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第二話 大禍日

 トマスさんが気を利かせてくれたようで、宴にはアランさん、ステラさんに加えシビルさんも呼んでくれていた。王太子妃となるエレアノールさんの事は話せなかったが、王都で起こった事を掻い摘んで話したりした。俺が晩餐会の会場で暗殺者と対峙したときの話などは大いに盛り上がった。喜んでいただけたようでなによりだ。俺の赤い防具の話にもなった。皆似合っていると言ってくれたが、その目は笑っていた。次からはもっと無難なおとなしい色にしよう。


 宴は夜遅くまで続き、全員トマスさんの家に泊まることになった。女性達が寝静まった頃に、男四人で娼館へと出向いた。アランさんは何度も断ったそうだが、最終的には折れた。妻に悪いと言いながらも、その顔が綻んでいたことを俺は忘れない。


 人間、獣人ときていたので、今回はハーフリングの方にお相手していただいた。いろいろ試してみないと……。身長は百二十センチ程度。体つきにも凹凸があまりなく、人間の幼い少女にしか見えなかった。そういうのが好きな人には堪らないのだろうが、俺には合わなかった。罪悪感が大きく後悔に苛まれた。後悔という言葉からわかる通り、もちろんやることはやった。サービスも申し分なかった。だが、やはり俺は大人な女性が合っている。いい経験にはなったが。


 女性達が起きる前に帰ろうということで、今回は長居せず早々に帰る。男四人で馬車に乗り、娼館での出来事について話す。下品だと思わないでもないが、これが楽しかった。トマスさんは二人同時にお相手してもらったという。さすがはトマスさん!


 ソールさんはあまり具体的な事を話さなかったが、外見的な特長を聞いた限りどうやらステラさんに似た女性を選んだようだった。別にそれならわざわざ娼館などにいかなくてもいいのでは? と思ったが口には出さなかった。


 アランさんは大人しい感じの女性を選んだらしい。初々しく可愛かったとアランさんは照れながらそう言った。娼館で初々しいもなにも演技だと思うのだが、アランさんも喜んでいたしそれも口には出さない。アランさんが娼館に嵌り身を滅ぼさない事を祈るばかりだ。



 そんな馬鹿話をしながらトマスさんの家へ戻った。皆顔が綻んでいたが、その笑顔も扉を開けるまでだった。


 扉を開けるとそこには、女性四人が立っていたのだ。トマスさんの奥さんとステラさんの笑顔が怖い。トマスさんは奥さんに、ソールさんはステラさんに連れて行かれた。ご愁傷様です。


 残されたのはエリナ、シビルさん、アランさん、俺の四人。シビルさんの俺とアランさんを見る目は、汚らしい物を見るような目だった。


「お楽しみだったようですね。お疲れでしょう」


 他の女性達の反応から娼館に出向いた事はエリナも知っていると思うのだが、ごくごく普通の態度だった。貴族だからかもしれない。大貴族ともなれば正妻一人ということはないだろう。バシュラードさんも外に妾などいるのかもしれない。男とはそういう生き物だと理解しているのか……。もしくは呆れを通り越した上での無表情か……。シビルさんは未だ無言だ。


「私達はお先にこれで失礼しますね。ではまた」


 エリナが出て行き、それを追う様にしてシビルさんも扉を出る。



「シビルさん最後まで無言でしたね……」


 呆然と立ち尽くしていた俺達だったが、先に再起動したのはアランさんだった。


「ええ……。とりあえず寝ましょうか……」


「そうしましょう……」


 俺の提案にアランさんも頷いた。



 正午に間に合うようにトマスさんの家を出る。その際トマスさんとソールさんに会ったが、げっそりとしていた。それでいてなぜか爽やかなすっきりとした顔で、素直にいってしまえば気持ちが悪かった。なにか得体の知れない生き物のようだったのだ。



 ギルドの受付ではステラさんが、もうすでに仕事をしていた。あのようなことがあったというのに、こちらも爽やかな表情だ。


「……試験官についての詳細をお聞きしたいのですが?」


 びくびくしながら、変な話題にならないように一言目から用件をきりだしてみた。


「はい。それでは説明させていただきますね」


 ステラさんは俺を見ても爽やかな笑顔だった。不気味だ。


「試験は明日の朝から行なわれますので、それまでにギルドにお越しください。試験官の注意事項ですが……」


 必要なことについて説明してくれる。特に言葉に棘などは感じない。もう怒ってはいないようだ。そもそもソールさんに問題があったわけで、俺は関係ない。俺がびくびくする必要もなかったわけだ。


「聞いていますか?」


 試験の目的は六階層へ降りても問題ないかどうか実力を見るということだ。直接、判断するのは立会いのギルド職員だが、その判断材料のためにある程度の時間戦ってほしいということだった。くれぐれも全力で戦わないようにと念を押された。俺の時の試験官は全力だったように思うが……。後は試験官料の話だった。銀貨二十枚らしい。少ないが時間もそれほど取られないし、こんなものなのだろう。クエスト回数も加算されるという。


「大丈夫です」


「それでは以上になります。明日はよろしくお願いします。それと、今日は大禍日ですので特定階層には注意してくださいね」


 ああ、今日か。そういえばもうそんな時期だったか。


「わかりました。それでは失礼します」


「はいそれでは。……あまり……ソールを変な所に連れて行かないでくださいね?」


 最後に釘を刺された。ステラさんは先程までと同じように笑顔だが、どこか怖い。そういう事はトマスさんに言ってくれ……。


「はい。すいません……」


 だが、口からでたのはそれだけだった。無事に何事もなく乗り切ったと思ったのだが……。



 気を取り直してダンジョンへ向かう。目指すは一階層だ。まだ五階層は早いだろう。ダンジョン前にいた兵士はピーターさんではなかった。ピーターさんにも帰還の挨拶をしたかったのだが……。


 兵士にギルドカードを見せダンジョン内へと入った。一階層は問題ないはずだが久々だ。慎重に行こう。


 気配を探りながらゴブリンを探す。大禍日ということもあってか、他の探索者の気配などは感じ取れない。いや、大禍日でなくとも一階層はあまり人がいなかったか。


 ちょうどいい。小部屋へ向かう途中にゴブリンがいる。とりあえずは一匹から試すことにしよう。ゴブリンが見えたところで、二本の剣を抜き両手に構える。


 音を立て、ゴブリンにこちらの存在を気付かせる。いつもと同じようにゴブリンは棍棒を振り上げ近づいてきた。遅いな。暗殺者の速度が速かったせいか、ゴブリンのその速度はとても遅く感じられた。ゆっくりと近づいて来ると、棍棒を振り下ろしてくる。左手の剣で受け止め、右手の剣で胸を突き刺す。


 これはもっと下の階層にいかなければならないか。ゴブリンが弱すぎて、双剣を上手く使えているのかどうかわからなかった。それはまあ明日以降にしよう。大物を探す為に小部屋を回る。クラスを商人に変更する。もう一度ゴブリンと戦ってみたいところだ。



 三つ目の小部屋でゴブリンリーダが見つかった。ここに来るまでに二度ほどゴブリンと戦っていたが、商人でも問題はなかった。


 ゴブリンリーダは通常のゴブリンよりは大きく、ジェネラルよりは小さい。身長は俺と同じ程度だろう。体はがっしりとしているが、ゴブリンとそれほど変わりはない。ゴブリンジェネラルではないのが残念だが、リーダでも問題はなさそうだ。ゴブリンリーダの周りにはゴブリンが三体。


 ゴブリンリーダは動かず、ただのゴブリンが俺を取り囲む。ジェネラルと同じようにリーダが指示を出しているようだ。


 一体のゴブリンがこちらに向かい棍棒を振り下ろしてくる。クラスを商人にしたことで、身体能力は下がっている。剣は少し重く感じるし、動きもいつもよりキレがない。これでいきなり六階層へと向かうには不安があるが、ゴブリン相手なら問題はない。


 先程と同じように左手の剣で棍棒を受け止め右手で突き殺す。ゴブリンリーダの近くに黒い霧が渦巻き、新たにゴブリンが追加された。ジェネラルの時と同じ現象だ。いけそうだ。


 ゴブリンが近づいてくるが、その動きは緩慢だ。今のうちにもう一体減らしておくか。右にいるゴブリンに向かい剣を突きだす。死体が邪魔になりそうだ。剣を抜く時に足でゴブリンを蹴り飛ばす。その頃には新たなゴブリンが包囲に加わっている。リーダの近くにはまた新たに黒い霧が現れていた。



 何体ゴブリンを殺したかわからない。二十体までは数えていたのだが面倒になって数えるのはやめてしまった。時間がたった死体はダンジョンに吸収され消えていくが、俺の周りにはゴブリンの死体がまだまだ散乱している。


「ステータス」


 商人のレベルは5に上がっている。そろそろいいか。ステータスを見ながらも、ゴブリンを殺すことは忘れない。クラスを魔法使いに変更する。



 その後も同じようにクラスを変更しながらゴブリンを殺していった。その結果、商人、魔法使い、僧侶のレベルが5にあがった。剣術はLv9に双剣術はLv4に上がっている。今回はこれくらいでいいだろう。また有用そうなクラスがあれば、大禍日に来ればいい。使っていないのだから当然だが、スキルは増えていない。クラスレベルが上がったことで補正も上昇しているはずだし、スキルについてはこれからだな。資料室にでも行ってスキルについて調べよう。クラスを戦士にする。後は……。


 ゴブリンリーダに目を向ける。ゴブリンリーダはこの数時間ただひたすらに立っていただけだ。俺がリーダの立場なら、暇でいい加減襲いかかっていただろう。新たなゴブリンが生まれる前に倒そう。


 左手、右手両方でゴブリン二体を同時に殺す。双剣の扱いにも慣れ、この程度なら簡単にできるようになっていた。


 崩れ落ちるゴブリンを飛び越えリーダに迫る。リーダは俺を迎え撃つように棍棒を正眼に構える。その棍棒を上から左の剣で地面に叩きつける。リーダの体が棍棒に引き摺られるようにして、前のめりに傾ぐ。無防備な後頭部へと右の剣を振り下ろした。


 リーダが死ぬのと同時に周りのゴブリンも黒い霧となって消えていった。倒れ伏したリーダをひっくり返し、牙を引き抜く。後は死体が消えるのを待つ。


 死体は他のゴブリンと同じように黒い霧となって消えていった。痕跡など何もない。レアドロップはなしか……。前回が美味すぎたんだな。帰る事にしよう。



 一階層ということもありすぐにダンジョンの外へと出られた。外はもうすでに暗い。単純作業を繰り返し少し疲れていた。スキルについて調べるのは明日にしよう。今日は帰って寝る。


 忘れていた……。俺、宿取っていないわ。今から探すのか……。空いていればいいけど……。

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