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第二十三話 ノームの宴会

 俺達が闘気術の反動に耐えている間に、ノーム達は嬉々として宴会の準備を始めていた。体長二十センチ程度の数百のノームがちょこまかと動く。どこから持ってきたのか広間には、俺達ですら食いきれない、飲みきれないほどの大量の食べ物と飲み物。闘気術の反動が抜ける頃にはあらかた準備は終わっていた。エリナとシビルは、にこにことその準備の様子を見ている。


 一体のノームが俺達の方へと来る。あの帽子の先を折り、髭を三つ編みにしたノームだ。


「なになに?」


 シビルは座った姿勢から、さらに体を折りノームに視線を合わせる。そのノームに土下座をするような体勢に少し笑ってしまった。エリナはシビルの体勢を羨ましそうに眺めている。金属鎧を着こんだエリナには無理な体勢だ。


 ノームの手元に魔素が集まっていく。どうやら何か魔法を使っているようだ。何をするのだろうか? その様子をシビルも興味深げに眺めている。


 ノームの手に現れたのは、大きな鈍色に輝く金属の器だった。ノームはその器をシビルへと恭しく差し出す。


「ご丁寧にどうも」


 シビルもまた丁寧に両手で受け取った。するとノームは次にエリナへと近づき、同じように器を作り差し出す。


「ありがとうございます」


 エリナは体を折り曲げられないと、腹ばいに寝ころんだ体勢で器を受け取る。視線を合わせようと必死なのだとは思うが、それは逆に失礼じゃないか? ノームは気にした様子もなく、俺のもとへとやって来ると器を渡してくれる。


「ありがとう」


 言葉は通じなくても感謝は伝わったようで、ノームは笑みを浮かべながら小さく頷いた。その後何体ものノームが小さな瓶から飲み物を俺達の器へと注いでくれる。匂いから酒だとわかった。ノーム達にとっては大きなその器になみなみと注がれた酒。ノーム達何体分だろうか? 少し申し訳ない気分になった。


 それで準備は整ったようだ。一体のノームが進み出る。その髭はとても長くモップのように床を引きずっていた。ノーム達の長老か指導者といったところか。その長老ノームは俺達の方を向き何か喋り始めた。もちろん俺達には何を言っているのかはわからない。そのノームが手にもった杯を高々と掲げた。他のノーム達も俺達を向き同じように杯を掲げる。俺達への感謝なのだろう。


「カンパイ」


 長老と思しきノームの一言で宴会が始まった。今、確かに乾杯と聞こえた気がしたが……。同じ世界だ。発音が似通った言葉があっても不思議ではない。


 俺達の所にはひっきりなしにノーム達が頭を下げに来てくれる。中には小さな、髭も生えていないようなノーム達もいた。子供なのだろう。その子供達の多くは引っ込み思案なのか、それとも大きな俺達が怖いのか親の陰に隠れ少し頭を下げるだけだった。だが、中には好奇心旺盛な子ノームもいて、エリナの体をよじ登ると長い髪をひっぱったりぶら下がったりとおもちゃにしていた。エリナは嬉しそうに受け入れていたが、親が叱りつけ子供に頭を下げさせ、自身も平謝りだった。こんなところは人間もノームも変わらないのだな、と笑った。後でエリナは、あの子は十一階層で出会ったノームですよと教えてくれたが、俺には髭の有無と帽子の色くらいでしかノームの区別はついておらず、本当にあのノームだったのかわからなかった。


 大きなノームは皆、例外なく髭が生えていた。女性のノームにも髭が生えるのか、男女の区別がないのか。言葉が通じない俺にはそれもわからない。


 そうして挨拶がひと段落して、やっと酒に口をつけることができた。その酒は今までに飲んだどんな酒よりもアルコールが強く、喉が焼けつくようだった。まわりのノーム達は水のようにがぶがぶと飲んでいる。ノーム達は酒に強いようだ。


 ……それにしてもこの器は何でできているのだろうか? ずっと手に持っているというのに酒はぬるくならず、冷たさを保っている。指で器を弾いてみる。金属だとは思うが……。軽く、そして硬い。これで防具を作れば、夏は涼しく快適そうだ。問題は言葉が通じず材質を聞くことができないということだ。


 そんなことを考えている間に、ノーム達は踊り始めていた。いつの間にか金属製(?)の打楽器のようなものを持ち出している。その踊りはばらばらでノーム達は好き勝手に体を動かしていた。聴き慣れない音楽で、小さなノーム達が踊り騒ぐ様子はまるで異世界だった。……異世界なのは当然だな。ここは俺にとって異世界なんだ。いつの間にかスキルやダンジョンのあるこの世界に随分と馴染んでいたようだ……。当たり前のように。


 そんなことを考えながら、強い酒はちびちびと飲む。そのうち、俺達の足を引くノーム達が現れた。どうやら俺達を踊りに誘っているようだった。俺は断ったが、エリナとシビルはすぐに立ち上がり、踊りの輪へと加わる。聴き慣れないリズムの音楽に、二人の踊りはお世辞にも上手いとはいえないものだったが、楽しそうにしている。しだいにエリナとシビルのまわりにノーム達が集まり、周囲を飛びながら踊る。足元でくるくると回るノーム達を踏まないようにエリナとシビルは気を付けながら踊っている。愉快な光景だった


 幻想的な光景を肴に酒を飲んでいると、長老ノームがこちらへとやって来るのが見えた。後ろには先ほど器を作ってくれた三つ編みのノームがいる。


「フライングアイをタオしていただき、このタビはまことにありがとうございました」


 長老ノームと三つ編みノームが俺に対して深々と頭を下げる。フライングアイというのはあの空飛ぶ眼球の事だろう。そのままだな……。……ん? イントネーションが少しおかしかったが、間違いなく聞こえたのは日本語だった。


「私達の言葉を話せるのですか?」


「ええ。イゼン、アナタタチのようなヒトにツいてタビをしたことがあります。そのトキにオボえたものです」


 人間と共に旅を……。それは……、


「賢者に力を貸し敵軍を一掃したというのは貴方ですか?」


「いえ。それはヤナですな。あそこでオドっているモノです」


 長老はシビルの足元を指さした。シビルのローブの中で踊っているノームがいる。ローブに隠れ足しか見えないが、あのノームのことだろう。それにしてもあのノーム……できる! 間違いなくシビルのパンツが見えている! 羨ましい。


「ワタシがツいていったのはユウキというカタでした。もうスウヒャクネンはマエになりますが……あのカタはとてもユカイなカタでした」


 長老に目を戻すと遠い目をしていた。ユウキ……。日本人名だが……。この世界にも東の方に日本のような国があるというが……。


「その方はギフテッドではありませんでしたか?」


「ええ、そうです。ケンジュツLv2800とかいうとんでもないスキルをモっていましたね」


 英雄じゃないか!


「それはノームにいきなり襲いかかったという……?」


「よくごゾンじですな。そのオソいかかられたノームがワタシです」


 すごいな。俺は今、伝説の一ページに直に触れている……。それにしても……よく自分に斬りつけてきた人間に付いて行ったな。


「あのカタはナニもカンガえずに、コウドウをオこすカタでしたから」


 長老は愉快そうに笑った。英雄は思慮深い慎重なほうではなく、ただの考えなしのほうだったか……。


「ですが、それがワルいホウコウへハタラいたことがない。あれはイマだにフシギですな……」


 首をかしげている。


「エリナ!」


 こんな面白い話を俺だけで聞くわけにはいかない。英雄に幻滅することもあるかもしれないが、エリナに聞かせてあげたかった。俺の声にエリナがこちらへとやって来る。何事かとシビルも付いて来た。大勢のノームを引き連れて。踊りを中断させて悪いことをした……。


「この方が英雄について詳しい。話を聞かせてもらおう」


 エリナは喜び勇んで走ってくると、すぐに腹ばいの体勢になり長老に顔を近付けた。


「本当ですか!? 英雄とはどんな方だったのでしょう?」


 さすがに顔が近すぎないだろうか? 羨ましい。


「カノジョにズイブンとキョウミがおわりのようですね。わかりました。ではおハナシしましょう」


「英雄は女性だったのですか!?」


 確かに長老は英雄を彼女と呼んでいた。シビルが驚いた顔をしている。長老が日本語を話しているからだろう。エリナは英雄の話に夢中で長老が日本語を話しているというのに気にも留めない。


「ええ。ノームのワタシからミても、とてもキレイなカタでしたよ。イいヨるモノもたえませんでした。それにうんざりとして、いつからかダンソウするようになりました。それはそれで、ベツのシュミのカタからイいヨられるようになりましたがね」


 その後、長老は英雄のエピソードを語ってくれた。街を襲う龍を倒したときの話や、悪徳領主を退治したときの話……。そのどちらも英雄の考えなしの行動だった。龍は魔物から街を守っていただけだったし、悪徳領主の話もその領地を狙う隣の領主が流した悪い噂で、本当はまっとうな領主だった。だが、そのどちらも英雄の行動が裏目にでることはなかった。龍は自らを倒した英雄を認め剣を授けた。悪徳領主はまっとうな領主と思われたが、実際は魔王の手先だった。


「カノジョはホントウに、カミにアイされていたとしかオモえない……」


 長老はそんな言葉で話を締めくくった。……英雄の豪運が怖い。だが、英雄を英雄たらしめていたのは、高レベルの剣術ではなくその運によるものだったのだろう。


「ホンダイなのですが、アナタタチにおネガいがあってマイりました」


 長老は居住まいを正した。英雄の話をするために来たのではないと思っていたが、何だろうか?


「オンジェイ!」


 長老の横に髭を三つ編みにしたあのノームが進み出た。オンジェイとは彼の名前だろうか?


「カレはオンジェイといいます。ワタシやヤナのハナシをキき、ソトのセカイにツヨくアコガれをモっています。カレをツれてイってはモラえないでしょうか?」


 このノームが長老に付き従い、俺達のところへやってきたのはそういった理由からか。だが、俺達は英雄や賢者とは違う……。


「俺達はこの迷宮を探索するだけで、外の世界を見せられるような旅をしているわけでもありません。それでもかまわないのですか?」


 長老が俺の言葉をオンジェイさんに訳してくれる。オンジェイさんは頷き、長老へと言葉を返す。


「それでもかまわないのでゼヒ、ツれてイってほしいと……」


 オンジェイさんは深々と頭を下げる。二人に相談……するまでもないか……。結果はわかりきっている。だが、一応は聞いておこうとエリナとシビルを見る。その目は期待と嬉しさで溢れている。はい。


「わかりました。これからよろしくお願いします」


 隣で黄色い歓声があがる。オンジェイさんに指を差し出す。俺の人差し指を握るとオンジェイさんは、再び深々と頭を下げた。


「ヨロシクオネガイシマス」


 長老ほどではないが、オンジェイさんも日本語を喋れるようだ。


「カレはスコししかシャベることはできませんが、ノームはフカくつながりをモったものとはイシをツタえあうことがカノウです。それほどコミュニケーションにシショウはないはずです」


 なるほど。エリナがノームと意志疎通が取れていたのも、それが関係しているのかもしれない。


「よろしく!」


「これからよろしくお願いします!」


 オンジェイさんに手を差し出すエリナとシビル。こうして新しい仲間を迎え、宴会は再開する。

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