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【コミカライズ連載中】アラフォー男の令和ダンジョン生活  作者: 朝倉一二三


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115話 黒い華


「なにこれ?! すご~い!!」

 カコが、テツオが持ってきた異世界アイテムに、キャッキャしている。

 俺たちの部屋に、皆を招き入れて売り物の説明をしているのだ。


 テツオが連れていたアオイという女の子は、サナの部屋にいる。

 サナのギルドで面倒をみてもらうつもりだ。

 俺のギルドがある状態なら、アオイを入れてあげてもよかったのだが、今は姫のギルドにいる。

 これから7層への攻略を繰り返すというのに、レベル1の冒険者の面倒はみていられない。

 他のギルドのように2軍があればいいのだが、姫のギルドには、それはないからな。


 テツオの頼みで、イチローという男の面倒もみてもらうことになった。

 テツオは、冒険者というものには興味なさそうだし。

 彼の仕事は、神さまから与えられた仕事をクリアすることらしいし。


「すごいだろ?」

「すごすぎるわ! こんなの天地がひっくり返るでしょ?!」

 異世界からもたらされた魔法のアイテムを、カコを通して八重樫グループに売り込むつもりだ。

 どれも彼女の言うとおり、この世界を変えるぐらいのインパクトを持っている。


 アイテムの売却は上手いこといきそうだが、ちょっと心配なことがある。

 サナを狙って、紋章隊という連中がホテルにやって来た。

 テツオの力を使って追い返したのだが――どうやら、サナのように紋章隊と似たような力を持っている人たちを強引に仲間にしているらしい。


 噂の紋章隊という連中に初めて遭遇したが、ダンジョンから離れても力を使えるというだけで、実力はそれほどではないみたいだな。

 冒険者のランクでの最上位は、おそらく俺のはず。

 それ以上の実力の持ち主が、巷にいるとは考えにくい。


「おい、ダイスケ」

 テツオが俺のところにやって来た。


「なんだ?」

「双子なんだな」

 彼が姫とカコを見比べている。


「そうなんだよ」

「性格は似てない気がするが……」

「いや、実は結構似てるし」

「「似てない!」」

 俺とテツオの会話に聞き耳を立てていたのか、姫とカコの声がハモる。


「ほらな」

「なるほどな~」

 それよりも、異世界のアイテムの話だ。


「どのアイテムもすごいだろ?」

 俺は、ランプを光らせてはしゃいでいるカコに、言葉をかけた。


「これって、本物なの?! 私――八重樫グループを担ごうとしているとか?」

「姫のお姉さんを騙す意味がないよ――なぁ、姫」

「ふふふ……」

 姫が、魔法の袋の実演すると、目の前のテーブルに皿が出てきた。


「これは! 袋のアイテムBOXよね? これも魔法で作れるって言うの?!」

「製作方法は不明だが、彼が住んでいた異世界では普通に作られているらしい」

 カコにテツオを紹介し、彼が住んでいた異世界の説明を彼女にしてあげた。


「……異世界? ……それって本当にあるの?」

「あるって! 実際に俺はそこに住んでいたし。こんなアイテム、この世界にはないだろ?」

「た、確かにそうだけど……」

 テツオの話に、カコはイマイチ信じられないようだ。

 無理もないが、彼に異世界の話を振っても、即座にその答えが返ってくる。

 都市、人びとの生活、料理、地理、政治や制度の仕組みなどなど――淀みや、ごまかしが一切ないのだ。


「ダンジョンなんて、異世界みたいなものだろ? ある日突然トンネルの果てが、異世界につながってもおかしくないし」

「う~ん、そうよねぇ」

「カコも、魔法の袋を試してみればいい」

 まぁ、信じられないようだが、眼の前にあるアイテムは本物だ。


「……こ、こう?」

 彼女がおっかなびっくり、袋の中に手を突っ込む。


「どうだ?」

「え? え? 中になにか入っているのか解る!」

「面白いだろう?」

 なぜか、姫がドヤ顔をしている。


「えい!」

 袋の中からカラフルな箱らしきものが出てきた。

 よく見れば、インスタントカレーの箱。


「あ~、こいつは門の中で拾ったものだな?」

「門って、テツオの住んでいた所にあるってやつか……」

「それそれ、異世界につながってて、色々なものが落ちてるんだ」

「すご~い! 誰でも使えるアイテムBOXだぁ!」

 魔法の袋を体験したカコが、子どものようにはしゃいでいる。

 こういう子どもっぽさは、姫は見せないからな……。


「それはそうと、そういう拾ったカレーを食って大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。俺も最初はおっかなびっくりだったけどな――わはは」

「なんかパッケージが昭和っぽいんだが……」

「実際に昭和の年号が刻まれているものもあるんだよ」

「それじゃ、その門の中ってのが、昭和の日本につながっているとか?」

「そうかもしれねぇし――神さまが作っているものだから、この世界にあるダンジョンと似たようなものなのかもしれねぇ」

「それじゃ――ダンジョンも、テツオの神さまと別の神さまが作っているとか?」

「まぁ、ありえる。実際、俺が送り込まれてきたってことは――そういうことかもな」

 彼が、腕を組んでウンウンと頷いている。

 もしかして、知らず知らずのうちに神さま同士の争いに巻き込まれるのかもしれん。


「わかったわ!」

「買ってくれそうか?」

「もちろん! これは絶対にすごいから! カオルコ、ホログラムの用意をして」

「はい」

 カオルコが、リモコンでカーテンを引いて、機械の準備を始めた。

 部屋が暗くなる。

 それを見ながら、カコがどこかに連絡をするようだ。


「飛行機は、まだ屋上にいるのかい?」

「いいえ、今日は帰したわ――ああ、私――カコです。出発前にお話した件ですが……」

「ダイスケ、なにをするんだ?」

 テツオが暗くなった部屋で、キョロキョロしている。


「ホログラムって、立体映像での通信機だよ」

「へ~、日本も進んでるなぁ」

「異世界でそういうのってないのか?」

「通信機はないが、FAXみたいな魔道具はあったぞ」

 彼の話では、ギルド間の通信や情報の共有を行っていたようだ。

 一方で字を書くと、距離が離れた場所で、まったく同じ動きをトレースする魔道具らしい。

 確かに、FAXっぽい。


「こんなのもあるぞ」

 テツオが魔法の袋から、なにかを取り出した。


「なにかの像?」

「これは指し示す者――だ」

「なんだそりゃ?」

「母親の像をどこかに置く――すると」

 彼が持っている小さな像の手が常に母親の方を向いている。


「方向探知機みたいなものか?」

「そうそう――森の入口に母親の像を置くと、子どもが常にそっちを向くから、迷わないって寸法よ――ははは」

「便利だな!」

「森や門の中に入るときに、必須のアイテムだぞ」

 門というのは、彼がアイテムを拾ってくるという異空間のことだ。


「へ~」

「それも欲しいな!」

 姫も興味があるようだ。

 確かに、階層入口の安全地帯に親機を置いとけば、迷うことなく戻ってこられる。

 今は、ハーピーたちに世話になっているが、彼女たちもいつまでもいないかもしれないし。


「よし! カオルコ、ホログラムのスイッチを入れて」

「はい」

 装置のスイッチが入ると、低いうなり音とともに装置の中心部からぼんやりとした白いモヤが立ち上った。

 まるで霧が水面から湧き上がるように、ゆらゆらと漂いながら、次第に形を成していく。

 やがて輪郭がはっきりし、淡い光を帯びながら二つの人影へと変化していった。


 取引相手は誰だろう。

 八重樫グループは女性のほうが強いようなので、姫とカコのお母さんだろうか。


 考えていると、向かって右側の人物はすぐに解った。

 以前にホログラムで話をした、グループで研究をしている博士だった。

 もうひとりは――。


 俺は息を飲んだ。


 その人物は、まるで夜そのものを纏ったかのような黒いドレスで木の椅子に座っていた。

 シルエットを美しく引き立てる滑らかな生地が、静かに流れる水のように彼女の体を包んでいる。

 その長いスカートは床まで届き、ほんのわずかに波打ちながら、まるで影が広がるよう。


 彼女の髪は闇夜のように深く、長く、絹のように滑らかで、背中を覆い隠すほどの長さ。

 背もたれが高い椅子に腰掛けた彼女の姿は、まるで絵画の中の貴婦人のよう。

 しなやかで気品のある佇まいは、まるで時間が止まったかのような静寂を生み出している。


 瞳は深い夜の湖のように暗く、何かを見つめるたびに底知れぬ知性と神秘を湛え。

 唇は淡い血のような色――。

 冷たくも魅惑的な微笑は深みを持ち、抗いがたい魅力を放っていた。


 その場の空気は、彼女の存在によって張り詰め、美しさと冷ややかさ、優雅さと威厳が入り混じり、まるで物語の中から抜け出してきたかのような、現実離れした雰囲気を漂わせていた。


「ひぃ、ひいおばあさま!?」

「え?!」

 姫の驚いた言葉に、俺も驚いた。

 前に聞いた歳は120歳だと聞いていたが、どう見てもおばあさんには見えない。

 30代か、下手したら20代か?


『久しいですねぇ、サクラコ。随分と大きくなりましたねぇ』

「ほ、本当に、ひいおばあさまなのですか?!」

『最近は、見舞いにも来てくれなくて、寂しかったわぁ……』

「孫もひ孫も、沢山いるでしょうに……」

『まぁ、ひ孫にそんなことを言われて、ひいおばあちゃん、悲しいわぁ』

「そんなわけないだろ……」

 姫がボソリと呟いた。


「あの! もしかして――博士がやったように、エリクサーで若返ったのですか?」

 カオルコが声を上げた。


『カオルコも久しいですねぇ――そのとおりですよ。博士が自分の身体で実験をして、問題なかったということだったので』

「延命だけじゃなく、若返りまで――こりゃ世界中の金持ちが飛びつくな」

 若返るなら、全財産払ってもいいという金持ちは山程いるだろう。

 今までは、いくら金を持っていても、それだけは叶わなかったのだから。


『あなたが、サクラコとつき合っているという男性ですね』

「は、はい――自己紹介が遅れました。丹羽ダイスケです」

『……』

 彼女がじ~っと俺を見ている。

 柔らかな光を宿したその目は、ただの視線ではなく、俺の心の奥底を探るようにまっすぐに向けられていた。

 瞬き一つせず、じっとこちらを見つめるそのまなざしに、まるで引力のようなものを感じる。

 逃れようとしても抗えず、吸い寄せられるように視線を絡め取られ、まるでその中に溺れてしまいそうになる感覚すら覚えた。


「あ、あの、なにか――?」

『ふう……歳上好きってのは、遺伝的ななにかがあるのかしらねぇ』

 彼女がなにかを呟いた。


「はい?」

『こっちの話です――カコ!』

「は、はい!」

 女性に呼ばれて、カコがテーブルの前にアイテムを並べると、説明を始めた。

 まぁ、テツオから受けた説明をそのまま流しているだけだが。

 姫とつき合っていることに関して、もっとあれこれ言われると思ったのだが、そうでもないらしい。

 このひいおばあさんがグループのトップだとすれば、もう俺たちの関係は認められてるってことか。

 余計な心配しなくてすむから万々歳だが。


 黒いドレスの美女は、ひ孫の説明を食い入るように聞いている。

 俺はこんな美女に会ったことがなかったので、ちょっとドギマギしているのだが――テツオは平気なようだ。

 男なら多少は反応すると思うのだが、彼は平然としている。


「テツオ、よく平気だな?」

「あん? なにが?」

 俺の言葉に、彼が首をかしげる。


「あんな身震いするぐらいな超美人は中々いないだろ?」

「ああ、そのことか。俺はエルフとも付き合いがあるからな」

「エルフって、あのぐらいの美人なのか?」

「男も女もな。この世のものとは思えないぐらいだぞ?」

「そんなに」

 そういう連中と付き合いがあるから、美男美女には耐性があるってことか。

 そりゃ、回りが美人ばっかりだったら、慣れちゃうこともあるのか……。

 この世界で暮らしている分には、想像もつかないが……。


 テツオと話している間に、向こうも話が終わったようだ。


『よく解りました。これが本物なら1兆でも2兆でも払ってもお釣りがくるぐらいなのですが』

 まぁ、ひいおばあさんの言うとおりだろう。

 まじで世界が変わるアイテムだし。


「ああ、私は仲介しただけなので、交渉はこちらのテツオとお願いします」

「テツオだ。名字はない。よろしく」

 彼の紹介に、ひいおばあさんの眉がピクリと反応した。

 まぁ、あまり礼儀はなってないが、彼にとってそれはどうでもいいことなのだろう。

 仕事が終われば、すぐに元の世界に戻るし、仲良くする必要もない。


『あなたは、どのぐらいで売り込みたいのですか?』

「正直、いくらでもいい。そちらの払える金額で――と言いたいところなんだが、条件がある」

『条件?』

「俺は異世界からやってきた、渡航者なんだ」

『異世界? カコ!』

 ひいおばあさんの顔が険しくなった。

 まぁ、にわかには信じられないのも当然だろう。


「話を聞く限り、本当らしいです。このアイテムの数々も異世界で作られたものだと……」

『その異世界人の出す条件とは?』

「異世界人だから、日本の円をもらってもどうしようもないんだ。異世界じゃ使えねぇし」

『……それはそうね』

 彼女が眉間のしわを寄せ、難しそうな顔をした。


「ここにいる面々と事前に話したんだが、異世界でも通用する地金や宝飾品で代金をもらいたい」

『なるほど……そういうことね』

「しかし、この世界情勢で、金の値段も上昇してますし、需要も増えてます」

 カコの言うとおりだろう。


「それに、日本が保有している金は、ほとんどアメリカの基地にあるって話を聞いたことが……」

 その金も、すでに持ち出されて空っぽだとか、誰も確かめたことがないとか――そんな都市伝説があった。

 世界が静止したときに、その金が使われたという話もなかったが……。


『それは政府が保有している金ですね。おおよそ、今の金額で2兆円ほどでしょうけど』

「2兆円はすごいのか、それとも日本の経済規模からするとたった2兆円なのか」

『日本の市場から大量の金がなくなると、政府からなにか言われそうですし……』

 さすがのひいおばあさんも困っているようだ。


「異世界でもつかえるようなものなら、なんでもいいんだがなぁ……」

 テツオの言うとおりだが、地金が一番確実なのは確かだ。


『カコ!』

「はい」

 2人が端末でなにか話し合ってる。

 ホログラムだとひそひそ話ができないせいだろう。


『いいわね』

「はい」

『テツオさん』

「決まったかい?」

『可能な限りの地金と――そちらのダイスケさんから購入したエメラルドドラゴンの宝石のすべて、譲るということで』

「エメラルドドラゴン?!」

 さすがのテツオも驚く。


「ああ、俺とサナがダンジョンで倒したんだよ。全身がエメラルド色の宝石で覆われていた」

 アレを売るのか。


「そいつはすげぇ。宝石なら、異世界でも十分に使えるしな」

 あの緑色の石は、特殊な組成で、こちらの世界にはないものだという話だったが……。


「でも、よろしいので?」

 俺は一応、ひいおばあさんに聞いてみた。


『やむを得ません。この魔法のアイテムのほうが、グループにより多くの利益をもたらしてくれるでしょうから』

 マジで1兆円でも安いぐらいだが、彼には日本円が使えないという縛りがある。

 それにテツオの話では、あれらの魔法のアイテムは、異世界ではありふれているものらしい。

 高く売れるに越したことはないが、ぼったくるつもりもないということだろう。


「これらのアイテムを解析できるかどうかも解らないんですよ?」

『失敗したときには、それは仕方ありませんねぇ。でも、これは社運をかける価値があるものでしょう』

 ひいおばあさんの言うとおりだろうな。


「あ!」

 俺は忘れていたことを思い出した。


「どうした、ダイスケ?」

「こちらのテツオ、異世界から来たということで、日本の国民カードがないんですよね。八重樫グループのご尽力でなんとかなりませんか?」

『それは用意させましょう』

 マジか。

 本当にできるんだな。

 政府に頼むんだろうか。


「やったぜ!」

 テツオが喜んでいる。

 不便そうだったしな。

 これで、冒険者のカードも作れるだろうが――彼は冒険者そのものには興味なさそうではある。


「まぁ、記憶喪失ってやつを使う手もあったんだけどな」

「ああ、仮の戸籍をもらうってやつだな。なるほど、その手があったか~」

「日本語がペラペラで喋れれば、意外とすぐに作れるらしい」

「へ~」

 なにはともあれ、テツオの国民カードの目処はついた。

 これで買い物なども簡単にできるようになるだろう。


「あの、テツオさんでしたか。国民カードを作るとなると、名字が必要になるんですが……」

 カコの言うとおりだろう。


「ん~、自分の親を殺した時点で、俺の祖先は全部否定したし、全部捨てたんだよな。俺の親は、神さまだけ」

 そういう点では、彼は神の使徒としての素質みたいなものを持っていることになるのだろうか。


「名字がないというわけにはいかないのですが、通名でもいいので必要ですよ」

「それじゃ、名無しにしてくれ」

「ナナシって名字もあるかもしれないぞ」

 ちょっと検索してみると――ごくわずかだが存在するようだ。


「テキトーな当て字でいいよ。どうせ、すぐに異世界に帰るわけだしな」

「解りました」

 俺のスマホが鳴る。


「ん?」

 スマホを見れば、総理。

 メッセージじゃなくて、直接出る。


「はい、丹羽です」

『いきなりの話で、よく解らないんだが?』

「書いたとおりですよ。紋章隊という連中が、私の仲間の長谷川サナを連れ去ろうとしたんですよ」

『紋章隊が?』

 姫が顔を寄せてくる。


「ダーリン、誰だ?」

「総理だよ」

『あら、ちょうどいいわ。彼にホログラムに出るように言ってちょうだい』

「え?! どこにいるか解らないんですけど」

『いいから』

 見えない圧力が伝わってくる。


「これって三方向の通信ってできるんですか?」

「できるわよ」

 カコが答えてくれた。


「あ、はい――あの~総理」

『なんだ?』

「八重樫グループの一番偉い方が、ホログラムに出てくれと仰ってるのですが……」

『グループで、一番偉い方? ……まさか?!』

「そのまさかで合ってると思いますが……今ホログラムに出られる場所ですか?」

『今すぐ用意する。電話を切るぞ』

「承知いたしました」

 電話が切れた。


「すぐに、用意してくださるようです」

『ありがとう』

 彼女がニコニコしているのだが、なにを考えているのか解らない。


 しばらく待っていると、ひいおばあさんが右を向いてなにか話し始めた。

 多分、そこに総理のホログラムが映っているものと思われる。

 マイクはミュートになっていないのか会話も聞こえてきた。


『え?! ほ、本当にキョウコさまですか?! いったいぜんたい、そのお姿は?!』

 まぁ、120歳の婆さんがいきなり若返っていたら、そりゃおどろくわな。

 ひいおばあさんの名前は、以前話に出てきていたな。


『グループの新しいテクノロジーよ。他言無用でね』

『も、もちろんでございます!』

『それで、色々とお願いがあるのだけど……』

『キョウコさまのお頼みとあらば、なんなりと』

 まるで、女王さまだな。

 彼女は、総理にテツオの国民カードを頼んだようだ。

 記憶喪失じゃないが、記憶喪失扱いでカードを作ったりするのだろうか?

 それとも、別枠でそういうカードがあるのかも。


『それから、申し訳ないのだけど――日本の金の地金の総量を少し減らすわ』

『え?! それはいったいどういうことで……』

『ある取引で、異世界のアイテムを手に入れたの』

『い、異世界?! 異世界ですか?! あの、冗談ではないのですよね?』

 そりゃ驚くだろう。


『私が、こんな冗談を日本の総理大臣に言うと思って?』

『い、いいえ! 失礼いたしました!』

『大丈夫心配しないで。これから世界がひっくり返るぐらいの、素晴らしいことが起きるから――おほほ!』

『承知いたしました!』

 これじゃ、どっちが総理か解らんな。


 それに、異世界のアイテムが解析できると決まったわけじゃないんだがなぁ。

 まぁ、これを見たら、勝負をかけるしかないだろうけど。


 マジで実現できれば、世界を支配することも可能だろうし。



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