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【コミカライズ連載中】アラフォー男の令和ダンジョン生活  作者: 朝倉一二三


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105話 クランクイン


 金が増えるばかりで、使い道がない。

 そこで俺は映画を作ってみることにした。

 ダンジョン内でのイロハの動きを見て、彼女を主役にして映画を作ってみたくなったのだ。


 もちろん俺は普通のオッサンなので、映画を作る技術なんてない。

 その道のプロに頼むことにする。

 制作をお願いするのは、俺の動画編集の外注をしてくれていた、クアドリフォリオさんのチームだ。

 監督希望の女性もいるので、予算を少し渡してサンプル動画を作らせてみた。


 これが予想よりよいできでびっくり。

 一緒に動画を見ていた姫やカオルコも納得していた。


 主役にイロハ、ヒロインにエイトという金髪の美少年を当てる。

 ちょっと渋っていた彼も、最終的には出演を約束してくれた。

 これで映画計画が一歩前進することになる。


 映画のシナリオは、俺があらすじを書いて、プロの脚本家に任せることにする。

 大筋が合っていれば、改変もOKだ。


 だいたい難しい話じゃないからな。

 ヒロインを助けて、魔物を倒しながら、魔王の城に乗り込んで魔王と対峙する。

 100%王道でテンプレだ。


 イロハのアクションを魅せる映画なので、ストーリーは簡単でいい。

 トップランカーの冒険者が出演するファンショーみたいなもんだ。

 歌手の舞台を観にいくと、突然舞台劇が始まるようなもんだな。


 基本は俺の自主制作映画ってことになっているし。

 シナリオのプロットはすでに送ってある。

 上手くアレンジしてくれればいいが――なんてことを考えていると、ドアのチャイムが鳴った。


 従業員の案内なしで部屋にやって来る人間は限られているが……。

 とりあえず出る。


「はいよ~」

 ドアを開けると、見慣れた顔が3つ。


「サナじゃないか!」

「えへへ……」

 笑っている彼女の後ろに、以前会った魔導師の目隠れの女の子とキララ。


「なんだ、キララまで」

「なんだって、ご近所のご挨拶でしょ?」

「ええ?」

「あの~、隣の部屋にギルドの本拠地ごと引っ越してきたんです……」

「マジか~、この意外な行動力」

 どうやってお金を使ったら~とか言ってたのに、ビックリドッキリだな。


 そりゃ、彼女がゲットした金を使えば、ホテルに住むぐらいできるだろう。

 この特別階にも、空き部屋もあったし。


「桜姫さんたちの部屋よりは小さいですけど……」

「それでも、十分に高いと思うが――まぁ、あの金なら余裕か」

 1日10万円として、月額300万円、1年で3600万円。

 10年ここで暮らしていても、3億6000万円。

 彼女がゲットしたお金からすれば、なんの問題もない。


 それに、彼女は高レベル冒険者だ。

 さらに稼ぐ可能性も十分にある。


「私の分け前ももらったのよ。借金も全部なくなったし」

 キララが胸を張って、フンスと鼻息が荒い。


「まぁ、サナの収入もギルドの口座に振り込まれるから、分け前も仕方ないが――ちょっとは遠慮しろよ」

「なんでよ!」

「いいえ、キララさんには、冒険者としての色々を沢山教えていただきましたから」

「そうよ! サナは私が育てた!」

 随分と得意げだ。


「お前、それが言いたいだけだろ」

「なんでよ!」

「まぁ、いいや――入ってなにか飲んで行く?」

「いいんですか?!」

 魔導師の女の子――名前はなんだったか……エマだったかな?


「姫! ご近所に引っ越しのご挨拶だってさ」

「この階にギルドの本拠地を構えたのか?」

「そうらしい」

「……」

 彼女がサナをじっと見ている。

 駄目だって言わないから、OKなんだろう。


 もしかしたら、姫はサナの行動力に少し恐怖を感じているのではないのだろうか。

 気がついたら、とんでもない財力を得て、俺のすぐ近くまでやって来ている。

 これはある意味、ホラーだ。


「すご~い! 広~い!」

 エマが部屋の広さに驚いている。


「ここは、最上級の特別室だからな」

「桜姫さんも、セレブみたい~」

 ソファーに寝転がったままの、姫を見てそう思ったようだ。

 確かに、尋常じゃないオーラが出ているのは間違いない。


「みたい~じゃなくて、ガチな超セレブなんだよ。キララみたいなインチキセレブじゃなくて」

「なんで私の話が出てくるのよ!」

「お前は、借金してセレブごっこしてたろ?」

「……ぐぅ……そういうのは、もう止めたし……」

 おっと、キララをからかうのは、このぐらいにしておくか。

 痛いところを突かれてキララが悶えていると、カオルコがやって来た。


「ダイスケさん、なにか頼みますか?」

「ああ、コーヒーとケーキでも取ってあげてくれるかな」

「はい」

 皆でソファーに座って話を聞く。

 サナの爺さんを施設に入れようとしているのだが、ゴネているらしい。


「しょうがないなぁ。サナ、連絡先を教えてくれ。俺からちょっと言ってやる」

「は、はい」

 爺さんに電話をして、話をする。

 どうやら膝の調子が悪いようだが、それなら余計に施設に入ったほうがいいと思うがなぁ。

 まぁ、新しい環境はつらいかもしれない。

 それでも孫娘を安心させるためだ。


 自分は大丈夫だと言い張っても、なにかあればサナのところにいくからな。

 金があるなら施設に入ったほうがいい。


 爺さんは即答を避けたが、サナと話し合うと約束してくれた。

 俺としても、あまり人の家族のことに口出しするのもなんだしなぁ。

 あとは任せよう。


 俺の電話が終わると、キララが話を切り出した。


「ところで――映画を撮るらしいじゃない! 私も協力してあげてもいいわよ」

「いらん」

「なんでよ!」

「サナがいればいいよ」

「うぐぐ……」

 こいつも相変わらずだな。


 ――突然隣にサナたちが引っ越してくるというサプライズを食らった次の日。

 映画の制作陣も決まり、出演者も決まった。

 俺は契約書を作るために、司法書士の事務所を訪ねた。


「こんにちは~」

「いらっしゃいませ」

 応接に通されると、先生がやってきた。

 いつものメガネの先生だが、めちゃ気合を入れた化粧をしている気が……。

 服装も胸の辺りが大きく開いたブラウスで、谷間が見えている。

 スカートも、前より短いような……。


「事前にご連絡したとおり、映画の制作についての契約書についてでして……」

「はい、承っております」

 彼女がぐぐっと、前かがみになって胸の谷間を誇張してくる。

 この先生、こういうタイプだったかな?


「私は素人なので、司法書士の先生に雛形を作っていただきたくて……よろしくお願いいたします」

「承知いたしました」

「自主制作の映画なのですが、大金が動くので、契約書を作ったほうがいいだろうと」

「賢明な判断です」

 なんて言いつつ、先生が足を組み替えたりしている。

 俺が大金を動かしているのを知っているので、なんらかのアピールだろうか?

 いくらスケベなオッサンでも、手当たり次第に手を出すつもりはないのだが。


 司法書士に謎のアピールをされつつ、依頼は終わった。

 あとは、雛形ができたら、フラミニアさんに送ってハンコをもらう。

 そうすれば、計画がスカートだ。

 いや、スタートだな。

 司法書士のミニスカと太もものせいで、間違った。


 ――後日、契約書ができ上がったので、フラミニアさんの所に送付。

 なん度かやり取りをして、最終的なハンコをもらう。

 まぁ、向こうも仕事でやるわけで、儲けが出た際の配分などもある。

 契約書なしってわけにはいかない。

 とりあえず、動画サイトにアップして、収益が出るか否かにかかっている。


 長い動画なら、沢山広告を入れられるから、それなりの収益になると思われるが……。

 正直どうなるか、さっぱりと解らん。

 話題になるのは、間違いないと思われるが……。


 映画の心配をしていると――サナから連絡だ。

 爺さんが、施設に入ると言ってくれたらしい。

 これで彼女もダンジョンに専念できるだろう。

 なにかあればすぐに連絡ももらえるしな。

 老人の孤独死――なんてことは避けられる。


 映画の契約も決まったので、早速撮影などに入った。

 クランクインってやつだな。

 千里の道も一歩から。

 確実にこなしていけば、いつかはデカい目標にたどりつける。


 とりあえずの俺の仕事は、ダンジョンに潜って動画の素材を集めること。

 監督さんに聞いたが、今の一眼カメラは高性能なので、それで撮影すれば十分に素材として使えるらしい。

 昔のような映画用のデカいカメラは必要ないようだ。

 そりゃ、芸術作品なら画質にこだわる必要もあるかもしれないが、これは自主制作のエンタメ動画だ。 手持ちの機材で十分。


 ただ、素材の量が必要になるだろうから、同じカメラを5台ほど購入して、それに備える。

 カオルコにも同じものを購入して、彼女のアイテムBOXに入れてもらった。

 これだけあれば、かなりの動画が撮れるだろう。


 戦闘シーンだけではなく、主人公とヒロインの普段の会話シーンなども撮る必要があるしな。

 歩いているシーンとか、走っているシーンとか。

 どうしても足りないシーンは、スタジオなどで撮ってバック合成でなんとかなるだろう。


 俺と姫たち、イロハ、サナ、ヒロインのエイトを入れて、深部まで潜る。

 ダンジョンに湧く魔物を、魔王の配下の敵――ということにするわけだ。

 皆でダンジョンの中を進む。


 イロハとエイトは一緒にいてもらい、その撮影も行う。

 カオルコのアイテムBOXも使って、撮影を手伝ってもらっている。


 エイトが出した魔法の明かりに、彼の容姿がくっきりと浮かび上がる。

 マジな僧侶や神官ではないが、それっぽい装備をしてもらい、フェイクだがそれらしい杖も持っている。

 耳にも、簡易の長い耳をつけているが、これもあとで動画内で変換できるらしい。

 まぁ、サンプル動画のように、ゴブリンを作ったりできるから、耳の挿げ替えぐらいは余裕だろう。


 普段エイトは、この装備にズボンを穿いているらしいが、それを脱いでもらった。

 大きなスリットが入っているので、腰から脚がむき出しになっている。


 映画というと飾りを沢山つけた特注の衣装で――みたいな感じになるのだが、この映画は冒険者そのままの装備を使わせてもらった。

 やっぱりダンジョンで戦闘となると、撮影の衣装じゃ保たない。


「エイト君、よく撮影をOKしてくれた。助かったよ」

「ぼ、僕だって、オガさんにいいところを見せたいですから!」

「あははは! 気に入ったよ!」

 イロハが、彼の背中をバーンと叩いた。

 金髪を揺らして、美少年が前に倒れて地面に手をつく。


「いったぁ!」

「やったじゃん、憧れのオガさんに認められたぞ?」

「あ、ありがとうございます……」

 起き上がった彼が、背中をさすっている。


「あたいのことはイロハでいいぜ」

「は、はい!」

「やったじゃないか」

 俺も、彼を祝福した。


「そ、それはいいんですけど……」

「なんだい?」

「これってスースーするんですけど……」

 彼が手で股間を隠そうとしている。

 内股なので、益々女の子っぽい。


「サービスサービスぅ! だよ」

「男の僕がこんな格好をして、サービスになるんですか?」

「なる! 俺の予測では間違いない。ほら!」

 俺はカオルコを指した。

 彼女の目が爛々(らんらん)と光っている。


「な、なんですか? 怖いんですけど……」

「女の子っぽい男の子からしか摂れない栄養素があるんだよ」

「さっぱりと意味が解りません」

 エイトは混乱している。


「カオルコから見て、彼はどうだ?」

「とってもいいですね……ただ」

「ただ?」

「やっぱり、相手はダイスケさんのほうが……」

「どうせ、俺は総受けで――とか言うんだろ?」

「ふひひ……」

 彼女は普段見ないような、変な笑いかたをしている。

 どういう趣味なんだ。


「それは冗談として、エルフって男も女も脚を出しているだろう?」

「まぁ、確かにファンタジーものではそうですけど……」

「君はどこから見てもエルフに見えるから、無問題!」

「モーマンタイってなんですか?」

「ああ、問題がないって意味だよ」

「そうなんですか……」

 その話が終わったのだが、なんだか彼がモジモジしている。


「なんだ、どうした?」

「あ、あの……女の人たちの格好が……その」

「ああ、ビキニとか腹筋とか、乳暖簾とかか?」

「……そうです」

「これが、ダンジョンでの正装なんだから、慣れるしかないだろう」

「うう……」

「テントを張るなよ」

「うう……」

 そこにイロハがやって来た。


「なんだよ、溜まってんのか?! あたいが手で抜いてやろうか? 間違って潰しちまったら、ごめんな。わはは!」

「下品な奴め」

「なんだよ~、桜姫だってやるじゃねぇか」

「時と場所を選べと言うのだ!」

「だはは!」

 イロハがちょっとオッサンみたいな笑いになっている。


 どうもエイトは、この色っぽい格好に乗り気じゃないみたいだが、見た目はバッチリ。

 このまま撮影を続行する。


「あの~ダイスケさん」

「なんだい、サナ」

「あの人にちょっと厳しくないですか?」

「やつは男だからな、当たり前だろ。ははは」

 見た目は女の子だが、男ならしゃーない。

 それが、世の中のことわりちゅ~もんだ。


 それから、ダンジョン内でキャンプをしつつ数日に渡り――ゴブリンから始まり、ホブゴブリン、オーク、オーガ、トロルなどを仕留める動画を収めた。

 カオルコと一緒に色々な角度から撮る。

 ときには、アイテムBOXから水タンクを出して、そいつに乗って俯瞰から撮った。

 なるべくいろいろな角度の動画があったほうがいいだろうからな。


 イロハに補助魔法をかけるのを繰り返して、エイトもちょっとレベルが上がったようだ。

 なんだかんだと、イロハはエイトの面倒をよく見ている。

 そんな彼女だから、ギルドの面々に好かれているし、信頼もされているわけだな。


 戦闘と撮影を繰り返して、そのまま6層に到達。


「なんか地味だな――ドラゴンでも出てくれればな~」

 俺の言葉にイロハが反応した。


「止めてくれよダーリン! 変なフラグが立ったら困る!」

 まぁ、俺が巻き込まれることになるのは、とんでもないシチュエーションが多いからなぁ。

 また、迷宮教団とエンカウントするかもしれないが――あれ以来、教団と接触はない。

 最後の戦闘で、カオルコとサナの魔法が決まったように見えた。

 あれで、やられてくれていれば、万々歳なのだが……。


 撮影はイロハが主役なので、彼女が主に戦闘をこなしているわけだが、後片付けをしている姫は暇そうだ。

 撮影が終わったら、姫に蹴散らしてもらう。


 雑魚敵の死屍累々を見て、しばし考える。

 やっぱり絵面が地味だ。


「う~ん、そうだな……」

 いいアイディアをひらめいた。


「なんだよ、ダーリン……」

 俺の顔を見ていたイロハは、嫌な顔をしている。

 変なことをさせられると思っているのかもしれないが、ターゲットは、彼女ではない――サナだ。


 せっかくついてきてくれたのに、彼女の仕事があまりない。

 ここらへんで活躍させてあげようじゃないか。

 それで、派手な動画が撮れれば一石二鳥。


「サナって、退魔(ターンアンデッド)を覚えてなかった?」

「覚えましたけど……」

「使ったことある?」

「いいえ……」

「よっしゃ! そいつを使ってみようぜ?」

「ええ?! どこで?」

 イロハが訝しげな顔をする。


「以前、妹さんを助け出した所で、リッチが湧いたじゃん。あそこで使おうぜ?」

「え~?」

「大丈夫大丈夫、退魔(ターンアンデッド)が決まれば、かなりのアンデッドを倒せるだろうし」

「本当か?」

「解らん、ははは」

「ダーリン!」

 そんなこと言われても、見たこともない魔法だからな。


「だが、サナとしても、自分が覚えた魔法が、どのぐらいの威力があるのか把握しておきたいだろ?」

「は、はい」

「それにほら――エイトは神官系設定だから、退魔(ターンアンデッド)を使えてもおかしくない」

「それはそうだけどさ」

 俺の所にエイトがやって来た。


「あ、あの! ダイスケさん! ダイスケさん!」

「どうした? 雉撃ちか?」

「え? 雉撃ちってなんですか?」

「小便だよ」

「ち、違います!」

「なんだなんだ」

「僕もう、いっぱいいっぱいなんですけど?!」

 彼がなにか焦っている。


「膀胱が?」

「違います!」

「じゃ、あんだよ」

「ここで5層ですよね?!」

「そうだよ。間違いなく」

「そ、そのリッチが出るって場所はどこなんですか?」

「6層だよ」

「そんな所、僕にはムリムリムリカタツムリなんですけど!」

「大丈夫大丈夫、ははは」

 あの穴に行くことにしたが、そういえば場所が解らん。

 前にはハーピーたちに案内してもらったし。


「お~い! いないのかぁ~!」

 俺は上を向くと、暗闇に叫んでみた。


「ダイスケさん、なにをしているんですか?」

 突然の俺の行動に、エイトが訝しげな顔をしている。


「ああ、やつらを呼んでいるのか」

 姫は俺のやっていることが解ったようだ。


「あの穴の場所が解らんからな。お~い!」

「やつらってなんですか?」

「魔物だよ」

 エイトの質問に、イロハが笑って答えた。


「え?! 魔物ですか?!」

「そうなんだよ」

 ちょっとイロハが呆れ顔で説明をしている。


「大丈夫なんですか?」

「それが大丈夫なんだ」

「ええ~」

 彼は明らかに混乱している。


「そういえば、今回は顔を見せてないからなぁ。もしかして、他の冒険者に狩られてしまったかなぁ」

「けど、魔物だからなぁ。狩るなとは言えないぜ?」

 そこはイロハの言うとおりなのだが……。

 おおよその方角は解るので、そちらのほうに向かう。


「さて――ここらへんだと思ったんだがなぁ……」

 ちょっと諦めムードが漂っていると、上のほうから鳴き声が聞こえてきた。


「ギャ! ギャ!」「ギャッ!」

「お! 生きてたか! お~い! こっちだ!」

「ギャーッ!」

 バサバサとデカい羽音がして、近くに降りる音がする。

 暗闇の中からぴょこぴょこと歩いて、ハーピーたちがやって来た。


「お~、冒険者にやられたんじゃないかと心配してたんだぞ」

「ギャ!」

 大きな翼を広げると、ギギが俺の所に飛んできた。


「は、ハーピーじゃないですか?!」

「そうだよ。騒いだり威嚇したりするなよ。攻撃されるぞ」

「うう……」

「ウンコまみれになるよな、わはは!」

「被害者が結構出てるからな。まぁ、ウンコ攻撃食らってもくさいだけで、死にはしないが」

「やばくないですか?」

「いや、全然――むしろ俺たちは、彼女たちのお陰でどれだけダンジョンで助かっているか」

「あはは、ダーリンの言うとおりだな」

「へ~」

 エイトは、まだおっかなびっくりである。


「抱っこしてみるか?」

「ええ? だ、大丈夫ですか?」

 彼も興味はあるようだ。


「大丈夫だと思うが……」

 俺はギギを抱いたまま、エイトにそっと近づいて手渡した。


「わわ!」

「大声出したりするなよ」

 ハーピーは彼の手の上で大人しくしている。


「だ、大丈夫です……温かいですけど、なんかくさいですね……」

「ははは、ハーピーのウンコはくさいし、鳥って自分で出した油を翼に塗ったりするんじゃなかったか? そのにおいかな?」

「は~」

「ほら、魔物のおっぱい触り放題だぞ?」

「……」

 エイトが、ギギの胸をじっと見ている。


「なんだよ、胸が揉みたいなら、あたいの揉ませてやるぜ! あはは!」

「だから、それは胸じゃなくて、筋肉だろうが」

「しっかり胸だっての!」

 姫とイロハの言い争いに驚いたのか、ハーピーが翼をバサバサしている。


「わわ!」

 そのままエイトを蹴ると、俺の肩に飛んできた。

 ちょっと驚いたらしい。


「よしよし」

「ギャ!」

「ギャーッ!」

 チチも羽ばたくと俺の頭の上に乗ってきた。


「お~い、さすがに2羽は重いんだが」

「ギャ!」

「チョコ食うか?」

「ギャー!」

 アイテムBOXからチョコを出すと、彼女たちに食わせてやる。


「なぁ、以前ここらへんに開いた穴に潜ったんだが、お前たち場所は解らないか?」

「ギャギャ!」

「どうなんだよ、ダーリン」

「まてまて」

 イロハは急かしているが、ハーピーたちがチョコを食い終わるのを待つ。


「ギャ!」

 チョコを食い終わったハーピーたちが飛び立った。


「お~い、案内してくれよ~」

「ギャー!」

「さて、ついて行こう」

「ええ?! ダイスケさん、本当に大丈夫なんですか?」

 俺の行動に、エイトが心配している。


「多分、通じていると思うが……」

「本当ですか?」

「まぁ、大丈夫だよ」

 暗闇の中を飛ぶハーピーについて行くと、数分で彼女たちが地上に降りた。

 その場所に行くと、黒い穴が口を開けている。


「これですか?! 本当にあった! すごいかも!」

「そうだろう? あいつらには、このダンジョンで本当に世話になっているんだ。飼えるなら、ずっと飼ってあげたいぐらいだ」

「うわ~、見つかってほしくなかったぜ」

 イロハが顔を手で覆って上を向いている。

 どうやら彼女は、この穴に潜るのに気が進まないらしい。


「まぁまぁ、デカブツが出たら、止めはイロハに譲るからさ」

「本当かい、ダーリン」

「ああ、イロハもレベルが上がるかもしれないぞ」

「やったぜ! 最近は、レベルが離されるばかりだったからなぁ」

「普通は、こんな簡単にレベルが上がらんものだ。ダーリンやサナが少々特殊なんだ」

「そうですねぇ」

 姫の言葉にカオルコが同意している。


「よっしゃ! 穴に入るか!」

「あたいは、気がすすまねぇんだけど……」

「それでは、私が先に行く!」

 気が乗らないっぽいイロハとは裏腹に、姫はやる気満々だ。

 戦闘ジャンキーな彼女は、強敵と戦えるとか思っているに違いない。


 こういうのにカオルコは巻き込まれてきたんだな。

 見れば、彼女は諦めた顔をしている。

 今回、巻き込んだのは俺だが。


 ――というわけで、俺たちは6層に開いた穴に再び侵入した。

 以前に置いたままの単管の足場は残っているだろうか。


 

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