルベロスと戦えば、同等のアイテムをドロップするんじゃないのか?」
「うう……おそらく……」
まぁ、アイテムの有無より、先に取られたのが悔しいのだろう。
「あはは! これで、あっという間に桜姫に追いつけるぜぇ!」
「そ、それはどうかな? もしかして、ハズレアイテムかもしれないだろ……」
「サクラコさま、酸っぱいブドウじゃないんですから……」
思わず、カオルコからもツッコミが入った。
そんなことよりキャンプ地だが、迷宮の中で休む場所というのは難しい。
あの温泉は安全地帯っぽかったので、あそこがキャンプ地としては理想なのだが。
ないものねだりをしても仕方ない。
泊まる場所を探す。
いよいよなれば、迷宮の角に皆で身を寄せ合って寝ることになる。
「俺の穴で、ダンジョンを少し削るか? 少しぐらいなら、別の空間につながったりしないだろ?」
「そういう手もあるか……」
浅い穴なら、背後から襲われる心配はなくなるしな。
「見張りもシャザームを出して置けば、すぐに反応してくれるぞ」
「それはありがたいが……テツオとシャザームになんでも頼ってしまうのも悪いしなぁ……」
「これも、神さまの思し召しってやつだから、気にすることはないが」
「それは最後の手段で、もう少し場所を検討するとしよう」
姫の意見で、他の場所を探すことになった。
――とはいえ、バラバラに散開して探すわけにもいかない。
この迷宮は危険が危なすぎる(誤用)。
俺はといえば、女の子たちを代わる代わるに、お姫様抱っこしている。
サナだけかと思ったら、カオルコも抱っこしてくれと。
そうなると、姫もしなくちゃならん。
「お?」
姫をお姫様抱っこしていると、テツオがなにかに反応した。
「どうした?」
「シャザームがなにかを見つけたようだぜ?」
彼も、シャザームを使って四方を偵察させていたようだ。
「よし、その場所に行ってみよう、姫」
「承知した」
「……」
俺は姫が俺の腕から降りるのを待っていたのだが、一向にその気配がない。
「どうした?」
「もしかして、このまま行くのか?」
「もちろん」
まるで当然のように答えられてしまったので、姫を抱っこしたままシャザームがなにかを見つけた場所に向かう。
シャザームが先行しているので、途中に敵はいないのは解っている。
「そういえば――ハーピーたちがいないな」
「あまりに強力な敵が現れたので、恐れおののいて逃げたのだろう」
「まぁ、そんな感じだろうなぁ」
「飯のにおいをさせれば、すぐに戻ってくる」
姫の言うとおりか。
暗いダンジョンを進み、シャザームの所にやって来た。
そこは、通路の一部がくぼんでいて、部屋のようになっていたのだが――扉はない。
「部屋か? 罠は?」
「シャザームによると、罠はないようだ」
彼女に矢や串刺しも効かないし、吊り天井や落とし穴もすり抜けてしまう。
「カオルコ、魔法の明かりを」
「はい」
「魔法がもったいないぜ。俺のランプで見えるだろう」
シャザームの触手にテツオがランプを持たせた。
ここにいるメンバーは全員が暗闇でも目が見える。
かすかな明かりでも、部屋の全体像がはっきりと解る。
「なんだありゃ? 宝箱かい?」
イロハの指す、部屋の奥――確かに箱がある。
「こんな所にあるなんて、ミミックじゃないんですか?」
「俺も、サナの意見に賛成かな……」
「そうでしょうねぇ」
カオルコも同じ意見のようだ。
「俺が石でも投げて壊そうか?」
「シャザームでやったほうが早くね?」
「待て、ダーリン。この階層のミミックだ。それなりに強敵じゃないのか?」
「レベルの足しにしたいと?」
「うむ」
それじゃということで――俺が石を投げて、ダメージを与えることにした。
アイテムBOXから、瓦礫を取り出す。
「とりあえず、箱の蓋の部分を壊すぐらいなら、死なないだろ」
「頼む、ダーリン」
俺は撮影のためのカメラを出すと、大きく振りかぶって脚を高く上げた。
「丹羽投手、振りかぶって――第1球! 投げたぁ!」
俺の投げた礫が闇の中を一直線に飛ぶと、宝箱の蓋部分を吹き飛ばした。
破片がバラバラと部屋の中に散らばっていく。
「キシャァァァ!」
蓋がなくなった箱から、無数の触手が現れた。
どう見ても、箱の中に入っている量ではない。
もしかして、箱の下に本体がいるのだろうか。
「やっぱり、ミミックだったか――しかし、初めて見るタイプだな」
「ファイヤーボールとかで、燃やしたほうがよくないか?」
「いや、私がやる!」
姫が眩い銀の剣を構えると、その刃先に戦意が宿るかのように閃光が走った。
瞳に闘志の炎を燃やし、地を蹴る。
風を裂き、地を震わせるほどの勢いで突進する彼女の姿は、まるで戦場を翔ける彗星のごとし。
その明かりをめがけて、無数の触手が貪ろうと襲いかかってくる。
姫は身体を錐揉み回転させてそれを薙ぎ払う。
斬撃のたびに空気が震ると、断ち切られた触手が黒い粘液を撒き散らして宙を舞う。
触手の壁を越え、姫の剣がさらに深く斬り込んだとき、ようやく敵の本体が姿を現した。
大木のような触手の大元に、彼女の剣が深く突き刺さる。
「いやぁぁぁっ!」
姫の気合とともに、触手の大元が真っ二つになった。
ウネウネしていた触手が、途端に勢いをなくして、床に這う。
「やった!」
他に敵はいないか、周囲を確認してから、カメラを収納した。
「ここでキャンプするんですか?」
サナが部屋をぐるぐると見回している。
「まぁ、ちょうどいい感じじゃないか?」
俺は魔物の躯をアイテムBOXに収納。
ミミックの本体がいた場所に、ぽっかりと穴が開いている。
なにもなくなった床に、なにか光るものを見つけた。
「ドロップアイテムか」
取り上げて見ると――なにかの小瓶だ。
回復薬に似ているのだが、かなり濃い赤。
中にはとろりとした液体が揺れている。
深紅というにはあまりにも濁っていて、ランプの光を透かしても輝きはない。
むしろ闇を孕んだような色合いというべきか。
「姫、ドロップアイテムだが、見たこともない色の瓶だ」
彼女の瓶を手渡した。
「回復薬?」
「回復薬にしては、色が……」
姫の手の中を、カオルコが覗き込む。
「どんな薬なのか、人体実験してみないと解らんのは困るよなぁ……」
毒の可能性もあるし。
「こういうときに鑑定の能力があればいいのだが……」
都市伝説に出てくる鑑定の能力。
俺のアイテムBOX並に、レアな代物だ。
公式に、所持を認められている冒険者は、いまのところいない。
本当に、そういう能力があるのかどうかも、解らない。
「ダイスケさん、ここにまたミミックが湧きませんかね?」
カオルコが、ミミックが居た穴を覗き込んでいる。
彼女の心配も一理あるな。
「確かに可能性はあるが……」
「心配なら、シャザームに見張らせておけばいい。敵が湧けばすぐに教えてくれる」
「それはありがたい」
「よし! それでは、ここでキャンプをする!」
姫の言葉で決定だ。
俺のアイテムBOXから、エアマットなどのキャンプ用品を出して並べる。
「エアマットか! これはいいな」
「これがないと、寝られないからな。テツオはシャザームがベッド代わりになるんだろ?」
「わはは、そうだな」
「寝ていても、見張りをしてくれるのは、ありがたいなぁ」
「マジで、それよ。周りが敵だらけだと、ロクに寝られないからな」
裏技で、彼の穴の中で寝るという手もあるらしい。
「そういえば、穴に隠れて自動改札を突破してたりしてたな。そういう感じか?」
「俺の能力を使えば、普通じゃ無理な場所でも隠れられるからな」
たとえば、人が入れないような隙間に入って隠れることも可能なようだ。
アイテムBOXから飯も出した。
「おおっ! うめぇ! 角煮か~」
俺が作ったオークの角煮だが、テツオにも好評のようだ。
イロハが大量のおにぎりを、口に放り込んでいる。
相変わらずの食欲だ。
「ギャギャ!」
「お? ギギか」
「ほらな」
姫の言うとおり、飯のにおいを嗅ぎつけてやって来たようだ。
「ギギ、チチは?」
「ギ?」
解らんらしい。
はぐれてしまったか?
心配だが、ハーピーの嗅覚があれば、そのうち合流するだろう。
「あの~ダイスケさん」
ハーピーに飯をやっていると、サナがやってきた。
「なんだい? おかわりかい?」
「いいえ――食事のあとで、魔石をいただきたいのですが……」
「サナは持ってないのかい?」
「あ、あの……ダイスケさんが魔力を込めた魔石を……」
「俺の?」
サナは、なにか試すつもりなのだろうか?
もしかして、魔石から魔力を取り出す方法を思いついたとか?
それが本当なら、すごい。
ダンジョンの攻略が1段階上がる。
「は、はい」
「食事のあとじゃなくても――ほら」
俺はアイテムBOXから、大きめの魔石を取り出した。
黒い石の中には、魔力が込められている証――青い光が灯っている。
こいつは武器に転用できると判明したから、いざという時のためにストックしてある。
「ありがとうございます」
「む~」
「姫は、睨まないで」
「し、しかし……」
「サナには、なにか試したいことがあるんだよね?」
「は、はい――うまくいくか、わかりませんが」
なにをするのか、少々気になるのだが――サナは、精神集中のためか部屋の隅に行くとじっとしている。
「ダーリン――サナはなにをするつもりなんだい?」
イロハも気になるのか、サナをチラ見している。
「わからんが――おそらく、魔石に込められた魔力を取り出す方法を探っているんじゃないか?」
「そんなことができるのかい?!」
「テツオがいた異世界では普通に行われていたって話なので、方法はあるらしい」
「異世界の魔導師は、よく使っていたぞ。魔道具だって魔石に込められた魔力を使うわけだし」
「とりあえず、その方法を見つけないことには、魔道具の実現も難しいってことか……」
「へ~」
食事のあとも、サナは1時間ぐらいじっとしていたのだが――。
「光よ」
彼女の前に魔法の明かりが浮かんだ。
俺の目には普通の魔法に見えるのだが……。
気になるので、サナに声をかけてみた。
「サナ……もしかして、それって魔石の魔力で魔法を使ったのかい?」
「は、はい。なんとかうまくいったみたいです」
「ええ?! 本当かい!?」
「はい」
そこに皆も集まってきた。
「え?! まじで自分の魔力を使ってないのかい?」
イロハも、魔法の明かりをまじまじと見ているのだが、違いがあるわけではない。
「はい」
コンセントの電源が、バッテリーになりましたって感じだろうが、点灯する照明は同じ。
そんな感じだろう。
「い、いったいどうやったのですか?!」
「……それは、教えられません」
俺はサナの言葉に驚いた。
こんなことを言う子ではないと思っていたからだ。
「サナ、カオルコは圧縮光弾のことも教えてくれたんだぞ?」
「それは、もちろんわかってます……」
どうも、彼女は口ごもっている。
なにかわけがありそうだが……。
「あ、わかったぞ。ダイスケ」
テツオがなにか解ったようだ。
「なんだ?」
「サナちゃんは、神さまへの願いを使ったな」
「……」
『そのとおりだ』
彼女は黙っていたのだが、予想外の所からの声に俺たちは身構えた。
この階層には俺たちしかいないはず。
いや、俺たちの後続の冒険者がやって来た可能性もあるが……。
「ギャーッ! ギャーッ!」
ギギが、警戒音を出している。
なにかがいるのは確かのようだが……。
「誰だ?!」
姫が剣を構えて、声がした方向を睨む。
声はしたのだが――聞いたことがない声だ。
いや、聞いたことがあるか? なんかどこかで聞いたような……。
暗闇からヨタヨタと現れたのは、ハーピーだった。
「え?! チチか?」
「いや、ダーリン、違うんじゃねぇか?」
イロハの言うとおり、チチのようだが、脚や翼が黒く染まっており、明らかに色が違う。
「もしかして、しゃべったのはお前か?!」
『そうだ』
彼女が大きな翼を広げると、黒く染まっていたのは翼の中間辺りまでだった。
「ハーピーが喋っています!」
カオルコも驚きの声を上げた。
「あ……」
テツオが声を上げたが、彼はなにかに気がついたようだ。
『そんなに警戒せずともよい』
「うわ!」
ハーピーが羽ばたくと、俺の所にやってきた。
敵意はまったく感じなかったので、ビビリながらもいつもと同じように抱っこしてやる。
彼女の顔を見る。
顔立ちは確かに、いつもの彼女そのものだったが、目が違う。
まるで別人のもののように見える。
いや、果たしてこれは目なのだろうか?
深い闇を湛えたその瞳は、感情の揺らぎを一切見せず、こちらの心の奥底まで冷たく覗き込んでくるよう。
ハーピーの目でも、人間の目でもない。
なんの感情もこもっておらず――ただ、すべてを見通し、全てを知った上で、無言で裁いてくるような眼差し。
その目に見つめられると、自分の考えも記憶も、隠してきた弱さや恐れまでもが暴かれていくような錯覚を覚える。
まるで人ではない何か――いや、ハーピーだが。
神のように全知でありながら、どこか冷酷で無関心な存在。
俺が困惑していると、彼女が口を開いた。
『我が名はイザル』
イザルって――テツオの神さまの名前じゃね?
「え?! マジで神さまですか?!」
『とんでもねぇ、わたしゃ神さまだよ』
「ズコー!」
話を聞いていたテツオが、ずっこけている。
『なんだ? 我が子よ、なにか不満があるのか?』
「なんですか、そのネタは?」
『この世界で降臨するときには、こういうやり取りをするらしいではないか』
「いったい、どこ情報なんですか、そりゃ――それに、降臨の依り代にしても、なんで畜生なんですか? サナちゃんがいるでしょう?」
彼が、サナを指した。
『その者は、まだ未熟だ』
「……うぐ……」
サナが痛いところを突かれた――みたいな顔をしている。
「それで、ハーピーですか? 神さまの依り代にされちゃって、彼女は大丈夫なんですか? 神さまが抜けたあと、塩の柱になっちゃうとかは?」
『問題ない』
「まぁ、神さまが嘘つくはずがないとは思いますが……」
『そんな嘘をつく、意味がない』
そうだろうな。
「それで、話を戻しますが――」
彼女の胸を思わず見てしまう。
なんか、ちょっと大きくなってないか?
『うむ』
「サナが、神さまから魔石から魔力の取り出しかたを教わった――という話ですが」
『そのとおりだ』
「彼女に口止めをしているのは、それを使って信者を獲得するためですか?」
『……』
神さまがフリーズしている。
なんだろう。
基本がハーピーの脳みそなので、処理落ちでもしているのだろうか?
「神さま?」
『違う――そんなつもりはなかった』
違ったのか。
「それなら、神さまの信徒を増やすために、それを利用したらいかがでしょうか?」
『つまり――我が信徒になれば、魔石の利用方法を知ることができる――という、条件か?』
「そういうことになります」
『ふむ――ある世界で常識でも、ここでは貴重な情報になるということか』
「多分、知りたい冒険者が沢山いるので、信徒も増えると思いますよ」
『ふふふ……おぬしも悪よのう』
思わず「お代官様には――」と、言いそうになったが、止める。
「賢しいと仰ってくださいませ」
『ふふふ……気に入った』
とりあえず、神さまと話は通じたようだ。
「カオルコ、聞いた通り――イザルの信徒になれば、魔石の利用の仕方を教えてもらえるらしいぞ」
「なります! なります!」
「そんな簡単に決めていいのか? 信徒になると、身体に黒い模様が出るらしいぞ?」
彼女はもっと慎重派だと思っていたのだが……。
「最初は色々と制限があるかもしれませんが、神さまの信徒が増えれば、それが普通になりますでしょうし」
「まぁな。俺の住んでた異世界では、イザル教徒は迫害されていたんだが、対抗する神さまが滅びたせいでイザル教がデフォになったし」
「この世界でも、色々な宗教があるから、最初は揉めるかもしれないなぁ」
「でも、この前のネット動画で、この世界でも信徒が一気に増えたようだぞ?」
「ああ、それは聞いた」
『そのお陰で、こういう降臨が可能になったということだ』
「信徒が増えると、神さまの力が増すってのは、マジなんだな」
「そりゃそうよ」
カオルコと話してみたが、信徒になるという決意は変わらないらしい。
「毎日、拝めばよろしいのでしょう?」
『しっかり、心を込めて祈るのだぞ?』
「かしこまりました」
カオルコが頭を下げた。
魔石の魔力が使えるようになる――このことが広がれば、イザルの信徒は一気に増えるかもしれない。
『それでは、さらばだ』
ハーピーの身体が光ると、電池が切れたように、そのまま床にへばってしまった。
突然、神さまに身体を乗っ取られるとか、どんな感じなのだろうか。
身体の色は――翼や脚が黒くなってしまったのは、そのままだ。
「ギ……」
なでてやると、反応がある。
ぐったりしているだけのようだ。
アイテムBOXから、バックパックを出すと、中にタオルを敷いて彼女を入れた。
ここなら安心できるだろうか。
「ほ、本当に神なるものがいるなんてな……」
「本当だぜ……」
姫とイロハも信じられないみたいな顔をしている。
ダンジョン7層は初日から、波乱だな。




