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【コミカライズ連載中】アラフォー男の令和ダンジョン生活  作者: 朝倉一二三


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113話 魔法のアイテム


 突然、空からやって来た男。

 テツオというこの男は、異世界からやって来た神の使徒だと言う。

 彼が使っている、シャザームという生き物の能力を見せてもらった。


 確かに、こんな生き物は見たことがないが、それだけではない。

 彼が出した、魔法の袋、魔石で動くコンロとランプ。

 俺たちの世界では、開発されていないものだ。


 これを八重樫グループに売って一儲けしようぜ――という計画を立てた。

 本当にこれらのアイテムを研究して、同じものを開発することができれば、世界が変わる。

 日本が世界の頂点になれるかもしれないが、肝心の物がダンジョンで使えなければ、お話にならない。


 早速、皆でダンジョンに出かけて、試してみることになった。

 手っ取り早く、エントランスホールで試せばいい。

 あそこもダンジョンの中だしな。


「ダンジョンに行く前に、役所に行って仮免を取ろうぜ」

「ダンジョンに入るのに免許がいるのか?」

 テツオのいた異世界には、もちろんそんなものはなかったらしい。


「そうなんだよ。入口には自動改札もあるしな」

「なんでも利権にしやがるなぁ」

「まぁ、それは仕方ない。ダンジョンの整備にも金がかかることだし」

「ダイスケさん! この人たちも冒険者になるんですか?」

 サナが俺の周りをグルグルと回っている。

 俺とテツオが組んでなにかするのが、不思議なようだ。


「彼なりに目的があって、仕事が終われば故郷に帰るみたいだし」

「ははは、家もあるし、家族もいるからな。毎朝、乳搾りをしないとアカンし」

「乳搾り? 牛がいるのか?」

「まぁ、似たようなもんだな。乳搾り職人の朝は早い――ってやつよ」

「へ~」

 異世界を満喫しているじゃないか。


「世界が止まったあとの俺の田舎は、マジで原始時代のようになってしまったからなぁ。電気もなかったし、異世界と変わらんかったかも」

「ダンジョンができて、半導体が一切使えなくなったんだってな」

「それで、あらゆるものが止まってしまってな」

「俺は異世界にいて、正解だったのかもしれねぇな」

 話している間に役所に到着した。

 いつもの窓口のお姉さんの所に行く。


「ちわ~、また冒険者志望だよ」

「はい、国民カードをどうぞ」

「あ、そうか! それを忘れてたな」

 テツオは、国民カードを持っていないのを失念していた。


「ああ、俺はいいよ」

 テツオは、まったく気にしていない様子だ。

 アオイとイチローは、タブレットに色々と記入して、提出――しばらくすると、仮免ができ上がってきた。


「これで俺も冒険者か!」

 イチローがカードを掲げて喜んでいる。


「まだまだ、スライムでも倒して、ステイタス画面が出てこないと正式な免許にならないぞ」

「でも、普通は出るっすよね?」

「出ないやつも、それなりにいるみたいだぞ?」

「それでも、スライムぐらいならなんとかなるっすよ」

「スライムでも、死ぬことがあるからな」

「ああ、構わん構わん、そんなやつは死んでもいいからよ」

 テツオはまったく面倒をみるつもりがないようだ。


「兄貴ひでぇっすよ!」

「俺は仕事を終えたら故郷に帰るって言っただろ? お前らの面倒はみるつもりはないからな。それまでに自分らで稼げるようになれよ。金が入ったら、分前はやるからよ」

「……わかったっす」

 イチローの顔が引き締まった。

 いつまでもチンピラをやっているわけにもいかないだろう。

 一端の冒険者になれば、反社などは手を出してこない。


「お前もだぞ? アオイ」

「は、はい」

 ダンジョン前の自動改札の所までやって来た。


「それで、テツオはどうする?」

「あそこがダンジョンの入口だろ?」

 彼がぽっかりと開いた異空間への入口を指した。


「そうだ」

「そこまで進んでくれ。俺は別ルートで行く」

「え?!」

 俺が聞き返そうとすると、彼の姿が消えた。


「ダーリン、なんだかよく解らんが、行ってみよう」

「ああ……」

 姫の言葉どおり、皆で自動改札を通って、ダンジョンの入口までやって来た。


「おい」

「わ!」

 突然、後ろから声がして驚く――まったく気配がなかった。

 振り向くと、テツオの顔。


「こういうわけだ」

「それも魔法なのか?」

「いや――俺の前に黒い穴があるって話しただろ?」

「あ、ああ」

「その中に隠れて移動したんだ」

「そんなこともできるのか?」

「まぁ、俺以外がやると、死ぬけどな、ははは」

「物騒だな!」

「本当にその穴はあるのか?」

 俺たちの会話に姫が反応した。


「テツオさんの前には黒い穴があるんですよ」

 やっぱり、サナには、彼の穴が見えているらしい。


「そうなのか?」

「は、はい」

「彼が仕えている神さまの信徒なら、穴が見えるっぽい」

「本当なのか?」

 姫は信じがたいようだが、実際にサナには見えているようだからな。


「サナちゃん、神さまには祈ったかい?」

「たくさん感謝をしました」

「それは神さまも喜んでいると思うぞ、ははは」

「どうみても、胡散くさいのだがなぁ……」

 姫の率直な感想ってやつだが……。


「まぁ確かに――彼は神さま云々より一番遠い男っぽく見えるしな」

「ははは! 自分でそう思うわ!」

 テツオが大笑いしている。


 皆でそろって、エントランスホールに入る。


「端っこでやろう」

「なにをするんですか?」

「テツオが持ってきたアイテムを、ダンジョンの中で使えるかテストするんだ」

「アイテムですか?」

 俺のアイテムBOXから、持ってきたものを出した。


 魔石を入れるだけでいいから取り扱いは簡単だ。

 とりあえず、扱いが簡単そうなランプで試してみることにした。

 裏蓋を開けて、中に魔石を放り込むだけでいいらしい。


「あ!」「点いた!」

「すごい! これってランプですか? もしかして、魔石で動いてます?」

 ランプにサナが驚いている。


「こいつは、テツオが異世界から持ち込んだものなんだ」

「異世界……確かに、そんなこと言ってましたけど……」

 サナは、まだちょっと信じてないらしい。


「神さまは信じてたのに?」

「実際に力をいただきましたし……それに声だって」

「あれは声だったのかなぁ……」

 そんなことより、ダンジョンでランプが点いたってことが重要だ。

 続いて、コンロを使う――問題なし。


「すごい! 温めの魔法がいりませんね!」

「ダンジョンに潜ってないときに、魔石に魔力をストックできるんだから、これは効率がいいと思う」

「私もそう思います」

「ダーリン! サナと、くっつきすぎだ!」

「それより、姫! これは使えるし、金になる! 世界が変わるぞ!」

「確かに……これで、ダンジョンの開拓が進み、鉱山化や資源化がはかどる」

「あとはなにか、乗り物でも作れれば」

「う~ん――そういえば」

 テツオが俺たちの言葉に反応して、彼が持っていた魔法の袋からなにか取り出した。


「アイテムBOX?!」

 テツオの袋に、サナが驚いている。


「その袋も、魔法のアイテムらしい」

「もしかして、それって作れるんですか?」

「そうなんだよ、サナちゃん。魔道具を作る専門の魔導師がいたんで、そういう連中が作ってたな」

「魔法については、まだまだ解らないことだらけですよ……」

 カオルコも自分で魔法を研究をしているが、手探り状態だからな。


 テツオが取り出したのは、円筒形の石。

 2重になっていて、中心の石の真ん中あたりに、分割線が入っている。


「それは?」

「俺が提案して、作らせたものなんだが――こうやって使う」

 彼が円筒の上に魔石を載せた。

 すると、中心部分がゆっくり動き始めた。


「動いている?!」

「これは、ゴーレムだよ」

「ゴーレム?!」「ゴーレムも作れるんですか?!」

 カオルコが覗き込む。

 やっぱり魔法で動くものには興味があるのだろう。


「ゴーレムを作っている魔導師たちは、なぜか人みたいな動きをするものにこだわっているんだよ」

「これってモーターみたいに動力に使えないか?」

「俺もそのつもりで作らせてみたんだが……」

「ダーリン! これはすごいぞ?! ダンジョンの機関車もエレベーターも魔石で動くようになるかもしれん」

 姫の言うとおりだ。

 たとえば、車やバイクのようなものも作れるだろう。


「よし! これが本当に使えるのが解った。早速、カコに連絡を入れよう」

「む~」

 姫が嫌そうな顔をしているが、彼女に連絡するのが一番手っ取り早い。


「ダイスケ、そのなんとかグループに売り込みするって話だけど、そんな簡単にできるのか?」

「ああ、それは大丈夫だ。知り合いがいるんだ」

「それじゃ任せるよ」

「その前に――これらを本当に売ってもいいのか?」

「むろん、異世界じゃ普通に手に入るものだしな」

「そ、そういう話を聞くと、異世界に行ってみたいと思うのですが……」

 そう言ったカオルコの身体を、テツオは舐めるように見ている。


「あんたみたいな美人が異世界に行ったら、狙われまくるだろうなぁ……」

「やっぱり、モラルはない感じか?」

「そんなものは微塵もねぇよ、ははは! 殺らなきゃ殺られる。ちなみに俺は、殺しに来るやつらは、絶対に殺すマンだからな」

「かなり、ハードモードだな」

 そうと決まれば――と、思ったのだが、アオイちゃんが手を上げた。


「あの~」

 彼女のちょっと困った顔を見て、思い出した。


「あ! そうか! なんか魔物を倒して、仮免を脱出しないとな」

 舞い上がって、すっかりと忘れていた。


「そっすよ~! 困るっすよ~!」

「防具などを用意してから、挑戦したほうがよくないか?」

「相手はスライムっすよ?」

 スライムとはいえ、相手は魔物なんだがなぁ。

 ――といいつつ、俺も初回から思い切り私服で戦っていたが。


「お前はスライムに食われて死んどけ」

「ひどいっすよ!」

 テツオは相変わらず、そっけない。

 まぁ、彼は仕事を終えたら、故郷に帰ると言っているから、仲良くしたり親睦を深めるつもりもないだろう。


「仕事を終えたら帰るって言ってたけど――異世界に確実に帰れる保証があるのかい?」

「神さま次第だが、なん回か行き来しているから、それは心配していない」

 彼は、こんなことを繰り返しているらしい。


「……大変だな」

「いやもう、マジで大変なんだが、神さまには世話になっているしな。しゃーない」

「そういうものか?」

「すくなくとも、俺が使徒をしている間は、俺や家族の安全は保証されていると思うし」

「なるほど――神さまの加護に入っているってわけか」

「まぁ、神さまにもできないことはあるだろうけどな」

 彼の話を聞くと、随分と身近に神さまがいそうな感じではある。


「神さまに会ったことがあるのか?」

「ああ、なん回かあるぞ?」

「そうなのか? どんな姿をしてるんだ?」

「降臨する際に依り代が必要なんだが――おおよそは、髪が黒くて巨乳だな」

「へ~、依り代かぁ」

 普通のそこら辺にいる人間を依り代にすると、塩の柱になってしまうという。


「依り代になる女も、かなりの能力を持ってないと駄目ってことだな。例えば、聖女とかな」

「聖女――すると、サナも……?」

「あ~、髪が黒くて、胸がデカいから、神さまの好みかもな~。それで選ばれたってのもありそうだな」

 金髪の女も依り代にすると、髪が黒くなるらしい。


「――ということは、ちっぱいに降臨すると、巨乳になったり?」

「なるなる」

「なるほど――奥が深い」

「ちょっと兄貴! どうでもいい話をしてるんじゃなくて、真面目に探してくださいよ!」

 イチローがウロウロと得物を探している。


「うるせぇ! 自分で探せ!」

「1層は、人が多いからな。どんどん狩られてしまって、ポップするのに時間がかかるかもしれない」

「そうなんすか?」

「狙うならスライムだな。うさぎは止めとけ、結構危ない」

「うむ」

 姫も俺の意見に賛成のようだ。


「大丈夫ですよ。じっとしてれば、桜姫さんの所に魔物が寄ってくるんで」

 ちょっとサナが嫌味なようなことを言う。


「私に寄ってくると、決まったわけではないだろ!」

「いいえ、絶対に桜姫さんのにおいに寄ってきてますね!」

「「ぐぬぬ……」」

 2人が睨み合っている天井を見ると、今まさにスライムが湧いたところだった。

 慌てて、2人を引き寄せると、そこに半透明な粘液が落ちてくる。


「本当にスライムっすよ!」

「ほらぁ! 私の言ったとおりです」

 サナが勝ち誇った顔をしている。


「うぐぐ」

 言い争っている2人を横目に、アイテムBOXから出した剣をイチローに貸してやった。


「ほら、中に核が見えるだろ? そいつを突け。結構難しいぞ?」

「余裕っすよ! はっ! おりゃ! どりゃ!」

 そう簡単にいかないのが、世の常。

 俺は最初から高レベルになってしまったから、こんな苦労とは無縁だったが。


「これって切ったら駄目なんすか?」

「簡単に切れないらしいが……」

「おりゃぁぁ! どりゃぁぁ!」

 イチローが剣を叩きつけているのだが、暖簾に腕押し状態だ。

 そのうち、透明な触手が伸びてきて彼の腕にくっついた。


「いてぇ! あいたたた!」

 彼が持っていた剣を放り投げる。


「早く取り除かないと、骨まで食われるぞ?」

 たかがスライムと甘くみれないのが、これだ。


「え?! ちょっと待ってください! 助けてくださいぃ!」

「やっぱり、防具などを用意してからやったほうがよかったか……」

 アイテムBOXからナイフを出すと、彼の腕についているスライムをカットして、残っていた部分を薄く切り取る。

 当然、血がドバドバ出てくる。

 普通なら、大怪我だ。

 鮮血を見たアオイが倒れそうになっている。


「うわぁぁぁ!」

 パニックになっているイチローを押さえる。

 俺が押さえていれば、絶対に逃げられん。


回復ヒールの魔法は、1回5万円な」

「そんな金ないっすよぉぉぉ!」

「大丈夫だ、俺が絶対に払わせるから」

 テツオからの保証をもらったので、サナの魔法をかけてもらう。


「サナ、頼む」

「はい、回復ヒール

 魔法の青い光が肌に染み込むと、流れていた血が止まる。


「ふう、シャザーム」

 ちょっと呆れた表情をすると、テツオの前から黒い触手が出てきて、スライムを抑え込んだ。


「シャザームにスライムの攻撃は大丈夫なのか?」

「大丈夫だ」

 半透明なボディをニュルニュルと絞り込み、核を端っこに追い詰めた。

 的を逃げないようにしたのだろう。


「それなら、簡単に突けそうだな」

「アオイ、剣を取れ」

「は、はい」

 イチローが放り投げた剣を、彼女に渡す。


「すごく重たいだろうけど、ステータスが表示されてレベルも上がれば簡単に振り回すことができるようになるから」

「はは、便利なもんだな」

「異世界に、ステータスとかレベルとかなかったのか?」

「ないな――この世界のダンジョン特有のものだ」

「やっぱり、誰かに作られたものなのかな……」

「神さまが、俺をここに送り込んだってことは、そうなんだろう」

「やぁぁぁ!」

 俺たちが話していると、アオイが持ち上げた剣をスライムの核の上に落とした。

 切っ先が核を捉えると、突然半透明な身体が瓦解する。


「やった!」

「あっ!」

 アオイが宙を見て固まっている。


「ステータスが出たかい?」

「は、はい――魔法を覚えてます」

「お? なにを覚えた?」

回復ヒールです」

「え?! レベル1から回復ヒールか~。それだけでもう稼げるじゃないか」

「先にアオイが戦ってれば、こいつの回復ヒールがタダになったのにな、ははは」

「あうう~」

 先を越されてイチローが悔しそうだ。

 それで、5万円も取られることになるし。


「これで、ステータスが出なかったら、骨折り損のくたびれ儲けだな」

「止めてくださいっすよ~」

「さて、他のスライムを探して、さっさと終わらせよう」

「大丈夫ですよ。また桜姫さんの頭の上に湧きますから」

「うぐぐ……そんなわけないだろ……」

「そんなことありますよ」

「「ぐぬぬ……」」

 なんてやっているウチに、頭上の天井に変化が現れた。


「2人とも来るぞ」

「「!」」

 今度は2人で、さっと避けた。

 そこに、濡れ雑巾のような音を立てて、スライムが落ちてくる。


「ほら!」

「ぐぬぬ……」

 再び、イチローが剣を取った。


「兄貴! さっきのやつをやってくださいよ」

「え~? めんどくせぇ」

「まぁまぁ、早く終わらせたほうがいいだろ?」

「まぁ……そうか」

 彼の前から湧いた黒いものが、スライムを抑え込んだ。


「やるっすよ! おらぁぁ!」

 さすがに、今度は切っ先がスライムの核を捉えた。

 核を失った魔物の形が、一瞬で崩れる。


「お?」

「やった! 出たっす!」

 さっきまで泣いていたイチローがはしゃいでいる。


「よし、これで役所に戻れば、正式な冒険者だ」

「面倒なものだな」

「一応、国家事業ってことになってるからなぁ。ダンジョン内も整備しないと駄目だし」


 う~ん、待てよ。

 冒険者登録は、国の都合によるものだ。

 実際、俺の家の裏にできたダンジョンを潰したら、ステータスが表示されたし。

 登録の有無は関係ない。


「どうした?」

「そういえば、登録をしてなくても魔物を倒せばステータスが表示されるな――と」

「ああ――元々、ダンジョンができたばかりの初期のときには冒険者の登録などなかったしな」

 姫も同じことを思ったようだ。


「つまり、ここで俺が魔物を倒してもいいわけだな」

「そうそう。冒険者の適性があれば、ステータスが表示される」

「要は、自動改札を通ったり、魔物の売買にカードが必要ってことなんだろ?」

「そういうわけだ」

 ――そんなわけで、テツオのための魔物を探す。

 いや、探さなくても、姫がいればすぐにポップするし。


「あ!」

 サナが指したところに、額に角が出た白いうさぎが湧いた。


「かわいい!」

「シャザーム」

 アオイの言葉を無視するように、テツオが命令を下すと、黒い身体が鋭いやりになって、うさぎの身体を貫いた。

 真っ白な毛皮が赤く染まる。


「きゃあ!」

「アオイちゃん、このうさぎは見た目はかわいいけど、結構危ないからね」

「そ、そうなんですか……」

 実際に、躊躇している間に、角で刺されたりする。

 首を刺されたりすると、致命傷になりかねん。

 実際、うさぎによる被害はそれなりにある。


「う~ん? なにも起こらないぞ?」

「え? マジ?」

 どうやら、彼は冒険者の適性がないらしい。


「まぁ、思い当たる節はあるけどな」

「なにかあるのか?」

「俺はイザルの神さまの使徒じゃん?」

「もしかして、ダンジョンのシステムから嫌われたとか?」

「はは、ありえるな」

 レベルアップやらスキルのような、このダンジョンの恩恵は受けられないが、彼とシャザームは今のままでも、十分に強いと感じられる。


 ファンタジー的に言うと、最初からチート持ちなので、ハブられたのだろう。

 残念だが、当初の目的は果たした。


 そういえば、サナもイザルの聖女だが――。

 彼女は冒険者になったあとに、聖女になったので、影響を受けてない……とか?

 詳しくはわからんが。


「ダイスケ、あれは?」

 テツオが異空間の中に作られた、明かりに照らされている駅のホームを指した。


「ああ、ダンジョン内鉄道だよ」

「あれがそうか。確かにあれば便利だよなぁ」

「ゲームみたいなダンジョンなら、移動や帰還もゲームみたいにしてくれればいいと思うんだが」

「ははは、まぁそうだな」


 皆で、ダンジョンの外に出ると、早速カコに連絡を入れた。


『なに? 儲け話?!』

 すぐに返答が来る。


「世界がひっくり返るぐらいの儲け話」

『行く! すぐに行くから!!』

 食いつきがすごい。


「お姉さんはすぐに来るってさ」

「む~」

 やっぱり、グループに売るにはあまりおもしろくないらしい。


「国にも売れると思うが、多分買い叩かれると思うし」

「私もそう思いますよ。売るならグループのほうがいいと思います」

 カオルコも俺の意見に賛成してくれた。


「また、『国のことを考えているなら、無償で提供すべき』とか言われたりしたら嫌だし」

「あ~、異世界でもいるいる。貴族だから、もらって当然――みたいなことを言うやつとか」

「国どころか、次元が違っても同じなのか」

「まぁ、そうだな。モラルがない分、もっとひどいが」


 役所に戻ると、アオイとイチローの免許が正式なものになった。


「やったっす!」

「これから飯を食っていくのが大変なんだけどなぁ」

「どんな仕事でもそうだよな」

「アオイちゃんは、もう回復ヒールが使えるから、重宝されると思うよ」

「ありがとうございます」

 レベルがなくても、テツオとシャザームのコンビは強い。

 彼に先行してもらい、後ろのアオイとイチローに回せばすぐにレベルは上がりそうだが……。


 肝心のテツオは、まったく冒険者に興味がなさそうだし。

 当然、ギルドの経営もどうでもいいだろう。

 彼の言う、神さまから頼まれた仕事をクリアするのが優先なのだと思われる。


「俺がいなくなるまでに、しっかり食えるようになっておけよ。金になったらちょっとは分前をやるからよ」

「う、うっす!」

「解りました」

 2人もそれは理解しているのだろう。


 新人冒険者2人と一緒にホテルに戻ると、上空から爆音が聞こえてきた。


「なんだ?」

「ダイスケさん、飛行機です」

 サナが指した所に、テイルローター機が飛んでいる。

 ホテルの屋上に降りるつもりらしい。


「もう、カコが来たとか?」

「いいえ、ウチの機体ではないですね」

 カオルコの言うとおり、真っ黒なカラスのような翼だ。


 自衛隊でもない。

 また敵?

 辺りを見回しても、特戦が動いている気配はない。


 う~む。



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アラフォー男の令和ダンジョン生活改め、「アラフォー男の東京ダンジョン生活」のコミックス第1巻が

10月31日に発売予定です。

よろしくお願いいたします。


連載をしているマンガボックスさんでは、すでに1巻がまとめ買いできるようです。


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