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あがくために

「それにしても変わったやつと対戦したな……」


 少し余裕が出てきた坂藤くんはそうつぶやいて、僕のサーブを待った。


「どういうこと?」


 僕はまだサーブを打たずに訊いてみる。


「いやつまりは、地区大会一回戦なんてさ、突破したところであんまり変わらんって話があってさ」


「うん」


 それは嫌味でもない、ほぼほぼ事実かもしれないと思う。


 なぜならその労力に使う時間を勉強した方がいいという意見まである。


 でも……


「ちなみに変わってるのは、君もそうだけど、あの子もだね」


「……」


「一応だけど僕は何度も試合してるからね、たくさんの一回戦を見てきたけど、一回戦で負ける人の大半は、ヘラヘラしてるぞ」


「……」


「終わったらどこ飯行こうかとか、今日はカラオケ行こうかとか、そんなことしか考えてないんじゃないかって人がいっぱいいる」


「……そうなんだな」


「だから久々に、そんなやる気出してる人に会ったよ。ましてやあんなに一生懸命応援してくれる人までついてるとは。やはり君たちの部活は相当変わってるんじゃないかなと俺は思うけど」


「……なるほど」


 じゃあ……そんな変わった僕と、変わった羽菜の練習の成果を、まだまだぶつけさせてもらいましょう。


 僕はサーブを出した。


 別に今まで出したことのない新しいサーブでもない。


 僕はただ今までたくさん打ったサーブを、丁寧に打っただけだ。


 けど気持ちはさっきとは変わっているはず。


 凡人は、多少なりともひねくれなくては勝てないのかもしれない。


 そんな中、僕は……卓球を幼稚な気持ちでやってみようと思う。


 負けそうな中の最後のあがきのエネルギーの源が、小学生のモチベのような、「好きな女の子の前で負けたくない」という気持ちでもいいんじゃないかと僕は思う。


 というか、そうなることを許して欲しい。


 卓球への向き合い方がひねくれていると言われれば、そうだと思う。


 けれど、羽菜対しての気持ちは、絶対にひねくれてないと、強く言いたいから。


 僕は特にひねりもない、けれど羽菜とたくさん練習した、普通のサーブを出したのだ。


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