騙された
もう一ポイント取られて8対8。
「よし追いついた」
「……」
坂藤くんは強い。そう思わざるを得ない。
テニスを諦めてから卓球を始めてまだ少しの僕とは違い、もうテニスの経験を生かした卓球を、だいぶ発展させている。
しかも、全国まであと一勝。蓮花も触れた壁に触れてまた帰ってきた人だ。
そしてだからこそ、一回戦の壁などないと思っているんだろう。
今のラリーは長い。
まじか。
どうすればいいのかな。
体力はある。
けどただラリーすることしかできない。
僕は考えても、ただ球を打つだけ。
もうすでに坂藤くんも特に苦なく返せる球を打つだけ。
坂藤くんは完璧に、卓球が三ゲーム先取であることを、利用している。
全ての手を出したと言っていたが、本当にまだ出しているのかわからない。
だから僕は、心配だし、それがメンタルを攻撃する。
ラリーをミスったのは僕だった。
そしてさらに、そのままポイントを取られて、ゲームも取られた。
ゲームカウントは1対2。かなり劣勢となってしまった。
羽菜のところに行く。
「拓人、大丈夫。拓人の方が上手いから」
「いやほんとか……かなりやばいと感じてる」
「感じちゃダメだよ。拓人の方が上手いところありまくりだもん。ひいきしてなくてもそうだと思うよ」
「だとしてもなあ……全国まであと一勝まで行った人だし」
「え? それほんと? そんなにうまくないって」
「え?」
羽菜が僕を励ましてくれるためにそこまで強気なことを言ってくれて、うれしかった。
ただ、それだけではない気がする。
坂藤くんは、本当に全国まであと一勝まで行ったのだろうか。
ただ強く見せて僕を弱気にさせるためだけにそうした……?
いやそんなはずはないと思う。なら全国大会に出たといえばいいし。全員の全国大会の動画があるとは限らないだろうから、動画がなくても別にそう言えはするはずだ。
やはりそんな惜しい実績を偽ることはしないだろうと思うけど。
僕はでも……少し怪しいと思った。
四ゲーム目が始まる時、僕は尋ねてみた。
「本当に全国まであと一勝だったの?」
「……ふ、すごいな。そう疑うということは、もう効果がないだろうし、嘘だと答えよう」
……ということは嘘だったのか。
しかも今まで効果はあったよ。騙されたし。
「君の幼馴染が友輔の彼女らしいじゃん。だからね、その辺を色々と調べて、全国まであと一勝ということにすれば、努力して強くなった手強すぎる人ってイメージが俺に着くと思ってね」
「蓮花の大会の実績まで調べたのか……」
確かに全国まであと一勝ということで、蓮花を見てきた僕は少し坂藤くんの気持ちがわかると思ってしまっていた。
それも弱気になる原因になった可能性がある。
もう全て騙されてしまった。
悲しい中、劣勢の試合が始まる。




