僕の試合開始
「拓人、本当に勝つんだよ!」
羽菜は自分が負けたことを、いったん切り分けようとしながら、僕にそう言ってくれた。
そして、「拓人の応援したいから、それしか今は考えないし拓人は自分の試合に気持ちをちゃんと移動させて」と言われた。
たしかに次の僕の試合は、今回こそは一回戦突破したいという試合だし、自分の準備を早めにコートに行って進めることにした。
羽菜は時々うつむいて、でも僕の方を見つめていることの方が多い。
今回こそ勝たないといけないと思うけど、どうやったら勝てるんだっけ。勝ったことないからわからないし、そもそもどうやったら勝てるかなんて、試合始まってみてから考えつくかどうかって話じゃん。
少し早とちり気味になりかけていたので、力強めの素振りをしたりして落ち着く。
相手らしき人がコートに入ってきた。
応援はなし。
小さな部活なのだろうか。
僕も小さな部活だけど、さっき負けたばかりの羽菜が応援してくれると言ってくれている。
羽菜、どう考えても悔しい。
そんな悔しいまま……。だから僕は、とにかくこの試合は勝つぞ。
「よろしく」
相手が声をかけてきた。
「よろしくお願いします」
「応援が一人か。いいね、こっちは〇人だから、まあお互い少ないってことで頑張ろう」
「はい……」
よくしゃべるタイプの人そうだ。
今別にそんなに相手が喋ったわけではないけど、そう思った。なんとなくわかる。
「あー、自己紹介でもしますかね」
ほらなんかまた話しはじめた。
まあ別に自己紹介するのは嫌ではないので、僕は名前を名乗って、相手の名前は坂藤勇壮だと知れた。というかトーナメント表に一応載ってるし。まあ読み方知れたっていうのはあるけど。
そして坂藤くんは、なんか小さくしゃべり続けながら準備運動を始めた。
何か作戦でも自分で声に出して確認しているのだろうか。わかんないけど、とにかくあんまり気を取られずに僕は自分の作戦を確認しないと。
ラケット交換とかラリーの時は、普通だった。
試合中しゃべり続けるとも限らないらしい。
ちなみにラケットもラリーもかなりスタンダードな感じだった。
プレースタイルはどうなのかな。わかんないけど、でもひとつ思ったのは、坂藤くんは、めっちゃこだわって練習している人かも。
ラケットケースがボロボロだったのでそうなんじゃないかと。
そして坂藤くんからのサーブということになり、一ポイント目が、スタートだ。




