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第二十話 告白

 ステータスをアストリッドさんに開示する。


 名前 : レックス

 年齢 : 15

 ジョブ : 探索者

 クラス : 剣士Lv15

 スキル : 万職の担い手Lv5、双剣術Lv19、気配察知Lv16、身躱しLv14、浄化Lv10、祈りLv10、闘気術Lv11

、マッピングLv10、基礎魔法Lv18、応用魔法Lv14


 そうして、アストリッドに万職の担い手について説明を行う。これで説明も三度目。手慣れたものだ。説明しながらも、頭の中では別の事を考えていた。レベルについてだ。


 大幅に上がっているのはマッピングスキル程度。他のスキルに関しては特筆すべき点はない。ほとんどのスキルはレベルが上がると上がりにくくなるのだが、マッピングスキルに関してはレベルが上がるほど上がりやすくなっているようだった。スキルレベルが上がりマッピングの効率が上がった。その為、経験値も多く入るようになったのだと思う。この調子で上がっていけば、マップを必要としなくなる日も、それほど遠くはないかもしれない。


 クラスに関してだが……、メインとする剣士のレベルが低い。迷宮を安全に進む為に必要とされるクラスレベルは、その階層と同じ数字だと言われている。今日、俺達は十七階層へと潜った。つまり剣士レベルが17は必要という事になる。俺以外の二人のレベルだが、エリナは騎士Lv17、シビルは魔術師Lv18と、適正レベル。俺だけが低いのは、クラスを頻繁に変更している為だ。


 普通の探索者は一つの階層に数週間から数ヶ月はかけるというから、二日程度で次の階層へと進みながら、このレベルというのは充分といってもいいのだが、やはり低いものは低い。もちろん斬石などスキルに表れない技術、闘気術という強力なスキルによって余裕はある。余裕はあるのだが、レベルが低いという事は、それだけハイクラス、複合クラスが遠のくという事だ。地道なレベリングは嫌いではないのだが、極端にいえばゴブリンでLv99にする気にはならない。どこかで、どうにかしなければならない。


 そんな事を考えている間も説明を続け、全て――俺が異世界からやってきたという事以外は、説明を終える。


「そういう事……」


 俺の説明にアストリッドは何か納得したようだった。とりあえずは、これで全員のステータスを開示し終えた事になる。後、何か話しておく事はあるかな……? クラスとは関係のない闘気術スキルについては説明が必要か。



 闘気術について説明を終え、後はお互いに気になった事を話し合う。斬石についてや、クラスについて。アストリッドの“エルブンヴォルヴァ”という見慣れないクラスだが、見慣れなくて当然だった。そのクラスはアストリッド固有のクラスなのだという。その時代に世界に一人だけ現れるそうだ。エルブンヴォルバというクラスに就いているのはアストリッド一人……。複合クラスよりすごいんじゃないだろうか。


「話すのは……ずっと先になるかと思っていた……」


 名前 : アストリッド・フランドル

 年齢 : 47

 ジョブ : 探索者

 クラス : エルヴンヴォルヴァLv18

 スキル : 神託、弓術Lv18、基礎魔法Lv20、応用魔法Lv18、剣術Lv10、気配察知Lv8、気配消失Lv11、身躱しLv9


 アストリッドは俺達に再びステータスを見せる。神託……? そこには、先程見た時にはなかったスキルが表示されていた。スキル欄に表示していなかったようだ。レベル表記は……ない。


「これは……ヴォルヴァに生まれついた者に与えられるスキル。神託を受けてガザリムに来た……」


 俺の万職の担い手の説明を聞き、納得したのはこの事だったらしい。ギフテッド――つまりは俺だが――に会うために、ガザリムにやってきたのだと思ったのだそうだ。


「神託というのは、それほど具体的ではない?」


 アストリッドが頷く。ガザリムに行くようにというだけで、そこで何をするかなど詳細には語られないらしい。俺に会うためというのもアストリッドがそう解釈しただけで、実際は違う可能性もあるという事だ。


 そもそも俺は、この世界にいればいいだけで特に何かしろと言われてきたわけではない。むしろ何かするべきではない。アストリッドの勘違いという可能性のほうが大きい気がする。説明すべきだろうか? 何かを期待されても困る。説明すべきだよな……。いや……だが……やはり話すというのは勇気がいる……。


 ギフトスキルがある以上、俺の妄想などと思われる事はないだろう。エリナとシビルについては、荒唐無稽であっても、俺の発言を信用してもらえるくらいの関係は築けているはずだ。ずっと、どこかに秘密がある事については心苦しい部分もあった。話さなくてもいいのでは? とも思い始めていたが……、これもいい機会だろう。


「エリナとシビルにも言っていなかった事が、まだあるんだけど……」


 俺の真剣な態度を感じ取ったのか、三人は黙って俺の言葉を待っている。が、いざとなって、なかなか告白する勇気を持てずにいた。……。大きく息を吸う。


「俺は元々この世界の人間じゃないんだ」


 一息で言葉を吐ききる。三人は言葉の続きを待つように黙ったままだ。ただ俺の言葉になんと言っていいのかわからなかっただけかもしれない。が、笑いだされなかっただけ、ましだと思おう。何も上位世界が云々、世界の安定が云々などと話す必要はない。神のような存在に、世界に影響を与えないという条件でこの世界に送られた程度にかいつまんで話をする。


 俺の話が終わるまで誰も一言もしゃべらなかった。むしろ語り終えた今も、誰も言葉を発しようとはしない。何かリアクションがほしいんだが……。この沈黙が怖い。


「……知ってる」


 アストリッドがぽつりと一言。え? そうなの? 俺の一大決心とは……。


「それも神託?」


 首を横に振るアストリッド。


「違う……。ギフテッドの多くが異界からの来訪者だと……エルフには伝わっている」


 そんな事が……。エルフは寿命も長い。勇者がはっちゃけていた時代に生きていたエルフが、まだ生きている可能性もある。勇者なら別世界から来た事など、気にもせず話していそうだし。まあ、それなら問題はエリナとシビルか。アストリッドの発言で俺の言葉も信憑性を増しただろう。


「つまり……ギフテッドの方々は皆レックスと同じように、別の世界から来られた方々という事ですか?」


 全てのギフテッドがそうかはわからないがと前置きした上で、


「勇者についてはそうだろうと思う」


 と告げる。エリナは考え込んだようで再び黙り込んだ。シビルは……とシビルに目を向けるとこちらも何やら難しい顔をしていた。


「……レックスがもともといた世界ってどんな所?」


 魔物などが居ない事や、スキルや魔法がない事。その為かはわからないが、この世界よりも科学技術が発展している事などを、シビルに説明していく。難しい表情もすぐに消え、ニコニコと興味深そうに聞いていたシビルだったが、話が進むにつれ徐々にその表情を再び曇らせていった。


「それで……レックスはその世界に帰っちゃうの?」


「帰らないよ」


 俺の言葉にも、シビルは納得していない様子を見せる。


「でも話を聞く限り、そのニホンって所のほうが住みやすそうだよ?」


 どうなんだろう……。


「確かに便利だし、命の危機を感じることもなかったかな……」


 それでも……。


「それでも……、俺はこの世界の方が好きだから。シビルやエリナがいるこの世界が」


 勢いで思わず……。こんな……告白のような言葉、恥ずかしい。


「トマスさんやソールさん、シグムンドさん。もちろん、アストリッドがいるこの世界がね」


 慌ててつけ加える。


「それに帰り方もわからないし。もちろん帰れるとしても帰らないよ」


「そっかそっか」


 そこまで聞き、シビルはやっと安心したようで、にやにやと変な笑みを浮かべた。


「そうかー。好きなんだね! 私! の! いるこの世界が!」


 ……。


「私もいます!」


 とエリナも意味ありげな微笑みを……。…………。


「……私も」


 アストリッドまで、何故か乗っかってきた。こちらは真顔だ。その真剣な顔に思わず吹き出してしまった。アストリッドさんでも冗談を言うんだな。いつの間にか場は和やかな雰囲気となっていた。とりあえずよかった……。


 その後も、シビルは日本について色々と聞きたがった。それに応え、色々と日本について話した。話せば話すほど、話すことがいくらでも出てきた。居た時には感じなかったが、きっとあの世界も面白かったのだ。あの世界について話すのはただ単純に楽しかった。それは旅行先の思い出話を語っているようなもので、郷愁のようなものは浮かんではこなかった。帰りたいなどとも、やはり思わない。たぶん、俺はもうこの世界の人間になってしまったのだろう。


 話している間に、食事も完全に終え、控えようと思っていたエルフの酒も何杯も飲んでしまっていた。そのせいで、楽しく愉快な気持ちになっていた。



「そういえば、アストリッドは宿どうされますか? ご存じの通り、私たちは同じ宿をとっているのですが……」


 明日の事もあり、そろそろお開きにしようという雰囲気となっていた。エリナがアストリッドに尋ねる。


「一緒の宿でいいよね! それがいいよ!」


「うん。それでいいと思うよ」


 シビルも俺も、もう楽しくただパーティメンバーが増えた事が嬉しくて仕方がないといった感じだった。他人事のように思っているのは、どこか頭の中に冷静な酔った自分を見つめる俺がいたからだ。


「……同じ部屋?」


 アストリッドさんそれはもういいですよ……。


「もう同じ部屋でいいんじゃないかな?」


「うん。それでいいと思うよ」


「それはさすがに……」


 エリナは比較的まともだったが、シビルと俺の二人は結構やばい。酔っている、まずい、という自覚はあるのだが、それを止めることができない。頭の芯まで酔っていれば、こんな事を思う必要もないのだが、ただただやめておけと思う。明日後悔する事になるのは目に見えていた。


「同じ宿に泊まる……。部屋はそのうち……考えておく……」


 これは、アストリッドも酔っているのだろうか? 酔っているのか素なのか、まだよくわからなかった。



 エルフの店を出て、四人揃って宿へと帰る。昨日と同じように手をつないで。四人横一列に手をつなぎ歩く。右からアストリッド、エリナ、俺、シビル。


「今まで泊まっていた宿から荷物とか持ってこなくていいの?」


 酔ってはいるが、気になるものは気になる。


「あの店の二階に泊まってたから、もう持ってきた」


 そうなのか。ならいいか。ああ……。


「今から行って部屋空いているかな?」


 部屋がないとなると困ったことになるな。


「それこそ同じ部屋に泊まればいいと思いますよ」


「……それでいい」


 なるほど。じゃあそれでいいか。

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