第一話 戦争
あれから数日が経ち、さすがに随分と落ち着いた。ヨハンを殺したことについて、完全に吹っ切れたとは言い難い。三人が俺にしてくれた事については、とてもありがたかった。彼女達の行為を無下にはできない。自ら悩むことをやめにしよう。後は時間に任せるしかないのだろう。ゴブリンのときも、盗賊のときもそうだったように。
さて今日から数日ぶりの迷宮探索だ。悩んでいる暇などない。迷宮探索は十九階層だ。あと二階層。それでランク3になる。もちろん認定試験に通ればの話だが……。ひとまずの目標としているランク2も近づいて来ている。それは……俺が答えを出さなくてはいけない日もちゃくちゃくと近づいて来ているという事だ。結局、いろいろと悩みは尽きない。
迷宮探索自体については特に悩む事はない。相手をした事のあるガーゴイルだ。一応、探索には二日かける事になるだろうが、明後日には二十階層だろう。
準備を済ませ、いつも通り朝食をとる為に階下へと降りる。三人はすでにテーブルにつき、朝食をとっていた。
「おはよう」
三人と朝の挨拶を交わし、席に着く。気恥ずかしくない朝食も久々だな。ここ数日はどうしても……その……やましい気持ちなどではないのだが、三人からの視線が気になって仕方がなかった。もちろん彼女達は普通に接してくれるのだが、どうしてもその態度の裏に何かを読み取ろうとしてしまうのだ。
朝食を終えるとギルドへと向かった。ギルドに来るのも数日ぶりだった。朝早くのギルドはいつものように、人もまばらだ。これまでと変わらぬ光景……。ヨハンの事では死者は一人も出ず、大きな騒動となることもなかった。この変わらぬ光景に貢献できた事は少し誇らしくもあった。
「もう、大丈夫そうだな」
声がかかった。声の方向へと目を向ける。そちらに居たのはヨハン騒動の時にお世話になったスキンヘッドの男――バルナバさんだった。その近くにはリーゼントのアンドレアさん、モヒカンのタッデオさんもいる。どうやら彼らもこれから迷宮へと向かうようだ。
「逆に気を使わせたみたいですまなかったな。酒、美味かったよ」
お礼の品に酒を届けたのだ。何がいいか迷ったのだが、やはり形に残らないものがいいだろうと無難に酒を用意した。前回の打ち上げのときもかなり飲んでいたしな。
「いえ、御口にあったようでよかったです」
トマスさんに用意していただいた酒だ。間違いないだろう。
「今日から迷宮探索再開か?」
「ええ、そのつもりです。」
「そうか。お前たちなら大丈夫だと思うが、無理はするなよ」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあな。また今度一緒に飲もう」
「ええ。それでは、お気をつけて」
カウンターにはいつものようにステラさんだ。ステラさんの顔色はさえない。
「おはようございます」
「おはようございます。どうかされたんですか?」
浮かない顔をしたステラさんが気になった。ソールさんと喧嘩でもしたのだろうか?
「いえ、実は隣国と小競り合いがあったようで……。戦争になる可能性も」
俺の言葉にステラさんは、小声で答えた。戦争か……。それは確かに浮かない顔にもなる。面倒な事にならないといいが。いや……こういう時には必ずといっていいほど面倒になる。
「その事で、レックスさん達にも依頼があるかもしれません」
ほらな。
「考えておきます」
戦争などそういった事には極力関わりたくはない。そんな事の為に、レベルを上げてきたわけじゃない。
ギルドを出て迷宮へと向かう。
「戦争が始まるね!」
シビルは戦争が始まるのを嬉しそうにしていた。
「一度だけ見に行った事があるんだよ!」
戦争の見物? 意味がわからない。
「トウエンリッダも相変わらずですね」
ここビュラン王国と接する、戦争になるかもしれないという国がトウエンリッダだそうだ。そういうエリナの顔も明るい。
「戦争になったら大勢が死ぬことになるんだろうね」
日本で生まれ育った俺とは価値観が違うということだろうか。
「え?」
シビルが立ち止った。
「そっかレックスは知らないのか」
何の事です?
「戦争っていっても、誰も死なないと思うよ?」
誰も死なない戦争?
「ノームと契約した賢者の魔法一撃で軍隊が壊滅したって話あったでしょ?」
確かにそんな話を聞いた覚えがある。
「その後、大規模戦争のやり方が変わったの」
確かに両軍でそんな魔法が使われれば被害はとてつもなく大きくなってしまう。誰一人生き残らないような状況も考えられる。
「それで今、戦争はどうやって行われるの?」
「代理戦争」
「代理戦争?」
「そ。国が用意した代表数名どうしの戦争……っていうか試合?」
なるほど。強力な一人の行動で戦局が決まってしまうのだ。それなら最初から一人でいいという事か。
シビルが戦争についてあれやこれやと話を聞かせてくれた。
どうやらごく一般的な市民にとっては、戦争といっても数年に一度の大規模なお祭りのようなものらしい。
その試合に俺が出るという事はなさそうだが、ギルドからの依頼とはなんなんだろう?




