テニスと卓球
そしてそれからは坂藤くんの言葉に騙されないように気をつけた。
まあそういうスルーする系は得意だけど、ボールはスルーしたらポイントを取られるので大変だ。
頑張ってなんとか互角なポイントになっているが、僕が決めることも相手がミスって運良く取ってるということもなく、なんかたまたま振り遅れていいところに打ってしまったとか、そんな感じなのが多い。
「運いいねー、君」
そう坂藤くんに言われてしまっても、正直今んところそうですね……という返ししかできなそう。
でも、振り遅れつつもなんとか体勢を崩さないのは、球拾いと壁打ちで、腰を落としての移動を鍛えたからか。いやもっとそれよりもさらに、羽菜とたくさん練習したし、細かい動作のアドバイスは、合宿でたくさん美留先輩から教わった。
だからこれは……運だけではない。
よし、自信つけていこう。
「たくと! 集中して決めてこ!」
「おっけ」
大丈夫だ。次はそろそろ、羽菜以外には誰にも打ってない、羽菜がいいって言ってくれたサーブを打つ。
振りの由来は卓球ではない。
テニスのフォアボレーである。
ラケットをずらす時と合わせて勢いよく足を踏み込むが、その時に横回転も同時にかけて、そして低い弾道で球を送る。
このタイプのサーブは、なかなか返したことないだろうな。
うまく打てた僕はそう思った。
坂藤くんはどう返そうとするか。なんて言ってくるのか。これは運ではないぞ。
よし、返せなかった。
僕のポイントだし、相手が慣れるまでどんどんこれでポイントとってこ。
僕はそう喜び、羽菜も
「ナイスサーブ!」
と声を出してくれた。とても元気な声だけど、悔しさは残りまくってると思う。だけど、僕は……勝って。そして羽菜……うん勝つぞマジで。
だって小学生の頃テニスが一緒に下手クソだった羽菜と努力したんだ。
テニスでも卓球でも一回も勝ったことがない僕だって、努力してきたことをちゃんと描きだすことはできるぞ。
そう思って次のサーブも決めようと思っていた時、坂藤くんが言った。
「テニスやってたのかな。フォアボレーを改造したフォームだよなそれ」
「え?」
坂藤くんもテニスをやってたことがあるのか。
わからないけどそうなのか? でもフォアボレーくらい、レジャーでテニスやったことある人でもやるか。
まあそれはいいや今試合中だし。
僕は、次のサーブだ、と切り替えて、そしてそれからトスを低めにあげた。




