やはり強くなった
実際強くなった。
そして嫌味ではないけど、話すのはやめなかった。
「君がどうしてテニスをやめたのか詳しく知ってるわけじゃないけど、だいたい俺と同じだろうなとは思うよ。俺は、友輔に比べて、テニスが全く上達しなかった」
「……」
そして普通にサーブを打ってくる坂藤くん。
いつのまにかバックサーブが主体となっていた。
自分の内側に向かって低めのままカーブしてくるタイプのサーブで、とても返しにくい。
つまりは内角ということだ。
また何にも回転をこちらからかけられず、遅い返球となってしまった。
それをスマッシュで決められる。
「……君、友輔とどんくらい仲良いの?」
「まあ……そこそこ」
「そうか」
何この少しずつ試合と会話が進んでいくスタイル。
今度は僕のサーブで、僕もバックサーブを打った。
スコアは8対6でまだ僕が勝っている。
しかし、あまり攻めたサーブはしたくなかったので、真ん中を狙って、角度のついた返球を防いだ。
フォアに来たのでストレートに打つ。
少し流し打ちのようにして打ち、球速は遅くなるが、回転は横、相手から逃げていく方向に曲がるようにする。
そして坂藤くんはラケットの先で少し触るだけ。
「俺に……応援しに来てる人がなんでいないか、わかる?」
「人数が少ないからかな?」
「いや、人数はそこそこいるけど、来ないんだ。俺の性格が悪いと思われてるからね、みんな来たくないわけな。でも、こうなってから俺は強くなった。部内戦でも勝ち上がり、おかげで団体戦にもたくさん出て、そして対戦相手も大体俺のこと性格悪いと思いつつも、自分のプレーが乱れる方向にその気持ちは使われる」
「……」
「だけど君にはあんまり効かないなとは思うけど」
「ありがとう」
褒められたかもしれない流れなので、とりあえずお礼を言った。そしてまたバックサーブを打つ。
しかし、読まれてしまっていて、ものすごい速さのリターンエースを決められた。
ラケットをボールの方に持って行く途中でもう打てないと気づいた。
「全国大会だのそんな大きい規模のところまで楽しく部活やりながら行ける人なんてほぼいないだろ。だから練習をするわけだけどそれでもいけない人ばかり。だけど俺はあと一勝で全国のところまではいけた。だから……こんな地区大会の一回戦で劣勢なのは非常に嫌なわけだが……よし、そろそろ全部使うことにする」
「ごめん」
「くそ、素直に謝るなよ」
まあ確かに謝る必要がないことはわかってるけど、でも謝ってしまう。
どうしても、蓮花の気持ちとか、友輔のこととかを考えた上で、目の前の相手である坂藤くんを見てしまうからだ。




