表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ連載中】アラフォー男の令和ダンジョン生活  作者: 朝倉一二三


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/126

104話 短編映画鑑賞


 アイテムBOXを使っていくら大金を貯め込んでも仕方ない。

 なにかいい使い道がないものかと思っていたのだが――。

 いいことを思いついた。


 イロハを主人公にして映画を撮ったら受けないだろうか?

 美人だし、あの肉体だ。

 パワー溢れるすごい迫力の映画になるに違いない。


 ――とはいえ、俺に映画なんて撮れない。

 餅は餅屋に決まっている。

 いつも動画を編集してもらっている、クアドリフォリオさんのつてを使うことにした。


 彼女に紹介されたのは、長身で黒尽くめの女性。

 フラミニアという名前の彼女にいきなり任せるのはちょっと心配だ。

 予算を少し渡して、サンプル動画を作ってもらうことにした。


 さすがプロ――という動画を期待したい。


 彼女たちの話だと、若いやつが大作を撮ると、映画界のお偉いさんから横槍が入るかもしれないという。

 そんなことになったとしても、あくまで俺が頼んで、仲間内で作る自主制作映画として押し切るつもりだ。

 実際に広告代理店も挟んでいないし、金を出しているのは俺。

 出演者もお仲間の冒険者たちだしな。


 サンプル動画の制作を頼んだあと、姫たちと軽くダンジョンを巡回したりして1ヶ月ほどたった。

 本当はもっと深層に潜りたいのだが、問題はあの7層だ。

 足踏みをしているとレベルダウンする――と言われているとはいえ、いまのところその兆候はない。

 どのぐらいたつとレベルダウンするんだろうな?

 1年ぐらいの猶予があるのだろうか?


 ネットをググってみても、ばらつきがあるようで、よく解らない。

 ――そんなある日。


「おっ!」

 ダンジョンから戻ると、メッセージが溜まっていた。

 ホテルに戻り確認する――クアドリフォリオさんから動画のサンプルが送られてきたようだ。


 スマホからPCに転送して、早速観るとするか。

 一緒に姫とカオルコも観るようだ。


「どういう話を作ったんだ?」

 どうやら、姫も興味があるらしい。

 まぁ、暇なのだろう。

 ダンジョンも7層を突破できなくて、同じ所を回っているだけだからな。

 まさか、迷宮教団のやつに、深層に飛ばしてくれ――とも言えないだろうし。

 あいつらは、明確に敵だし。


 姫たちと一緒に動画を観る。


「待って下さい!」

 カオルコから待ったがかかった。


「え? なに?」

「飲み物と、プロジェクターを用意しますから」

「そんなに本格的に観なくてもいいんだよ。サンプルなんだから」

「いいんです!」

 彼女たちにも話していたから、密かに楽しみにしていたのかもしれない。

 それならば、しばし待つ。


 どこからか買ってきたのか、カオルコのアイテムBOXに、ポップコーンまで入っていた。

 俺もPCをプロジェクターに繋いで、窓のカーテンを閉めた。


 動画が始まると、クアドリフォリオさんとフラミニアさんが出てきた。

 どうやら、金をもらったので、どういう映画を撮るのか打ち合わせをしているようだ。

 他にも女性や男性がいるのだが、全員仲間なのだろう。


 場所は安っぽいアパートの一室で、カメラは固定。

 まるで、演劇を観ているようだ。

 このアパートも、これも誰かの住処をそのまま舞台に使っているのだろうか。


「自分たちで出演しているのかよ、ははは」

「予算は預けたのだろ?」

「もちろん」

 彼女たちが打ち合わせをしていたのだが、すぐに飽きて、ネットを始めたり遊んだりして1日が終わってしまう。

 次の日も、お金はあるからと、お酒を買ってきてどんちゃん騒ぎ。

 そんなことをしている間に、半月ほどたってしまった。


『マジでヤバい! なにか撮らないと!』『ネタ出してネタ!』

 スタッフが皆で頭を抱えている。


『全員で走ったり、バーベル上げたりして、ダイエットドキュメンタリーを撮りました! とか駄目?』

『そんなの駄目に決まっているだろ!』

『マジでなんとかしないと!』


 みんな素人だろうが、焦る感じがよく出ている。

 この動画の構成は、俺に渡すサンプルを作るためのドキュメンタリータッチになっているのだろう。


「はは、学校の夏休みで宿題をやってなくて、登校日近くなってよくある光景だな」

「まさか、このままこれで終わりじゃないだろうな」

 姫が心配しているのだが――。


「さぁ?」

 どうなるかは、最後まで観てみないことには。


『どうしてこうなった!』

 動画の中で頭を抱えている皆だが、いきなり監督さんが立ち上がった。


『静まれ~い! 我々に訪れた最大のピンチ! ここは、不肖このフラミニアが仕切ります!』

『『『おおお~っ! パチパチ』』』

 皆が拍手をしている。


『狼狽えるな皆ども! こんなこともあろうかと! 私は、ダンジョンからあるものを手に入れているのだ!』

『あるもの?!』

『これだ!』

 彼女がポーズを決めて、なにか黒いものを掲げた。


『それは?!』

『ふふふ……これはだな、あらゆる事象をリセットできる、レアドロップアイテムだ!』

『おおおっ!』『さすが、フラミニア殿下!』

 皆が彼女を囲むように称えている。


『ふふふ――もっと褒めてくれたまえ』

『でも、どうやってそんな貴重なものを手に入れたんだ?』

『う! そ、それは……』

『まさか――サンプル動画を作る予算を使ったんじゃないでしょうね?!』

『大丈夫! このレアアイテムで、なにもかもリセットできれば、すべて解決できる!』

『『『……』』』

 皆は信じていないようだが、もうそれにかけるしかない状態になっているようだ。


『来たれ! 奇跡招来! 今こそ、奇跡が訪れる時! 運命を変える力が、この場に降り立たんことを願う。我々に救いの手を!』

 彼女が黒いアイテムを掲げて、祝詞を唱えた。

 黒いアイテムが青く光り、カラフルなエフェクトに変わる。


 光の波紋が周囲へと広がり、純白の閃光が四方八方へと放射され、淡い虹色の光の筋が絡み合いながら宙を舞う。

 煌めく光の粒子が空中を漂い、まるで星屑が渦を巻くように輝きを放ちながら回転する。


「おおっ、ここのエフェクトとか綺麗じゃない? さすがプロだな」

「うむ!」

 俺と姫が感心していると、聞き慣れた音が動画から聞こえてきた。

 鈴が鳴るような甲高い音。


 慌てているスタッフの脇に黒い穴が開いた。


「グアッ!」「ギャギャッ!」

 穴から、見慣れた緑色の魔物が湧いた――ゴブリンだ。


『ぎゅあ! ゴブリン!』『ひぃぃぃ! 犯されるぅ!』『冒険者を!』

 皆が部屋から飛び出た。

 ここで、初めてカメラが移動して、廊下に出ることになる。

 本当にドキュメンタリーなわけがないから、カメラマンがいて撮っているのだろう。


 皆がバタバタと廊下を走り、階段を転げ落ちた。

 本当に転げているのだが、大丈夫だろうか?


『ギャギャ!』『ギャ!』

 開け放ったドアから、ゴブリンがぞろぞろと出てきた。

 このとき初めて、アパートの全景が出てきたが、マジで普通のアパートだ。


「このゴブリンって、CGだよな?」

「うむ、おそらく――よくできている」

 こんなCGモデルもあるのだろうか?

 しっかり魔物の表情もあるし、動きも自然だ。

 いつも魔物と対峙している俺たちから見ても、そう思う。


『ひぃぃ!』『ど、どうする!』

 スタッフがうろたえていると、アパート1階のドアが勢いよく開いた。


『なにごとだ!』

 出てきたのは、長い黒髪の女性。

 部屋着なのか、Tシャツにトランクスという姿で、鍛えられたと思われる太ももが魅力的だ。


 手には剣を持っているし、その身のこなしから冒険者だと思われる。

 この撮影のために、雇ったのだろうか?


『ギェェ!』『ギャ!』

 2階に溜まっていたゴブリンたちが、一斉にその女性に飛びかかる。


『ゴブリン!? エイヤァ!』

 一瞬にして敵だと察した女性が、下から半円を描いて白い刃を走らせた。

 それに捉えられたゴブリンが、真っ二つになる。

 そのまま臓物を撒き散らして、地面に落下した。


「うわ! めちゃリアル」

 内臓の細かい描写までできている。

 こういうサンプルがあるのだろうか?

 それとも、俺が編集を頼んでいる実際のダンジョン内戦闘の動画を参考にしたのか?


『グギャ!』

 返す刃で着地したゴブリンの頭に振り下ろすと、敵の身体が半分に割れて、その場に崩れ落ちた。


『なんだこれは?! 湧きか?!』

 魔物の血を払った冒険者が叫ぶ。


『た、多分そうです……』

 自分たちがやらかしたとは言えず、監督たちが小さく答えたのだが、続いてバリバリと木材を引き裂く音が鳴り響く。

 アパートのドアと壁を破壊して出てきたのは、緑色の肌をした巨人。

 筋肉質で、尖った耳と鋭い牙、赤く光る目。


 巨人が出てきたことで、無惨にアパートが半壊――屋根まで落ちそうになっている。

 ここらへんの描写もすごい。


『ホブゴブリン!』

 女性が叫んだのだが、ちょっと棒読みだ。

 実際には、眼の前には魔物がいないだろうし、素人さんだろうから、致し方ない。

 多分、イロハを主人公にしてもこんな感じになるんだろうなぁ。

 俺も理解しているから、主人公を寡黙な設定にしたんだが。


『ゴア!』

 粗末な剣を振りかざして、ホブゴブリンがジャンプして降りてきた。

 着地と同時に地面が揺れる。

 ここらへんはちょっと大げさだが、エンタメ的な演出だろう。


 魔物の粗末な剣を振りかざしての突撃を、女性がバックステップで避けた。

 敵の切っ先は空振りして地面に食い込むと、つぶてを飛ばす。


『光弾よ! 我が敵を撃て!(マジックミサイル)

 女性の前に青い光が集まる。


「おっ?! 戦士系なのに、魔法も使うのか」

 魔法のエフェクトも、実際の魔法に近いものになっている。

 ここらへんも、俺の動画を参考にしたのかもしれない。


 女性から、魔法の矢が発射されてホブゴブリンの胴体を貫いた。

 勢い余って、魔法が後ろのアパートの1階部分に直撃――壁をぶち抜く。

 マジックミサイルの威力が高すぎるような気がするが、ここらへんも演出だろう。


 身体をぶち抜かれながらも、魔物はさらに突撃してきた。

 尋常ではない敵意の籠もった刃をすり抜け、女性が下から切り上げる。

 円を描いた鋭い刃が食い込むと、魔物の肩から右手が落ちた。


『グォォ!』

 なおも魔物が近づいてこようとしたのだが、その場で崩れ――止めのためにホブゴブリンの頭が潰された。


『『『やったぁ!』』』

 フラミニアさんたちから、歓声が上がる。

 その声を聞いて、女性が近づいてきた。


『ほい! 金!』

 女性から厳しい視線――。


『『『えっ?!』』』

『見れば、あんたたちの部屋から湧いたみたいだし、こっちは命の恩人だ』

『え~、持ち合わせがないので、これから検討いたします……』

 皆が丸く集まった。


『ねぇ! どうするの?!』

『スポンサーにお金出してもらうしか……』

『なにもできてないのに、どうやって出してもらうのよ!』

『う~む』

『フラミニアとクアドリフォリオが、色仕掛けで迫ったら?』

『『そんなのムリムリムリカタツムリでしょ!』』

 円陣を組んで、あ~だこ~だ言っていると、叫び声が聞こえてきた。


『ぎゃ~っ! アパートがぁぁ!!』

 白髪の初老の女性がその場にへたり込んでいる。


『あ……大家さん……』

 全員が上を向くと、そのまま上空にカメラが引いて、半壊したアパート全景を映してエンドになった。


「いや、いいできじゃないか? 結構すごいと思う。さすがプロだな」

「うむ! これなら任せてもいいと思う」

「そうですね! ダイスケさん! 私の衣装とか考えていらっしゃるんですか?!」

「いや、まだだが――悪役だし格好よくしないと、そこらへんも大まかな指示だけでプロに任せたほうがいいと思う」

「餅は餅屋って言いますしね~」

「まぁ、オッサンの俺にはファッションとか解らんし」

 これで、決まりだな。

 早速、クアドリフォリオさんに連絡を入れる。


「動画を拝見いたしました。素晴らしかったです。このまま映画の制作をお願いしたい」

 送ると早速返事があった。


『ありがとうございます!』

「魔物の動画とか随分とリアルだったけど、どうやって作っているの?」

『あれは、丹羽さんの動画をAIでサンプリングして、作りました』

 今はそんなこともできるんだ。

 ゴブリンを他の魔物に置き換えることもできるらしい。

 ただし、二足歩行の種類に限るみたいだが。


 先に、優秀なサンプリング先があれば、クオリティも上がるってわけだ。


「それじゃ、契約書を作ろう。こちらは一応法人なので、法人との契約ってことになるよ」

『承知いたしました』

「契約書ができたら、お送りいたしますので、よろしくお願いいたします」

『お待ちしております』

 契約書は司法書士の先生に任せてしまおう。

 素人の俺にはさっぱりだ。


 こんな具合に、金さえあれば、強引になんでも回せてしまう。

 回らないものまで回せてしまうので、それはそれでちと問題ではあるが。


「そうだ――この動画を出演予定者たちにも、観てもらってもいいですかね?」

『もちろん、大丈夫です』

「ありがとうございます」

 早速、出演者と、協力者に送る。

 主役のイロハ、あとは魔法で協力してもらうサナだな。

 サナには、もう話をしてある。


 あとは――ヒロイン役のエイトだな。

 この動画を観て、引き受けてくれればいいが。


「よし、送信っと」

 同時に司法書士の先生にも連絡をして、了承をもらった。

 これで、話が進み始めるな。


 なんて考えていると、イロハから連絡が来た。


『すげぇじゃねぇか! ダーリン!』

「こういうのを作れるスタッフで、映画を作るからさ。楽しみにしててよ」

『ちょっと乗り気じゃなかったが……面白くなってきたかもしれねぇ』

「やっぱり、動くものがあると違うよな」

『動画に知り合いが出てて、噴いたけどな』

「え? 誰が? もしかして女性の冒険者か?」

『そうだよ。こんなバイトしやがって、からかってやろう、あはは!』

 素人にしては、それなりの演技だったじゃないか。

 それに、からかったりしたら、映画はもっと大々的にネットに流されるんだぞ?

 そのときに仕返しをされたりして。


 サナからも連絡がきた。


『すごいですね。面白かったです!』

「サナの出演がなくて、御免な」

『いいえ! 映画に出るのはちょっと恥ずかしいですし……』

 まぁ、それはある。

 動画サイトのネタになるとか、ネットニュースに載るとかとは、わけが違う。


 それにしても、簡単に全世界に発表できてしまうネットの力ってのはすごいよなぁ。


『あ、あの~』

「どうした?」

『お金が振り込まれました……』

「おお、よかったじゃない。これでしばらくは、困らないだろう」

『こんなに沢山のお金をどうやって使ったら……』

「別に無理に使うことはないだろう。貯金をしとけばいいんじゃない? 今は利率も高いし」

『はぁ……』

「とりあえず、爺さんを医療介護つきの立派な施設に入れてあげればいいじゃん」

『それは、お爺ちゃんと話しています』

「わしゃ、そんな所には行かん! ここにいる! とかごねているとか?」

『本人は動きたくないようなのですが、お年寄りの一人暮らしは大家さんから嫌な顔をされるみたいで……』

「まぁ、なにかあって事故物件になると、困るからなぁ……追い出されると、今度は借りる所を探すのが大変だぞ?」

『お爺ちゃんもそれは解っているみたいで、施設には前向きになってます』

「ゴネるようなら、『孫が危ない思いをしてお金を稼いでいるのに、わがまま言うな!』って俺が言ってあげるよ」

『大丈夫です』

「ははは、そうか」

 サナも大変そうだが、こちらも忙しいし、なんでも助けてはやれん。

 税理士、司法書士、キララもいるし、大丈夫だろう。


 さて、エイトから反応がないな。

 どうかな?

 こちらから連絡してみるか。


「エイト君、動画観た? このぐらいのクオリティの映画に出られるんだよ」

 返事があるか心配だったのだが、すぐにレスがきた。


『動画を観ました。すごいと思いましたが……まだ踏ん切りがつきません』

「君の憧れのオガさんとお近づきになれるチャンスなのになぁ」

『そうなんですけど……』

「ストーリーの中では、エルフ君をお姫様抱っこしてもらったり、一緒に寝たりと色々と美味しいシーンもあるんだよ」

 まぁ、エッチシーンはないが。


『ううう……』

「君がいいところを見せれば、オガさんも可愛い年下に目覚めるかもしれないし」

 まぁ、ありえんと思うけど。


『もう、ちょっと考えさせてください』

「わかった」

 なにをそんなに悩んでいるのだろう。


 う~ん。

 そうだ――実際にイロハに会って、説得してもらえば、彼の気も変わるかもしれん。

 ちょっとイロハに頼んでみよう。


「そうと決まれば、連絡してみよう」

 イロハに連絡すると――答えはOK。


 ついでに、エイトにも連絡を入れた――オガさんが、君に会いたいと言っていると。

 これで断ってくるようなら、脈はないだろう。

 あまり無理強いもできないし。


 彼にメッセージを送ると、返事が来た。


「ほ、本当ですか?」

『もちろん、本当だよ』

「うう……行きます」

 それじゃ――ということで、市場で待ち合わせをする。

 ホテルのロビーでという感じではないだろう。


「姫、市場でイロハと会ってくる」

「わかった」

 彼女がソファーに寝転がったまま、返事をした。


「……ついてくるって言わないんだな」

「映画の話なのだろう?」

「そのとおり、出演を渋っている男がいるから、説得してもらう」

「ああ、あの女みたいな男か」

「そうだけど、彼もそれは気にしているからね」

「それはすまない」

 そうは言ったが、まったく心は籠もっていない。

 稀に見る美少年なのだが、彼女の琴線には響かないようだ。

 まぁ、姫のパートナーに求める条件が、自分より強い男だからな。

 それはイロハも同じ。

 トップランカー冒険者というのは、変わった価値観の人間が多い。

 ちょっと特殊な人間じゃないと、上に行けないのかもしれない。


 ホテルを出て市場に向かう。

 相変わらず人が多いが、見た目普通のオッサンを振り返る人間などいない。

 十人並みの容姿はこういうときに便利だ。

 人間、見た目じゃないけど、見た目だからな。


 市場に到着。

 イロハを探す。

 彼女はデカいから、すぐに解る。


「よ! ダーリン!」

「悪いな。呼び出してしまって」

「なに、いいってことよ。ダンジョンにもあまり潜れないし、暇してたところだ」

 7層を突破できる方法がないので、皆で足踏みしている状態だ。

 焦って変な所に突っ込んで、行方不明になっているやつもいる。

 あそこは人智が及ばないダンジョンなのだ。


「ありがとうな」

「なんでもさせるって言い出したのはダーリンだぜ?」

「そりゃそうだけどな。ギルドの運営に影響が出るとかそういうのなら、教えてくれよ。ちゃんと配慮するからさ」

「わかってる――ところで、その男ってのはどこだい?」

「う~ん」

 彼女と一緒にキョロキョロと辺りを見回すと――見つけた。


「ああ、彼だよ」

「ええ? どれだい?」

 彼女は近くまでやって来ているエイトが目に入っていないようだ。


「エイト君、悪いな呼び出して」

「……いいえ」

 彼が下を向いている。

 せっかく憧れのトップランカーに出会えたのに。

 ここで、アピしなくてどうする?

 ――と、思うのだが。


「イロハ、彼だよ」

「女じゃねぇか!」

 彼女がエイトの顔を覗き込む。


「いや、金髪の美少年だけど、男の子だよ」

「ははは! ダーリン、冗談――マジかよ!」

「本番では、彼の耳を特殊メイクで伸ばしてエルフにしてもらうつもりなんだ。金髪の美少年だからエルフにピッタリだろ?」

「へ~、そりゃ面白いな」

「だろ?」

「あはは! それじゃよろしくな!」

 イロハが、彼の肩を思い切り叩いた。

 男だとわかったので、遠慮なしだ。


「あぎゃ! あいたぁ!」

 彼が肩をさすっている。

 彼も冒険者なので大丈夫だろうが、普通の人だと危ないかもしれん。


「なんだよ、このぐらい、あはは!」

「彼は、イロハの大ファンなんだってよ」

「へ~、それは変わり者だなぁ、あはは!」

「そ、そんなことありません! オガさんは、き、綺麗だし、格好いいし……」

「イロハ、お姫様抱っこしてあげたらどうだ?」

「え? こうか?」

 彼女がエイトを軽々と持ち上げた。


「ひゃぁぁぁ!」

「あはは、こりゃ随分と軽いなぁ」

「あうう」

「あたいのこと好きでありがたいんだけど、あたいの好みはダーリンみたいな強い男だからなぁ」

「え?!」

 彼が、イロハと俺の顔を見ている。


「あ~はは」

「うわぁぁぁぁぁ!」

 エイトはなにを思ったか、イロハの腕を振りほどくと、走って人混みの中に消えてしまった。


「なんだい?」

「イロハと俺の関係を察したんだろう?」

「あ~なるほど。まぁ、隠しても仕方ねぇし」

「これじゃもう、出てくれないかなぁ……」

 残念だが、仕方ない。


 そのままイロハと別れて、ホテルに戻り――夜。

 エイトから連絡が来た。

 なにか恨みつらみでも、送られてきたのかと思ったら――。


『出ます』

「出るって、映画に出演してもいいってことかい?」

『そのとおりです』


 どういう心境の変化か解らんが、出てくれるのはありがたい。

 これで映画計画も1歩前進するな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ