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【コミカライズ連載中】アラフォー男の令和ダンジョン生活  作者: 朝倉一二三


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108話 後ろ盾


 イロハを主人公にした映画を撮影中だ。

 順調だったのだが、旧態依然としている映画界から圧力がかかり始めた。

 既得権益を無視して、若い監督さんを起用したことが面白くないのだろう。


 クリエイターなんて実力の世界だし、年齢なんて関係ないはず。

 撮れる人は撮れる。


 世界が静止してから、人々は食べるのに精一杯だった。

 その中でも、娯楽として映画が作られて、あちこちで公開されていた。

 アナログなフィルム式の映画なら、ダンジョンの影響を受けないからだ。


 それに、従来のシリコン半導体が使用できなくなったため、ストレージやネットの中に保存されていた沢山の作品が、そのまま取り出せなくなってしまった。


 人々は娯楽に飢えていた。


 そんな世界が静止した中でやって来たという自負はあるのだろうが、それが若い人にチャンスをやらん――という言い訳にはならない。

 俺はフラミニアさんの動画を気に入ったから、金を出して監督を任せた。

 誰にも邪魔はさせん。


 そういえば――シリコン半導体のストレージを宇宙に運べば、もしかしてアクセスできるかもしれない。

 実際に、宇宙に浮かんだままのGPS衛星のコンピュータはまだ動いているのだ。


 半導体の中に取り残されてしまった過去の遺産を掘り起こすために、そういう事業も始まるかもしれないな。


 ――というわけなのだが、映画界からの圧力はどうしたもんか。

 とりあえず、監督さん――フラミニアさんたちと会うことにした。

 そのことを話すと、イロハもやって来た。

 ホテルのカフェで、彼女たちと会う。

 こちらは、姫と一緒だ。


「……」

 フラミニアさんと、クアドリフォリオさんが、下を向いて青い顔をしている。

 現在、撮影は止まってしまっているということだが、さすがに堪えている様子。


 彼女たちと向かい合って座る。

 身体のデカいイロハだけ、俺たちの後ろの席に座り、こちらを向いていた。


「ほとんどの撮影が終わっている状態なんだから、元気を出してよ」

「は、はい……スタッフの人たちも巻き込んでしまっているので……」

 彼女たちと関わると、今後仕事を回さない――などと言われているようだ。

 スタジオの利用も断られてしまったと言う。

 こちらも、映画関係者からの圧力だろう。


 スタジオ側も、今後映画関係から使わないと言われると、商売だから困るはず。

 彼らを責めるわけにもいかない。


「なんと卑劣な!」

「まったくなぁ」

 姫も激おこ案件である。


「確か――残りのカットは、魔王との最終決戦の場面だけだろ?」

「は、はい――でも、スタジオが使えないとなると……」

「う~ん、デカい倉庫じゃだめかな?」

「元々、最後の戦闘シーンなどを撮る予定だったので、広い場所が必要だったんですけど……」

「冒険者同士の戦闘となると――普通のスタジオじゃちょっと狭いかもしれない」

「そうなんですよねぇ」

 それじゃ、倉庫はいいかもな。


「それなら、俺に当てがあるから、頼んでみるよ」

 デカい倉庫といえば、羽田にある巨大な魔物を解体するための専門の場所だ。

 あそこの稼働率は低いから、年中冷蔵庫を動かしているわけじゃないだろう。

 だいたい、あんな場所を使うぐらいの獲物を獲ってくるのは俺たちぐらいしかいないし。


「「よろしくお願いいたします!」」

 監督とクアドリフォリオさんが頭を下げた。


「まぁ、駄目かもしれないから、そのときはまた考えよう」

 ダンジョンに潜って撮るって手もあるが、暗いのが欠点だな。

 ラストシーン――つまり一番盛り上がるところだ。

 可能な限り綺麗な映像のほうがいいだろう。


「わかりました」

「さて、あとはどうするか――こちらにもデカい味方をつける必要があるなぁ」

「え……私たちには、そんなコネはまったくないのですが……」

「う~ん、こういうことを総理に頼んでも駄目だよなぁ」

 俺の言葉に2人が驚いた。


「え?! そ、ソウリってソウリダイジンですか?!」

「ああ、俺って、総理大臣と知り合いなのよ」

「「えええ~っ!」」

「ダーリンは、アイテムBOXを使って仕事をしているっぽくてな」

 仕事の内容などは話していないが、イロハもそのことは知っている。


「そうなんですね」

「だけどなぁ、さすがにこんなことは頼めないなぁ……と、なると、残るつては……」

「む! むむ……」

 俺の言葉に、勘のいい姫は気づいたようだ。


「仕方ないだろう」

「私は反対だ!」

「しかし、他に手がない」

「むむ……」

「あの~一体どういうつてなんでしょう……」

 クアドリフォリオさんが、手を上げた。


「ああ、ちょっと承諾してくれるかどうか解らんから、まだ秘密でお願い」

「解りました~」

 現状では打てる手がないので、そのまま解散した。


 監督さんたちと別れると、すぐに各所に連絡を入れる。

 最初は、買い取りのオッサンの所だ。

 倉庫を映画のスタジオとして使えるか聞いてみた。

 ちょっと無茶な話であろうが、監督さんの話を聞いても、あそこがピッタリなんだよな。


『いいぜ~、普段は使ってねぇし。いったいなにをするのかは知らんが』

「映画の撮影に使おうと思ってな」

『映画?! また、突拍子もないことをやりだしたな、わはは!』

「まぁな」

『それで、どんな映画を撮るんだ?』

 俺はちょっと迷った。

 オッサンに話して、映画の話が広まってしまうかもしれん。

 悩むが、倉庫の責任者の彼に、使う目的を話さないわけにもいかんし。


「冒険者のトップランカーを集めてのアクション映画だよ」

『おいおい、それって桜姫は出るのか?』

 意外な所で、オッサンが食いついた。

 まさか、彼女のファンとか言い出さないだろうな。

 まぁ、姫は冒険者の中でも大人気だから仕方ないが……。


「もちろん出るが……」

『ウチの娘がファンなんだよ。映画になるって言ったら、喜ぶだろうなぁ』

 オッサン、娘さんがいたんか。

 そういえば、総理の孫娘もファンとか言ってたな。


「ちょっとちょっと――映画撮ってるって、内緒な? 娘さんに話したら、そこからあっという間に広がるかもしれん」

『うぐぐ……た、確かに……だが、話してぇ』

「そういうことをすると、オッサンの所で買い取ってもらうの考えさせてもらうよ」

『ちょっとまってくれや! こっちも商売だからな! 大丈夫だ! その点は理解してる!』

「よろしく頼むよ」

『兄さんのお陰で、ビルが建つぐらい儲かってるからな。わはは! 不義理なんてできるはずがねぇ』

 軽口で、儲けられるはずの金をドブに捨てるようなものだからな。

 賢明な商売人なら、そんなことはしないだろう。


 とりあえず、倉庫の件はOKをもらった。

 もう1件、電話をかけた。

 俺たちの後ろ盾になってくれるかもしれない人物だ。

 話をすると、すぐに乗ってくれた。


 ――後日、俺たちの部屋に、監督さんたちを呼んだ。

 イロハと、今日はエイトも一緒。

 今日は私服の彼は、ゴージャスな部屋に驚いて辺りを見回している。


「――というわけで、私がやって来たわ!」

 俺たちの前にピンクのスーツ姿で腕を組み、ガ◯ナ立ちをしている。


「こういう所が姫そっくりだよな」

「はい」

 カオルコがニコニコして頷く。


「「似てない!」」

 2人と声がハモった。


「え?! ええ?! 桜姫さんが2人?!」「どういうことですか?!」

 監督さんと、クアドリフォリオさんも驚いているのだが……。


「彼女は、姫――桜姫の双子のお姉さんだよ」

「ええ~!? 桜姫さんって、双子だったんですか?!」

 監督さんが驚く。


「そうなんだよ。みんな驚くよね」

「ぐぬぬ……」

 カコが来たことに、姫は反対のようだが……他につてがない。


「お姉さんも冒険者なんですか?」

「格好を見たら解ると思うけど――違うよ」

 俺はエイトの質問を否定した。


「でもダーリン、桜姫のお姉ちゃんを呼んでどうするんだ?」

 イロハが俺の行動に首を傾げている。

 彼女は桜姫とカコのことを知っているので、解りそうなものだが……。


「そりゃ、もちろん、俺たちの後ろ盾になってもらうためだよ」

「あの~、桜姫さんのお姉さんなのは解りましたが、後ろ盾というのは……」

 監督さんもイマイチ解っていないようだ。


「あれ? 桜姫が八重樫グループのご令嬢というのは、あまり知られていないのかな?」

「噂ではそう言われてましたけど、本当なのですか?」

「ああ、姫本人が肯定してないからなぁ……」

 ネットでそう言われていても――あくまで噂。

 本当かどうかは、都市伝説扱いだったみたいだな。


「私は、もうグループとはなんの関係もない!」

「――と、姫はいつも言っているので、お姉さんに来てもらったわけだ」

「要するに、ダーリンが作っている映画のスポンサーにグループがなればいいわけね!」

 結局、カコも俺のことをダーリンと呼ぶようになってしまった。


「まぁ、そのとおりだよ」

「まっかっせっなっさい!」

 彼女が簡単に引き受けたのには、しっかりとした理由がある。

 対価がなけりゃ、こんなことを引き受けるはずもない。


「あ、あの~」

 監督さんが発言を求めてきた。


「八重樫グループが、ウチのスポンサーになるメリットが解らないのですが……」

「さすが、聡明なる監督さん、いいところに気がついたね」

「む~」

 俺が監督を褒めたのを、姫が気に入らないらしい。


「撮影した動画から、桜姫が写っているシーンを切り出して、いい感じに加工――PV風にして彼女に送ってほしい」

「え?! そ、それでいいのですか?」

「それでいいよな?」

「もちろんよ!」

 彼女が鼻息を荒くしている。


「??」

 監督さんは、意味が解らないようだ。


「説明しよう!」

「よろしくお願いいたします」

「見てとおり、2人は双子でくりそつだよね?」

「は、はい」

「お姉さんにとって姫は、自分のできないことをやってくれて、危険なダンジョンでモンスターをバッタバッタとぶっ飛ばして活躍をしてくれる分身なわけだ」

「あ! わかりました!」

「わかってくれたかい」

「自分の分身が活躍する、格好いいPVが欲しいってことですね」

「そのとおり!」

 俺は、ビシッとポーズを決めた。


「……」

 ズバッと言われてしまったので、カコがちょっと恥ずかしそうだ。

 腕を組んだまま、顔を赤くしている。


「でもよぉダーリン。八重樫グループがスポンサーになったからって、嫌がらせが止まるかい?」

「あ、それは止まると思いますよ」

 クアドリフォリオさんが説明してくれるようだ。


「へぇ、そうなんだ?」

「はい――映画の撮影に使っているフィルムもカメラも八重樫グループ製ですし」

 世界が静止したときに、フィルム式のアナログ映画が復活したので、それがまだ続いている。

 グループが、過去にフィルムを作っていたメーカーを丸ごと買収したのだ。

 最近だとネットが復活したので、昔のようなサブスクタイプも多くなっているが。


「あ、そうか。そりゃスポンサーの機嫌は損ねられないな、あはは!」

 やっと、イロハも解ったようだ。


「実際に、映画のスポンサーについていることも多いですし」

「はいはい! それじゃ、これでまた撮影ができるってことですか?!」

 話を聞いていたエイトが立ち上がった。


「多分、大丈夫だろ?」

「ええ、そう思います……断言はできませんけど」

 監督さんはまだ心配そうだ。


「大丈夫だろ? 八重樫グループがスポンサーについたのに、撮影の邪魔なんかしたらどうなるか……?」

「下手をしたら、映画界の上層のクビが飛ぶかもしれませんね~」

 ニコニコして、カオルコが怖いことを言う。

 顔には出さないが、今回の映画は彼女もノリノリだったので、撮影を邪魔されてかなり怒っている。


「そういう連中は、叩けばホコリが出てくるだろうから、そういうネタをリークするって手もあるわよ」

 カコも怖いことをいう。


「まぁ、グループがスポンサーについた時点で諦めるとは思うけどな……」

「想像を絶する愚か者ではないことを願おう」

 姫の言葉で、ミーティングはお開きになった。


「ダーリン、腹減ったんだけど」

 突然、イロハがそんなことを言い出す。


「え?! まてまて、そんなこと言われても、なにもないぞ? ルームサービスでも取るか?」

「ダーリンのアイテムBOXの中には?」

「あるけど、最近はダンジョンに潜ってないから、あまり入ってないぞ? ……煮物と豚汁は確か作ったはず」

「それでいいよ!」

「オガぁ! ちょっと遠慮したらどうだ!」

 姫の言うことも一理あるが、イロハはこういう子だからなぁ。


「なんだよ、あたいとダーリンの仲だろ?」

「わかったわかった」

 とりあえず、煮物の詰まった金色のデカい鍋を出した。

 花形に切り抜いた人参やこんにゃく、里芋、豆類、練り物、鶏肉などの具材を、醤油、みりん、砂糖、だしなどでじっくりと煮込み、食材の旨みが染み込んでいる。


「うひょう! ちゃんとあるじゃねぇか」

 彼女が鍋の中に手を伸ばし、練り物を摘むと、口に運んだ。


「あ! コラァ! 行儀の悪い!」

「へへへ! 美味ぁ~」

 俺の注意もなんのその。

 悪びれる様子もない。


「これだから、躾のなってないやつは……」

 姫がブツブツ言ってる。


「カオルコ、悪い。食器を出すから並べてくれ」

「はい」

「監督さんと、クアドリフォリオさんも食べていったら?」

「え? あ、あの」「いいんですか?」

 アイテムBOXから、豚汁と山のように積んだおにぎりも出した。


「やったぁ! いただきぃ!」

 イロハがおにぎりを手づかみすると、大きな口を開けてかぶりついた。


「もちろんいいよ。お婆ちゃんの料理みたいで、悪いけど――ははは」

「そんなことないですよ!」「丹羽さんが全部作ったんですか?」

「まぁな」

「ぼ、僕は駄目ですかぁ!」

 エイトが涙目になっている。


「そんなわけないだろ。食っていきな」

「やったぁ!」

「煮しめは冷えているけど、冷えると味が染み込むんだ」

「ダーリン、美味いぜ!」

「こらぁ! オガぁ! 鶏肉ばかり食うな!」

「へへへ……」

「なんか、ホッとする味ですねぇ」「美味しい」

 監督さんと、クアドリフォリオさんにも好評だ。


「ダイスケさん、こういうのになんでレンコンって入ってるんですか?」

 エイトがレンコンを箸で摘んでいる。


「煮しめは元々、お祝い用だからな。レンコンってのは『見通しがよいように』って願掛けなんだよ」

「それじゃ、ゴボウは!?」

「根菜は、『地面に根が張れるように』って意味じゃなかったか」

「「「へ~」」」

 ワイワイと騒がしい俺たちとは違い、カコが黙って食べている。


「超お嬢様の口に合わないかもしれないが」

「治部煮みたいなものでしょ? 美味しいわ」

「ありがとうございます、ははは」

「それに、こういう家庭料理的なものを食べたことがないから」

「え~? それじゃ、お母さんの作るご飯を食べたことない……とか?」

「ええ……」

「それはちょっと可哀想かもしれないなぁ……」

「学校の行事があると、みんなのお弁当が羨ましかったわ」

「ウチもオカンがいなかったから、オカンの弁当は食ったことがないぜ」

 そういえば、イロハは両親がいないと言ってたな。


「俺の学校行事のお弁当といえば――おにぎり、唐揚げ、卵焼き、ウインナー、ウズラの卵だったんだが」

「あはは、ウチもそんな感じですね~」

 エイトのウチは普通の家庭らしい。

 それなのに、冒険者やっているんだもんなぁ。

 かなり危険な職業なのに、若者のなりたい職業ナンバーワンになってしまった。

 まぁ、それぐらいしか仕事がないのも確かなのだが。


「いいなぁ、お弁当……」

 弁当話にイロハが食いついている。


「ははは、それでよければ、作ってやるよ」

「マジで?!」

「ああ」

「やったぁ!」

「妹さんにも食わせてやれ」

「もちろん」

 今までないぐらいイロハが白い歯を見せて微笑んでいる。


「ダーリン!」

 イロハとの会話が気に入らないのか、姫がむくれている。


「なんだなんだ――もちろん姫も食べてもいいぞ。沢山作るからさ」

「……」

「もちろん、カコも食べていいよ」

「ありがとう……」

「でも、卵でも高級品になっているし、ウズラの卵なんて手に入るかな?」

「料亭では出てくるから、流通はしていると思いますけど……」

 カオルコが言う料亭ってのは、マジで高級店だろう。

 そういう所じゃないと手に入らないのか。


「そういえば――ハーピーって卵を産まないのかな?」

「ブハッ!」

 俺のつぶやきを聞いたイロハが、ご飯粒を吹き出した。


「オガぁ!」

 それが姫にかかったようだ。


「どうした?」

「ダーリン、魔物の卵を食べさせないでくれよ!」

「皆魔物の肉を食べているし、今更だろ?」

「で、でもよぉ」

「まぁ、無理に食わせたりしないから、心配するな」

「頼むぜ……」

 俺もおにぎりを手に取ると、かぶりついた。

 ほとんどが、おかかのおにぎりである。

 梅干しより、鰹節のほうが手に入りやすいからだが……。


「あ、そうそう――監督さん」

「はい」

「撮影に、倉庫を使ってもいいってさ」

「本当ですか?! ありがとうございます!」

「あとで、使えるのか見にいこう」

「はい!」

 あのデカい倉庫なら、戦闘シーンなども問題なく撮影できるだろう。


「映画も面白いけど、撮影が終わったら7層の攻略を考えないとなぁ」

「あの~、そんなに難しいんですか?」

 おにぎりを食べている監督さんから質問が来た。


「入口が床から100mの高さにあるんだよ」

「100m?!」

「そうそう、足場を作ろうとしたが失敗してな」

「う~ん……」

「石像のガーゴイルが空を飛んでいたんだ、空を飛ぶ魔法もあると思うんだがなぁ」

「はいはい!」

 エイトが手を挙げた。


「なんだ?」

「そのガーゴイルを捕まえて、空を飛んだらどうでしょう?」

「魔物を操縦できればいいけどなぁ。それができるなら、ゴーレムだって重機代わりにできるし」

「そりゃいいな!」

 イロハが手を叩いた。


「はい!」

 話を聞いていた監督さんが手を挙げた。


「はい監督さん」

「上に上がればいいんですよね?」

「そうだな」

「熱気球はどうでしょうか?」

「お? いいかもな! それは面白いかもしれん」

 俺のアイテムBOXで熱気球を持ち込んで、温めの魔法で加熱する。

 バーナーが使えないから、時間はかかるかもしれないが……。


「なるほど――おもしろい」

 姫も興味を示しているようだ。


「たまに冒険者以外から意見を聞いてみるのもいいな……」

「そうですね~」

 俺の言葉にカオルコが笑っている。


「1人でも、上に上がれれば、ロープや縄梯子を下ろすことができるからな」

 いきなり本番ってわけにはいかないからな。

 実際、ダンジョンの中に持ち込んで、温め(ウォーム)の魔法で飛ばせるかどうかが問題になる。

 実験をしてみる必要があるだろう。


 そのままワイワイと食事をして、ミーティングはお開きになった。


 ――そのあと、俺たちを悩ませていた嫌がらせだが――笑っちゃうぐらいにすぐに効き目があった。

 酷かったそれがピタリと収まったのだ。

 業界から干されるのをビビっていたスタッフも戻ってきて、すぐに撮影も開始された。


「すご~い!」「広いですね~! 天井も高~い!」

 監督、クアドリフォリオさんと一緒に、撮影に使うための倉庫を見学中だ。

 2人が、高い天井を見上げている。


「ここは超大型の魔物の解体施設なんだよ。ちょっとにおいはするかもしれないが、広さ的には十分だろ?」

「映像に、においは乗らないですから、大丈夫です」

「それはそうだな、ははは」

 撮影に使えると解ったので、すぐに作業を始めるそうだ。

 もちろん、使ったあとは原状回復。


 ここに最終決戦のための、魔王の玉座を作るらしい。

 それなら、天井が高いほうがそれっぽいか。


 足場が組まれて、岩や石の柱などのパーツが運び込まれてくる。

 もちろん本物の岩じゃなくて、発泡スチロールなどで作られたイミテーションだが、遠目には解らない。


 背もたれの高い魔王の椅子は、高い階段の上に組まれるようだ。

 その階段ももちろん本物ではない。

 ベニヤ板などで組まれて、赤い絨毯が敷かれている。


 歩くと、ボコボコと音がするのだが、編集で効果音を入れるので、問題ない。


「へ~、こいつはすげ~や! とても倉庫には見えないぜ! まるでダンジョンの中だな!」

 見学に来た、買い取りのオッサンが仰天している。


「一応、ダンジョンの奥に、魔王の城があるって設定だからな」

「なるほどなぁ……」

 ここの責任者としてはどういう使い方をされるのか、心配しているのだろう。


「破損などをしたら、ちゃんと弁償するから大丈夫だよ」

「わはは! 頼むぜ!」


 紆余曲折あったが、最後の撮影が始まった。



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