106話 聖女
俺は、大金を投じてイロハを主役に映画を撮ることにした。
いや、撮るのはプロで、俺は金を出すだけだが、ダンジョン内での戦闘の素材は普通じゃ撮れないので、俺が集めることになった。
同じくアイテムBOXを持っているカオルコにも手伝ってもらう。
イロハの相方には、エイトというクォーターの美少年をヒロインに据えた。
撮影用の長い耳をつけた彼は、物語に出てくるエルフそのもの。
俺の勘では、この組み合わせは当たる。
順調に撮影が進み6層に降りてきた。
イロハと一緒に魔物を倒していたエイトも、少しレベルアップしたようだ。
彼に攻撃魔法などがあれば、もっとレベルが上がるのかもしれないが、補助魔法が専門らしい。
撮影は順調とはいえ、ちょっと地味な絵面ばかり。
もっと派手なシーンが欲しいと思ったのだが、いいことを思いついた。
サナが覚えてまだ使ったことがない退魔を試してみるというアイディアだ。
彼女も了承してくれたので、かつて潜った6層の穴に、ハーピーたちの案内でやって来た。
「行くぞ!」
姫が先頭で、穴の中に潜ると急な坂を下る。
「ひぃぃ!」
叫び声をあげているのはエイトだ。
「男が情けない声を出すな。女の子だって、普通に降りているのに」
彼の声に、ちょっと不満を漏らしてしまった。
「皆さん、高レベル冒険者で暗闇で目が見えるから、そう言えるんですよ!」
「憧れのイロハ姉さんに手を引っ張ってもらって、なにが不満なんだ」
「それは嬉しいですけど、真っ暗な中は怖いですよ!」
「じゃあ、ほら」
俺はアイテムBOXから、ケミカルライトを2本出して渡した。
2本あれば、イロハの背中は見えるだろう。
デカい背中は頼もしいはず。
ケミカルライトの緑色の光が、闇の奥へじんわりと滲んでいく。
ぼんやりとした光源が穴の壁を照らし、ざらついた岩肌の輪郭を浮かび上がらせるが、その先は漆黒の闇に飲み込まれ、まるで穴自体が光を拒んでいるかのよう。
ここで目を凝らしても、底は見えない。
静寂の中、ひんやりとした空気が肌をなで、わずかに湿った匂いが鼻をかすめる。
「いいか? ほら、行くぞ」
「ひぃぃ!」
まだ、ひぃひぃ言ってる。
まぁ、それが普通なのかもしれない。
死線を潜りまくってしまっている俺たちは、ちょっと感覚が麻痺しているかも。
「あたいが背負ってやろうか?」
「い、いえ、大丈夫です!」
好きな人からそう言われて、男としては断るしかないだろう。
いいところを見せようと、このダンジョンにやって来たはずなのだから。
そのまま穴を下って行くと、途切れている場所にたどり着いた。
そっと下を覗いて見ると――。
「あれ? 足場が残ってる?」
「ダーリン、そいつは幽鬼のやつが、魔法をかけたやつじゃなかったかい?」
「ああ、そうか――そういえば……」
彼が固定とかいう魔法をかけて、ダンジョンに吸収されないようにしたんだっけ?
これはラッキーだ。
「明かりを出しますか?」
「ああ、カオルコ頼む」
「光よ!」
下の大きな空間が魔法の光によって照らしだされた。
「またここに来るとは思ってなかったぜ……」
イロハはちょっと恨めしそうな声を出している。
「あの~、ここにはどんな魔物が出るんですか?」
未知の場所にエイトは明らかにビビっている。
「レイスやリッチだ」
「え?! リッチですか?! リッチってかなり上級の魔物なのでは……」
「まぁ、通常だと7層辺りに出る魔物だと思う」
「そんなの無理ですよ~」
「やかましい、下に降りるぞ」
泣きが入っているエイトに構わず下に降りることにした。
「敵はいないか?」
姫が下を覗き込む。
「大丈夫っぽいよ、姫」
いいことを思いついた。
「どうしたダーリン?」
「ここから降りるシーンを撮りたいから、先に降りていいかい? イロハとエイトは、ちょっと残っててくれ」
「わかったぜ」
俺と姫、カオルコ、サナが先に下に降りた。
カオルコと一緒に左右に分かれる。
「イロハ! エイトをお姫様だっこして、途中から飛び降りてくれないか? 撮影したい」
「おお、そういうことか! わかったぜ!」
「ひゃぁぁ!」
「とぅ!」
イロハが彼の手を掴むと強引に引き寄せて、お姫様抱っこ――そのまま飛び降りた。
「ぐぇ!」
イロハが着地すると、エイトがカエルみたいな声を出した。
「なんだ、もうちょっと色っぽい声をなぁ」
「む、無理ですよ! 色っぽいってなんですかぁ! 僕は男なんですから!」
まぁ、そこらへんはあとで他の声をアフレコできるだろう。
「でも、格好いいシーンが撮れたはず!」
映画にするときには、後ろの足場を岩場などに変更すればいい。
監督が作ったサンプル動画からすると、そのぐらいは可能だろう。
本当は、ブルースクリーンなどにすればいいのだが、ダンジョンにそんなものはない。
「カオルコありがとう」
「いいえ」
撮影を終了して、ホールを見渡す。
「ふう……ここには、あの畜生どもがいないから、魔物が現れるタイミングが解らんな」
姫が辺りを警戒している。
「姫も、すっかりハーピーたちのことを頼りにしてくれて、嬉しいよ」
「仕方あるまい!」
「いやぁ、あいつらは、マジで役に立つぜ」
「そうですねぇ。魔物とのエンカウントを事前に教えてくれれば、こちらも準備ができますし」
サナもイロハと同意見のようだ。
「さ~てぇ――俺の目論見どおりに、アンデッドたちが出てきてくれるかな?」
戦闘態勢を整え、息を潜めて待っていると、ホールの空気がじわじわと冷え始めた。
最初はわずかな寒気だったが、次第に肌を刺すような冷たさへと変わっていく。
壁や天井の隙間から、まるで見えない霧が漏れ出すように、薄白い冷気が流れ込み、床を這うように広がっていくのが解る。
その瞬間、背筋を凍らせるような不気味な声が響き渡った。
「ヒヒヒ」「イヒヒヒ」
誰のものとも知れぬ低くくぐもった声が、ホールの闇の中から響き、四方の壁に反射して何度もこだまする。
「うわぁぁぁ!」
多分、初体験なのだろう。
不気味な雰囲気に、エイトが悲鳴を上げた。
空気が重く、凍りつくような緊張感が場を支配し、次の瞬間、何かが現れる気配が——。
「来るぞ!」
姫の声がホールに響いた。
「おう!」
「よし! こちらも撮影を始めるぞ! サナは待機な」
「わかりました!」
カオルコにも撮影を頼むが、もちろん無理はさせない。
ご安全に! 安全第一だ。
空中に白いモヤが浮かび、それが徐々に形になると、辺りを飛び回る。
「ヒヒヒ!」「ヒヒヒ!」
「来たぞ! レイスだ!」
「ぎゃぁぁぁ!」
エイトが、イロハにしがみついた。
「こら! ひっつくんじゃねぇ!」
「エイト! エイト! イロハが戦えないから、離れて! 離れて!」
「そ、そんなこと言われてもぉ!」
「彼女にいいところを見せるんだろ! ほら! 補助魔法をかけて!」
「あう! あうう!」
「ほら!」
「ひぃぃ! ……き、筋力強化!」
彼はイロハから離れて、なんとか態勢を立て直すと、補助魔法を使った。
青い魔法の光が、イロハの身体に染み込んでいく。
「わはは! いつもと唱えているやつが違うからか、なんだかくすぐってぇな! おらぁ!」
唱え手の感情や個性が、魔法に乗ったりするのかね?
俺は魔法が使えないから、いまいちピンと来ないが。
ブーストがかかったイロハが、レイスの束を一閃した。
「まだ来るぞ!」
床に広がる冷気が次第に収束し、淡い青い光が揺らめき始めた。
その光は静かに脈動しながら円を描き、まるで魔法陣のように複雑な紋様を浮かび上がらせていく。
やがて光が一際強く輝いたかと思うと、そこから黒い影が浮かび上がり、音もなく形を成していった。
不気味な金属音が床や壁に響く。
出現したのは、朽ち果てた骨だけの骸ではなかった。
全身に黒ずんだ金属の鎧を纏い、鋭利な刃を備えた武装スケルトン。
通常のスケルトンとは異なり、彼らの装備はしっかりと整えられ、胸当てや籠手、脛当てがまるで生者のように密着している。
中には、禍々しい装飾が施された兜を被り、目の奥で青白い光を揺らめかせている個体もいた。
一体のスケルトンが地面を踏み鳴らした瞬間、全員が一斉に構えを取る。
青い光を背に、骸の軍勢が戦闘態勢へと移行する。
その動きには、生きた兵士と変わらぬ統率された気配があった。
「なんだ?! ただのスケルトンとは違うんじゃね?! だから嫌な予感がしたんだ!」
初めて見るタイプの敵に、イロハが少々愚痴を漏らした。
「スケルトンの上位互換タイプか?!」
なんて言っている間に、姫が嬉々として切りかかった。
彼女も初めて見る敵に、戦闘ジャンキー心に火が点いてしまったようだ。
冷気と死の気配が満ちるホールの中央で、姫の肉体が舞うように躍動した。
煌めく銀色の刃が空を裂き、金属と骨が砕け散る音が響く。
彼女の身を包むのは、わずかに守りを施したビキニアーマー。
鍛え抜かれたしなやかな肢体が、戦場の闇の中で妖しく輝く。
「やぁっ!」
鋭い掛け声とともに、彼女は前へ踏み込んだ。
スケルトンの振るう剣を紙一重で躱し、反転するように身を翻す。
流麗な動きは、まるで舞踏のごとく美しい。
「畜生! 桜姫ばかりに、いい格好をさせてたまるかい!」
イロハが剣を横薙ぎに振るう――鋭い一閃がスケルトンの首元を捉え、骸骨の頭部が宙を舞う。
残された胴体がカラカラと音を立てて崩れ落ちると、筋肉が隆起した戦士はすぐさま次の敵へと視線を向けた。
二体の武装スケルトンが、左右から襲いかかるが、彼女は微塵も動じない。
片足を軸に素早く回転し、その勢いを乗せた剣が閃く。
刃が描く弧の中で、骨と鎧が一瞬にして粉砕され、風に舞う落葉のようにスケルトンたちが崩れ落ちた。
イロハの動きは止まらない。
力強く踏み込んでは、敵の攻撃を最小限の動きでかわし、剣閃一閃で確実に仕留めていく。
そのたびに青白い光が霧散し、倒れたスケルトンたちが地面に還る。
「お~い! 全部倒すなよ~!」
「ダーリン、無茶言うなよ!」
イロハから返答があったのだが、その瞬間ホールに異変が襲う。
空間が軋む。
戦いの余韻が消えぬうちに、ホールの中央に不吉な気配が渦巻き始めた。
空気が重く淀み、まるで世界そのものが捻じ曲がるかのように、目に見えぬ圧力が周囲を押し潰す。
身構えていると、空間に亀裂が走った。
闇よりも深い漆黒の裂け目が生まれ、そこから不吉な瘴気が滲み出す。
冷たい風が吹き抜け、まるで亡者たちの嘆きのような呻き声が辺りに響いた。
裂け目は徐々に広がり、その奥から何かが現れようとしている。
身を包むのは、かつての威厳を思わせる朽ちた法衣。
金糸で紋様が織り込まれたローブは、長い年月を経てなお魔力を帯びているのか、かすかに燐光を放っている。
その隙間から覗くのは剥き出しの骨だが、それはただの骸骨ではない。
「ウロロロロ」
「来たぞ! リッチだ!」
すぐさま武器を構えたが、魔物の前に圧倒的な魔力が収束し、空気が張り詰める。
それはただの光ではない。
圧縮された魔力が暴れ狂い、激しく脈動している。
「しまった! 先手を打たれたぞ! カオルコ!」
姫の叫びに、ウチの大魔導師が前に出た。
「お任せください! 聖なる盾!」
彼女の魔法で、俺たちの前に透明な盾が出現する。
皆でカオルコの後ろに隠れた瞬間――。
『滅びよ……』
言葉とも音ともつかないが――多分、そう聞こえた気がする。
それとともに、光が爆ぜた。
凄まじい咆哮を上げながら、怒涛の光の塊がこちらへ襲いかかる。
カオルコの魔法の壁の外では、光の奔流が渦を巻き、空間を焼き尽くすように暴れ狂う。
その中心には純粋な破壊の力が宿り、近づくだけで皮膚が焼けるような熱と圧力を感じる。
「ぎゃぁぁぁ!」
誰かの断末魔の叫びかと思いきや、エイトの悲鳴だ。
「やかましい!」
イロハに怒鳴られても、彼の叫びは止まらない。
すべてを焼き尽くすかと思われる怒涛の魔力の束も、いつまでも放出し続けることはできない。
すぐに下火になった。
「よっしゃ! しのぎ切った! サナ! ぶちかませ!」
「は、はい! 神より与えられし聖なる光よ、亡者の魂を御国に帰らせたまえ――退魔!」
彼女が紡いだ魔法の言葉が空気を震わせると、眩い白光が彼女を中心に円を描きながら床を駆け抜けた。
まるで水面に石を落としたかのように、光の波紋が幾重にも広がっていく。
その光がアンデッドに触れた瞬間、骨だけの体が小刻みに震え、黒く淀んだ瘴気が弾けるように散った。 スケルトンの足元から灰へと崩れ始め、無数の骨は支えを失ってバラバラに砕ける。
指の骨一本に至るまで例外なく崩壊し、最後には不吉な赤光を宿していた眼窩までもが光の余韻に飲み込まれて消え去った。
空を飛んでいたレイスも掻き消え、その光は高位の魔物であるリッチにも襲いかかる。
『まさか……こんな所に聖女が……』
つぶやきにも似た言葉を残して、リッチの身体も灰になり、後には布らしきものが残った。
先ほどまでホールを満たしていた騒音が、まるで嘘のように消え去る。
耳をつんざく魔法の激流、甲冑の金属のぶつかる甲高い音、床を踏み鳴らす無数の足音――それらが一瞬で掻き消え、まるで時間そのものが止まったかのように、張り詰めた静寂が支配する。
耳の奥には、まだ喧騒の名残がかすかに残っているというのに、今は自分の呼吸音さえ響くほどの静けさだ。
「すげぇぇぇ!」
突然、エイトの声が響く。
俺の思い描いている、エルフの姿とまったく違うから困るのだが――それはさておき、素晴らしい動画が撮れた。
こんな映像は、今まで誰も撮ったことがないだろう。
もはや映画じゃなくて、ダンジョンドキュメンタリーだな。
「こ、これほどのものとは……」
さすがの姫も、サナの魔法の威力に驚かざるを得ないようだ。
「すごいぞ、サナ!」
「きゃぁ!」
俺は彼女を持ち上げて、くるくると回った。
「これなら、どんなアンデッドが来ても一発だな!」
「ハァハァ……ありがとうございます」
さすがにデカい魔法らしく、彼女はこの1発で魔力切れを起こしたらしい。
俺は、アイテムBOXから温泉ポーションを出した。
「魔力ポーションを飲んでくれ」
「ありがとうございます」
「ダーリン!」
「なんだ?」
姫の声に振り向くと、彼女がむくれていた。
「む~!」
「あ~、わかったわかった!」
彼女の脇を抱えて持ち上げると、そのまま振り回す。
「わぁあああ!」
彼女なら少し強く振り回してもOKだ。
「……」
その様子をカオルコがじっと見ていた。
「なんだ、カオルコもか?」
「え?! い、いえ……私は……きゃあああ!」
彼女も持ち上げて、ぐるぐると振り回す。
さすが、魔法の乳暖簾。
彼女の大きなものがぶるんぶるんしているのだが、ずれて見えたりはしない。
たわわな果実の動きを楽しんだあとは……。
「さて……」
俺はイロハのほうを向くと、ジリジリと近づいていく。
「いや、ダーリン、あたいは……うわぁぁぁぁ!」
彼女が少し抵抗したのだが、それをひらりと躱すと、巨体を持ち上げてぐるぐると回す。
「ははは!」
「うわぁぁぁぁ!」
デカいから、大迫力大車輪だ。
普段聞いたことがない悲鳴が聞こえる。
「ふぅ……満足満足――さて、残るは……」
「え?! 嘘っすよね! 僕はいいですよ。男ですよ! わぁぁ!」
俺は軽すぎるエイトを頭の上に持ち上げると、ヘリコプターのように回し始めた。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
「ははは! いつもより多く回しておりま~す!」
彼の装備は魔法が効いているものではないらしく、長い裾がめくれて尻が見えている。
「ロッパー!」
満足したので、エイトを放り投げると、地面にへたり込んでケロケロしている。
思い切り回したので、酔ったのだろう。
こういうのは多分、状態異常になると思うので、低レベルの分、耐性が低いのかもしれない。
「ダイスケさん、やっぱりひどいのでは……」
サナがエイトのことを心配しているのだが、ちょっと羨ましそうな顔にも見える。
男なら、多少わんぱくでもいいんだよ。
たくましく育ってほしい。
「ははは、悪い悪い」
「ひ、ひどいっすよ~!」
「ほら、回復薬だ」
アイテムBOXから出した瓶を彼に手渡した。
「んぐんぐ……ふう……効いてきた……」
「さてさて、当初の目的は果たしたが……」
「すげぇぇぇぇ!! 魔石やドロップが沢山落ちてますよ!」
泣いたカラスがもう笑って、エイトが地面に落ちている物資にキャッキャしている。
「現金な奴だな。みんなで分けるんだぞ」
「解ってますよ!」
「俺とエイトは、まったくなにもしてないけどな、ははは」
「ダーリン! もう勘弁してくれよぉ」
イロハがちょっとぐったりしている。
「なんだ、オガ! これから面白くなるところだろうが!」
姫はまだ戦うつもりだ。
「うわぁ! 戦闘ジャンキーはこれだからよぉ!」
「お前もそうだろうが!」
「姫、ここらへんで引き上げよう」
「え~? もうちょっと……」
珍しく、姫が可愛いポーズをしている。
それにやられてしまった。
「わかった、もうちょっとな」
「やったぁ!」
「おいおい、ダーリン!」
イロハは不満そうだが、危なくなったらすぐに撤収するし。
「それより、サナ」
「はい」
「リッチのやつが、聖女とかなんとか言ってなかったか?」
「ああ、あたいも聞いたぜ?」
イロハもリッチの言葉を聞いたらしい。
「ターンアンデッドを使えるってことは、サナのクラスが聖女になったってことなんだろうか?」
「そりゃすごいぜ! そういうクラスにならないと、ターンアンデッドを覚えられないってことなんだろう?」
「そうかもしれないなぁ」
「そんな、私なんて……」
サナが聖女って言われて照れているのだが、それを見ている姫が悔しそうだ。
「うぐぐ……」
そこに空気を読まないエイトがやって来た。
「ダイスケさん! これが落ちてましたよ!」
ドロップアイテムを拾っていた彼が、ウッキウキで布を広げた。
多分、リッチからドロップしたアイテムだろう。
俺はその形に見覚えがあった。
「エイト、そりゃ魔導師の装備だよ」
俺は、サナとカオルコを指した。
そう、乳暖簾装備だ。
リッチからはコレがドロップする確率が高いのかもしれない。
「え~?! そうなんですかぁ?」
彼はちょっとがっかりしたようだが、こいつの能力を知らない。
「着てみたらどうだ?」
「えええ?! 僕、男なんですけどぉ!」
「そりゃ知っているけど、そいつはすごいんだぞ? 防御力アップ、体力魔力自動回復つきだ」
「本当ですか?!」
「「うんうん」」
カオルコとサナが頷いている。
「まぁ、無理にとは言わんが……」
「う、う~ん」
彼も魔導師だ。
その能力を知ったら、無視できないのだろう。
しばらく悩んでいたが、ホールの隅っこに行くと、着替え始めた。
まぁ、男なんで、そのぐらいは平気だろう。
「どうですか?!」
乳暖簾装備をしたエイトがやって来た。
この際だ、彼の様子を撮影する。
「なるほど~、男が乳暖簾を着ても、普通のへそ出し装備に見えるな。ははは」
「なかなか、似合ってるぜ?」
「そうですかぁ?」
憧れのイロハから褒められて、彼もまんざらでもないらしい。
「リッチを倒して、新装備をゲットした――というシーンだな」
「……」
サナが微妙な顔をして黙っている。
「どうしたサナ?」
「女の子より、可愛いのはちょっと……」
「ははは――そうだ!」
俺は再び彼を持ち上げて、ぐるぐると回した。
「ぎゃぁぁ!」
「今回は軽く回してるぞ」
「回さないでください!」
俺が確かめたかったのは、男でも魔法の先端ガードが働くのか? ――か、どうかだ。
俺が睨んだとおり、エイトを振り回しても、乳暖簾や裾がめくれて大事な所が見えたりしない。
「よっと! その装備は、激しく動いても大事な所が見えないように、ガードしてくれる機能があるんだよ」
「ああ、なるほどぉ!」
エイトが合点がいった顔をしている。
女性陣の乳暖簾がいつめくれるのか期待して、ずっと眺めていたのかもしれない。
「むぅ……ダイスケさん、やっぱりもうちょっと回してもいいです」
「サナがそう言うなら」
「止めてくださいよぉ!」
ふふふ――残念だったな。
彼女たちの秘密の先っぽは、俺だけの特権なのだ。
「なんだよ、そんなの見たいのかぁ? それなら、あたいのを見せてやるよ」
エイトの視線を見ていたイロハが、自分の装備をずらしてチラ見させている。
彼女が装備しているマイクロビキニも、どんなに動いてもズレることなく、しっかりとガードしてくれるらしい。
「え?! え?! あ、あう……」
顔を真っ赤にして、イロハを凝視していた彼が、突然前かがみになった。
「はぁ?! こんなのでか? わはは!」
腰が引けたエイトの格好を見て、彼女が大笑いしている。
「まったく、そんな筋肉を見て、なにが面白いんだか……」
「筋肉じゃねぇ! ちゃんと可愛いピンク色だっつ~の!」
また、姫とイロハが言い合っている。
――結局、エイトも乳暖簾装備を使うらしい。
まぁ、人の多い所ではローブを羽織ればいいし。
俺たちは、そのあとも戦闘の映像を集めてから、地上に戻った。
このぐらいあれば、映画の制作もはかどるだろう。
監督さんから、「こういうシーンがほしいんです!」と、言われれば、再度ダンジョンに潜ればいい。
イロハからはなんでもするって、言質は取ってるし。
問題ないだろう。
――そのあとも、俺たちの撮影は続いた。




