普通の卓球
「……ミスがだんだん少なくなってきてるな……どうやってもミスしてしまうようになる展開のはずなのにな」
「メンタルはやられてないぞ」
「……」
むしろ細かい調整をする力は冴えている。
この試合に勝って、そして次の相手にも勝って……それがいつまで続くかはわからないけど、そのあとは絶対に羽菜と打ちたい。
そんな気持ちだ。
今までと同じようにやっているだけ。
それでいいとおもった。
僕は何かすごいセンスがあるわけでもないし、なんか覚醒し始めることもない。
だからもう普通にやることしかできないけど、その普通にやることを誰よりも一緒にしてきてくれた人が見てるから、普通を維持できる。
坂藤くんの方が焦っている気がした。
勝ちそうだけど、僕がミスらなさすぎて自分が先にミスるのではないかと思いながらのラリー。
普通すぎるスマッシュを決められて、次のサーブをどんなのにするのかなかなか決められない。
そんなふうに感じている気がした。
だから僕はもうこのまま。
羽菜の声を聴きながら、ただ打つだけだ。
不思議なことに、感覚として、相手の坂藤くんに勝ちたいと思って卓球をしなくなっていた。
一回戦突破したすぎて、もちろんやる気を出していたのに、いつのまにか卓球そのものというか、ラケットでボールを打つことにやる気が出ていた。
「拓人! ゲームカウント2対2だよ!」
羽菜がそう言ってくれて、僕はとてもうれしくなって、水分補給しに行った。
「拓人いけるよ。まだまだ卓球見せてね。あ、でももう最後のゲームは圧倒的勝利でもいいけどね」
「大丈夫。まだまだまだ。絶対このゲームとるために、この流れを続けてみせるから。応援……またよろしく」
「うん! 行け! しょっぱなから連取ね!」
「おっけ、よし」
僕は最終ゲームに向かった。
僕は……普通の卓球をしに行く。
それだけだけど。
それでも、羽菜のする普通の卓球と、他の誰かがする普通の卓球と、僕のする普通の卓球は、違う。
だからお互い応援したり、戦ったり、一緒に練習したりしてて、すごく楽しいんだと思う。




