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第八話 魔素酔い

 ここ数日ひたすら十四階層に籠っていた。その成果は着実に表れている。


 名前 : レックス

 年齢 : 15

 ジョブ : 探索者

 クラス : 魔術師Lv9

 スキル : 万職の担い手Lv5、双剣術Lv18、気配察知Lv15、身躱しLv13、浄化Lv10、祈りLv8、闘気術Lv9

、マッピングLv6、基礎魔法Lv17、応用魔法Lv12


 魔術師は9に、基礎魔法は17、応用魔法が12、そしてマッピングは6にそれぞれレベルが上がっている。サーベイヤのレベルも13になっていた。迷宮探索の成果ではないが、日課となった神への感謝によって祈りスキルも8に上がっている。正直、祈りスキルに関してはこんなに簡単に上がっていいのだろうか? という思いが強い。毎日神に感謝を述べているのだが、神への感謝といっても「今日も無事に帰ってこられました。ありがとうございます。明日も無事に帰ってこられますように」程度のものだからだ。それも、実際に思っているかといえばそうでもない。


 本当に感謝すべきなのは、エリナとシビルにだろう。二人……だけではないか。これまで出会った人々にも。……そういった人々と出会わせてくれた『モノ』には感謝してもいいのかもしれない。それが神だというのならば、本心から神に感謝してもいい。


 レベルに関してだが、俺の魔法スキルのレベリングを止め、エリナの基礎魔法レベルと合わせてみた。エリナが追いつくまでの間はサーベイヤのレベルを上げていた。その上で、補正がないであろうクラスで威力を比較してみたのだが、変わらなかった。まったく同じというわけではないが、シビルと比べれば同じといっていいほどの差しか見られなかったのだ。結局、どういうことなのかわからない。何か思いついたら、また試してみることにして、レベリングに戻った。いつまでも魔法スキルのレベルを上げないというわけにもいかない。


 ともかく、そういったスキルは上がっていたが、近接系スキルなどがいっさい上がっていない。クラスを変更していないシビルも、ほとんどレベルが上がっていないと言っていた。このあたりでメインクラス、メインスキルを上げるのは相当籠りつづけなければいけないようだ。ギルドランク4認定試験の規定クエスト回数はもうすでにクリアしているし、そろそろ十六階層以降へと進んでもいいかもしれない。もちろん試験に受かればだが。



 今日は二人で十四階層を探索している。俺とエリナだけだ。シビル不在の理由は……十四階層で停滞する事に耐えられなくなり、パーティを抜けギルドランク3のパーティに入ることになった……などという劇的な理由などではない。ただランク試験の試験官役が回ってきただけだ。受験者も魔法使いらしい。とりあえず、シビルには「やりすぎるな」と言っておいたが、不安がないわけではない……。


 初めは休日にしようと思っていたのだが、結局は二人で十四階層を探索することになった。現状、レベルの上がらないシビルを、俺とエリナのレベル上げに付き合わせている形になっている。納得はしてくれたが、少しでも早く先に進みたいという思いは変わらないだろう。そんなシビルの為、一日でも早く十六階層へ進めるようにと、二人で相談して探索することを決めた。


 あれから、エリナにはオンジェイの力を使わないようにと言っていた。明らかに過剰火力だったからな。だが、今日は別だ。決定打となるシビルの魔法がなかった。


「今日はオンジェイの力も使っていいから」


 そう声をかけると、エリナが嬉しそうに頷いた後、自分の肩へと目をやる。エリナの肩に腰かけたオンジェイは笑顔で力強く頷いた。


「ああ、もちろん全力はやめて……」


 十四階層のマップはここ数日でほぼ完成していた。これまでと同じように、十四階層はほぼ正方形をしているようだった。予想外の通路などがなければ、今日中に完成するだろう。


 マッピングスキルは、目視だけで五十メートルは正確に距離を測ることができるようになり、随分と使い勝手がよくなっている。だが、それをマップに落とし込む段階で誤差が出ているようだ。その誤差も小さくなりつつある。ごく普通に歩く程度の速度ならば、問題なくマッピングを行いながら進める。これからは先の事を考え、頭の中にマップを構成していく必要があるだろうと考えている。


 オークとの戦闘はもはや作業となっていた。距離を取り、エリナ、俺、シビルの順に魔法を撃ち、倒れたオークから牙を回収するという流れだ。これが崩れたことはない。今日はシビルがいないが、オンジェイの力を使えばほぼ同じ流れになるだろう。



 残り少なくなったマップ空白部分を目指し進んでいく。エリナが俺に視線をくれる。オークが十一体。頷き、少しペースを上げる。部屋から少し離れた場所に着くとエリナが詠唱を始める。やはりすごいな。エリナの元へ、大量の魔素が集まっていくのがわかる。見ている場合ではないか。詠唱を開始する。


 詠唱は完了するが、オークとの距離がいつもより若干だが遠い。エリナがオンジェイの力を使う為、普段より魔法の発動に時間がかかる。その事を考慮し、距離を長めに取ったのが裏目に出た。


 もう少し……。体内では行き場を失った魔素が渦巻いている。それに伴う魔素を取り込んだとき特有の高揚感。徐々にそれは快感へと変わっていく。長時間、大量の魔素を体内に留めておくと精神が狂うとシビルは言っていた。だが、これは……。


 魔素を体内に留めている時間が長くなるにつれ、快感も大きくなっていく。いつまでも魔素に浸っていたいという気分も大きくなっていく。


「レックス!」


 エリナの言葉に我に返った。オークはすでに目の前にまで来ていた。


『ファイアブラスト!』


 魔素が抜けていく……。……それは俺に喪失感を与えた。


『ストーンブラスト!』


 エリナから弾ける様にいくつもの石がオークへと飛ぶ。それはオークの体にいくつもの穴を開けていく。貫通した石は、勢いを弱めることなく後ろのオークにも風穴を開ける。石はそのままの勢いで壁にぶつかると粉々になって消えていった。


 契約の力というものはすごいものだ。地属性魔法に限定されるが、シビルよりも圧倒的にスキルレベルの低いエリナでも、シビル並みの魔法を生み出すことができる。もちろんそれは威力や範囲といった部分だけで、緻密な制御という点ではシビルが圧倒的に上ではある。だが、オークならば牙が無傷であればいい。それほど繊細な制御は必要としない。


「おつかれ。さっきはごめん……」


 オークの気配が消えたのを確認し、エリナに話しかける。


「おつかれさまです。大丈夫ですか?」


「大丈夫。少し魔素に酔っただけだから」


 問題は体内に留めておく時間だ。もう少し距離を近付ければ問題はない。だが、あの程度の時間ならば、シビルはごく普通に魔素を体内に留めている。なにかコツのようなものがあるのだろうか? シビルがそういった欲求に耐性を持っているという可能性もあるが……。俺は欲求というものに弱い人間だ。そうでなければ、あんな頻繁に娼館になど通っていないだろう。……迷宮から帰ったらシビルに相談してみよう。


「それならいいのですが……。今日はもう帰りますか?」


「いや。先へ進もう」


 倒れたオークの死体を踏み越え、先の通路へと……。


「あの、牙を回収しないと……」


 そうだ……。頭から抜けてしまっていた。調子が悪い。まだ魔素に中てられているようだ。さすがに今日は使うべきではないか。


「今日はもう魔法は使わないから」


 エリナに伝える。


「それでしたら、試してみたい魔法があるので、付き合ってください」


 頷き、オークの牙の回収に入る。



 空白部分は想定外の通路などもなく、簡単に埋まった。マップでは広く開いていたが、その大部分を一つの部屋が占めていた。気配からわかっていたのだが、大部屋ということもありオークの数は多い。普段の三倍程度、三十二体もいた。


「どうする?」


 さすがにこの数はつらいだろう。俺も魔法は使わないと決めている。オンジェイの力を使ってあの巨石をぶつけるという手もあるが……。


「ちょうどいい感じです! 私が部屋に先に入ります。オークの標的が全て私に向いたら、レックスも来てください」


 この数のオークを全てひきつける気か……。不安だが、エリナの顔は自信で満ち溢れている。ここはエリナを信じよう。最悪、闘気術を使えばどうとでもなる。


「わかった」


 俺の言葉に、エリナが詠唱を始める。


『世界に遍く可能性という名の種子よ。我が前に集いて花と成れ。其は硬貨。其は虎。其は地也』


 ごく普通の地属性魔法だが……。と、エリナがそこでオークが多数いる部屋に向かい走りこむ。


『ストーンヘンジ!』


 エリナの魔法が発動し、五つの石の塊が現れた。直径十センチ、高さ三十センチの円柱状の石だ。普段、魔法によって現れる石というのは道端に転がっていてもおかしくないようなものだが、それは装飾などは見られないものの、明らかに人の手が入ったような整った石柱だった。その石柱はオークへと向かうような事もなく、エリナを中心に守るようにして周囲を旋回している。石柱は、エリナを目指し進んできていたオークを叩き飛ばす。石柱が叩いたというよりは、石柱にオークが突っ込んだといった感じだった。


 エリナは部屋の中心まで行き立ち止った。周囲のオークがエリナへと殺到する。数匹のオークがエリナには向かわず、俺へと向かってくる。その数は三体とごくわずか。エリナを目指し走りながらオークへと剣を突き刺していく。魔法よりも剣のほうがしっくりくるな。剣のみで戦っていた期間が圧倒的に長い。当然といえば当然か。反応に鈍さを感じるが、それはクラスがサーベイヤのままだからだろう。ここ数日剣を使っていないからというわけではないだろう。レベルが上がっても、やはり戦闘職と比べれば身体能力への補正などは低いようだ。


 エリナは棒立ちで盾を構えてすらいない。そうであるというのに、オークから一切ダメージを受けていない。四方八方から振り下ろされる斧を全て、あの石柱が防いでいるのだ。


 エリナを攻撃するのに必死なオーク達の無防備な首を切り落とす。そこでやっとエリナも動きを見せた。高速で飛び回る石柱の隙間から剣を突出しオークを倒していく。突き主体の細剣を使うエリナと相性がいい。さすがにあの飛び回る石柱の中、俺のように剣を振り回すのは不可能だろう。……と、エリナが剣を振りオークの首を斬り落とした。……。どうやらエリナの動きに合わせ、石柱が隙間を作ったようだ。便利だな……。



 その後もエリナと共に剣を振り続けオークを倒し続けた。床にはオークの大量の残骸。牙を回収するのだけで一苦労だな。


「おつかれ」


 倒し終え、エリナが膝を突いた。


「おつかれ……さまです……」


 そう言うエリナの顔色は悪い。汗も大量に吹き出し息も絶え絶えだ。


「オンジェイの力があっても、この魔法は魔素を大量に消費するようです……。いざというときにしかつかえそうにありませんね……」


 圧倒的な防御力だったが……。魔素の枯渇による疲労が現れている。さすがに闘気術ほどの疲労ではないようだが……。


「休んでいて」


 この状態で動くのは難しいだろう。俺一人でオークの牙を回収していく。だが、回収が終わる前にオークの死体が迷宮へと吸収され始めた。ここまでか。残ったオークの死体から牙を手早く回収していく。


「帰ろう」


 何本か無駄になったが、ほぼ全ての牙を回収することができた。俺の言葉にエリナがフラグメントを取り出す。



 迷宮の外へと転移したものの、エリナはまだ満足に歩けそうにない。ふらふらとあぶなっかしい足取りをしている。


「肩を貸すよ」


「いえ、そんな……」


 遠慮するエリナの手を無理やり肩に回す。


「……ありがとうございます」


 その声は消え入りそうな、か細い声だった。顔が赤い。エリナは照れているようだった。こっちまで恥ずかしくなるからやめて欲しい……。

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