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試合からの帰り道

 そしてその日の夕方になって。


 二人でしょんぼりしてバスに乗っていた。


 帰りのバスは少し空いていて、並んで座っていた。


 夕方といっても早めな方で、まだ明るい。




 僕は二回戦、ゲームカウント3対0で負けてしまった。


 疲れてたのもあるかもしれないし、相手が油断することなく、僕の一回戦をしっかり見ていたのも大きいと思う。


 坂藤くんとはタイプが違い、黙ってひたすら分析してくるタイプだった。


 なかなか紳士的な態度だけど、ラリーしてるとかなり弱点ばかりついてくるので、なんか僕の性格が歪みそうだった。


 坂藤くんみたいに色々しゃべりながら惑わしたいと思うくらいだったけど、まあ我慢して、羽菜に見ててほしいと思うようなプレーを心がけた。


 けど負けてしまった。


 試合が終わって割と普通な人になってしかも僕の二回戦を残ってみててくれていた坂藤くんから、お疲れと言われて、またいつか試合しようということになり、僕の体育館での出来事はおしまい。


 羽菜は黙っていた。


 けど、バスに乗って、少しだけしゃべり始めた。


 なんとなく明日の練習の話をして、そしてそれから、少し手前のバス停で降りて歩こうという話になった。


 

 川沿いのバス停で降りる。


 緩やかに川をのぼっていき、そしてそこから少しだけ坂を登ると、羽菜の家の前につく。


 そんな道を歩き始めていた僕と羽菜。


「拓人ってさ、大学生とかになっても、卓球する?」


「するな……うん。する」


「そっか。私もね、する」


 川は少し濁っていたけど、魚がいるのが見えた。


 小さな魚と大きな魚が、それぞれ群れになって、お互いに意識しないで泳いでいる。


 川の流れは結構ゆっくりだから、泳ぎやすいのかな。


 そんなふうに考えてたら、また羽菜とちょっと沈黙になってしまった。


「ここ曲がってった方が近いよ」


 羽菜が狭い石のタイルの道をさした。

 

「あ、こんな近道があるのな」


「うん。結構人使ってるよ」


「へー」


 僕と羽菜は川から離れる。


 確かにあまり歩かないうちに前に壁が見えてきた。僕の居場所だった壁。羽菜のアパートの壁。


 羽菜と卓球できるのもあと少しかもしれない。


 あの壁で壁打ちすることが急になくなってしまったように、羽菜とも、急に卓球をしなくなってしまうかもしれない。


 けど、それは僕は嫌だし、大学が別とかだったりしても、羽菜に会いに来て、そしたらまたできる。


 そう思って納得しておきたいくらい、やっぱり羽菜と卓球することは、楽しくて、心が動かされて、だから成長できてると思う。


 それが周りから見たらほんの少しで、羽菜と僕だけしか認知できないほどでも、あるいは認知する意味がないと思われてしまうほどでも。


 そのちいさなものの大きさをもっと確かめ合いたいから。


 僕は羽菜に言った。


「僕は、羽菜が好き。だから……付き合ってくれたら、うれしいです」

 

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