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【コミカライズ連載中】アラフォー男の令和ダンジョン生活  作者: 朝倉一二三


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119話 神の使徒の戦闘力


 テツオと一緒に、7層の攻略に向かう。

 ゲームのように、攻略が完了した場所はワープでパスできればいいのだが、そうもいかない。

 地道に、ダンジョンを降りていかねばならない。


 そこで、テツオの相棒のシャザームの登場だ。

 彼女に乗せてもらい、空を飛んで一気に深層に向かう。

 予想以上にスピードも出るし、地上の魔物ともエンカウントしないので、あっという間に4層に到着した。


「ギャ!」

 4層に着くと、ハーピーたちが出迎えてくれる。

 空中を飛ぶ、テツオのシャザームに乗りながら、彼女たちをキャッチした。


 相変わらず、俺が来ると嗅ぎつけてくるよな。

 よほど、美味しそうなにおいがするのだろうか?


「なんだそりゃ、ハーピーか?」

 突然の珍客に、テツオはあまり驚いていないようだ。


「そうだ。俺と仲よしなんだよ。可愛いだろ?」

「おっぱいもでかいしな、わはは!」

「「じ~……」」

 姫とサナの視線が突き刺さる。


「いや、あのな……」

「ほらぁ! 桜姫さん! ダイスケさんもやっぱりおっぱいですよ!」

「ぐぬぬ……ダーリンは、お尻だと言ってたし!」

「ぐぬぬ……」

 今度はサナがぐぬぬしている。


「それなら、おっぱいもお尻も大きい、私の勝利ですね」

 なぜか、カオルコが勝ち誇る。


「「ぐぬぬ……」」

 まぁ、いつものにらみ合いなので、見て見ぬふりをする。


「ハーピーは、異世界にはいなかったのか?」

「いたな。結構嫌われものだったと思うが……」

「まぁ、食事を漁ったり、ウ◯コ爆撃とかするし、ははは」

「このダンジョンの魔物って、異世界から召喚されているんじゃないのか?」

 テツオは最初からそう思っていたようだ。


「やっぱり、そうだと思うか? このハーピーはどうだ? 異世界にいた種類と同じものか?」

「あまりまじまじと見たことはないが――おそらく近い種類だと思う」


 実際に異世界に生息している生物を、ここに召喚しているとすれば、魔物研究のセンセが「生物として矛盾がない」と言っていたのも頷ける気がする。


 話をしている間に――シャザームが、俺たちとハーピーを乗せたまま5層に到着した。


「ダーリン、こんなに早く着いたのなら、6層まで行ってもいいんじゃね?」

 イロハから提案が出された。


「姫、どうする?」

「そうだな――このメンバーなら5層に意味があるとは思えん。6層まで行くべきか」

「テツオ、次まで頼めるか?」

「いいぜ~」


 再び、シャザームは暗闇の中を疾走し始めた。

 今回参加している冒険者は、俺をはじめトップランカーばかりだからな。

 5層の魔物をいくら倒しても、レベルにまったく関係ない。


「6層です!」

 サナが安全地帯の明かりを指す。

 ここまで来ると、冒険者はあまりおらず、いるのは一部のランカーだけ。

 彼女が言ったとおり、チラチラと魔法の明かりが見える。


 目的地に到着したので、ゆっくりと音もなく着地した。

 シャザームの黒い身体が、しゅるしゅるとテツオの前に吸い込まれていく。

 俺たちには見えないが、彼の前には黒い穴があって、そこに戻っていくらしい。


「シャザーム、ありがとうな」

 俺の感謝の言葉に、黒い触手がプルプルと手を振ってくれた。

 いや、手ではないが。


「ギッ!」

 シャザームが変形したので、ハーピーたちが羽毛を逆立てて、ちょっと警戒している。

 見たことがないし、理解ができないのかもしれない。


「大丈夫だ」

 ハーピーたちをなでなでしていると、姫が叫ぶ。


「よし! このまま進むが、皆はいいか?」

「問題なし」「いいぜ~」

 俺とイロハが答えて、カオルコも頷いた。


 サナはもちろん大丈夫だが、テツオはどうなのだろう?

 戦闘でもシャザームを使うのだろうか?


「テツオ、戦闘でもシャザームを使うのか」

「相手が大物だと使うこともあるが、普段は俺だけで戦闘しているぞ」

「へ~、オッサンがどのぐらい戦えるか、見てみたいねぇ」

 イロハは、ちょっとテツオの戦闘力を疑っているようだ。

 自分は高レベル冒険者だという自負もあるだろう。

 冒険者のなりそこねに、自分並の戦闘力があるのかと、疑問に思っているのかもしれない。

 まぁ、気持ちは解る。


「それじゃ、オッサンも頑張ってみるかねぇ、わはは!」

 皆で暗闇の中を進むと、静寂を切り裂くように、地の底から低く重たい地響きが伝わってきた

 最初はかすかに、遠雷のように。

 ――だが徐々に、その震動は確かな重みを持ち、足元を揺るがす鼓動のように響き渡る。

 周囲の空気が微かに震え、地面の小石がカタカタと踊り始めた。


 俺たちの眼の前に、闇の帳を裂くように、白く巨大な影がゆっくりと姿を現す。


「ゴーレムか!?」

「ダーリン、ここは6層だぞ?!」

 イロハも驚いているのだが、5層のゴーレムよりデカい気がする。


「なんかデカくないか?」

「ダーリンの言うとおりだ。確かに大きいし、これは新種の魔物なのかもしれない」

 姫やイロハも見たことがない、初めての敵らしい。

 ハイゴーレムや、ウルトラゴーレムって感じか?


 レトロゲームの敵のグラフィックで色違いの敵が出てきたりするが、俺はそれを思い出した。


「おお~っ」

 テツオが巨大な敵を見上げている。


「オッサン、頑張れよ!」

「よっしゃ!」

 イロハの声援? に、彼も戦闘モードになった。

 ――かといって、武器を出すわけでもなし、魔法が展開している青い光も見えない。


「ゴゴゴッ!」

 ゴーレムの巨大な腕が彼に向かって振り下ろされた。

 通常の敵よりデカいから、位置エネルギーも質量も大きい。

 単純に言っても、威力は段違いだろうが――。


 テツオを避けるわけでもなし、その場に立ったまま。


「だ、大丈夫か?」

「ゴ?!」

 次の瞬間なにが起こったのか解らなかったのだが、敵の腕が切り落とされた。

 生きている石像から切り離された身体の一部は、途端に岩の塊になり――それが地面に落下すると、大きな震動を生み、俺たちの身体を揺さぶる。


「ゴ?!」

 岩の塊に意思があるかどうか解らないが、なにか戸惑っているようにも見える。

 なにかに怯えるように後ろに下がろうとしたようだが、脚が切断されており、そのまま後ろに崩れ落ちた。

 さすがに、腕も脚もなくなってしまっては、そのままもがくだけである。


「すげー! なんだ? 魔法の攻撃なのか?!」

「これは魔法じゃないな。神の奇跡ってやつよ」

「切ったのか?」

「サナちゃんは、俺の黒い穴が見えるよな?」

「は、はい」

「その穴を使って、カットしたんだよ」

「なんでも切れるのか?」

「空間ごと切り裂くから、切れないものはないはず。穴は魔法も吸い込むしな」

 そういえば、紋章隊が使った光弾の魔法を消していた。

 あのときは、穴に吸い込んでいたのか。


「それなら岩も切れる?」

「ああ、切れる切れる。金鉱山で働いたこともあるしな。わはは!」

 テツオが実演をしてくれた。

 地面に真円の穴がぽっかりと開く。

 こいつを続ければ、トンネルなども簡単に掘れるじゃん。

 ツルハシみたいな道具もいらない。


「湖の水を全部吸い込んだり――みたいなこともできるのか?」

「やったことがないがなぁ。多分できるんじゃないかな」

 さすが、神の奇跡。

 なんでもありだ。


「最後の最後に、頭の上に穴が開いて、今まで入れたものが全部出てくるってオチじゃないよな?」

「わはは! ああ、そういう小説があったな。俺も最初はそれを疑ったぜ」

 彼は、神さまと話して、そのオチではないと確認済みらしい。

 その神さまってのは信用できるのか?

 いいように利用されて終了ってネタじゃないよな?


 まぁ、利用されている間は、彼と家族は強力な加護によって守られているのかもしれないが。

 テツオと2人で、倒れているゴーレムの上に飛び乗る。


「それじゃ、ここでカットしてくれ」

 俺は、ゴーレムの魔石の下の部分を指した。


「よっしゃ」

 本当にスパっと、羊羹を切るようにゴーレムが真っ二つになる。


「材質に関係ないなら、ドラゴンの鱗でも切れるよなぁ」

「切れるぞ。実際にやったことがあるし」

 マジか。

 本当に無敵じゃないか。

 ただ、彼の穴は身近にしか出せないので、かなり接近をしないと駄目なようだが。

 接近できれば、切れないものはない。

 なにか小説で読んだ次元斬みたいな感じだろうか。


 魔石の土台が崩れたので、蹴りを入れて黒い石を取り上げた。


「ほら、テツオのものだ」

 魔石も、普通のゴーレムのものより大きい。


「おお、デカい魔石だ。こいつは利用価値が色々とあるぜ~」

 彼が石を両手で持つと、なにかやり始めた。

 黒い石の中に、青い光がぐるぐると渦を巻き始めたのだが、俺がやるのと少々違うような気がする。

 なんというか、勢いがすごい。


 俺の場合は、石の中でこんなふうに渦を巻いたりしないし。


「それは、魔力を入れているんだよな?」

「そう、こうやって魔力を溜めておけば、魔導師に渡して魔法の電池として利用できるってわけよ」

 大回復(ハイヒール)や、広域回復(エリアヒール)などに使えるらしい。


「ちょっと……」

 彼を手招きして、ひそひそ話をする。


「なんだ?」

「異世界の回復魔法を使う子も、あっちのほうが未経験者なのか?」

「そうではなかったな。聖職者系はそうだが」

「やっぱり、神官や聖職者系の仕事があるんだ」

「神さまの信仰が生きてて、実際に干渉してくる世界だしな」

 世界の仕組みが完全に違う。


「あ、あの! その魔石を魔法に使うってのを、やってみたいのですが!」

 突然、カオルコが会話に入ってきた。


「前に話したと思うが――俺は魔法を使えないから、具体的にどうやってやるのか知らねぇんだ」

「そうですか……」

 カオルコは残念そうだが、本当にそれができるようになれば、魔法の世界がかなり広がる。


「魔法の足しにはできないが、俺は武器として使う方法を編み出したぞ」

 テツオに俺の魔石の使い方を話した。


「魔石を爆弾にする?」

「そうなんだよ。魔石に魔力を込めて、敵にぶつける。これだけ――ただ、かなり猛スピードじゃないと無理だけど」

「ああ、このダンジョンの高レベル冒険者だからできる芸当か――多分、シャザームを使えば俺でもできるかもな」

 テツオの穴は超短距離攻撃なので、魔石で攻撃できるようになれば、攻撃の幅が広がる。

 彼も興味津々だ。


「ダーリン、試してみたらどうだ?」

 姫も、シャザームの能力を見てみたいようだ。


「それじゃ、7層に向かいつつ、敵を探すか」

「オッサンのために、もっとすげー敵が出てこねぇかな~、あはは」

 イロハはもの珍しいテツオの戦闘を楽しみにしているのかも。


「ハーピーたち、敵が来たら教えてくれ」

「ギャ!」

 2羽が暗闇に飛び立った。


「本当に懐いているんだな」

「辺りを警戒して、魔物の接近を教えてくれるし、道案内もしてくれるぞ」

「おお~、手懐けたもんだな~」

「まぁ、なんで俺に懐いているのか、よく解らんのだが……」

 単に食い物をやったってだけじゃないと思うが……。

 これも俺の能力なのだろうか。


 6層の中を索敵しつつ、皆でまとまって進む。


「敵を探すなら、散開したほうがよくないか?」

 テツオのもっともらしい質問だ。


「いや、どこにトラップがあるか解らん」

 テツオに、俺たちが遭遇した転移トラップについて説明をした。


「ダイスケのアイテムBOXなしだとヤバいな。単独でどこかに飛ばされたら詰むってことか……」

「テツオは平気か?」

「まぁ、大丈夫だな。魔法の袋や、シャザームの中にも物資が沢山詰まっている」

「どうしても抜けられない階層などに閉じ込められることもあり得るぞ?」

「そのときには、神さまの裏技があるから」

「裏技?」

「まぁ、上でちょっと話したけど、聞かないでくれ」

 彼が神妙な顔をしている。


「わかった――それはそうと、シャザームがアイテムBOX代わりになるのか?」

「ああ――黒い穴の異空間を管理してくれているわけだ」

 めちゃ便利だな。

 俺も欲しいが……姫がシャザームにもヤキモチを焼きそうだ。


「ギャ!」「ギャギャ!」

 テツオと話していたら、上が騒々しくなくってきた。


「ダーリン、敵だ!」

 姫も、ハーピーセンサーを受け入れている――というか、諦めた?


 ダンジョンの暗がりから、3体の赤い身体が出てきた。

 こいつは――ちょっとヤバい。


「レッサーデーモンだぞ!」

「しかも3体!」

「ダイスケ、ヤバい敵なのか?」

「ああ、ここの階層にいるのが不思議なぐらいに強いと思う」

「へ~、おし! シャザーム、やるぞ!」

 テツオの前から黒い触手が出てきて、手の形になる。

 彼が黒い掌に、青い光が灯った黒い魔石を渡した。

 さっき、魔力を注入していたものだ。


「さて――あのオッサンはどうやって戦うんだろうな」

 シャザームは、イロハの期待に添えるだろうか?

 魔石を握った黒い手が、どんどん伸びていく。


「皆さん、私の後ろに隠れて下さい。聖なる盾(プロテクション)!」

 なにかを感じたのか、カオルコが防御魔法を展開した。

 皆が彼女の後ろに隠れる。


「シャザーム! そのまま敵に投げつけろ」

 黒い触手が鞭のようにしなると、赤い敵に向かって魔石を投げつけた。

 手の動きに合わせて、耳をつんざく爆音と衝撃波が俺たちを襲う。

 土埃が渦を巻き、青い光が一直線に伸び、レッサーデーモンに衝突した瞬間――。


 コバルトブルーの閃光が、ダンジョンの壁を照らしていく。


「くっ!」

 閃光に目がくらみ、それが晴れると――敵が消失していた。


「おい! レッサーデーモンが消えたぞ!」

 イロハが驚いている。


「辺りを確認! 攻撃を躱したのかもしれん」

「「了解!」」

 皆で全周警戒をしたのだが、ダンジョンは静寂に包まれたまま。


「もしかして、3体同時にやったのか?」

 俺も驚く。


「わはは! こいつはすげー威力だな!」

 テツオが笑って、上手く攻撃したシャザームをなでなでしている。

 これが本当だとすれば、凄まじい威力だ。


「こんなの冗談じゃないぞ。立派な兵器じゃないか」

 姫も、その威力に震え上がる。


「ひいおばあさまが聞いたら、喜びそうですね」

「口が裂けても言えん」

 確かに、ミサイルやら砲弾に使える。

 相当な威力になるんじゃないかと思うが、こんな魔力を込められるのはテツオだけだ。


「なんだこりゃ、なにか魔力の質が違うのか?」

 俺とやっていることは同じように見えて、やっぱり違っていた。


「多分、魔力の量じゃないか?」

 テツオは思い当たる節があるようだ。


「そんな沢山の魔力を込めたのか?」

「ああ、デカい魔法の魔力電池として使うとなると、このぐらいの魔力が必要だからな」

「そうなのか……」

 要は、少しずつでも沢山込めればいいわけだ。


「ここのダンジョンには魔石がゴロゴロしているが、異世界だと魔石は高価だからな」

「魔物があまり沸かないとか?」

「いや、それなりにいるんだが、こんなデカい魔石は中々手に入らない」

 彼の話では――魔物の他に、魔鉱石という鉱物の形で発掘されて精製されたのちに魔石になるという。

 手間がかかるので、もちろん高価だ。

 魔石が高価で少ないとなると、異世界でこの攻撃は滅多に使えないってことになるか。


「異世界に帰ったときのために、ここでデカい魔石を集めていくか!」

「今の攻撃だと、魔石もなにもかも吹っ飛んでしまったぞ?」

「わはは、あんなに威力があるとは思わんかったからな」


「おい、オッサン! こんな攻撃じゃ、参考にならないだろ!」

「だって、おじさん異世界人だしなぁ……」

 イロハの言葉ももっともだが、この世界のものじゃないから、なにもかもらち外だ。


「ダイスケさん――テツオさんは神の使徒なので、魔力のサポートも受けていると思いますよ」

 サナが俺の所にやって来た。


「そうなのか? もしかして、サナもそうなのか?」

「話していませんでしたが……多分、背中に模様が出たときからだと思うんですけど、いつもより魔力が湧いてくる感じでした……」

「そりゃ、サナちゃんは、イザルの聖女だし」

 神の加護を受けた聖女を失うと、神さまの力が大幅に落ちるという。

 将棋の大駒みたいなものか?


「それだと、やっぱり神さまの入れ込みも違うと」

「そういうこと。その敵の聖女を倒すための、対聖女生体兵器が俺ってわけだ。俺は聖女には詳しいんだ」

 彼の話では、聖女は神からの加護により超強力なパワーを持ってるらしいが……。


「……」

 サナがなにか考えごとをしている。


「サナ、どうした?」

「……なんでもありません」


 魔物はテツオに任せたら簡単だと解ったが、それでは経験値にはならない。

 皆で打ち合わせをしていると、再びレッサーデーモンとエンカウントした。


「おりゃぁぁぁ!」

 今度はイロハが一人で対峙することになった。

 彼女は俺たちに比べて少々レベルが低いので、経験値を稼ぎたいところだろう。


「イロハ! 今日は、バフをかける魔導師がいないから、無茶をするなよ」

「大丈夫だダーリン! こっちもいいところを見せないと――な!」

 彼女が振り回した長剣が、魔物の赤い肌を切り裂いた。

 くるくると敵の腕が宙を舞う。


「ガォォォン!」

 敵の口に、青い光の粒子が集まっていく。


「魔法か?! ヤバいぞ?!」

 イロハは、敵の魔法攻撃を華麗なステップで躱すと、きりもみ回転の勢いのまま魔物の身体を両断した。

 レベルは少々低くても、彼女は圧倒的なフィジカルがある。

 つまり、基本的に強いのである。

 ダンジョンのレベル補正がなくても、普通のストリートファイトで敵なしレベルだと思われる。


「ふう!」

 イロハが残心していると、彼女の身体が光りはじめた。

 レベルアップだ。

 俺たちと一緒に7層の魔物を倒せば、もっとレベルが上昇するだろう。


「おお、中々すげーな! 異世界でも一流の戦士だと思うぜ」

「異世界でも、レベルの補正ってあるのか?」

「そんなのはないな。あるのは、神さまの加護だけだが、それがでかいほど、レベルの補正みたいな感じにはなる」

 根っこは同じものなのか?


 戦闘が終了したので、移動することにしたのだが――。

 そういえば、ハーピーたちの姿が見えない。


「お~い! ハーピー!」

「……ギ……」

 暗闇からかすかに声が聞こえた気がする。


「さっきの爆発に巻き込まれて、怪我でもしたかな?」

「マジか、そいつは可哀想なことをしたな」

 俺も、まさかあんな威力だとは思ってなかったし。

 知っていたら、ハーピーたちを退避させていただろう。


「お~い!」

 彼女たちのかすかな声を拾って、暗いダンジョンを進むと――地面に白い翼が見えてきた。

 地面に翼を広げてバタバタしているようだ。

 やっぱり、不時着していたのか。

 どこか、怪我をしたのかもしれない。


「ギャ」

「大丈夫か?!」

 見つけたのはギギだったが、すぐ近くにはチチもいた。

 2匹を抱えると、暗闇に灯る魔法の明かりを頼りに皆の所に戻る。

 サナが明かりを灯してくれていたようだ。


「ダイスケさん!」

「爆発の衝撃波か、それとも閃光に目がくらんで不時着したのかもしれない。ちょっと怪我をしているようだ」

「ゴメンな~」

「ギャ」

 ハーピーたちは、さっきの爆発をテツオがやったと思っていないようだ。

 彼女たちに、回復薬ポーションを飲ませて、サナに回復ヒールをかけてもらう。


 すぐに全回復するわけじゃないからな。

 飛べるようになるまで、俺の両肩で待機してもらうことにした。


 そのままハーピーたちを肩に乗せて、7層の安全地帯に到着――辺りを確認する。


「今日は誰もいねぇな!」

 イロハが安全地帯の確認をしている。


「おほ~、なんじゃこりゃ。一面の壁か!」

 テツオが、7層の壁を見上げて呆れていた。


「テツオ、見てくれ」

 俺は上を指した。

 指の先には、天井近くの出っ張りがある。

 以前は、ハーピーたちの巣があったところだ。


「あれが、地上100mの出入り口か。わはは! まったくクリアさせるつもりがねぇな」

 さすがに、彼も呆れている。

 これがゲームだったら、マジで糞ゲー間違いなし。


「俺たちは、トラップで深層に落とされて、後ろからクリアしてしまったが」

「まぁ、このダンジョンを作った神さまも、まさかそんなクリアの仕方があるとは思ってなかっただろうな」

「テツオは、このダンジョンは神さまが作ったものだと確信しているのか?」

「まぁな。ウチの神さまから見れば、邪神ってことになるが……」

「邪神でも、神さまは神さまなんだろ?」

「そのとおり。中身は変わらんし」

 さて、これからの予定だが。


「姫、すぐに登ってみるか?」

「ダーリン、腹が減ったぜ」

 イロハは戦闘をしていたから、多少消耗しているようだ。


「よし、慌てることもない。ここで食事をして休憩をしよう」

「ここまで、空を飛んで一直線でしたし」

 カオルコは防御魔法をちょっと使っただけだったな。


「サナもいいか?」

「もちろんです」


 アイテムBOXから物資を出して、皆で食事にすることにした。


「ギギとチチは?」

「ギャ!」「ギャギャ!」

 ちょっと元気が出てきたようだ。


 よかった。


 

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