第九話 ギルドランク3
目の前にいる五人の男達の目を見る。それはよくというほどでもないが、時々俺達に向けられる視線だ。
ギルドランク3認定試験。それはこれまでと同じランク3探索者との模擬戦だった。
そうしてその相手として現れたのが彼らだった。
俺達を睨みつけるような視線。短期間で進んできた俺達へのやっかみ、不信感。そういった物が現れた視線。俺達へとそういった視線を向ける者の多くは、まだ低ランクの探索者達だ。まだ迷宮というものに慣れていない。だからこそ俺達への不信感というものが強いのだろう。
迷宮へと入っていれば自ずとわかる。高ランクであるという事、そこには理由があり、そして必ず強さが伴っているという事が、だ。
だからこそランク3にもなった探索者に向けられるとは思わなかった。
「始めてください」
職員の合図と同時に前衛の一人がこちらへ突っ込んでくる。手には巨大な戦鎚。躱すのは容易いか?
そこでエリナが一歩前に出た。
任せよう。
男がエリナへと鎚を振り下ろす。
それほどの鋭さはない。
まずは様子見といったところ。いくら気に食わなくとも、これは認定試験だ。
男がどれほどの力を隠しているのかは、わからない。が、大丈夫だろう。
エリナと男の横を抜け、俺も相手方へと攻め込む。
後ろからはいつものようにシビルの魔法とアストリッドの矢。
まだ詠唱中の魔法使いへの牽制。
大威力の魔法を使うわけにもいかない。シビルもアストリッドも俺の支援にまわるようだ。
一人の男が魔法使いの前にでると、その大盾で魔法使いごと全身を覆い隠した。
魔法も矢も、その大盾に阻まれる。
すぐに俺へと魔法が飛ぶ。
威力も速度も大したものではない。
足は止めず、剣で払い落とす。
三人が飛び出してくる。
先程大盾で防いでいた男が俺へと戦鎚を振り下ろして来る。
躱す。
足を止めた俺の脇を二人の男が抜けていく。
魔素を練る。
エリナに一人、俺へと一人。シビル、アストリッドにも一人ずつ。前衛職が四人だからこそだな。
アストリッドは大丈夫だろうが、シビルにはつらいか。
目前の大盾の男に向かい剣を突き入れる。
とほぼ同時に、後方へと抜けた男の一人へと火球を放つ。
初歩的な、シビルと比べれば貧弱な魔法。
だが、転倒したのが気配から感じられた。すぐに戦線復帰ってわけにもいかないだろう。
俺は純前衛ってわけではないからな。
後はエリナかアストリッドに任せればいいか。
目の前の男に集中する。
戦鎚に大盾。
重鈍、というほどではないがその動きは緩慢。
振り下ろされる鎚。
振り下ろしの速度は速い。
重さに任せた攻撃。
躱しながら剣を突き入れる。
鎚が地面を打ち、土埃が舞い上がる。
剣は大盾に阻まれる。
ならば……。
盾を迂回する軌道で左の剣を突き……。
飛び退る。
後方の魔法使いからの援護。
上手いな。
魔法を躱している間に男は鎚を振り上げる。
そうして、すぐさま男は鎚を振るってくる。
個々の技量はそれほどでもない。
一対一ならばあっさりと決まっていたはず。
後の事を考えなければどうとでもやりようはあるが……。
鎚を躱し、魔法を躱し、剣を突き入れ、盾に阻まれ……。
試験だしな。大怪我を負わせるわけにも……。
このままでは決め手に欠ける。
連携。攻撃に入るまでの動作が鈍いという弱点を上手く補っている。
いいパーティだな。
だが……。
エリナがこちらへと向かってきていた。
魔法使いは目の前の俺とこの戦鎚の男の支援で手一杯だった。後方の戦闘にまで手をだせなかったのだ。
個の技量ではこちらが上。
となれば……。
決着はすぐについた。エリナがこちらへと到着する前にだ。
シビルの攻撃が魔法使いにあたり、隙を埋める魔法使いの支援が途切れたのだ。
そうして目の前の男にわかりやすく剣を突き入れる。
これまでと同じように大盾に阻まれる。
盾の位置を誘導。
開いた盾の間から左の剣を突きたてる。
俺の剣を躱し男が膝を突いた。
伊達にランク3ではないという事だ。
その喉元に再び剣を突きつけた。
「降参だ」
そういうと男は盾を手放し、俺へと腕を伸ばした。
男の手を掴み引き上げる。
「すまなかったな。俺達も色々あって気がたっていてな」
視線の事だろうか?
「ついな。未来ある前途有望な若者が眩しくて、目を細めちまった」
男は倒れ伏した仲間の元へと歩いていく。
「頑張れよ」
そう最後に言い残して。
表記がランク4から3に変わったカードを手渡される。
「ランク3おめでとうございます」
急かされるようにランク3になってしまったが、嬉しい事に変わりはない。
「ありがとうございます!」
エリナもシビルもアストリッドも、嬉しそうにステラさんに頭を下げている。
そんな彼女達を見つめる。あと五階層。結論を出さなければ……。
二十一階層への転送の言葉を聞く。『ダヴァツビワア』だそうだ。だからもっと簡単な……。
「それではこの後顔合わせがありますので、レックスさんはお残りいただけますか? 準備もありますので」
黙って頷き、三人を見る。
「それじゃあ行って来るから。皆はゆっくりと休んで」
「すみません……」
エリナが申し訳なさそうに。
「いいって」
気にするなと肩を叩き、ステラさんに向き直る。
「それでは、よろしくお願いします」
準備とはサイモンさんに連れられてバシュラード邸に向かったときと同じような物だった。体を清潔に、そうして用意されている服に着替える。
服装もあの時と同じようなもので、シャツにベスト、七分丈のパンツにブーツ。そしてコート。これがこちらでの正装という事だろう。
一応、帯剣は許された。一本だけだが。
それも屋敷で依頼主と会うまでらしい。部屋の前で護衛に預ける事になるだろうという話しだった。
ステラさんと知らない御爺さんと共に馬車に乗り込んだ。
知らない御爺さんと言ったが、彼は一応ガザリムギルドの責任者らしい。普段は何もしていないと言っていた。何かあった時に責任を取るのが役目だそうだ。昔は高ランク探索者であったらしい。年老いても、その眼光は鋭く……などということもなくごく普通の温和そうな老人だった。
連れてこられたのは豪華な邸宅だ。
「ガザリム一のホテルなのですが、丸ごと貸切だそうですよ」
街一番のホテルを貸切とは豪勢な事だ。経営者が誰だかは知らないが、笑みが漏れている事だろう。そこで、人のよさそうなあの笑顔が思い浮かんだ。たぶんね……。
「それでは行きましょうか」
馬車の扉が開かれる。




